僕らの季節
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ー処暑ー
8月23日頃。暑さが峠を越えて後退し始めるころ。『暦便覧』では「陽気とどまりて、初めて退きやまむとすれば也」と説明している。ーーWikipedia
「先生、あれは?」
「ああ、綿の花ですね」
「綿は白いのに花は燕脂と黄色なんですね」
朝から野菜を売りに歩いた帰り、咲が立ち止まった。
「スイカもカボチャも黄色い花だぜ」
「そっか。トマトも花は黄色だものね」
咲は無類のトマト好きで、採れるようになってから三食欠かさず食べている。付き合わされてる俺と先生もすっかりトマト通になり、細かい品種まで覚え、来年の栽培計画に巻き込まれている。たかがトマトだと思うと馬鹿馬鹿しいが、熱心に取り組む咲との時間は嫌いじゃない。たぶん、先生も。
「その上芋虫は蝶になるな」
「本当……人は出自で行末が決まる事も多いと言うのに」
時折彼女は町の孤児を思い出す。
「孤児の行末なんて決まってるんです」
「でも君は私の手を取ることを決めた。孤児であった時の経験と、その後学んだ事がいつか実を結ぶでしょう」
「でも、町のみんなは」
「君が変えるんですよ」
その一言に、小さな背中はすくりと伸びた。責務は彼女を奮い立たせる。
「先生はなんで俺達を……やっぱいい」
思わず口をついた疑問を取り消す。聞いても聞かなくても、俺達が先生に助けられたという事実は変わらないのだ。
だが先生は微笑んで答えた。
「実は私も変わりたい1人でね、君達を見込んだというわけですよ。
でも孤児だった貴方達にとっても悪い話じゃ無いという事で、赦してください」
少し茶化した言葉に俺達は顔を見合わせた。
「許すも許さねぇもねぇだろ」
「先生が私達を助けて、私達が変わって町の孤児を助ける。いつか私達が先生を助けて、先生も変わって誰かを助ける。助けた誰かがまた誰かを助けて……それをお互い様って言うんですよね」
先生は目を瞬かせてから、穏やかに目を細めて俺たちの頭を乱暴にかいぐった。
「本当に生意気な口をきくようになりましたね」
「ふふふん」
笑っているのか鼻歌なのか分からない声を出しながら嬉しそうに駆ける咲を追いかける。しばらく走ると彼女が立ち止まったので、隣まで来た俺も止まり振り返る。先生は暑い中でもどこか涼しげな顔をしていた。
「せんせー!早くー!」
「え、私もですか?」
先生は驚いた顔をして、それから咲の様に眩しく笑ってから走り出した。
8月23日頃。暑さが峠を越えて後退し始めるころ。『暦便覧』では「陽気とどまりて、初めて退きやまむとすれば也」と説明している。ーーWikipedia
「先生、あれは?」
「ああ、綿の花ですね」
「綿は白いのに花は燕脂と黄色なんですね」
朝から野菜を売りに歩いた帰り、咲が立ち止まった。
「スイカもカボチャも黄色い花だぜ」
「そっか。トマトも花は黄色だものね」
咲は無類のトマト好きで、採れるようになってから三食欠かさず食べている。付き合わされてる俺と先生もすっかりトマト通になり、細かい品種まで覚え、来年の栽培計画に巻き込まれている。たかがトマトだと思うと馬鹿馬鹿しいが、熱心に取り組む咲との時間は嫌いじゃない。たぶん、先生も。
「その上芋虫は蝶になるな」
「本当……人は出自で行末が決まる事も多いと言うのに」
時折彼女は町の孤児を思い出す。
「孤児の行末なんて決まってるんです」
「でも君は私の手を取ることを決めた。孤児であった時の経験と、その後学んだ事がいつか実を結ぶでしょう」
「でも、町のみんなは」
「君が変えるんですよ」
その一言に、小さな背中はすくりと伸びた。責務は彼女を奮い立たせる。
「先生はなんで俺達を……やっぱいい」
思わず口をついた疑問を取り消す。聞いても聞かなくても、俺達が先生に助けられたという事実は変わらないのだ。
だが先生は微笑んで答えた。
「実は私も変わりたい1人でね、君達を見込んだというわけですよ。
でも孤児だった貴方達にとっても悪い話じゃ無いという事で、赦してください」
少し茶化した言葉に俺達は顔を見合わせた。
「許すも許さねぇもねぇだろ」
「先生が私達を助けて、私達が変わって町の孤児を助ける。いつか私達が先生を助けて、先生も変わって誰かを助ける。助けた誰かがまた誰かを助けて……それをお互い様って言うんですよね」
先生は目を瞬かせてから、穏やかに目を細めて俺たちの頭を乱暴にかいぐった。
「本当に生意気な口をきくようになりましたね」
「ふふふん」
笑っているのか鼻歌なのか分からない声を出しながら嬉しそうに駆ける咲を追いかける。しばらく走ると彼女が立ち止まったので、隣まで来た俺も止まり振り返る。先生は暑い中でもどこか涼しげな顔をしていた。
「せんせー!早くー!」
「え、私もですか?」
先生は驚いた顔をして、それから咲の様に眩しく笑ってから走り出した。
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