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「弱い」
黒い服に身を包んだ影のような姿が、日本刀についた血を振り払うから。
黒いマントが風に靡いた。
「これでも刺客か?
もう少し骨のある奴はいないのか?」
見張り櫓の屋根の上。
あたりは血の海。
何人もの黒服の男が、死に絶えている。
その中心にいるのは細身のーー
「また言いつけを守りませんでしたわね、黒鋼」
シャラン
涼やかな簪の音とともに、柔らかな声が耳に入る。
「姫」
にやりと一瞬口の端をあげて、城の屋根へと飛び移る。
そして窓から広い部屋に飛び込む。
くるくると回転し、音も立てずに膝をつく姿は洗練されていた。
「全部片付けた。
文句はないだろう」
「無駄な殺生はせぬようにと申しつけておいたでしょう」
14歳程度の彼女こそ、この日本国を治める天照の妹、月読。
愛らしい顔立ち、白い肌、黒い瞳に柔らかに波打つ腰を超える長い黒髪の彼女は、血濡れた者に少しも動じることはない。
しかし彼女の周りで使えている女たちが叫び声をあげている。
「かかってくる奴は切る。
忍者の基本だ」
ため息をつきながら困ったような笑みを浮かべる月読の前に足音を立てずに黒鋼は立った。
「第一、この白鷺城に忍びこんだ時点で万死に値する」
そっぽを向きながら口をとがらせてそう言う黒鋼に、月読はもう、と怒ってみせた。
(俺はもっともっと強くなって、この先も、2人を守るんだ。
もう誰にも奪われないよう、永久に)
誰よりもきれいな天照と、誰よりも可愛らしい月読を守り続ける。
それが黒鋼の願いだ。
「俺は、強くなるんだ。
誰よりも強く」
それを聞いた月読が一瞬寂しげな顔をした事に気づいたのは、
すぐ傍にいた女の忍者ーー蘇摩くらいだろう。
「確かに、この日本国には、あなたよりも強いものはいません。
仕方ありませんわね」
月読の手がさっと複雑に組まれたのを見て、黒鋼は眉を寄せた。
次の瞬間、自分に向かって吹いてくる突風に、顔を腕でかばう。
「な……なんだ!?」
気づけば身体が床に沈んでいく。
「可愛い子には旅をさせよ、ですわ」
「おいっ待てっ!」
「これからあなたを異界に飛ばします。
貴方はそこでたくさんの人に出会い、本当の意味での強さを知るでしょう」
月読は溺れるように床に腰まで沈んだ黒鋼の前に立ち、簡単に何かを唱えるとそっと額に触れた。
「何をした!?」
驚く黒鋼に、にっこり微笑む。
「呪です。
貴方が人を殺めないための。
ひとり殺めるたびに、強さが減っていくでしょう」
「な……何っ?!」
「いってらっしゃいな、
咲。
あまり怪我はしすぎないように気をつけてくださいね」
初めて会ったあの日から何も変わらぬ友情。
自分の本当の名を呼ぶのは、大切な時と決まっていた。
愛情に溢れるこの城は、居心地が良かった。
だからあれだけ自分の思いのままに暴れまわれたのだ。
「……知世!」
誰よりも大切な、主人であり、友人でもある月読の真名を呼び訴える。
出会ってから彼女と顔を会わさない日なんてなかった。
これから、会えないなんて、想像を絶する。
だが彼女が決めた事を覆さない頑固な性格の持ち主である事は熟知していた。
そして彼女の賢さも、先を見通す力も信用に値するものだ。
だから、やめろという言葉は飲み込む。
代わりにその目を見つめて、誓った。
「帰ってくるからな!必ず!」
その言葉を最後に、黒鋼は呑み込まれ部屋から姿を消した。
床も元に戻り、術の痕跡は一切ない。
「あの子も女の子なのですから」
そう呟く月読の瞳が悲しげなのは、夢で未来を知っているからか、当分一番の友に会えなくなるからか。
黒い服に身を包んだ影のような姿が、日本刀についた血を振り払うから。
黒いマントが風に靡いた。
「これでも刺客か?
