斬魄刀異聞過去編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
全ての敵が伏した。
敵だけではない。
志波も死んでいた。
これだけ近距離で解放されたのだ。
無理もない。
かなり激しく斬魄刀と戦ったらしい。
その屍は見るも無惨だった。
その血だまりの中で、響河と村正だけが立っていた。
血に濡れることなく、周りにいた数十人を殺した手を、響河は呆然と見つめる。
先に我に返ったのは村正だった。
「……卯ノ花ッ!!」
呼びかけて駆け寄り抱き起こす。
震える手で呼吸を確認すると微かながら息をしているが傷口からは依然として血が流れ続けている。
それを呆然と眺めていた響河は足元に倒れる志波を見下ろした。
「志波……?」
響河が零れるように呼びかけたが、返事をすることはない。
崩れるように膝をつき、彼に震える手を伸ばそうとした時だった。
「動くな!」
響河を制止する声が響く。
視線の先には、勝ち誇った顔をした3人の隊長がいた。
彼らが自分に対して好意的でないことを、響河はよく理解していた。
「これはどういうことだ、朽木響河」
「そこに倒れるのは反乱勢力ではなく、まさに我々統一派遣の者達ではないか」
「貴様まさか反乱にまぎれて仲間を手にかけたのか」
(嵌められた!)
一気に体温が下がる。
背中に冷たい汗が落ちた。
「そのようなわけはないであろう!
奴らが攻撃してきた故、反撃したにすぎん!」
慌てて立ち上がり腕を振る。
志波が、咲が、なぜあれほど自分に逃げるよう叫んだのか、その理由が突き刺さる。
この戦いの刃が自分達に向けられた時点で、彼らはその全てに気づいていたのだ。
動揺した自分は彼らを殺したのに、彼らは最後まで自分を信じ、生かそうとしていたのにーー
そこに見知った気配が駆け付けた。
「一体何事だ」
冷たい声が、鼓膜を打つ。
彼の援軍などいらぬと言った。
だが、咲や志波の忠告に従っていたら、こんな状況にはならなかっただろう。
二人がこうして、冷たくなっていくことも。
「これは銀嶺殿。
ご覧のとおりであります。
朽木家の婿である響河殿が仲間の死神を虐殺したのです」
こんな罠にはまることも。
「本当です。
自らの力を誇示せんがために、突然我々を切り捨て……」
倒れていた隊士が口を開き、ありもしないことを言う。
「下らぬことを言うな!」
思わず声を上げる。
隊長達の嘲笑が憎い。
「捕縛!
即刻朽木響河を捕縛せよ!」
「待て、話を聞いてくれ!」
響河の声は聞き入れられることはない。
(だめだ、これでは本当に終わりだ。
志波も、まだかろうじて息のある卯ノ花も……俺のせいで!!!)
「違うんだ!!本当に俺はやっていない!!!」
蒼ざめながらせめて義父だけでもと、必死に叫んぶ。
「貴様は動くな響河」
頼みの綱の義父こ冷たい瞳が見下ろす。
「義父上……なぜ」
「良いからとどまれ」
全ての感情を押し殺し、震える手で刀を仕舞った。
それと同時に銀嶺を睨んでいた村正も姿を消した。
「咲が……?」
呆然と立ち尽くす京楽の隣から浮竹が駆けだした。
はっとした京楽もそのあとを追いかける。
「ちょっとっ!」
とどめようとした沖田の肩を木之元が抑えた。
「行かせてやれ。
お前だって土方副隊長や近藤隊長が切られたと聞けば駆け付けるだろう。
お前達には上司部下以上のつながりがある。
それと同じだ。
彼らには、同期として以上のつながりがある」
沖田はじっと、二人の背を見送った。
「……この荒れた時代でも、あいつらのつながりはまだ失われていないんだ。
だから、行かせてやれ」
しばらくして、沖田はため息をついて、彼らの行く先を見つめた。
「……気にはしてたんだけどさ、響河のこと」
近くにあった椅子に腰を下ろす。
「ああ。
声掛けても不機嫌そうなばかりだったからな。
忙しいからまたにしようと思っていたが、今思えばあの時、無理にでも飲みに連れて行って、話聞いとけばよかった」
木之元は近くの机に腰をおろした。
「……戻れないのかもね。
こっちのつながりは、さ」
木之元はどんよりとした空を見上げた。
ぽつりと頬を叩く水を、ゆっくりと拭う。
「降ってきたな……雨」
道を、壁を、水が黒く染めていく。
「響河が斬った血も、これで消えるね」
沖田の声が、雨音の中に消えていった。
「主の処罰が決定した。
今後150年にわたる席官の剥奪、そして主の斬魂刀は混乱をもたらす危険因子としてその一切を無力化されることを命じられた」
六番隊地下牢の鉄格子の向こうで淡々と告げる義父に響河は目を見開いた。
「まさか信じておられるのですか?」
「私がそのように考えると思うか?
問題は主の斬魂刀を危険因子とみなす考えが上層部にはあるということだ。
恐れられているのは主ではない。
村正の暴走だ」
「私ではなく村正を?」
予想外の言葉に、響河は理解が追いついていない。
「前に申したな、強き力を扱う者は強き心が必要だと。
主は斬魂刀の力を過信し、自らが正しいと信じ走り続けた。
元柳斉殿もお主の暴走を危惧して直轄部隊の隊長につかせていたのだ」
「私は嵌められたのです」
「違う、お主の過信がこの事態を招いたのだ」
「私は命を狙われたのです!
私に死ねとおっしゃるのですか!」
喰いつく響河に銀嶺は静かに諭す。
「押さえよ。
刑の執行までしばしの時間がある。
忍耐を覚えよ。
それもお主には良いだろう」
「……ひとつ、うかがってもよろしいでしょうか」
「申してみよ」
「志波と卯ノ花は……」
「志波は絶命した。
卯ノ花は傷は深いが生きておる。
ただし、お前をかばったことで容疑は掛けられており、牢につながれるのも時間の問題だろう」
響河は思わず立ち上がり、彼を捕える鎖が派手な音をたてた。
「彼女は、嵌められた私をかばおうとしたまでです!
何の罪もありませんっ!」
走馬灯のように彼女の事が駆け巡る。
可愛い可愛い部下で、愚かなほど真面目な少女だった。
ーじゃあ……俺の命はお前が助けるしかないなー
その言葉に、嬉しそうな顔をして元気に返事をした。
健気な彼女は、その約束を果たそうとしただけなのだ。
「彼女の減刑を望むのであれば、お主もそれなりの行動をせよ。
何度も教えたはずだ。
お前の命は、お前一人のものではないと」
響河は蒼ざめた顔で強く拳を握る。
爪が食い込んで掌から血が流れた。
その手を強く石の床にたたきつけた。
自分に向けられていた視線に気付かぬはずはなかった。
だが銀嶺の言う通り、自分の実力を持ってすれば、この反乱を平定させ実力を認めさえさせれば、全ては終わる事だと思い込んでいた。
妬みも、恨みも、全て実力が組み伏せると信じていた。
だがその思い込みに足元を掬われたのだ。
銀嶺は己の愚かさに打ち震える義息に背を向ける。
仮にも三席まで登り詰めた男だ、無残な姿を晒したかは無いだろうという、彼なりの配慮だった。
「うわぁぁぁぁ!!!!」
やるせない絶叫が、地下牢に木霊した。
