斬魄刀異聞過去編
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気配に扉を見れば、京楽が口の端を上げていた。
「怪我の調子はどう?」
入ってきた彼の手には花束が握られている。
「京楽!
……仕事は?」
「休み時間だからさ。
退屈してるんじゃないかと思って」
疲れ掠れた声に顔色も悪いが、ずいぶんと嬉しそうな表情をしてくれるものだ、と思わず京楽も笑顔になった。
「その読みは正しいよ」
照れた顔に目を細め、ふわりとベットに腰かける。
京楽がそうっと咲の頬に手を伸ばす。
頬を滑る大きな手がくすぐったいのか、彼女は小さく笑った。
その表情に眩しそうに目を細める。
「顔に傷でも残ったらと思って心配していたんだけど」
そう言うと咲は照れたように俯いた。
心なしか頬も赤い。
まさか自分の言葉に恥ずかしがっているのかと心の内で喜んだのもつかの間。
「あったんだけど……烈様が」
京楽はなるほど、と頷く。
咲は尊敬する“烈様”のこととなると、まるで恋する乙女だ。
そんな咲はいじらしくて面白い。
ぬか喜びだっただけか、と思わず苦笑する。
「烈様がなんて?」
顔を覗き込むようにして尋ねると、ふいっと顔を背けられてしまった。
どうやら自覚はあるらしいと、思わず声をたてて笑う。
「ば、馬鹿にするなっ」
「馬鹿にするものか。
かわいいと思って笑ったんだ」
「それを馬鹿にすると言うんだ」
更に顔を赤らめて口早に言うのがひどく子供らしい。
「それでなんて?」
「……女の子なのだから顔に傷をつけないようにと。
手ずから治療してくださったんだ」
思い出しているのだろう、そっと頬に手を当ててぼんやりと宙を見ている。
(桜ちゃんも大概のファンだけれど、やはり
咲の方が上だな)
ぽわぽわとした様子が普段には見られないもので珍しい。
いつもこうして呑気にいられたらいいのに、なんて思ってしまう。
だが精霊挺を騒がし始めた新たな事件にそれは難しいだろうと肩を落とす。
彼女にまだ詳細は伏せるように言われており、その指示を京楽と浮竹に出したのは銀嶺と烈であったが、いずれ知るであろうと2人は思っていた。
この事件は速さが勝負であるが、自体は早くも困難を極めている。
「もっと頑張る。
もっと強くなる」
隣にいる少女は頬に当てていた手を、ぐっと握る。
「そうしたら……きっと……」
今は反逆者と呼ばれている上司を思い出しているのだろう。
京楽はそっとその手を包み込むように握った。
「ボクは、君の傍にいるよ。
いつまでも」
その囁くように優しい声に、咲は京楽を見た。
「だから、咲独りで傷を負うことはない。
独りで戦いに行くのも、なしだ」
その言葉に小さくうなずいて、そして彼女も言った。
「京楽も、それから浮竹もだよ。
……ずっとずっと、3人でいよう」
京楽も穏やかに微笑んだ。
部屋の扉がノックされる。
京楽の手は自然と咲から離れ、ベッドから立ち上がる。
「薬の時間です」
入ってきたのは山田だった。
「こんにちは、山田副隊長」
「こんにちは、京楽君」
柔らかい笑顔が両者の間でかわされる。
「じゃ、ボクはこれで」
「うん、ありがとう」
京楽は柔らかく手を振って病室から出ていく。
その背中に、咲のどこか寂しげな視線を受けながら。
「邪魔された気がするのは気のせいでしょうか」
京楽の小さな独りごとは入り口で彼が出るのを待っていた山田の耳に届く。
「さぁ」
小さな返事も、確かに京楽の耳に届いた。
そうっと窓から誰かが入ってくる気配がした。
それが見知ったもので、咲は跳び起きる。
思わず名を呼ぼうとした口を、優しく手が覆った。
