斬魄刀異聞過去編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「更木生まれの頭でよく機転が利いたと思ったが、やはり違ったようだ。
貴方の策ですカネ、蒼純副隊長。
虫も殺せぬような顔をしていながら、なかなか腹黒い策を練る」
清乃介に負けず劣らず毒舌な後輩の言葉に、蒼純ほたじろぐ様子さえ見せない。
寧ろ冷たい視線で彼を見下ろした。
それは普段のもの柔らかな物腰からは想像できないようなーー次期当主として、そして隊長としての威厳を備えた、冷酷な姿だった。
緊張感が高まる。
「口が過ぎるよ涅!」
良く通る声とともに新たな気配が部屋に入ってきて、涅と蒼純は振り返る。
「……曳舟隊長」
涅がいらだちを込めてその名を呼んだ。
グラマラスな彼女こそ、十二番隊隊長曳舟桐生である。
その後ろから心配そうな顔をのぞかせたもう1人にも、蒼純は頭を下げる。
「卯ノ花隊長、お世話になっております」
その隣で涅は舌打ちをすると、咲から距離を置いた。
烈がベッド脇までやってきて、様子を確認してから曳舟に頷いた。
「食事もそろそろ可能だと思います。
後は本人次第です」
「ありがとう。
山田副隊長、持ってきてくれる?」
ぼうっとした咲の目の前に、清乃介によって熱々の粥が運ばれてきた。
「お食べ」
曳舟の言葉に、咲は緩慢な動作でその粥に目を移すも、動く気配がない。
蒼純は辛そうに目を細め、曳舟の行動を見守る。
曳舟が母親のように咲の目の前で粥を匙にすくって冷まし、口元へ持っていく。
「はい、あーん」
微かにあいた口に流し込む。
「噛みなさい」
言われるがままに噛んで飲み込むと、咲の頬に血の気が戻ってくる。
「はい、頑張って」
再び口元に運ばれたそれを、咲は今度は自分で口を開けて食べた。
「自分で食べれるね」
曳舟に顔をのぞきこまれて、咲は一つ頷き、椀を受け取ってゆっくり食べ始めた。
「朽木隊長に伝えとくれ。
アンタの隊員は素晴らしい働きをしたってね。
ただ……それはこの子にとってきっととてつもなく辛いことだったろう。
詳しくはまた話を聞きにくるよ。
この様子じゃすぐには話はできないだろう」
「分かりました。
ありがとうございます」
蒼純は綺麗にお辞儀をした。
「アンタもあんまり無理するんじゃないよ。
響河 の事は残念だけど、あんたのせいじゃない」
「……はい」
自隊の銀嶺とは全く違う、真っ直ぐで底抜けに明るい曳舟の言葉に、暗い表情の蒼純は、小さく笑って見せた。
それが痛々しい。
食事を終えた咲は健康的な顔になったが、眠そうに目を瞬かせている。
曳舟はそれを確認すると部下に目を向けた。
「帰るよ涅。
勝手にここに来ないこと。
アンタただでさえ濃いんだから、あの子の気が滅入るだろう」
「どういう意味ですカネ、それは!」
「悪かった、邪魔したね。
その子、話せる状態になったら連絡くれるかい?」
「はい、もちろん」
烈に付き添われて横になる咲は、虚ろな目をしていた。
曳舟は軽く卯ノ花に会釈すると涅を連れて部屋から出て行った。
「京楽と浮竹が見舞いに来たがっていますが、いかがいたしましょう」
山田の問いかけに烈は静かに首を振った。
「申し訳ありませんが暫し休養が必要ですので、と伝えてくれますか」
「了解いたしました」
山田は部屋を出た。
卯ノ花はそっと咲の目の上に手をかざした。
「おやすみなさい、咲」
咲はふっと力が抜け、眠りに落ちて行く。
烈は布団を直しながら、後ろに佇む蒼純の気配に口を開いた。
「精神的なショックです。
じきに戻るでしょう」
「……この子は義弟を信頼していました。
