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オレの手は無様なほどに震えていた。
転がり落ちるように、暗転していく旅。
小狼君を失い、サクラちゃんを失い、取り戻そうともがく中で、黒鋼が必死にみんなをつなぎとめようとしている一方で、全てを壊そうとする、オレ。
「君は約束してくれたんだ。
この国に害をもたらすものは」
ー心配するな。
俺が守る。ー
そう言って、オレを生かした。
ーお前は、ただ、生きてくれさえすればいい。ー
そう優しく囁いた、彼女を。
「・・・殺すッ!!!」
自分に言い聞かせるように叫んで、黒鋼に向かって魔法を発する。
彼女が死ぬということは、オレも死ぬということだ。
もうオレは、彼女なしでは生きられないのだから。
魔法を発しながら、心は抵抗していた。
王が見てさえいなければ、今すぐにでもこの魔法の発動を止めてしまうだろう。
いつの間にこんなに自分をかわいいと思うようになったのだろう。
生きていたいと、彼女とともに生きていたいと願うようになったのだろう。
ずっとずっと、ファイに命を返すことを考えて生きてきたはずだったのに。
「茶番はいい加減にしろ。」
黒鋼はオレではなく、記憶を砕く。
あたりに結晶が飛び散った。
そして王に向かって駆ける。
「なぜっ!」
その黒鋼に向け魔法を放つ。
アシュラ王は、誰にも止められない。
でも、王のことを誰も傷つけてはいけないのだ。
彼はオレ達に、初めて優しくしてくれた人だから。
彼女を殺すように言うのが王であっても、やはりオレは、王を守りたい。
なのに彼女はしつこく王を狙う。
(彼女はオレに怒りを感じているのではないのか?
裏切ったオレを殺そうとしているのではないのか?)
黒鋼も応戦するが、技を使うことは避けているのは見ていればわかる。
遠距離に長けた魔法に対し、斬術だけで戦おうとしているのだから、当然不利になる。
それでも、オレも気を抜くことはできない。
気を抜けば、彼女は王を殺す。
それほどまでに黒鋼の剣は優れていた。
記憶はどんどん進んでゆく。
優しくしてくれた王。
オレに笑うことを教えてくれた王。
なんとか風縛系の魔法で黒鋼の動きを奪う。
(これ以上暴れるなっ!)
心で叫んでも聞こえるはずなどない。
暴れて振りほどこうとするから、電撃を幾筋も叩き込む。
身体がしびれたのだろう、黒鋼は力なく地面に倒れた。
(起き上がらないでくれ・・・。)
オレの願いも空しく、彼女は起き上がり、再び刀を振ろうとする。
あの、真っ直ぐな紅い目をして。
だからまた、オレは彼女に攻撃しなければいけなくなる。
(殺したくないのにッ!!!)
記憶は旅にでる直前まで来た。
オレが魔女さんのところへと旅立ったあの日だ。
扉を開け、この広間に駆けこんだ旅に出る前のオレが見たのは、血に濡れる王。
オレを抱きしめ、頭をなでてくれた手は、民の血で赤く染まっていた。
ーさて、城内にはいないから外に出てさがそうか。
殺すものを。ー
恍惚とした表情。
この広間に響いた言葉。
(なぜ、こうなってしまったんだッ!)
