斬魄刀異聞過去編
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今日は新月だ。
灯りのない空には満点の星空が広がる。
ふと、自分の精神世界には星がひとつだけ浮いていたことを思い出す。
ー夜が更ければ星が増える。
……今しか会えぬ者を、愛おしめー
斬魄刀
彼は何を伝えたかったのだろう。
懐に入れた勝守りをそっと取り出して星灯りにかざす。
先日の休みに涅に与えられた発信器は薄型軽量。
木之元三席に比較させてもらった京楽が入っていることに気づかないほどだと話していた。
ちなみに木之本三席は妹の桜にプレゼントされたらしい。
液晶モニタを見れば、近い番号の区画に他の発信器もある。
皆元字塾への帰りだ。
終業時間が一緒だから、帰りは途中で会うだろうと思っていたが、こうして視覚的にわかるようになったのはなんだか嬉しい。
咲は勝守りと液晶モニタを懐に戻し、走り出す。
その瞬間背後から白雷が襲ってきて、身を屈めて走るスピードを上げる。
気配は3人。
咲は高く宙に飛び上がり、あたりを見回す。
下をみると、思った通り挟み撃ちにされるところだった。
正面に2人、控えていたらしい。
頬を叩く風は強く、咲は目を細めた。
右手すぐ近くに光が見えた。
この霊圧は間違いない。
「浮竹」
前にもこんなことがあった、と思いだす。
次は浮竹よりはやや遠いが、それでも熱気が伝わってくる程の距離で火柱が上がる。
「京楽」
重力が身体を引き戻す。
背後から襲い来る赤火砲を空中で振り返り、左手をつきだした。
「破道の三十三 蒼火墜」
きっとこの攻撃で、他の二人も状況を察しただろう。
入隊した時と同じだ。
これはきっと、自分達3人を殺すための、罠。
屋根の上に軽い音を立てて降り立った。
浮竹や京楽のシルエットも、少し離れた屋根の上に確認できる。
「気づいたか野獣。
てめぇのお仲間も同じ袋の鼠だ」
かけられた声に振り返る。
そこにいたのはやはり死覇装に身を包んだ男だった。
せめてこの服だけでも脱いでいてくれたら、と思う。
同じ死神を殺すのは、輪をかけて苦しい。
「だがな、メインはてめぇだぜ。
あいつらは道連れ。
明日の朝には1番隊の屋上にてめぇら3人の首を晒す予定だ」
確かに咲は二人よりも恨まれているだろう。
響河とともに特別隊に所属しており、虚を倒すという仕事はせずに反乱因子の殲滅にあたっているのだから。
「数は前よりも少ねぇ。
だが精鋭だぜ。
おまけに、仲間は助けに来ねぇ」
咲ははっとして駆けだす。
そして気配に足を止めた。
行く手を遮る様に、透明の壁が現れたのだ。
「結界……!!」
大きく飛び上がって一番高い塔の上に降り立つと、他の2人も駆けあがってきた。
「……まずいね」
「ああ」
それだけの会話をすると、3人は互いの背中を守る様に外を向いて立った。
「背中は任せたぞ」
浮竹の言葉に、2人は頷く。
「術者を殺さねぇ限り、解けねぇ結界だ。
こっちも覚悟の上。
分かるな」
放たれた言葉に、3人は答えることはない。
男はすっと目を細めた。
「こっちにも取りたい仇がある。
どっちの勢力が勝とうとどうだっていいんだ。
俺達はお前を殺したい。
それだけだ」
一番厄介な敵だ、と思う。
彼らは自分の命を顧みることはないのだろう。
ただ、咲達を殺すことだけが目的なのだ。
(そうされるだけのことを、私達はしてきた。
そしてまた、血を血で洗うような戦いを続ける)
星が煌めく。
美しく、静かな夜だ。
京楽が刀を抜いた。
「花風紊れて花神啼き 天風紊れて天魔嗤う 花天狂骨」
それに続いて浮竹が刀を抜く。
「波悉く我が盾となれ 雷悉く我が刃となれ 双魚理」
そして咲も静かに抜刀する。
「悲涙流れし 血を啜れ いざ目覚めよ 破涙贄遠」
5本の刀が、鈍く光る。
その周りを15本の刀が取り囲んでいた。
結界の傍に、3人の死神が集まっていた。
中では激しい死闘が繰り広げられている。
「お前のとこのもよくやるな」
木之元が見上げる先では、浮竹が二人の敵の刀をいなし、瞬歩で高い位置に一気に移動して、双蓮蒼火墜を命中させていた。
「そんなこと言ってる場合じゃないよ。
これ、術者を殺さないと解けない結界だよ」
沖田がコツコツと空中を叩くと、そこには確かに固い結界がある。
「どうする。
相手は相討ちになってでも殺す気らしいぞ」
木之元がちらりと響河を見た。
