インフィニティ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼らが向かいのビルから何やら機械を使って見張っているのは知っていた。
初日、見張るための機械をつけにきたのがジェオという男だということは、先日知れたところだ。
チェスの主催者が見張るというのは何か理由があるのかもしれないと、いまだ泳がせている。
さっきからその男が整備のためか機械を設置したあたりをうろついている。
こんなに目立つなんてずいぶんと馬鹿だと思う。
前に来た時はこんな気配を消すのが下手ではなかったのに、と街灯りが映す影に思う。
あれではまるで見つけてくれと言わんばかりだ。
そこで俺はふと気付く。
向こうからもわずかに見えるようカーテンの隙間に立つ。
男はそれを待っていたらしい。
降りてこいというようなしぐさをするから、部屋からこっそり出た。
4人は寝ている。
俺がいないことに気づくとしたら青年だが、放っておいてくれるだろう。
マンションの入り口から出てしばらく進むと、ジェオが路地から顔を出した。
無言のままついていくと、小さなバーの入り口で立ち止まった。
どうやら店に入りたいらしい。
俺が一つうなずくと、彼は戸口を開けた。
モノトーンの中にエメラルド色のライトをともす店内は、小ざっぱりしているが洒落たしつらえにされていた。
勧められるままにカウンターに腰かける。
「・・・顔色が悪いぞ。
明日最終だろ。」
ジェオが眉を寄せてそう言った。
どうやら血を吸われすぎたらしい。
(吸血鬼め。)
無意識に傷口を覆っていたことに気づき、手をどけた。
「第一声がそれか。」
俺の不機嫌そうな言葉に彼は眉を寄せた。
不機嫌そうなのは、姫を一人で食事に連れて行ったことを怒っていると思わせるためでもある。
「何か飲むか?」
「酒なら何でも。」
「マスター、いつもの二つ。」
初老のマスターは一つこちらにお辞儀をして、カクテルを作り始めた。
「・・・お嬢ちゃんには何にもしてねぇ。
ビジョン家はそんな雑魚がするような真似はしない。」
気まずそうにそう口早に言う男は、本当に実直で、こんなのがあの世界を生きていけるのかと不安になるほどだ。
「ああ。
お前のビジョン家は知らないが、お前は信用が置ける。
・・・世話になったな。」
一応ジェオに対しては理解を示すと、相手はほっとしたようだ。
「・・・なぁ、あんた達、なんで一緒に旅をしているんだ?」
唐突な問いに俺は理由を尋ねるように相手を見た。
「家族ってわけじゃねぇだろ。
出身国さえ、違うんじゃねぇか?
イーグル・・・ビジョン家の当主だが、そいつはあの嬢ちゃんのことを姫だとか言っていたし・・。」
ベラベラと話すジェオに俺は思わずため息をついた。
少女が“姫”であることは、彼らは知らないはずだ。
姫自身がそれを告げたならまだしも、イーグルがそれを言っているならば、彼らは俺たちの情報をどこかからか得ていることになる。
この世界で少女が姫であることを知っている人物はいないはずだ。
となれば、彼らは俺達が今まで旅をしてきた世界の住人の中で、少女が姫だと知っている人物、または俺たちの素性を知っている人物と交流を持ち、何らかの情報を与えられたことになる。
それは簡単に監視対象に伝えていい情報ではないことは、明白だ。
これは素なのだろうか、と首をかしげたくなる。
もしこれが演技で、俺を嵌めるための罠であれば、相手はかなりの実力者ということになる。
とりあえず罠にはまるつもりで、ちらりと隣を流し見た。
「・・・お前それで側近が務まるのか。」
「あ?」
マスターが静かに俺達の前にグラスを置いた。
底から赤から橙へと色が変わっていくそれは、きつそうな酒だ。
ジェオがひょいっと片手をあげて礼を言う。
俺もかるく目礼をした。
マスターの方も一つうなずいてそれに答えた。
俺はグラスを傾け、話を続ける。
「情報流しすぎだろ。
今明らかに俺達がお前達に渡していない情報を口走っている。
その時点でこちらが怪しむことを考慮しないのか?」
「ああ・・・。」
失態にようやく気付いたらしい。
またはその振りをしている。
だが続いた言葉に俺は驚いた。
「でも俺もあのお嬢ちゃんが心配なんだ。」
黒鋼はジェオをつぶさに見つめた。
極めて不思議な男だと思う。
赤の他人の、それもこんな短時間しか付き合っていないのに、姫の心配をするなど。
(面白い奴。)
青年とは正反対だ。
あの何でも隠す悲劇のヒロイン気どりとは。
「俺達はいろんな世界を旅している。
旅する手段は、俺達にひとつしか与えられていない。
4人の目的を達成するために、俺達はともに旅をしている。」
「じゃあもし、その手段が複数あったら、別に旅をするのか?」
ジェオの大きな瞳が、じっと俺を見た。