彼がこんなことを起こすまで、私は何もできなかったし、止めることもできませんでした。
その上彼女の忠誠心を、優しさを利用した……」
「曳舟隊長もおっしゃっていましたが、いずれも貴方のせいではありません」
「そうであったとしても、彼女を深く傷つけた。
義兄として、上司として、不甲斐なく、申し訳ないと思うのです」
咲の髪を優しく撫でていた烈は彼女から目を離し、蒼純を見つめた。
幼い頃から知る彼は、本当に弱いほどに心優しかった。
身体も弱く入隊もできないのではと囁かれたほどであるが、その賢さと勤勉さ、そして生まれ持った才能が彼を支え、今や副隊長だ。
いつしか朽木家として、副隊長としての立派な仮面を被れるようになっていた。
その仮面はおそらく彼にとって最大の武器であり、同時に最大の苦痛だろうことを烈は理解していた。
そしてその彼が今、折れてはならないことも、そして彼が折れんとしていることも。
「蒼純副隊長、この子は更木で生まれ獣のように育った。
それが人の世に棲家を変え、必死で目標に向かって走って、ようやく優しく強くなり始めたのです。
この子はまだ心が幼い。
誰か、自分が追いかける存在が必要なのです」
蒼純は俯いていて、烈から表情は確認できない。
「今まではそれが響河元三席でした。
もしあなたが申し訳ないと思ってくださるのなら、貴方が新たな目標になってあげてくださいませんか」
蒼純は驚いたように目を見開く。
「強く、優しい上司として、この子を導いてあげて下さい。
この子がいつか在るべき姿を示すように」
穏やかな言葉とその慈愛に満ちた姿に、烈が己を責めていないことは分かっていた。
だが、謝らねば、なにか罪滅ぼしをしなければ、蒼純の心が折れてしまうと、四番隊を率いる彼女は見抜き、だからこそ咲を任せたのだろうと思い至る。
その優しい頼みに、蒼純の頬に涙が伝った。
「……必ずや」
一番隊隊舎では緊急隊首会が開かれ、各隊の隊長、副隊長が集まっていた。
とはいえ、響河が殺害した3人の隊長は当然ながらいない。
2人だけ、本来この場に呼ばれることのない人物がいた。
末席に控える涅と咲だ。
「……つまり、動作実験中だった涅十一席の発信器入りの勝守を響河が持っておると」
総隊長の言葉に曳舟が頷く。
「そのようです。
卯ノ花……って呼びにくいわね。
咲でいいかしら」
ちらりと卯ノ花を見て曳舟は了承を取る。
「説明できる?」
一番近くに立つ曳舟に声をかけられ、咲は立ち上がった。
「はい……私は……」
話し始めてすぐに咲は言葉を詰まらせた。
握りしめられた手は、村正につけられた傷が開いて包帯が血で赤く染まっていた。
いたたまれなくなって、近藤が声をあげる。
「無理に話させなくともいいんじゃないですか?」
「ならん。
お前が何を考え、行動したのかを、自ら話す必要がある。
昨日の夜の状況を、全て話せ。
残らず、嘘偽りなくじゃ」
総隊長の鋭い目が咲を射抜き、その畏れに口の中がカラカラになった。
「……御厚意を無駄にするんじゃないヨ」
咲の隣にいる涅が小さく忠告する。
「お前に掛けられている疑惑を解くために、わざわざこうして隊長格を集めてくださっているノダ」
響河に加担して牢から逃がそうとしたのではないか、という声が真っ先に上がった。
そうでないことを証明するためにも、この場が設けられているのである。
格別の温情を賜った、と言えるだろう。
咲は一つ頷いて、無理に唾を飲み込み、口を開いた。
なんとか絞り出した声は、掠れていた。
「響河殿は無実です。
だからこそ、逃げる必要などありはしません。
ですが高い誇りをお持ちの響河様が、無罪を証明するために死に急がれるのでは、と焦りを覚えました。
