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「ファイさん、言ってくれましたよね。
私の望み通りにと。」
サクラちゃんはふわりと問いかけた。
「それが我が姫の望みならば。」
そう言ってから、どこかの紅い目が同じことをオレに言った、と思いだす。
もしかしたら、オレと同じ気持ちだったのだろうか、と余計なことを考えていると、予想外の言葉が耳に届いた。
「じゃあたった今これから、自分を一番大切にすると約束してください。」
「・・・サクラちゃん・・・。」
彼女はついに決めたのかもしれない。
その瞳はもうオレから離れて行ってしまっていた。
そしてきっと、彼女ももう、オレ達の傍にはいてくれない。
「最後のマスターは貴方ですか。」
「一応責任者ですから。
最後は駒互いに一人で戦いたいと思うのですがどうですか。」
「おれがやる。」
予想通りというか、当然ながら小狼君が名乗りを上げた。
彼にとってサクラちゃんは特別な存在なのだろう。
サクラちゃんにとって今はここにいない“もう一人の小狼君”が、特別なように。
ステージが大きな音を立てて上昇する。
オレと黒鋼はその下で、モニターをじっと見つめた。
機械人形(オートマタ)が現れ、試合開始の合図が鳴った。
痛みを感じないからこそできる動きを見ていると、小狼君がかなり不利に思えてくる。
隣の黒鋼は表情を変えずにじっとモニターに見入っている。
ああ見えてずいぶん心配しているのだろう。
突然巨大な爆発音が響き、カメラの映像が真っ白になった。
降り注ぐ石は、破壊されたステージの破片だろうか。
「なんだ、あれは・・・。」
呆然とその様子を見る黒鋼。
小さく震えているのは気のせいではないだろう。
モニターに次第にステージの様子が現れてくる。
かろうじて小狼君は耐えたようだ。
だからと言って黒鋼も安心できるわけではないだろう。
あれを何発も撃てるようなのが相手では。
ーファイ聞こえる?ー
ふいに、チィの声が聞こえてきた。
懐かしい声だ。
母によく似たその声は、ずっと聞いていたいはずなのに、聞きたくないと思ってしまう。
(聞こえているよ。
セレスとここは時間の流れが違うから大丈夫だと思っていたんだけど。
同じ世界にずっといてアシュラ王が目覚めてしまったら、オレは。)
腕を掴まれた。
真赤な瞳が、オレを見つめる。
見透かされているような気がした。
さっきまで震えていた、否、今でもなお震える小娘に。
仲間である小狼君を失うかもしれないこの場で、それに耐えようと震える彼女は、オレの機微まで察しているというのだろうか。
それが悔しいのに、すがりつきたくなるのはどうしてだろう。
こんな、こんな小娘に。
「お前達の好きにさせるつもりはない。」
はっきりと、彼女はそう言い切った。
その声は、さっきの呆然とした声とはまるで違う。
気づけば彼女はもう震えてなどいない。
震えていたことが嘘のように思えるほど、彼女は強くオレを見つめていた。
「お前は俺のものだ。
お前の願いは、俺が叶える。
だから、俺を頼れ。
俺を、信じろ。」
激情を秘める紅は、まっすぐオレを見つめていた。
モニターに映る小狼君の戦う炎や電撃を受けて、きらきらと光る。
オレは、この旅は二度目だと聞かされたが、それが本当ならばこの局面に立ったのも、2度目かもしれない。
今目の前の黒鋼に言われたのと同じことを、男の黒鋼に言われたのだろうか。
彼女と同じ美しい紅い瞳に、何を思っただろう。
何を決意したのだろう。
この一瞬が、何かを変えるのだろうか。
サクラちゃんに夢見の力があることで、もし今のサクラちゃんの願いがあるのだとしたら?