感情の制御がきかない。
身体のそこから、魔力が溢れ来るのを感じる。
何度も呼ばれた、オレを示す言葉がよみがえる。
ー不幸の双子ー
「王!!!」
魔力が弾けた。
強大な魔力の中、黒鋼の姿は消えた。
消え去った。
何も、何も考えられなかった。
まばゆい光の中で、オレの心はただただ痛かった。
不意に背後に気配を感じて振り返ると、鼻の先を切っ先がかすめた。
その切っ先が何を切ったか、紅い目を見てようやく理解した。
「ファイ!!!」
記憶のかけらとともに輝きになってゆくその小さい体。
手を伸ばすオレの頭をむんずとつかみ、彼女は地面に抑え込んだ。
珍しく呼吸がひどく荒い。
血のにおいもする。
甘い甘い、血の香り。
オレよりもずっとずっと傷だらけの、彼女の香り。
「もう一度だけ、言う。」
場違いなほど静かな声が振ってきた。
「お前の過去は関係ない。
お前の未来から逃れられないのは、お前だけじゃないことを忘れるな。
俺達もまた、お前のために命をかける。
俺が、お前たちを守る。」
東京で彼女が言った言葉だ。
抑え込まれたまま見上げると、驚くほど鋭い紅い瞳がオレを見下ろしている。
「じゃあオレももう一度言うよ。」
その声は震えていた。
乾いた唇を舐めると、血の味がした。
でも、自分の血の味なんて、ただ不味いだけだ。
「大嫌いだよ、君なんて。」
黒鋼は少しだけ、視線を和らげ、言った。
「知っている。」
紅い目はオレから王へと移された。
「こんなほころびの分かるものを見せて何になる。
青年にかけられたのが自分よりも魔力の強いものを殺す呪いなら、青年の魔力の成長を妨げてどうする。
お前が殺される時期が早まるだけだろう。
・・・おかげで姫が殺された。」
黒鋼はいつもまっすぐだった。
逃げる俺にも、いつまでもまっすぐだった。
「目的はなんだ?」
そして今、王に対して、刃を向ける。
「私の願いをかなえてほしいだけだよ。
君は約束したね。
この国に害をもたらすものはすべて殺してくれると。
それが何者であっても。」
今やそれは王自身を示しているのに、彼は淡々とそう言った。
「できない。
たとえ貴方にどんな思惑があったとしても、貴方はオレ達に初めて優しくしてくれた人だった。
だから殺せない。」
オレの言葉に、王は優しく微笑んだ。
「なぜ自害しない?」
黒鋼の鋭い瞳が王を貫く。
「なぜ青年に殺されたいのだ?」
王は嬉しそうに微笑んだ。
「君は本当に立派になった。」
その言葉に、オレは思わず目を見開いた。
まるで、黒鋼を知っているように聞こえたからだ。
そして。
「・・・覚えているのか。」
黒鋼もどうやら知っているらしい。
王は感慨深げに頷いた。
「ああ。
よく覚えているよ。
やんちゃぶりは変わらぬようだが。
・・・綺麗になったね。」
どういうことだか、オレにはさっぱりわからない。
「話を戻す。
なぜ、青年に殺されたいのだ?」
王は優しく微笑むと、オレに目を向けた。
「約束だよ、ファイ。」
変わらぬその優しさに、オレは唇をかみしめる。
オレの視界を黒い背中がさえぎった。
王の姿が、見えなくなる。
「悪いが俺にも約束がある。」
「知っているよ。
彼の記憶で見たからね。」
彼、というのがオレのことを示していることは分かった。
でも、オレにない記憶を、なぜ王が見ているのだろう。
話が読めない。
否、分かっているけれど、分かりたくない。
「守る・・・か。」
ここからでは見えないけれど、王がなんだか微笑んでいるような気がした。
昔のように、穏やかに。
「では、君の決意を見せてもらおうか。」
水の中からサクラちゃんの身体が浮かび上がる。
「サクラちゃん!」
黒鋼が駆けだし、オレも後を追う。
咄嗟に放った魔法が、アシュラ王の防護壁を抜けて腕に傷をつけた。
「この子が大切なんだね。」
静かに目を閉じた優しい様子は一瞬だった。
パキッパキと彼の指先から電撃が散るのが見え、慌てて防護壁を黒鋼や小狼君にも装備する。
襲いかかるのは、王の得意とする氷の攻撃だった。
そしてオレの作った防護壁がいともたやすく王によって消される。
少し前を駆けていた黒鋼が氷の鎖にとらわれ、血しぶきが舞った。
同時に王は氷の刃で、サクラちゃんを刺し貫こうとする。
みんなみんな、傷だらけだった。
死にそうだった。
これは全てオレが招いた。
オレは不幸の双子だ。
みんなを不幸にするかもしれない。
(それでもオレは・・・
オレは、みんなとともに生きたい。)
