僕らの季節
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ー節分ー
雑節の一つで、各季節の始まりの日(立春・立夏・立秋・立冬)の前日のこと。節分とは「季節を分ける」ことも意味している。江戸時代以降は特に立春(毎年2月4日ごろ)の前日を指す場合が多い。ーーWikipedia
近くで戦があったと噂を聞いて、咲は町から続く一本道を進んでいた。
頻繁に合戦場となるそこに行くのは初めてではない。
戦時中の貧しい町の孤児は盗みだけでは食べていけない時もある。
屍を漁る事もないわけではなかったが、避けたい事ではあった。
だが今日の目的は別だ。
季節は2月。
寒さが身に堪える。
咲の鼻も頬も指先も、真っ赤だ。
着いた合戦場は寒さ故、見た目ほど臭いは酷くない。
降り始めた雪に、空を見上げる。
そして少しだけ勇気を出して、白髪の後ろ姿に声をかけた。
見かけるのは3度目だ。
「何してるの?」
「・・・食い物さがしてる。」
鳥の巣頭は振り返る事なく、ボサッとした声で答えた。
(なんだ、ただの子どもじゃない。
誰よ、屍を食う鬼だなんて言ったの。)
ほっと息を吐き出す。
白いそれは冷たい風に乗って消えた。
「今日は節分よ、町にくればいいのに。」
少年は要領を得ないというような顔をして振り返った。
「知らないの?今日が節分だって。」
「・・・てめぇ馬鹿にしてんのか。」
「ええ。損してるわよ。」
「どういうことだよ。」
「今日は『鬼は外、福は内』って煎り大豆を撒いて、厄除けを行うの。
柊鰯も飾るから、ここを漁るよりよっぽど効率よく食べ物が手に入るわ。」
偉そうに言ってから手に抱えていた風呂敷を少し上げて見せる。
「分けてあげる。」
近くの草の上に腰を下ろす。
のそりと横に座る少年の手に、拾い集めた大豆や盗んだ鰯の頭を目一杯持たせてやると、初めて表情が変わった。
「おいこれ」
「鰯の頭は固くて苦いけど食べられないことはないわ。」
おまけに口に鰯を突っ込んでやる。
「町はここより楽よ。他にも孤児もいる。」
「いらねーよ、餓鬼なんかただのお荷物じゃねーか。」
彼は渋い顔をして言った。
「荷物でもほら」
距離を詰めて肩をくっつける。
「温かいのよ。」
驚いた顔がおもしろくて声を上げて笑う。
「明日は立春。寒い冬が終わる。」
「一日で何も変わらねェよ。」
やはりただの馬鹿な子どもだと思う。
「気持ちよ。死にたくないでしょ。」
彼は黙って大豆を口一杯頬張った。
雑節の一つで、各季節の始まりの日(立春・立夏・立秋・立冬)の前日のこと。節分とは「季節を分ける」ことも意味している。江戸時代以降は特に立春(毎年2月4日ごろ)の前日を指す場合が多い。ーーWikipedia
近くで戦があったと噂を聞いて、咲は町から続く一本道を進んでいた。
頻繁に合戦場となるそこに行くのは初めてではない。
戦時中の貧しい町の孤児は盗みだけでは食べていけない時もある。
屍を漁る事もないわけではなかったが、避けたい事ではあった。
だが今日の目的は別だ。
季節は2月。
寒さが身に堪える。
咲の鼻も頬も指先も、真っ赤だ。
着いた合戦場は寒さ故、見た目ほど臭いは酷くない。
降り始めた雪に、空を見上げる。
そして少しだけ勇気を出して、白髪の後ろ姿に声をかけた。
見かけるのは3度目だ。
「何してるの?」
「・・・食い物さがしてる。」
鳥の巣頭は振り返る事なく、ボサッとした声で答えた。
(なんだ、ただの子どもじゃない。
誰よ、屍を食う鬼だなんて言ったの。)
ほっと息を吐き出す。
白いそれは冷たい風に乗って消えた。
「今日は節分よ、町にくればいいのに。」
少年は要領を得ないというような顔をして振り返った。
「知らないの?今日が節分だって。」
「・・・てめぇ馬鹿にしてんのか。」
「ええ。損してるわよ。」
「どういうことだよ。」
「今日は『鬼は外、福は内』って煎り大豆を撒いて、厄除けを行うの。
柊鰯も飾るから、ここを漁るよりよっぽど効率よく食べ物が手に入るわ。」
偉そうに言ってから手に抱えていた風呂敷を少し上げて見せる。
「分けてあげる。」
近くの草の上に腰を下ろす。
のそりと横に座る少年の手に、拾い集めた大豆や盗んだ鰯の頭を目一杯持たせてやると、初めて表情が変わった。
「おいこれ」
「鰯の頭は固くて苦いけど食べられないことはないわ。」
おまけに口に鰯を突っ込んでやる。
「町はここより楽よ。他にも孤児もいる。」
「いらねーよ、餓鬼なんかただのお荷物じゃねーか。」
彼は渋い顔をして言った。
「荷物でもほら」
距離を詰めて肩をくっつける。
「温かいのよ。」
驚いた顔がおもしろくて声を上げて笑う。
「明日は立春。寒い冬が終わる。」
「一日で何も変わらねェよ。」
やはりただの馬鹿な子どもだと思う。
「気持ちよ。死にたくないでしょ。」
彼は黙って大豆を口一杯頬張った。
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