結界を張り、敵とともに入って戦うなど、相討ちの覚悟以外の何物でもない。
響河は眉をひそめて頷いた。
「俺が術者なら結界の中で一緒に戦ったりはしない。
結界の様子が見える場所で、戦いの終わりを待つはずだ。
まずはそいつを倒す」
「じゃあ三人にはそれまで堪えてもらおうか」
さらりと言ってはいるものの、心配なのか沖田は浮竹を見上げている。
「この規模の結界だ。
術者は並みの力ではないぞ。
俺でもこのレベルは難しい」
「鬼道だけなら木之元の上をいくのは隊長格しかいないはずだ」
木之元家は鬼道の才に長けていることで有名なのだ。
中でも木之元桃也は逸材と言われ、鬼道衆への誘いも絶えない。
「去年入ったばかりの新人3人にずいぶんと手をかけてくれる」
沖田は言ってからはっと目を見開いた。
「……これ、まさか陽動?」
響河と木之元もその意見に同意を示す。
「となれば隊長への連絡が先だな。
乗じて別で動いている奴らがいる可能性が高いからには、そっちをまず抑えねば」
「他隊の隊長への連絡は、自隊の隊長指示に従った方が賢明だろう。
誰が裏切り者かわからない」
響河が苦々しげに結界を見上げた。
入って1年目とは思えない戦いぶりの3人は頼もしくも見えるが、どれも自分たちよりも力の劣る部下である。
「死ぬなよ」
3人は各々の隊長の元へと瞬歩で消えた。
「義父上!
反乱因子が卯ノ花、京楽、浮竹を殺そうと罠を張っていた模様。
3人は抵抗していますが、結界に拒まれ助太刀不可能です」
隊首室に飛び込んだ響河の目の前には、銀嶺、蒼純、そして卯ノ花がいた。
卯ノ花がいるとは思っていなかった響河は慌てて頭を下げる。
「失礼いたしました!」
「構いません。
して状況は」
「3人に対して敵は15人です。
結界を張っている術者は結界外にいるのではないかと思われます。
八番隊の木之元三席でも張るのが難しいというような高度な結界ですので、隊長格以上の者が術者ではないかと推測されます」
その報告に3人は顔を見合わせて頷く。
「鬼道衆を抑えるように四楓院隊長に連絡!」
銀嶺の指示に響河は敬礼する。
「はっ!」
そして部屋から駆け出して行った。
「蒼純、お前は1班を率いて術者の位置特定に向かえ!」
「はっ」
蒼純も同じく駆けだす。
「……ついに動きましたか」
卯ノ花の呟きに銀嶺は頷く。
「私は隊舎で待機しますが、山田副隊長を現場に向かわせましょう」
「よろしく頼む」
卯ノ花も隊長羽織をひるがえして部屋から出ていき、残るは銀嶺一人となった。
ふと外が騒がしくなり、隊首室から外に出る。
目の前では隊士が何者かを押し返そうとしているのが見えた。
「如何した」
問えば隊士が眉を寄せて振り返る。
「それが、」
その隊士を押し倒して中から元気よく少年が飛び出した。
歳の頃は、咲と大差はないだろう。
「銀嶺殿!」
「一心、どうした取り乱して」
少年志波一心は銀嶺の足にすがりつくようにしてひれ伏す。
「お頼み申し上げます!
志波家二男、鷹美智(たかみち)が反乱軍と手を組み、志波家の砲台を用いて霊王宮への進軍を画策!
現在朱鷺和(ときかず)が戦っておりますが、劣勢の模様。
援軍をお願い致します!」
切羽詰まった様子に、銀嶺はこれこそが反乱因子の真の目的なのだろうと頷く。
志波家は霊王宮への唯一の交通手段を保有している。
現当主の
三男
二男
子は目の前にいる一心のはずで、今の話と彼が目の前にいることから、この親子は別の道を歩むことを決めたことになる。
「鵲良殿はどうした?」
一心は唇を噛み、俯いた。
「……既にッ」
「相分かった、すぐに援軍を遣わそう。
お前はここに」
「いいえ!」
見上げてくる瞳は決意に燃えている。
「海燕と空鶴、そして
先にお逃げになったのですが、行方が知れません」
強い瞳は、必死だった。
父を敵とし、父が殺そうとしたであろう人を救おうと願う。
「……よかろう」
「お待ちください隊長!
お言葉ですが、見つけ次第お三方を亡きものにと企んでいるやもしれません!」
隊士が後ろから声を上げる。
それもそうだろう。
ここに来ることも全て策の内かもしれないのだ。
「……構わん。
そうなれば志波家もそこまで」
銀嶺の鋭い瞳が一心を射抜く。
当主として朽木家を長年にわたり治めてきたその眼光に、一心は気丈にも怯えることなく真っ直ぐに見つめ返した。
「行け、一心。
お前の望みを、叶えてみせよ」