「静かにな」
囁かれて、頷く。
口から手が外されて、咲は満面の笑みを見せた。
「浮竹!」
囁くように名を呼べば、月の光の中で浮竹も嬉しそうに目を細める。
「お前の方がベッドに寝ているのも久しぶりだな」
「確かに。
霊術院に通っていたころは浮竹はよく病気で寝ていた」
「ああ。
今じゃお陰さまでこの通りだ」
力こぶなど作って見せるが、その顔も髪も、抜けるように白い。
それでも昔よりもずっと筋肉質になっているし、身長もどんどん伸びている。
「京楽も来たのか」
ベッドサイドに活けられた花に、浮竹はぽつりとつぶやいた。
「うん、昨日」
「明日退院だったか」
「うん」
「遅くなって悪かったな」
ぽん、と頭に手が乗る。
何が遅くなったのかと、咲は首をかしげた。
「見舞いだ。
退屈していただろう」
咲は小さく笑った。
「京楽も同じことを言っていた。
でも二人とも忙しいから」
「お前の見舞いに来れないほど忙しくはないさ」
鳶色の瞳は困ったように微笑む。
その気遣いが温かい。
「これ土産」
咲の手を取り、小さな包みを乗せる。
軽いが包み紙越しに固いものが入っていることは分かった。
「開けてみてくれないか」
促されるままに紐を解く。
中には桜色の金平糖が入っていた。
「桜の花と葉が入っている。
いい香りがして、暇な時にはもってこいさ」
「ありがとう」
浮竹の手がそっと咲の頬に触れた。
「ちゃんと食っているのか」
咲はふいっと顔をそらす。
「うん……」
「嘘が下手だな」
頬を滑った手は咲の髪を耳にかけた。
「食べてご覧、上手いぞ」
ひとつつまんで唇をつつく。
咲は恥ずかしそうに首をすくめてからそっと口を開いた。
ころんと、金平糖が口に落ちる。
優しい香りが抜ける。
粒々の食感を噛み砕けばほろほろりと崩れた。
甘いーー味を感じ、美味しいと思ったのは久しぶりだった。
「……おいしい」
「だろう?」
浮竹は嬉しそうに微笑む。
「退院してからも、しばらくは休みだったな。
俺達も休みが取れそうだから、久しぶりに出かけよう」
わざとらしく明るく話しかけられた言葉に、咲は俯いて返事をしない。
浮竹は小さなため息をつき、そしてその次に発される言葉が分かっていた。
分かっていたが、彼女の言葉を待った。
つぐんだ口が微かに動き、またとまり、そしてまた意を決したように動いた。
「……私、響河殿を探したい」
浮竹はすっと目を伏せた。
掠れた小さな声だった。
でも、多くの覚悟を背負った声だった。
罪人の烙印を押された彼を探すなら、彼を裁くと言うことだ。
既に彼を捕えるのに生死は問われない状況まで来ている。
情がある彼女が彼を追うのは、あまりに酷だ。
「何か……知っていることを教えて欲しい」
咲の手が、すがる様に浮竹の袖を掴む。
「お前には何も言えない」
「なぜ?」
「命令だ。
朽木隊長からの。
それが俺達がここに出入りできる条件なんだ」
咲が握っていた袖を離す。
浮竹は落としていた視線を慌てて上げ、その手を取った。
それから言葉を迷いながらゆっくり紡いだ。
「俺達のような若造ができることなど知れているさ。
だが朽木隊長や副隊長ならば違う。
俺達にできないこともしてくださる。
心配はいらないさ」
咲は俯いたまま、小さくうなずいた。
浮竹はその俯いた頬に手を添えて顔を上に向けさせる。
「お前は、早く元気になるんだ」
泣き出しそうな瞳に、そう言って微笑みかけ!そして優しく髪をすいた。
咲はそっと、肩に凭れる。
彼女が眠りにつくまで、ずっとそうしていた。
「怪我の調子はどう?」
入ってきた彼の手には花束が握られている。
「京楽!