(未来が・・・変わる・・・。)
オレが言葉を発しようとしたその時、大きな爆発が起きて、紅い瞳はオレからそらされた。
その視線を追えば、爆発の煙の向こうに二つの気配が揺らぎ、機械人形(オートマタ)が倒れた。
激しい試合は小狼君の勝利に終わったのだ。
黒鋼は喜ぶだろうかと顔をちらり覗くが、彼女の視線はひどく鋭い。
その視線の先でサクラちゃんが小狼君に駆け寄った。
そして空から舞い降りてきた女性に、オレは目を奪われる。
「チィ!?」
「次元移動能力を備えたこの国唯一の機械人形です。
彼女があなたを他の世界へ連れて行ってくれます。」
イーグルの説明こそがサクラちゃんの望み。
そして、これこそがきっと、未来を変える時。
小狼くんががサクラちゃんの腕をつかんだ。
「姫を放すな!」
黒鋼が叫んだ。
嫌な予感しかしない。
「だからどうなっているんだよ!」
「次元の道がもう一つ・・・」
隣でジェオとランティスが話しているのが耳に入った。
(次元の道・・・)
確かに近づいてくる気配。
それは紛うことのない。
「チィの封印が解けた・・・。」
このままではとてつもないことが起きてしまう。
「一人で別の世界に行くつもりなのか?
おれがいるからか?」
「ちがうの!間に合わない」
必死なサクラちゃんに、オレの頭を一つの過去がよぎる。
(まさか、そんな)
でもそれを深く考える前に、意識が遠のいた。
「待てっ!!」
一瞬だった。
強くつかんでいたはずの手が、俺の手をすり抜けた。
追いかけようとすれば、バチリと何かにはじかれる。
「待てッ!!!」
伸ばす手の先で、彼の背中は消えた。
ステージの上に上がったのだろう。
俺も慌ててステージの壁面を駆け上がる。
この恐怖は知っていた。
あの日も感じたのだ。
壊れていく、感覚を。
失う恐怖を。
あの、少年を失った日に。
風圧に負けないようになんとかステージに降り立つ。
目に飛び込んだのは、信じられない光景だった。
目を背けたいのに、背けられず、そして背けてはならない光景だった。
「サクラ!!」
「剣を抜くな!!」
俺と小狼が叫ぶ。
だが、絶叫とともに青年は、姫の腹部を貫いた刀を抜いた。
強大な魔力が彼の感情に乗って弾け飛び、小狼や俺にぶち当たる。
それが、彼の意志で姫を刺したのではないことを伝えていた。
俺たちの肌を斬り裂く強い衝撃とともに。
男の黒鋼が望んだ未来は、こうならない未来だったのだろうか。
ならば彼の望みはかなえられなかったのだろうか。
それとも。
姫の躯から、もう一人の姫が現れた。
(魂・・・)
思わず歯をかみしめる。
「間に合った。
大丈夫、私の命はまだここにある。
忘れないで。
これからも未来は変えられる。」
優しく青年を抱きしめ、姫は安堵したように言った。
そして俺と少年を見て、顔をゆがめた。
「ごめんなさい。」
言いたいことは山ほどあった。
なのに、喉が閊えていてひどく苦しくて。
「すま、な、い。」
そう言うのが精いっぱいだった。
約束を守れなかった。
生きて、彼女を守ると約束したのに。
「違うの。
これは私が選んだこと。
だから、ファイさんをお願い。」
青年のことは分かっている。
当たり前なのだ。
俺は彼を守ると約束したのだから。
でも、今彼女に伝えたいのはそんなことじゃない。
「戻って、来い。」
ただ、それだけだった。
あの日も言ったのだ。
心を失った少年に。
姫は辛そうな顔で無理に笑った。
「はい。」
姫の躯と魂は、全く同じ顔をした、でも白と黒の対照的な2人女性によって別々の世界へと連れていかれてしまった。
一人の供も連れずに。
すべてが終わる土煙りの中で、青年が刀を掲げた。
彼の考えはひどく短絡的で、浅はかで、そしてきっとこの状況になったら誰もが考えるようなことで。
俺はその腕をつかんだ。
「その剣んでもう誰も傷つけるな。
お前自身もだ。」
そしてその手から剣をもぎ取り、そのまま機械人形(オートマタ)を抱きかかえるビジョン家当主の首元に突き付けた。
感情が抑えきれない。
感情の揺らぎほど漬け込む隙を相手に与える瞬間はないと、何度も蘇摩に言われてきたのに。
剣の切っ先が無様なほどに震えている。
それに気づいたランティスとジェオが動こうとするから。
「動くなッ!!!」
鋭く制した。
刀の震えは止まった。
二人は冷や汗を流しながらぴたりと止まる。
「・・・話してもらおうか。」
金色に見える瞳が、同情の色を見せているのが気に食わない。
それがこの男がこの惨状を招いたのではないと、伝えているから。
彼が諸悪の根源で、ここで切り捨てられて、それで姫が戻ってこられるなら、どんなに良かっただろう。
己の無力を突き付けられたこの状況を打破する機会が与えられるなら、どんなことでもやってのけようと思うのに。
「ええ。
全てお話しましょう。
あの人とともに。」
その苦しげな瞳が、気に食わない。
「今話せないというのかっ!!」
「やめなさい黒鋼。
彼らは協力しただけよ。」
後ろから魔女の声がした。
「協力しただけで十分だ。
彼女は死んだ!
