隠れ家
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家の奥へ奥へと進む。
一間には子どもが沢山いて、勉強でもしていたのか、机には本や筆が散らかっている。
その様子に胸を掴まれるような懐かしさ覚え、思わず立ち止まる。
子どもたちの視線は俺に集中した。
「先生、またかぁ。」
誰かが小さく呟く。
机に腰かけた、愛嬌のある顔立ちの少年が視界に入る。
おそらく彼の声だろう。
面倒臭そうな声ではあるが、何か楽しさを予期している声でもあった。
「早く。」
この部屋まで案内してくれた少年に背中を押され、押入れの中へ入り込む。
その押入れの奥の壁が少し空いていて、光が漏れているのが見えた。
「早く!」
その子が焦ったように言うのと同時に、部屋にいた子どもたちが本や筆を投げて遊びはじめた。
慌てて押入れの向こうへと這って進む。
「こら!
何をしているんですか!」
あの男の声がする。
「うっわひでぇな。
だからガキは嫌なんだよ。」
「おいトシ。
いやぁ、元気が良いのは結構なことですな、ははは。」
真選組の連中の会話もかすかに聞こえた。
それを最後に、背後で隠し戸をきっちり締めたのを確認して、痛い足を庇いながら立ち上がる。
そしてあまりの様に目を奪われた。
そこには膨大な書物があったのだ。
今まで見たこともない量だ。
貸本屋とは比べ物にならないほどである。
「ここなら大丈夫ですよ。」
案内してくれた少年が朗らかに告げる。
改めて彼を見下ろす。
少し癖がある柔らかな髪に縁取られた穏やかな顔立ち。
年の頃は十かその辺りだろう。
質素だが袴を着て身なりをきちんと整えている。
「また先生のお人好しか。」
それに対して奥から現れた少年はざんばら髪で、継当てのある着物を着ていた。
目つきは悪く、どこか睨むようにこっちを見てくる様子に、懐かしさを覚える。
彼の手には救急箱があった。
「仕方ないだろ。
先生はそういう人だ。」
彼らの言うことから推測するに、こうして助けられたのは俺だけではないらしい。
長い髪の少年が俺の前に座る。
「足を出してください。
処置します。」
そうは言われても、彼らが傷に毒を塗らないと言う確証はない。
何よりこの家はおかしい。
こんなお尋ね者をあっさりと匿うところといい、こんな隠し部屋があるところといい、寺子屋と言いながら子どもに得体も知れないものの世話をさせるところといい、普通ではないことは明らかだ。
「『人間が生まれつき持っているところの良心の命令、道理上かくせねばならぬという当為当然の道、それはすべて実行する。』」
思考の途中で発された聞き覚えのある言葉に、思わず少年の顔を凝視する。
少年は真剣な眼差しで俺を見上げていた。
「先生の教えです。
僕は目の前で苦しんでいる人を見捨てるような人にはなりたくない。
ましてや弱り切った所で敢えて毒を塗り苦しませるような殺し方は、しない。
ーー絶対にだ。」
彼らのいう先生は、間違いなくあの男だろう。
記憶の中の師によく似たその人が、ここで‘先生’と呼ばれている現実に気持ちが追いついていかない。
この現状を理解し己の中に落とし込むには、余りに時間が足りない。
(まずはこの子を信じるしかない、か。)
俺は真摯な目を向ける少年に足を出した。
「・・・では、頼む。」
一間には子どもが沢山いて、勉強でもしていたのか、机には本や筆が散らかっている。
その様子に胸を掴まれるような懐かしさ覚え、思わず立ち止まる。
子どもたちの視線は俺に集中した。
「先生、またかぁ。」
誰かが小さく呟く。
机に腰かけた、愛嬌のある顔立ちの少年が視界に入る。
おそらく彼の声だろう。
面倒臭そうな声ではあるが、何か楽しさを予期している声でもあった。
「早く。」
この部屋まで案内してくれた少年に背中を押され、押入れの中へ入り込む。
その押入れの奥の壁が少し空いていて、光が漏れているのが見えた。
「早く!」
その子が焦ったように言うのと同時に、部屋にいた子どもたちが本や筆を投げて遊びはじめた。
慌てて押入れの向こうへと這って進む。
「こら!
何をしているんですか!」
あの男の声がする。
「うっわひでぇな。
だからガキは嫌なんだよ。」
「おいトシ。
いやぁ、元気が良いのは結構なことですな、ははは。」
真選組の連中の会話もかすかに聞こえた。
それを最後に、背後で隠し戸をきっちり締めたのを確認して、痛い足を庇いながら立ち上がる。
そしてあまりの様に目を奪われた。
そこには膨大な書物があったのだ。
今まで見たこともない量だ。
貸本屋とは比べ物にならないほどである。
「ここなら大丈夫ですよ。」
案内してくれた少年が朗らかに告げる。
改めて彼を見下ろす。
少し癖がある柔らかな髪に縁取られた穏やかな顔立ち。
年の頃は十かその辺りだろう。
質素だが袴を着て身なりをきちんと整えている。
「また先生のお人好しか。」
それに対して奥から現れた少年はざんばら髪で、継当てのある着物を着ていた。
目つきは悪く、どこか睨むようにこっちを見てくる様子に、懐かしさを覚える。
彼の手には救急箱があった。
「仕方ないだろ。
先生はそういう人だ。」
彼らの言うことから推測するに、こうして助けられたのは俺だけではないらしい。
長い髪の少年が俺の前に座る。
「足を出してください。
処置します。」
そうは言われても、彼らが傷に毒を塗らないと言う確証はない。
何よりこの家はおかしい。
こんなお尋ね者をあっさりと匿うところといい、こんな隠し部屋があるところといい、寺子屋と言いながら子どもに得体も知れないものの世話をさせるところといい、普通ではないことは明らかだ。
「『人間が生まれつき持っているところの良心の命令、道理上かくせねばならぬという当為当然の道、それはすべて実行する。』」
思考の途中で発された聞き覚えのある言葉に、思わず少年の顔を凝視する。
少年は真剣な眼差しで俺を見上げていた。
「先生の教えです。
僕は目の前で苦しんでいる人を見捨てるような人にはなりたくない。
ましてや弱り切った所で敢えて毒を塗り苦しませるような殺し方は、しない。
ーー絶対にだ。」
彼らのいう先生は、間違いなくあの男だろう。
記憶の中の師によく似たその人が、ここで‘先生’と呼ばれている現実に気持ちが追いついていかない。
この現状を理解し己の中に落とし込むには、余りに時間が足りない。
(まずはこの子を信じるしかない、か。)
俺は真摯な目を向ける少年に足を出した。
「・・・では、頼む。」