僕らの季節
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ー芒種ー
6月6日頃。芒(のぎ 、イネ科植物の果実を包む穎(えい)すなわち稲でいう籾殻にあるとげのような突起)を持った植物の種をまくころ。ーーWikipedia
「あ、雨」
縁側から空を見上げた咲の声に、先生が隣に出た。俺は2人の後ろ姿を部屋の中で寝転がったまま見る。
「梅雨入りでしょうか」
「畑の水やりをしなくて良くなりますね」
「確かに。でも洗濯物も乾きにくい」
「それは困ります。
外での稽古もできなくなりますね。
うーん、嬉しいけど困ることの方が多いかも」
空を見上げて眉を顰める少女に先生はふふふ、と笑った。
戦場で屍を漁っていた頃には到底考えもつかないゆったりとした時間。
居心地が良いと思う反面、これで良いのかという漠然とした不安もある。
腕が鈍るのではないか。平和ボケしてしまうのではないか。
例えば今夜、寝床に何者かが押し入ったとして、自分は跳ね起きて即座に相手を斬り捨てられるのか。
だが先生の言う斬ることの意義がそこではないことは、なんとなくわかっていた。
ー敵を斬るためではない。
弱き己を斬るために。
己を護るのではない。
己の魂を護るために。ー
「ね、銀時、雨は嫌い?」
和かに問いかける咲に、身体を起こす。
「別に」
「もう。少しは周りに関心を持ちなさいよ。死んだ魚みたいな目をして」
「馬鹿にすんな、これは生まれつきだ」
傍まで来て、柔らかな手が俺の手を掬うように掴んだ。
嬉しそうな笑顔に引きずられるように縁側にやってくる。
先生はそんな俺達を穏やかに見つめている。
「先生、梅雨は何故ウメとアメと書くんですか?」
「梅の取れる季節の雨という説と、黴の増える雨で黴雨 では季節感が悪いからという説とあります」
「でも、黴も麹とか役に立つものもあるんですよね?」
「そうだけど、一般的な感覚の問題だからね」
「確かに迷惑することも沢山あるけど、そんなこと言ったら孤児の私だって一緒だわ。
それが区別なのか差別なのか、私達は考えないといけない」
「難しい事を言うようになりましたね」
「本当はずっと思ってたんです」
彼女の瞳は静かな雨にきらきらと光っている。
「私、頑張ります」
小さくも頼もしい拳は、弱き己を斬る力を持つようになるだろう。
だが彼女の細腕だけで彼女の魂を護るには些か不安があり、誰かが護ってやらなければならないだろうなと、俺は自分の小さな手を見下ろした。
6月6日頃。芒(のぎ 、イネ科植物の果実を包む穎(えい)すなわち稲でいう籾殻にあるとげのような突起)を持った植物の種をまくころ。ーーWikipedia
「あ、雨」
縁側から空を見上げた咲の声に、先生が隣に出た。俺は2人の後ろ姿を部屋の中で寝転がったまま見る。
「梅雨入りでしょうか」
「畑の水やりをしなくて良くなりますね」
「確かに。でも洗濯物も乾きにくい」
「それは困ります。
外での稽古もできなくなりますね。
うーん、嬉しいけど困ることの方が多いかも」
空を見上げて眉を顰める少女に先生はふふふ、と笑った。
戦場で屍を漁っていた頃には到底考えもつかないゆったりとした時間。
居心地が良いと思う反面、これで良いのかという漠然とした不安もある。
腕が鈍るのではないか。平和ボケしてしまうのではないか。
例えば今夜、寝床に何者かが押し入ったとして、自分は跳ね起きて即座に相手を斬り捨てられるのか。
だが先生の言う斬ることの意義がそこではないことは、なんとなくわかっていた。
ー敵を斬るためではない。
弱き己を斬るために。
己を護るのではない。
己の魂を護るために。ー
「ね、銀時、雨は嫌い?」
和かに問いかける咲に、身体を起こす。
「別に」
「もう。少しは周りに関心を持ちなさいよ。死んだ魚みたいな目をして」
「馬鹿にすんな、これは生まれつきだ」
傍まで来て、柔らかな手が俺の手を掬うように掴んだ。
嬉しそうな笑顔に引きずられるように縁側にやってくる。
先生はそんな俺達を穏やかに見つめている。
「先生、梅雨は何故ウメとアメと書くんですか?」
「梅の取れる季節の雨という説と、黴の増える雨で
「でも、黴も麹とか役に立つものもあるんですよね?」
「そうだけど、一般的な感覚の問題だからね」
「確かに迷惑することも沢山あるけど、そんなこと言ったら孤児の私だって一緒だわ。
それが区別なのか差別なのか、私達は考えないといけない」
「難しい事を言うようになりましたね」
「本当はずっと思ってたんです」
彼女の瞳は静かな雨にきらきらと光っている。
「私、頑張ります」
小さくも頼もしい拳は、弱き己を斬る力を持つようになるだろう。
だが彼女の細腕だけで彼女の魂を護るには些か不安があり、誰かが護ってやらなければならないだろうなと、俺は自分の小さな手を見下ろした。