・・・お前も死んだほうがよかったと思う目に遭いたいか!!」
「黒鋼さんっ!」
小狼が鋭く俺を呼んだ。
「サクラはそんなこと望んでいない!
黒鋼さんが誰かを殺すなんて、そんなのサクラは許さない!!」
一瞬で来た隙に、ジェオが俺の手から剣をたたき落とした。
力が抜けて、膝からその場に崩れ落ちた。
少年を失った。
姫も失った。
青年は己の内にこもっている。
小狼は青年とも姫とも打ち解けなかった。
俺の力では取り戻せないのだ。
一度壊れてしまった関係性が。
(だからあの日も、決めたんだ。
もう一度、もう一度関係を作りなおすと。)
手を握り締める。
「・・・場所を変えましょう。」
肩に手をまわして運ぼうとするジェオの手を払い、立ち上がる。
「無理は」
「平気だ。」
俺は前を向く。
過去の俺はどうしたのだろう。
この場面に出会ったのだろうか。
それとも、これは彼が望んだ別の未来なのだろうか。
わかりっこないし、聞いても教えてもらえることではなかろう。
“干渉値を越える”とか言うやつだ。
ならば、それならば、俺が変えてやるしかない。
彼の過去にはいなかった俺ならば、未来を変えることもできるかもしれないのだから。
私の望み通りにと。」
サクラちゃんはふわりと問いかけた。
「それが我が姫の望みならば。」
そう言ってから、どこかの紅い目が同じことをオレに言った、と思いだす。
もしかしたら、オレと同じ気持ちだったのだろうか、と余計なことを考えていると、予想外の言葉が耳に届いた。
「じゃあたった今これから、自分を一番大切にすると約束してください。」
「・・・サクラちゃん・・・。」
彼女はついに決めたのかもしれない。
その瞳はもうオレから離れて行ってしまっていた。
そしてきっと、彼女ももう、オレ達の傍にはいてくれない。
「最後のマスターは貴方ですか。」
「一応責任者ですから。
最後は駒互いに一人で戦いたいと思うのですがどうですか。」
「おれがやる。」
予想通りというか、当然ながら小狼君が名乗りを上げた。
彼にとってサクラちゃんは特別な存在なのだろう。
サクラちゃんにとって今はここにいない“もう一人の小狼君”が、特別なように。
ステージが大きな音を立てて上昇する。
オレと黒鋼はその下で、モニターをじっと見つめた。
機械人形(オートマタ)が現れ、試合開始の合図が鳴った。
痛みを感じないからこそできる動きを見ていると、小狼君がかなり不利に思えてくる。
隣の黒鋼は表情を変えずにじっとモニターに見入っている。
ああ見えてずいぶん心配しているのだろう。
突然巨大な爆発音が響き、カメラの映像が真っ白になった。
降り注ぐ石は、破壊されたステージの破片だろうか。
「なんだ、あれは・・・。」
呆然とその様子を見る黒鋼。
小さく震えているのは気のせいではないだろう。
モニターに次第にステージの様子が現れてくる。
かろうじて小狼君は耐えたようだ。
だからと言って黒鋼も安心できるわけではないだろう。