「・・・あの3人が、用心棒なしに一人でやっていけると思うか?」
ジェオは目を見開いて、それから、ひどく嬉しそうに笑った。
人のことなのに。
「だよな!」
そして、真面目な顔をして酒を煽った。
「あの子は途方もない決心をしている。
確かに強い心を持った子だが、賛同はしかねる。」
「・・・どうせ一人で旅に出るとでも言ったんだろう。」
「お前知っていて放置しているのか!!」
がたんと立ち上がるから、まぁ座れ、と椅子を顎でしゃくった。
「確信したのは今夜だ。」
「ってことは本人に聞いたわけじゃないんだな?」
「ああ。
あいつも反対されるのは分かっているだろうし、後ろめたさも感じているだろう。」
俺もグラスを傾けた。
果物の香りが強いが、甘すぎることはない。
度数は高めだが、この程度なら酔うこともないだろう。
「姫が望む以上、俺達はその願いを拒むことはできない。
・・・あいつも馬鹿じゃない。
そうしてでも成し遂げたい何かがあるんだろう。」
「・・・応援するのか。
例え彼女が、辛い目に遭おうと。」
「そんなことは言っていない。
俺も、好きなようにするさ。」
ジェオはキョトンとしてから、笑って言った。
「お前がもし職に溢れたらうちへこい。
話つけてやる。」
俺も小さく笑う。
「そりゃ助かる。」
ジェオはぐいっと酒を飲み干すと、いくらか金を置いて立ち上がった。
俺の分も含まれていて、彼を見上げれば。
「次頼む。」
笑顔でそう言われる。
なかなか人たらしな男だ。
これは確かに、ヴィジョン家の片腕に相応しい。
「ああ。」
軽く目礼を返す。
ふっと気配が耳元により、俺の腕は懐に忍ばせてきた果物ナイフに触れた。
だがそれも杞憂だったようだ。
「明日試合が終わった後だ。
気をつけろ。」
それだけ囁くと、ジェオは離れて行った。
「マスターごちそうさま!」
深夜とは思えない元気な挨拶を残して、店を出ていく。
「ご安心ください。
あの方は“そういうこと”はお好きではないし、得意でもない。」
グラスを拭きながら、マスターがぽつりと言った。
ジェオを警戒して懐を探る俺の手に気づいたんだろう。
食えん奴だ。
「・・・俺の本業は“そういうこと”なものだから。」
グラスを煽る。
余計なことを言ってしまった。
「旨かった。」
そう言って店を後にする。
外に出ると薄暗いのに街灯りのせいで星なんて見えない。
また無意識に首に触れていた手をどかし、家路を急いだ。
初日、見張るための機械をつけにきたのがジェオという男だということは、先日知れたところだ。
チェスの主催者が見張るというのは何か理由があるのかもしれないと、いまだ泳がせている。
さっきからその男が整備のためか機械を設置したあたりをうろついている。
こんなに目立つなんてずいぶんと馬鹿だと思う。
前に来た時はこんな気配を消すのが下手ではなかったのに、と街灯りが映す影に思う。
あれではまるで見つけてくれと言わんばかりだ。
そこで俺はふと気付く。
向こうからもわずかに見えるようカーテンの隙間に立つ。
男はそれを待っていたらしい。
降りてこいというようなしぐさをするから、部屋からこっそり出た。
4人は寝ている。
俺がいないことに気づくとしたら青年だが、放っておいてくれるだろう。
マンションの入り口から出てしばらく進むと、ジェオが路地から顔を出した。
無言のままついていくと、小さなバーの入り口で立ち止まった。
どうやら店に入りたいらしい。
俺が一つうなずくと、彼は戸口を開けた。
モノトーンの中にエメラルド色のライトをともす店内は、小ざっぱりしているが洒落たしつらえにされていた。
勧められるままにカウンターに腰かける。
「・・・顔色が悪いぞ。
明日最終だろ。」
ジェオが眉を寄せてそう言った。
どうやら血を吸われすぎたらしい。
(吸血鬼め。)
無意識に傷口を覆っていたことに気づき、手をどけた。
「第一声がそれか。」
俺の不機嫌そうな言葉に彼は眉を寄せた。
不機嫌そうなのは、姫を一人で食事に連れて行ったことを怒っていると思わせるためでもある。
「何か飲むか?」
「酒なら何でも。」
「マスター、いつもの二つ。」
初老のマスターは一つこちらにお辞儀をして、カクテルを作り始めた。
「・・・お嬢ちゃんには何にもしてねぇ。
ビジョン家はそんな雑魚がするような真似はしない。」
気まずそうにそう口早に言う男は、本当に実直で、こんなのがあの世界を生きていけるのかと不安になるほどだ。
「ああ。
お前のビジョン家は知らないが、お前は信用が置ける。
・・・世話になったな。」
一応ジェオに対しては理解を示すと、相手はほっとしたようだ。
「・・・なぁ、あんた達、なんで一緒に旅をしているんだ?」
唐突な問いに俺は理由を尋ねるように相手を見た。
「家族ってわけじゃねぇだろ。
出身国さえ、違うんじゃねぇか?