ですから、隊長、副隊長の命をうけ、奥方様が送られたと聞いた勝守をお届けし、心を確かに持っていただきたいと、思ったのです。
そしてもし響河殿が何か過ちを犯そうとなさっていたら、もちろん命をかけて留めるつもりでしたが、私の力などしれています。
ですがもし発信機が入った勝守をお渡しできれば……」
咲は震える声でそこまで一気に述べた。
それから俯いた。
「響河殿は追い詰められておいででした。
自ら死を選ぼうと、不思議ではなかった」
血まみれの手を開いてじっと見る。
血が床へと滴った。
「村正殿の手が、格子を砕きました。
そして私に共に来いとおっしゃった。
でも行けないと、行ってはならないと申し上げました。
そして立ちはだかる私を、村正殿が貫いて……あとは記憶はありません。
そしてその時、私が手にしていた勝守を持っていったようです」
それはある意味、無理に発信器を持たせることよりも辛いことだ。
響河にある程度の情があったからこそ、咲の思いを受け取ったからこそ、傷ついた咲の手から自分のだと信じて勝守を持って消えたのだ。
ーーそれが、発信機入りの咲のものと入れ替えられていたと知らずに。
「いいわ」
曳舟がそっとその肩をたたくと、咲は力なく膝をついた。
山田が咲の傍までやってきて傷を治す。
「まだ試作状態だからソウルソサエティ全土に基地局があるわけではないの。
でも、無いよりもよっぽどいいわ。
むしろ今の状態で奇跡に近い」
総隊長は一つうなずいた。
「卯ノ花咲の功績を認めよう。
彼女には現在四十六室から軟禁するよう指示が来ておる。
……それに関しては儂の方で断っておく。
ただし、お主が疑われている立場にあることは、充分に理解しておくよう。
あやつの後を追おうなどという愚かなことは、くれぐれもするではない」
咲は赤く血ぬれた床を視界から消すために目を閉じて、掠れるような声で呟いた。
「……御意」
貴方の策ですカネ、蒼純副隊長。
虫も殺せぬような顔をしていながら、なかなか腹黒い策を練る」
清乃介に負けず劣らず毒舌な後輩の言葉に、蒼純ほたじろぐ様子さえ見せない。
寧ろ冷たい視線で彼を見下ろした。
それは普段のもの柔らかな物腰からは想像できないようなーー次期当主として、そして隊長としての威厳を備えた、冷酷な姿だった。
緊張感が高まる。
「口が過ぎるよ涅!」
良く通る声とともに新たな気配が部屋に入ってきて、涅と蒼純は振り返る。
「……曳舟隊長」
涅がいらだちを込めてその名を呼んだ。
グラマラスな彼女こそ、十二番隊隊長曳舟桐生である。
その後ろから心配そうな顔をのぞかせたもう1人にも、蒼純は頭を下げる。
「卯ノ花隊長、お世話になっております」
その隣で涅は舌打ちをすると、咲から距離を置いた。
烈がベッド脇までやってきて、様子を確認してから曳舟に頷いた。
「食事もそろそろ可能だと思います。
後は本人次第です」
「ありがとう。
山田副隊長、持ってきてくれる?」
ぼうっとした咲の目の前に、清乃介によって熱々の粥が運ばれてきた。
「お食べ」
曳舟の言葉に、咲は緩慢な動作でその粥に目を移すも、動く気配がない。
蒼純は辛そうに目を細め、曳舟の行動を見守る。
曳舟が母親のように咲の目の前で粥を匙にすくって冷まし、口元へ持っていく。
「はい、あーん」
微かにあいた口に流し込む。
「噛みなさい」
言われるがままに噛んで飲み込むと、咲の頬に血の気が戻ってくる。
「はい、頑張って」
再び口元に運ばれたそれを、咲は今度は自分で口を開けて食べた。
「自分で食べれるね」
曳舟に顔をのぞきこまれて、咲は一つ頷き、椀を受け取ってゆっくり食べ始めた。