あれを何発も撃てるようなのが相手では。
ーファイ聞こえる?ー
ふいに、チィの声が聞こえてきた。
懐かしい声だ。
母によく似たその声は、ずっと聞いていたいはずなのに、聞きたくないと思ってしまう。
(聞こえているよ。
セレスとここは時間の流れが違うから大丈夫だと思っていたんだけど。
同じ世界にずっといてアシュラ王が目覚めてしまったら、オレは。)
腕を掴まれた。
真赤な瞳が、オレを見つめる。
見透かされているような気がした。
さっきまで震えていた、否、今でもなお震える小娘に。
仲間である小狼君を失うかもしれないこの場で、それに耐えようと震える彼女は、オレの機微まで察しているというのだろうか。
それが悔しいのに、すがりつきたくなるのはどうしてだろう。
こんな、こんな小娘に。
「お前達の好きにさせるつもりはない。」
はっきりと、彼女はそう言い切った。
その声は、さっきの呆然とした声とはまるで違う。
気づけば彼女はもう震えてなどいない。
震えていたことが嘘のように思えるほど、彼女は強くオレを見つめていた。
「お前は俺のものだ。
お前の願いは、俺が叶える。
だから、俺を頼れ。
俺を、信じろ。」
激情を秘める紅は、まっすぐオレを見つめていた。
モニターに映る小狼君の戦う炎や電撃を受けて、きらきらと光る。
オレは、この旅は二度目だと聞かされたが、それが本当ならばこの局面に立ったのも、2度目かもしれない。
今目の前の黒鋼に言われたのと同じことを、男の黒鋼に言われたのだろうか。
彼女と同じ美しい紅い瞳に、何を思っただろう。
何を決意したのだろう。
この一瞬が、何かを変えるのだろうか。
サクラちゃんに夢見の力があることで、もし今のサクラちゃんの願いがあるのだとしたら?
(未来が・・・変わる・・・。)
オレが言葉を発しようとしたその時、大きな爆発が起きて、紅い瞳はオレからそらされた。
その視線を追えば、爆発の煙の向こうに二つの気配が揺らぎ、機械人形(オートマタ)が倒れた。
激しい試合は小狼君の勝利に終わったのだ。
黒鋼は喜ぶだろうかと顔をちらり覗くが、彼女の視線はひどく鋭い。
その視線の先でサクラちゃんが小狼君に駆け寄った。
そして空から舞い降りてきた女性に、オレは目を奪われる。
「チィ!?」
「次元移動能力を備えたこの国唯一の機械人形です。
彼女があなたを他の世界へ連れて行ってくれます。」
イーグルの説明こそがサクラちゃんの望み。
そして、これこそがきっと、未来を変える時。
小狼くんががサクラちゃんの腕をつかんだ。
「姫を放すな!」
黒鋼が叫んだ。
嫌な予感しかしない。
「だからどうなっているんだよ!」
「次元の道がもう一つ・・・」
隣でジェオとランティスが話しているのが耳に入った。
(次元の道・・・)
確かに近づいてくる気配。
それは紛うことのない。
「チィの封印が解けた・・・。」
このままではとてつもないことが起きてしまう。
「一人で別の世界に行くつもりなのか?
