僕らの季節
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ー立夏ー
5月5日頃。春が極まり夏の気配が立ち始める日。『暦便覧』には「夏の立つがゆへ也」と記されている。ーーWikipedia
「綺麗になりましたね。お昼にしましょう」
先生の声に、俺と咲は汗を拭う。
学舎の裏の畑の管理は俺達の仕事だ。草引きの泥を払い庭の井戸までやって来る。
いつものように咲が釣瓶を投げ落とし、俺が縄を引いた。手足に水を掛け泥を落とす。
縁側に行くと松陽が手拭いを手渡す。咲は受け取り潑剌と言った。
「いい季節ですね、先生」
「今日は立夏。これから夏です」
「トマトの季節ですね!沢山採れるかな」
拭き終わった俺達は先生を挟んで歩く。
出会った頃の警戒は何処へやら。元々人懐っこい性格なのか咲はすぐに先生の後ろをついて歩くようになった。
俺達をを初めて見た先生は兄妹かと尋ねたが、今では3人は親子かと尋ねられることが増え、どこかこそばゆい。
「握り飯を持って少し出かけましょうか」
「賛成!銀時は?」
「ああ」
「ちょっとは喜びなさい、遠足よ」
「少しだけ出るだけです、遠くには行きませんよ」
「わかってますよ、先生!」
咲は慌てたように頬を赤らめた。子どもじみた様子を恥ずかしく思ったのだろうが、俺はこいつのそんな所が好きだった。きっと先生も。
だから、先生の所にこいつを連れてきて正解だったと思う。
お弁当を抱えて先生の隣を歩きながら咲は指さす。
「燕!」
「害虫を食べてくれますから沢山来てくれると有難い。巣を作ると縁起がいいと言います」
「うちにも来ないかしら」
「来たら糞まみれだぜ。お前が掃除しろよ」
「もちろん!ねぇいいでしょ先生?」
「それは燕に聞かないとね」
先生はくつくつと笑う。
「塾が栄えてくれたら嬉しいもの」
「塾はいいですよ」
俺達は先生を見上げる。
「大切なのは君達がどう生きるかです。塾はその足場にすぎません」
ふとした時の先生の言葉は重い。咲は真面目な顔をして、くるりと背中を向けて先を歩いた。
「私は先生にも幸せになって欲しいです」
どこか寂しげな背中に先生はおやと眉を上げた。
「私は今でも十分幸せですよ。」
先生は俺に笑顔を向けてから咲の背中を見た。
「君達のお陰でね」
呟くような言葉はきっとあいつには聞こえていない。でもいつか気づくに違いない事だから、それで良いのかもしれないと思った。
5月5日頃。春が極まり夏の気配が立ち始める日。『暦便覧』には「夏の立つがゆへ也」と記されている。ーーWikipedia
「綺麗になりましたね。お昼にしましょう」
先生の声に、俺と咲は汗を拭う。
学舎の裏の畑の管理は俺達の仕事だ。草引きの泥を払い庭の井戸までやって来る。
いつものように咲が釣瓶を投げ落とし、俺が縄を引いた。手足に水を掛け泥を落とす。
縁側に行くと松陽が手拭いを手渡す。咲は受け取り潑剌と言った。
「いい季節ですね、先生」
「今日は立夏。これから夏です」
「トマトの季節ですね!沢山採れるかな」
拭き終わった俺達は先生を挟んで歩く。
出会った頃の警戒は何処へやら。元々人懐っこい性格なのか咲はすぐに先生の後ろをついて歩くようになった。
俺達をを初めて見た先生は兄妹かと尋ねたが、今では3人は親子かと尋ねられることが増え、どこかこそばゆい。
「握り飯を持って少し出かけましょうか」
「賛成!銀時は?」
「ああ」
「ちょっとは喜びなさい、遠足よ」
「少しだけ出るだけです、遠くには行きませんよ」
「わかってますよ、先生!」
咲は慌てたように頬を赤らめた。子どもじみた様子を恥ずかしく思ったのだろうが、俺はこいつのそんな所が好きだった。きっと先生も。
だから、先生の所にこいつを連れてきて正解だったと思う。
お弁当を抱えて先生の隣を歩きながら咲は指さす。
「燕!」
「害虫を食べてくれますから沢山来てくれると有難い。巣を作ると縁起がいいと言います」
「うちにも来ないかしら」
「来たら糞まみれだぜ。お前が掃除しろよ」
「もちろん!ねぇいいでしょ先生?」
「それは燕に聞かないとね」
先生はくつくつと笑う。
「塾が栄えてくれたら嬉しいもの」
「塾はいいですよ」
俺達は先生を見上げる。
「大切なのは君達がどう生きるかです。塾はその足場にすぎません」
ふとした時の先生の言葉は重い。咲は真面目な顔をして、くるりと背中を向けて先を歩いた。
「私は先生にも幸せになって欲しいです」
どこか寂しげな背中に先生はおやと眉を上げた。
「私は今でも十分幸せですよ。」
先生は俺に笑顔を向けてから咲の背中を見た。
「君達のお陰でね」
呟くような言葉はきっとあいつには聞こえていない。でもいつか気づくに違いない事だから、それで良いのかもしれないと思った。