「朽木隊長に伝えとくれ。
アンタの隊員は素晴らしい働きをしたってね。
ただ……それはこの子にとってきっととてつもなく辛いことだったろう。
詳しくはまた話を聞きにくるよ。
この様子じゃすぐには話はできないだろう」
「分かりました。
ありがとうございます」
蒼純は綺麗にお辞儀をした。
「アンタもあんまり無理するんじゃないよ。
「……はい」
自隊の銀嶺とは全く違う、真っ直ぐで底抜けに明るい曳舟の言葉に、暗い表情の蒼純は、小さく笑って見せた。
それが痛々しい。
食事を終えた咲は健康的な顔になったが、眠そうに目を瞬かせている。
曳舟はそれを確認すると部下に目を向けた。
「帰るよ涅。
勝手にここに来ないこと。
アンタただでさえ濃いんだから、あの子の気が滅入るだろう」
「どういう意味ですカネ、それは!」
「悪かった、邪魔したね。
その子、話せる状態になったら連絡くれるかい?」
「はい、もちろん」
烈に付き添われて横になる咲は、虚ろな目をしていた。
曳舟は軽く卯ノ花に会釈すると涅を連れて部屋から出て行った。
「京楽と浮竹が見舞いに来たがっていますが、いかがいたしましょう」
山田の問いかけに烈は静かに首を振った。
「申し訳ありませんが暫し休養が必要ですので、と伝えてくれますか」
「了解いたしました」
山田は部屋を出た。
卯ノ花はそっと咲の目の上に手をかざした。
「おやすみなさい、咲」
咲はふっと力が抜け、眠りに落ちて行く。
烈は布団を直しながら、後ろに佇む蒼純の気配に口を開いた。
「精神的なショックです。
じきに戻るでしょう」
「……この子は義弟を信頼していました。
彼がこんなことを起こすまで、私は何もできなかったし、止めることもできませんでした。
その上彼女の忠誠心を、優しさを利用した……」
「曳舟隊長もおっしゃっていましたが、いずれも貴方のせいではありません」
「そうであったとしても、彼女を深く傷つけた。
義兄として、上司として、不甲斐なく、申し訳ないと思うのです」
咲の髪を優しく撫でていた烈は彼女から目を離し、蒼純を見つめた。
幼い頃から知る彼は、本当に弱いほどに心優しかった。
身体も弱く入隊もできないのではと囁かれたほどであるが、その賢さと勤勉さ、そして生まれ持った才能が彼を支え、今や副隊長だ。
いつしか朽木家として、副隊長としての立派な仮面を被れるようになっていた。
その仮面はおそらく彼にとって最大の武器であり、同時に最大の苦痛だろうことを烈は理解していた。
そしてその彼が今、折れてはならないことも、そして彼が折れんとしていることも。
「蒼純副隊長、この子は更木で生まれ獣のように育った。
それが人の世に棲家を変え、必死で目標に向かって走って、ようやく優しく強くなり始めたのです。
この子はまだ心が幼い。
誰か、自分が追いかける存在が必要なのです」
蒼純は俯いていて、烈から表情は確認できない。
「今まではそれが響河元三席でした。
もしあなたが申し訳ないと思ってくださるのなら、貴方が新たな目標になってあげてくださいませんか」
蒼純は驚いたように目を見開く。
「強く、優しい上司として、この子を導いてあげて下さい。
この子がいつか在るべき姿を示すように」
穏やかな言葉とその慈愛に満ちた姿に、烈が己を責めていないことは分かっていた。
だが、謝らねば、なにか罪滅ぼしをしなければ、蒼純の心が折れてしまうと、四番隊を率いる彼女は見抜き、だからこそ咲を任せたのだろうと思い至る。
その優しい頼みに、蒼純の頬に涙が伝った。
「……必ずや」
一番隊隊舎では緊急隊首会が開かれ、各隊の隊長、副隊長が集まっていた。