もう少し骨のある奴はいないのか?」
見張り櫓の屋根の上。
あたりは血の海。
何人もの黒服の男が、死に絶えている。
その中心にいるのは細身のーー
「また言いつけを守りませんでしたわね、黒鋼」
シャラン
涼やかな簪の音とともに、柔らかな声が耳に入る。
「姫」
にやりと一瞬口の端をあげて、城の屋根へと飛び移る。
そして窓から広い部屋に飛び込む。
くるくると回転し、音も立てずに膝をつく姿は洗練されていた。
「全部片付けた。
文句はないだろう」
「無駄な殺生はせぬようにと申しつけておいたでしょう」
14歳程度の彼女こそ、この日本国を治める天照の妹、月読。
愛らしい顔立ち、白い肌、黒い瞳に柔らかに波打つ腰を超える長い黒髪の彼女は、血濡れた者に少しも動じることはない。
しかし彼女の周りで使えている女たちが叫び声をあげている。
「かかってくる奴は切る。
忍者の基本だ」
ため息をつきながら困ったような笑みを浮かべる月読の前に足音を立てずに黒鋼は立った。
「第一、この白鷺城に忍びこんだ時点で万死に値する」
そっぽを向きながら口をとがらせてそう言う黒鋼に、月読はもう、と怒ってみせた。
(俺はもっともっと強くなって、この先も、2人を守るんだ。
もう誰にも奪われないよう、永久に)
誰よりもきれいな天照と、誰よりも可愛らしい月読を守り続ける。
それが黒鋼の願いだ。
「俺は、強くなるんだ。
誰よりも強く」
それを聞いた月読が一瞬寂しげな顔をした事に気づいたのは、
すぐ傍にいた女の忍者ーー蘇摩くらいだろう。
「確かに、この日本国には、あなたよりも強いものはいません。
仕方ありませんわね」
月読の手がさっと複雑に組まれたのを見て、黒鋼は眉を寄せた。
次の瞬間、自分に向かって吹いてくる突風に、顔を腕でかばう。
「な……なんだ!?」
気づけば身体が床に沈んでいく。
「可愛い子には旅をさせよ、ですわ」
「おいっ待てっ!」
「これからあなたを異界に飛ばします。
貴方はそこでたくさんの人に出会い、本当の意味での強さを知るでしょう」
月読は溺れるように床に腰まで沈んだ黒鋼の前に立ち、簡単に何かを唱えるとそっと額に触れた。
「何をした!?」
驚く黒鋼に、にっこり微笑む。
「呪です。
貴方が人を殺めないための。
ひとり殺めるたびに、強さが減っていくでしょう」
「な……何っ?!」
「いってらっしゃいな、
咲。
あまり怪我はしすぎないように気をつけてくださいね」
初めて会ったあの日から何も変わらぬ友情。
自分の本当の名を呼ぶのは、大切な時と決まっていた。
愛情に溢れるこの城は、居心地が良かった。
だからあれだけ自分の思いのままに暴れまわれたのだ。
「……知世!」
誰よりも大切な、主人であり、友人でもある月読の真名を呼び訴える。
出会ってから彼女と顔を会わさない日なんてなかった。
これから、会えないなんて、想像を絶する。
だが彼女が決めた事を覆さない頑固な性格の持ち主である事は熟知していた。
そして彼女の賢さも、先を見通す力も信用に値するものだ。
だから、やめろという言葉は飲み込む。
代わりにその目を見つめて、誓った。
「帰ってくるからな!必ず!」
その言葉を最後に、黒鋼は呑み込まれ部屋から姿を消した。
床も元に戻り、術の痕跡は一切ない。
「あの子も女の子なのですから」
そう呟く月読の瞳が悲しげなのは、夢で未来を知っているからか、当分一番の友に会えなくなるからか。
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