斬魄刀異聞過去編
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「たまには実家に帰ったらどうだい、浮竹ぇ」
のんびりとした声に、浮竹は困ったように笑った。
「お前には隠し事できんな。
甘い物でも買って帰るよ」
自分の知らない家族というものを思い描く彼の表情は思いやりに満ちていて、咲は胸が掴まれる思いがした。
彼が大切に思えるものは当然大切にしたいのに、自分が知らないものとなると途端にこんな嫌な感情になる自分に嫌悪感が湧き、俯く。
そんな咲の表情をちらりと見た浮竹。
同じくそれに気づいた京楽と目が合い、微かに頷きあう。
浮竹が彼女の頭にぽんと手を乗せ、彼女ははっと顔を上げる。
「2人もうちに来ないか?」
「そうだねぇ、お邪魔しちゃおうか。
手土産は何がいいかなー」
のんびりと相槌をうつ京楽。
約束ともつかない話をしていることは咲にも分かっていた。
休みでさえ取りずらい自分達に、実家に帰る時間は取りずらい。
命をかける自分達は、ある日突然、この世から消えてしまうかもしれないというのに。
だから、この瞬間だけでも、その淡く楽しい未来に夢をみることが幸せだった。
本殿につく。
三人は皆、長く祈ってから顔をあげた。
願いは同じなのだろう。
何度も何度も、神にしつこく願ってしまう、たった一つの願い。
(生きたいーー共に)
「ま、神様に願う前にボク達が強くなんないとね」
堅い表情を崩すきっかけをくれる京楽に、二人はほっと笑みをこぼした。
お授け所に行くと、色とりどりのお守りが並んでいた。
その袋に描かれた紋は、咲にも見おぼえがある。
確か、響河が持っていた。
隊士に聞かれ、明翠からの贈り物だとはにかんでいたはずだ。
青藍のそれはちょうど隊の色と一致していて、素敵な物だと思ったものだ。
勝守りには朱色と青藍があるが、咲はやはり青藍を手に取る。
お揃いになってしまうのは少し心苦しいが、やはりこの色以外を選ぶ気にはなれない。
自分が貴族ではないせいであれほどまでに虐げられてきているのに、すっかり六番隊に染まっていることがなんだかおかしくて、思わずくすりと笑った。
「効くと……いいな」
「効くわけないダロ。
ただの願掛けダ」
横から聞こえた声に驚いて咲は顔を上げる。
そして隣にいる人を見上げ、その異様な姿に思わず一歩後ずさりした。
それにつられるように他の二人も彼を見、京楽はぎょっとした顔をした。
浮竹は知っている相手のようで、頭を下げる。
「お疲れ様です、涅十一席」
相手はフン、と鼻で笑う。
真っ白の顔、左目の位置に黒い縦筋が走っている。
頭には白い円形の、パラボナアンテナのようなものがまるで後背のようについていた。
巫の服装に身を包んでいるものの、人かどうかも疑いたくなるような、そんな見目である。
その頭に竹ぼうきが小気味好い音を立てて振り下ろされた。
「アダッ!!!」
「こらマユリ、何を言う。
お前もここのお守りを持って入隊試験を受けたくせに」
懐かしい声に、3人は涅の後ろを覗いた。
「佐々木先生!」
「おや、お前達か。
立派になって」
頭を押さえる涅を無視して、霊術院の医務室教諭佐々木は前へ進み出る。
久しぶりのの再会となるが、どうやら変わらず元気な様子。
ただ、彼も見慣れぬ巫姿だ。
「あれはアンタが無理に持たせたからダロ」
「うちのお守りはよく効くから心配いらん」
「うちのって……」
目を瞬かせる元生徒達に、佐々木は一つうなずいた。
「兄が
私は死神になった。
死神を引退してから霊術院の医務室担当になったわけだ。
こいつはこれでも私の甥でね。
十二番隊十一席、涅マユリという。
今日は兄がちょっと用事があって、ピンチヒッターと言ったところだ。
そうだろ?」
嬉しそうに振り返られた涅は、嫌そうな顔をしてふん、とそっぽを向く。
(相当な変わりものと聞いていた涅十一席をこんなふうに扱えるなんて、佐々木先生は死神としてもすごい力をお持ちなのかもしれない……)
浮竹がじっと佐々木を見ていると、彼はその視線に気づいたようで振り返る。
「マユリ、彼らにお守りのご紹介を」
「部下に接客しろというのかッ!?」
「私の元生徒だ。
丁重に扱いなさい」
「これだから手伝いは嫌なんダッ!」
怒鳴りながらもお授け所の巫女の定位置につくが、3人はおっかなびっくりだ。
「どうせ勝守りダロ?」
「は、はい」
戸惑う3人に、何かを思いついたのか、涅は目を細めた。
「オイ、確か試作品がなかったか?」
向こうで掃除をしている佐々木が意外そうに振り返る。
「隊の色ごとのやつかい?」
「ああ、あれをやろう」
「ほぉ、何を企んどる?」
佐々木の視線が鋭くなる。
「発信器の試作機の実験台にしてやるのサ」
言い終わるのとゴツンという音が鳴るのと、どちらが早かっただろうか。
気づけば佐々木は3人のすぐ隣にいて竹箒を肩に担いでおり、涅は販売台の向こうで倒れている。
一瞬だった。
「元生徒だから丁重に扱えと言っただろう」
「なら貴様も私を丁重に扱うんだナ」
コブができた頭を撫でながら涅は呟く。
「もう一発いくか?」
睨まれれば舌打ちだけして、涅はまた定位置に戻った。
「あの、実験とは……?」
尋ねたのは咲だった。
「位置情報を把握するための発信器を試作した。
ちょうどこの勝守りに入る大きさダ。
その性能を調べる実験サ。
被験者になるかネ?」
ぎょろりとした目が嬉しそうに咲に向けられた。
「やめといた方がいい。
なにに利用されるかわからないよ」
京楽が耳打ちするとすぐに涅の視線が鋭くなる。
「聞こえているゾ!」
どなり声に思わず身をすくませるが、瞬く間に販売台の上に器具が用意されて、思わず身を乗り出す。
勝守り大の薄い板と、同サイズの液晶モニタが3セット。
薄い板には壱、弐、参と番号が振られている。
モニタに映された表にも、壱、弐、参と書かれてており、どの項目にも五二三と写しだされている。
「モニタにそれぞれの発信器がどの区にいるか表示されるノダ。
この一帯は五二三区を割り当てている」
佐々木も横目で覗いてその完成度に目を見張った。
「発信器はそれぞれの勝守りに入れといてやる。
なくすんじゃないヨ」
手早く組みひもを解いて中に入れ、また複雑に結んでしまう。
器用なものである。
「すごい……いいんですか?」
「いいとも。
その代りこれは実験ダ。
24時間居場所を把握させてもらう。
イイネ?」
「被験者いなかったんじゃないですか?」
さらりとした京楽の言葉に、涅は手を止める。
「そうとも。
貴族はなんとも使えない。
居場所を知られたところで、大したこともなかろうに。
私は性能を知ることだけに興味があるのに、プライベートがなんだと騒ぐ。
馬鹿じゃないのカ、いや、馬鹿ダネ。
科学技術の発展に1ミリたりとも寄与するつもりはないらしい」
涅は中に発信器を加えた勝守りと液晶モニタを包装し、3人に渡した。
「どのくらい役に立つか、見物ダネ」
ぎょろりとした目に射竦められ、咲は身体を固くした。