とはいえ、響河が殺害した3人の隊長は当然ながらいない。
2人だけ、本来この場に呼ばれることのない人物がいた。
末席に控える涅と咲だ。
「……つまり、動作実験中だった涅十一席の発信器入りの勝守を響河が持っておると」
総隊長の言葉に曳舟が頷く。
「そのようです。
卯ノ花……って呼びにくいわね。
咲でいいかしら」
ちらりと卯ノ花を見て曳舟は了承を取る。
「説明できる?」
一番近くに立つ曳舟に声をかけられ、咲は立ち上がった。
「はい……私は……」
話し始めてすぐに咲は言葉を詰まらせた。
握りしめられた手は、村正につけられた傷が開いて包帯が血で赤く染まっていた。
いたたまれなくなって、近藤が声をあげる。
「無理に話させなくともいいんじゃないですか?」
「ならん。
お前が何を考え、行動したのかを、自ら話す必要がある。
昨日の夜の状況を、全て話せ。
残らず、嘘偽りなくじゃ」
総隊長の鋭い目が咲を射抜き、その畏れに口の中がカラカラになった。
「……御厚意を無駄にするんじゃないヨ」
咲の隣にいる涅が小さく忠告する。
「お前に掛けられている疑惑を解くために、わざわざこうして隊長格を集めてくださっているノダ」
響河に加担して牢から逃がそうとしたのではないか、という声が真っ先に上がった。
そうでないことを証明するためにも、この場が設けられているのである。
格別の温情を賜った、と言えるだろう。
咲は一つ頷いて、無理に唾を飲み込み、口を開いた。
なんとか絞り出した声は、掠れていた。
「響河殿は無実です。
だからこそ、逃げる必要などありはしません。
ですが高い誇りをお持ちの響河様が、無罪を証明するために死に急がれるのでは、と焦りを覚えました。
ですから、隊長、副隊長の命をうけ、奥方様が送られたと聞いた勝守をお届けし、心を確かに持っていただきたいと、思ったのです。
そしてもし響河殿が何か過ちを犯そうとなさっていたら、もちろん命をかけて留めるつもりでしたが、私の力などしれています。
ですがもし発信機が入った勝守をお渡しできれば……」
咲は震える声でそこまで一気に述べた。
それから俯いた。
「響河殿は追い詰められておいででした。
自ら死を選ぼうと、不思議ではなかった」
血まみれの手を開いてじっと見る。
血が床へと滴った。
「村正殿の手が、格子を砕きました。
そして私に共に来いとおっしゃった。
でも行けないと、行ってはならないと申し上げました。
そして立ちはだかる私を、村正殿が貫いて……あとは記憶はありません。
そしてその時、私が手にしていた勝守を持っていったようです」
それはある意味、無理に発信器を持たせることよりも辛いことだ。
響河にある程度の情があったからこそ、咲の思いを受け取ったからこそ、傷ついた咲の手から自分のだと信じて勝守を持って消えたのだ。
ーーそれが、発信機入りの咲のものと入れ替えられていたと知らずに。
「いいわ」
曳舟がそっとその肩をたたくと、咲は力なく膝をついた。
山田が咲の傍までやってきて傷を治す。
「まだ試作状態だからソウルソサエティ全土に基地局があるわけではないの。
でも、無いよりもよっぽどいいわ。
むしろ今の状態で奇跡に近い」
総隊長は一つうなずいた。
「卯ノ花咲の功績を認めよう。
彼女には現在四十六室から軟禁するよう指示が来ておる。
……それに関しては儂の方で断っておく。
ただし、お主が疑われている立場にあることは、充分に理解しておくよう。
あやつの後を追おうなどという愚かなことは、くれぐれもするではない」
咲は赤く血ぬれた床を視界から消すために目を閉じて、掠れるような声で呟いた。
「……御意」