隠れ家
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追手から逃げるために塀を飛び越えた。
先程足に受けた傷に響き、しゃがみこんで顔を歪める。
気配に顔を上げると男と目が合う。
その姿に、思わず目を見開いた。
ある人にひどく似ていたからだ。
(だが別人だ。
髪の色も瞳の色も、まるで正反対じゃないか。)
それでもなお男の顔から目を離すことができないのは、記憶の中のその人が俺の生き方に多大なる影響を与えたからに違いない。
相手も驚いた顔をしている。
そりゃ突然家の庭に人が降ってきて驚かない方がおかしい。
塀の向こうで騒ぎ声がする。
「クソッ!!
桂が塀の中に入ったぞ!!」
俺と目の前の男は、驚いた顔をしたまま、その声を聞いた。
そして俺は男の顔から目を離せないまま、ゆっくり立ち上がる。
そうしてみると男は記憶の人よりも一回り小さく、また俺よりもまだ小さく、若いようにさえ見える。
相手はつかつかと歩み寄りあっという間に腰の剣を奪い、鞘から抜けないよう手早く紐で括った。
俺は何1つ抵抗できなかった。
男の姿のせいかもしれない。
あまりに淡々とした作業だったからかもしれない。
何せ、剣が奪われたことに気づいた時点で時すでに遅しだ。
ひょっこり縁側から顔を出した子どもが、男に手招きで呼ばれて駆けてきて、俺の剣を持ってまたどこかへ駆けて行く。
男は1つ頷いて、家の方を指差した。
そして俺を穏やかに見つめる。
まるで違う瞳なのに、あの頃に戻ったような温もりを感じるのは何故だろう。
あの頃見上げていた瞳を見下ろしているのに、切ない程の哀愁を感じるのはーー
(なぜだーー)
「御用改めである!」
真選組の罵声が向こうから響く。
目の前の男に従う他なく、俺は頷き、痛む足を叱咤して縁側から屋内に飛び込んだ。
「おい!真選組だ!」
門からの罵声に先ほどの男の声だろう、はい、と答えるのが背中に聞こえた。
落ち着いたその声も、記憶にあるその人に良く似ている。
「いかがなさいましたか。」
「今そこから怪しい者がこの家に飛び込んだのを見た。
屋敷内を確認させろ。」
「いいでしょう。
ですがこちらは寺子屋です。
子どもたちの学舎です。
武器を下ろしなさい。
流血沙汰も御免被りたい。」
先の男が動じることもなく答えている。
だがここまで入ってくるのも時間の問題だろう。
どこに隠れるべきかと辺りを見回していると袖を引かれた。
下を見れば少年が笑顔を向けてくる。
視界の端では少女が床に着いた俺の血を拭き取っていた。
あまりに手際が良い。
「こっち。」
彼の指差す先ではまた別の少年が小さく手招きしている。
あまりに用意が行き届き、また手慣れている。
これが罠でない、確証はない。
だが。
「待ってください、子ども達にはまず私から説明を。」
「待てるか!
急がねばあの桂のことだ!
また逃げられる!」
ドタドタと遠慮なく近づいてくる足音に、1つ頷いて子どもに続いた。
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