……仕事は?」
「休み時間だからさ。
退屈してるんじゃないかと思って」
疲れ掠れた声に顔色も悪いが、ずいぶんと嬉しそうな表情をしてくれるものだ、と思わず京楽も笑顔になった。
「その読みは正しいよ」
照れた顔に目を細め、ふわりとベットに腰かける。
京楽がそうっと咲の頬に手を伸ばす。
頬を滑る大きな手がくすぐったいのか、彼女は小さく笑った。
その表情に眩しそうに目を細める。
「顔に傷でも残ったらと思って心配していたんだけど」
そう言うと咲は照れたように俯いた。
心なしか頬も赤い。
まさか自分の言葉に恥ずかしがっているのかと心の内で喜んだのもつかの間。
「あったんだけど……烈様が」
京楽はなるほど、と頷く。
咲は尊敬する“烈様”のこととなると、まるで恋する乙女だ。
そんな咲はいじらしくて面白い。
ぬか喜びだっただけか、と思わず苦笑する。
「烈様がなんて?」
顔を覗き込むようにして尋ねると、ふいっと顔を背けられてしまった。
どうやら自覚はあるらしいと、思わず声をたてて笑う。
「ば、馬鹿にするなっ」
「馬鹿にするものか。
かわいいと思って笑ったんだ」
「それを馬鹿にすると言うんだ」
更に顔を赤らめて口早に言うのがひどく子供らしい。
「それでなんて?」
「……女の子なのだから顔に傷をつけないようにと。
手ずから治療してくださったんだ」
思い出しているのだろう、そっと頬に手を当ててぼんやりと宙を見ている。
(桜ちゃんも大概のファンだけれど、やはり
咲の方が上だな)
ぽわぽわとした様子が普段には見られないもので珍しい。
いつもこうして呑気にいられたらいいのに、なんて思ってしまう。
だが精霊挺を騒がし始めた新たな事件にそれは難しいだろうと肩を落とす。
彼女にまだ詳細は伏せるように言われており、その指示を京楽と浮竹に出したのは銀嶺と烈であったが、いずれ知るであろうと2人は思っていた。
この事件は速さが勝負であるが、自体は早くも困難を極めている。
「もっと頑張る。
もっと強くなる」
隣にいる少女は頬に当てていた手を、ぐっと握る。
「そうしたら……きっと……」
今は反逆者と呼ばれている上司を思い出しているのだろう。
京楽はそっとその手を包み込むように握った。
「ボクは、君の傍にいるよ。
いつまでも」
その囁くように優しい声に、咲は京楽を見た。
「だから、咲独りで傷を負うことはない。
独りで戦いに行くのも、なしだ」
その言葉に小さくうなずいて、そして彼女も言った。
「京楽も、それから浮竹もだよ。
……ずっとずっと、3人でいよう」
京楽も穏やかに微笑んだ。
部屋の扉がノックされる。
京楽の手は自然と咲から離れ、ベッドから立ち上がる。
「薬の時間です」
入ってきたのは山田だった。
「こんにちは、山田副隊長」
「こんにちは、京楽君」
柔らかい笑顔が両者の間でかわされる。
「じゃ、ボクはこれで」
「うん、ありがとう」
京楽は柔らかく手を振って病室から出ていく。
その背中に、咲のどこか寂しげな視線を受けながら。
「邪魔された気がするのは気のせいでしょうか」
京楽の小さな独りごとは入り口で彼が出るのを待っていた山田の耳に届く。
「さぁ」
小さな返事も、確かに京楽の耳に届いた。
そうっと窓から誰かが入ってくる気配がした。
それが見知ったもので、咲は跳び起きる。
思わず名を呼ぼうとした口を、優しく手が覆った。
「静かにな」
囁かれて、頷く。
口から手が外されて、咲は満面の笑みを見せた。