イーグル・・・ビジョン家の当主だが、そいつはあの嬢ちゃんのことを姫だとか言っていたし・・。」
ベラベラと話すジェオに俺は思わずため息をついた。
少女が“姫”であることは、彼らは知らないはずだ。
姫自身がそれを告げたならまだしも、イーグルがそれを言っているならば、彼らは俺たちの情報をどこかからか得ていることになる。
この世界で少女が姫であることを知っている人物はいないはずだ。
となれば、彼らは俺達が今まで旅をしてきた世界の住人の中で、少女が姫だと知っている人物、または俺たちの素性を知っている人物と交流を持ち、何らかの情報を与えられたことになる。
それは簡単に監視対象に伝えていい情報ではないことは、明白だ。
これは素なのだろうか、と首をかしげたくなる。
もしこれが演技で、俺を嵌めるための罠であれば、相手はかなりの実力者ということになる。
とりあえず罠にはまるつもりで、ちらりと隣を流し見た。
「・・・お前それで側近が務まるのか。」
「あ?」
マスターが静かに俺達の前にグラスを置いた。
底から赤から橙へと色が変わっていくそれは、きつそうな酒だ。
ジェオがひょいっと片手をあげて礼を言う。
俺もかるく目礼をした。
マスターの方も一つうなずいてそれに答えた。
俺はグラスを傾け、話を続ける。
「情報流しすぎだろ。
今明らかに俺達がお前達に渡していない情報を口走っている。
その時点でこちらが怪しむことを考慮しないのか?」
「ああ・・・。」
失態にようやく気付いたらしい。
またはその振りをしている。
だが続いた言葉に俺は驚いた。
「でも俺もあのお嬢ちゃんが心配なんだ。」
黒鋼はジェオをつぶさに見つめた。
極めて不思議な男だと思う。
赤の他人の、それもこんな短時間しか付き合っていないのに、姫の心配をするなど。
(面白い奴。)
青年とは正反対だ。
あの何でも隠す悲劇のヒロイン気どりとは。
「俺達はいろんな世界を旅している。
旅する手段は、俺達にひとつしか与えられていない。
4人の目的を達成するために、俺達はともに旅をしている。」
「じゃあもし、その手段が複数あったら、別に旅をするのか?」
ジェオの大きな瞳が、じっと俺を見た。
「・・・あの3人が、用心棒なしに一人でやっていけると思うか?」
ジェオは目を見開いて、それから、ひどく嬉しそうに笑った。
人のことなのに。
「だよな!」
そして、真面目な顔をして酒を煽った。
「あの子は途方もない決心をしている。
確かに強い心を持った子だが、賛同はしかねる。」
「・・・どうせ一人で旅に出るとでも言ったんだろう。」
「お前知っていて放置しているのか!!」
がたんと立ち上がるから、まぁ座れ、と椅子を顎でしゃくった。
「確信したのは今夜だ。」
「ってことは本人に聞いたわけじゃないんだな?」
「ああ。
あいつも反対されるのは分かっているだろうし、後ろめたさも感じているだろう。」
俺もグラスを傾けた。
果物の香りが強いが、甘すぎることはない。
度数は高めだが、この程度なら酔うこともないだろう。
「姫が望む以上、俺達はその願いを拒むことはできない。
・・・あいつも馬鹿じゃない。
そうしてでも成し遂げたい何かがあるんだろう。」
「・・・応援するのか。
例え彼女が、辛い目に遭おうと。」
「そんなことは言っていない。
俺も、好きなようにするさ。」
ジェオはキョトンとしてから、笑って言った。
「お前がもし職に溢れたらうちへこい。
話つけてやる。」
俺も小さく笑う。
「そりゃ助かる。」
ジェオはぐいっと酒を飲み干すと、いくらか金を置いて立ち上がった。
俺の分も含まれていて、彼を見上げれば。
「次頼む。」
笑顔でそう言われる。
なかなか人たらしな男だ。
これは確かに、ヴィジョン家の片腕に相応しい。
「ああ。」
軽く目礼を返す。
ふっと気配が耳元により、俺の腕は懐に忍ばせてきた果物ナイフに触れた。
だがそれも杞憂だったようだ。
「明日試合が終わった後だ。
気をつけろ。」
それだけ囁くと、ジェオは離れて行った。
「マスターごちそうさま!」
深夜とは思えない元気な挨拶を残して、店を出ていく。
「ご安心ください。
あの方は“そういうこと”はお好きではないし、得意でもない。」
グラスを拭きながら、マスターがぽつりと言った。
ジェオを警戒して懐を探る俺の手に気づいたんだろう。
食えん奴だ。
「・・・俺の本業は“そういうこと”なものだから。」
グラスを煽る。
余計なことを言ってしまった。
「旨かった。」
そう言って店を後にする。
外に出ると薄暗いのに街灯りのせいで星なんて見えない。
また無意識に首に触れていた手をどかし、家路を急いだ。