おれがいるからか?」
「ちがうの!間に合わない」
必死なサクラちゃんに、オレの頭を一つの過去がよぎる。
(まさか、そんな)
でもそれを深く考える前に、意識が遠のいた。
「待てっ!!」
一瞬だった。
強くつかんでいたはずの手が、俺の手をすり抜けた。
追いかけようとすれば、バチリと何かにはじかれる。
「待てッ!!!」
伸ばす手の先で、彼の背中は消えた。
ステージの上に上がったのだろう。
俺も慌ててステージの壁面を駆け上がる。
この恐怖は知っていた。
あの日も感じたのだ。
壊れていく、感覚を。
失う恐怖を。
あの、少年を失った日に。
風圧に負けないようになんとかステージに降り立つ。
目に飛び込んだのは、信じられない光景だった。
目を背けたいのに、背けられず、そして背けてはならない光景だった。
「サクラ!!」
「剣を抜くな!!」
俺と小狼が叫ぶ。
だが、絶叫とともに青年は、姫の腹部を貫いた刀を抜いた。
強大な魔力が彼の感情に乗って弾け飛び、小狼や俺にぶち当たる。
それが、彼の意志で姫を刺したのではないことを伝えていた。
俺たちの肌を斬り裂く強い衝撃とともに。
男の黒鋼が望んだ未来は、こうならない未来だったのだろうか。
ならば彼の望みはかなえられなかったのだろうか。
それとも。
姫の躯から、もう一人の姫が現れた。
(魂・・・)
思わず歯をかみしめる。
「間に合った。
大丈夫、私の命はまだここにある。
忘れないで。
これからも未来は変えられる。」
優しく青年を抱きしめ、姫は安堵したように言った。
そして俺と少年を見て、顔をゆがめた。
「ごめんなさい。」
言いたいことは山ほどあった。
なのに、喉が閊えていてひどく苦しくて。
「すま、な、い。」
そう言うのが精いっぱいだった。
約束を守れなかった。
生きて、彼女を守ると約束したのに。
「違うの。
これは私が選んだこと。
だから、ファイさんをお願い。」
青年のことは分かっている。
当たり前なのだ。
俺は彼を守ると約束したのだから。
でも、今彼女に伝えたいのはそんなことじゃない。
「戻って、来い。」
ただ、それだけだった。
あの日も言ったのだ。
心を失った少年に。
姫は辛そうな顔で無理に笑った。
「はい。」
姫の躯と魂は、全く同じ顔をした、でも白と黒の対照的な2人女性によって別々の世界へと連れていかれてしまった。
一人の供も連れずに。
すべてが終わる土煙りの中で、青年が刀を掲げた。
彼の考えはひどく短絡的で、浅はかで、そしてきっとこの状況になったら誰もが考えるようなことで。
俺はその腕をつかんだ。
「その剣んでもう誰も傷つけるな。
お前自身もだ。」
そしてその手から剣をもぎ取り、そのまま機械人形(オートマタ)を抱きかかえるビジョン家当主の首元に突き付けた。
感情が抑えきれない。
感情の揺らぎほど漬け込む隙を相手に与える瞬間はないと、何度も蘇摩に言われてきたのに。
剣の切っ先が無様なほどに震えている。
それに気づいたランティスとジェオが動こうとするから。
「動くなッ!!!」
鋭く制した。
刀の震えは止まった。
二人は冷や汗を流しながらぴたりと止まる。
「・・・話してもらおうか。」
金色に見える瞳が、同情の色を見せているのが気に食わない。
それがこの男がこの惨状を招いたのではないと、伝えているから。
彼が諸悪の根源で、ここで切り捨てられて、それで姫が戻ってこられるなら、どんなに良かっただろう。
己の無力を突き付けられたこの状況を打破する機会が与えられるなら、どんなことでもやってのけようと思うのに。
「ええ。
全てお話しましょう。
あの人とともに。」
その苦しげな瞳が、気に食わない。
「今話せないというのかっ!!」
「やめなさい黒鋼。
彼らは協力しただけよ。」
後ろから魔女の声がした。
「協力しただけで十分だ。
彼女は死んだ!
・・・お前も死んだほうがよかったと思う目に遭いたいか!!」
「黒鋼さんっ!」
小狼が鋭く俺を呼んだ。
「サクラはそんなこと望んでいない!
黒鋼さんが誰かを殺すなんて、そんなのサクラは許さない!!」
一瞬で来た隙に、ジェオが俺の手から剣をたたき落とした。
力が抜けて、膝からその場に崩れ落ちた。
少年を失った。
姫も失った。
青年は己の内にこもっている。
小狼は青年とも姫とも打ち解けなかった。
俺の力では取り戻せないのだ。
一度壊れてしまった関係性が。
(だからあの日も、決めたんだ。
もう一度、もう一度関係を作りなおすと。)
手を握り締める。
「・・・場所を変えましょう。」
肩に手をまわして運ぼうとするジェオの手を払い、立ち上がる。
「無理は」
「平気だ。」
俺は前を向く。
過去の俺はどうしたのだろう。
この場面に出会ったのだろうか。
それとも、これは彼が望んだ別の未来なのだろうか。
わかりっこないし、聞いても教えてもらえることではなかろう。
“干渉値を越える”とか言うやつだ。
ならば、それならば、俺が変えてやるしかない。
彼の過去にはいなかった俺ならば、未来を変えることもできるかもしれないのだから。