「浮竹!」
囁くように名を呼べば、月の光の中で浮竹も嬉しそうに目を細める。
「お前の方がベッドに寝ているのも久しぶりだな」
「確かに。
霊術院に通っていたころは浮竹はよく病気で寝ていた」
「ああ。
今じゃお陰さまでこの通りだ」
力こぶなど作って見せるが、その顔も髪も、抜けるように白い。
それでも昔よりもずっと筋肉質になっているし、身長もどんどん伸びている。
「京楽も来たのか」
ベッドサイドに活けられた花に、浮竹はぽつりとつぶやいた。
「うん、昨日」
「明日退院だったか」
「うん」
「遅くなって悪かったな」
ぽん、と頭に手が乗る。
何が遅くなったのかと、咲は首をかしげた。
「見舞いだ。
退屈していただろう」
咲は小さく笑った。
「京楽も同じことを言っていた。
でも二人とも忙しいから」
「お前の見舞いに来れないほど忙しくはないさ」
鳶色の瞳は困ったように微笑む。
その気遣いが温かい。
「これ土産」
咲の手を取り、小さな包みを乗せる。
軽いが包み紙越しに固いものが入っていることは分かった。
「開けてみてくれないか」
促されるままに紐を解く。
中には桜色の金平糖が入っていた。
「桜の花と葉が入っている。
いい香りがして、暇な時にはもってこいさ」
「ありがとう」
浮竹の手がそっと咲の頬に触れた。
「ちゃんと食っているのか」
咲はふいっと顔をそらす。
「うん……」
「嘘が下手だな」
頬を滑った手は咲の髪を耳にかけた。
「食べてご覧、上手いぞ」
ひとつつまんで唇をつつく。
咲は恥ずかしそうに首をすくめてからそっと口を開いた。
ころんと、金平糖が口に落ちる。
優しい香りが抜ける。
粒々の食感を噛み砕けばほろほろりと崩れた。
甘いーー味を感じ、美味しいと思ったのは久しぶりだった。
「……おいしい」
「だろう?」
浮竹は嬉しそうに微笑む。
「退院してからも、しばらくは休みだったな。
俺達も休みが取れそうだから、久しぶりに出かけよう」
わざとらしく明るく話しかけられた言葉に、咲は俯いて返事をしない。
浮竹は小さなため息をつき、そしてその次に発される言葉が分かっていた。
分かっていたが、彼女の言葉を待った。
つぐんだ口が微かに動き、またとまり、そしてまた意を決したように動いた。
「……私、響河殿を探したい」
浮竹はすっと目を伏せた。
掠れた小さな声だった。
でも、多くの覚悟を背負った声だった。
罪人の烙印を押された彼を探すなら、彼を裁くと言うことだ。
既に彼を捕えるのに生死は問われない状況まで来ている。
情がある彼女が彼を追うのは、あまりに酷だ。
「何か……知っていることを教えて欲しい」
咲の手が、すがる様に浮竹の袖を掴む。
「お前には何も言えない」
「なぜ?」
「命令だ。
朽木隊長からの。
それが俺達がここに出入りできる条件なんだ」
咲が握っていた袖を離す。
浮竹は落としていた視線を慌てて上げ、その手を取った。
それから言葉を迷いながらゆっくり紡いだ。
「俺達のような若造ができることなど知れているさ。
だが朽木隊長や副隊長ならば違う。
俺達にできないこともしてくださる。
心配はいらないさ」
咲は俯いたまま、小さくうなずいた。
浮竹はその俯いた頬に手を添えて顔を上に向けさせる。
「お前は、早く元気になるんだ」
泣き出しそうな瞳に、そう言って微笑みかけ!そして優しく髪をすいた。
咲はそっと、肩に凭れる。
彼女が眠りにつくまで、ずっとそうしていた。
