斬魄刀異聞過去編
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「さーて、次は買物といくか」
店を出ると京楽がぐーん、と伸びをした。
「買い物に行く暇もないなんて……はぁ」
そしてがくりとうなだれるから、浮竹と咲は顔を見合せて笑った。
「確かに……サボり魔のお前にしたらよく毎日頑張ってるよな」
確かに学院時代、二人に比べたら京楽は遊んでいることも多かった。
女の子と出かけているのをよく見かけたものだ。
それが入隊してからはほとんどない。
それほど忙しいし、殺伐とした日々で、余裕がないのだ。
生き残るために鍛錬鍛錬、また鍛錬である。
(二人とも、ずいぶん大人びたな)
ふっと学院時代を思い出す。
たった一年のはずなのに、二人の様子はずいぶん変わった、と思う。
身長が伸びたせいもあるだろう。
たくさんのことを経験したせいでもあるだろう。
不思議と男らしくなったようにも思えて、そして自分だけぽつりと取り残されたように感じる時がある。
浮竹が顔にかかる髪を耳にかけた。
色白だが骨ばった大きな手の所作は優しく、不思議と品を感じる。
「俺は紙と墨を買いたい。
京楽は?」
「ボクも墨が無くなってきてね。
あと、髪紐もほしいんだ。
二人もじゃない?」
京楽も浮竹も、そして咲の髪も、いつの間にか肩よりも長い。
髪をうっとおしげに後ろに流しながら、咲は頷いた。
「最近伸びてきて邪魔なんだ。
切ろうかと思ったんだけど」
「却下だ」
「ダメだよ」
即二人声をそろえて断られ、咲は目を瞬かせる。
「ほら、執務には邪魔かもしれないけど、今日みたいなお出かけの日には髪を結いたいじゃない?
というか、結おうよ、せっかくだから」
「そうだぞ。
せっかく綺麗な髪をしているんだから、着飾るときに着飾らないと」
ふわりと浮竹が髪に触れる。
その手のぬくもりが髪を伝わってくるような気がした。
「でも本業は」
「だめだって。
卯ノ花隊長だって、君が綺麗な格好をしているときっと喜ぶよ。
君にこんな素敵な着物を送るくらいなんだから。
才色兼備を目指さなきゃ」
確かに烈は咲のためにと、年に何度か着物や帯を贈ってくれる。
それは烈自身が昔使っていたものであったり、気に入った反物で新しく仕立てたものであったり。
どれも思わず手にとり微笑んでしまうような美しいものだ。
最近では減ったが、朽木家にお邪魔しても何ら遜色ない品ばかりである。
「なんかすごくハードル上げてない?」
「卯ノ花家のお嬢様なんだから当然。
ほら、卯ノ花隊長だって髪長いだろう?
烈様目指すんだろう?」
何やら話しが無理やりこじつけられている気がするが、二人の気迫に押されてしまう。
「……う、うん」
「じゃあ決まりだな」
二人に流されるような形で、商店街の髪飾りを扱う店に入る。
こじんまりとした店だが2人とも知っている店のようだ。
狭い店内の通路、両側に所狭しと並ぶ花や簪の間を進む、すくりと伸びた美しい2人の背中を追いかける。
「いろいろあるねぇ」
「執務中にも使おうと思うと、あまり飾りは付いていない方がいいな」
「髪は真っ黒だから、明るい色の方が映えるんじゃないかい?」
「ちょっと、二人のも見ようよ」
「順番だ」
ふわりとぬくもりが頭に触れる。
(京楽だ)
思わず首を竦める。
手の感触からそれがわかるのも、長い付き合いになるからだろうか。
むずむずとくすぐったい。
「いい色だな。
空色か」
「そっちのも当ててみてよ」
今度は浮竹の手が触れた。
「うん、梔子色もいいねぇ」
咲の視界にちらりと赤が映り込む。
「……これ、」
それを手に取り振り返ると、くるりと振り返り、そっと浮竹の髪に当てる。
「お、なかなかいいねぇ」
京楽がふむ、と頷く。
「どれだ?」
むずむずと動く浮竹に見せる。
「君の双魚理と同じ色さ」
鮮やかな朱色に思わず浮竹の頬が緩む。
「京楽にはこれなんかどうだ?」
浮竹の手がふわりと咲の隣を通り過ぎて、壁にかかった露草色を手に取る。
「あ、髪の色に合いそう」
「そうかい?」
京楽はふふふ、と嬉しそうに笑った。
「なら咲には、これはどうかな」
京楽が屈んで手に撮ったのは、瑠璃色の髪紐だ。
一筋紫の糸が入っている。
一目見て咲はそれが気に入った。
3人で順に会計を済ませ、店を出ようとする咲に浮竹が待ったをかけた。
「すみません、鏡を借りてもいいですか?」
店員に確認をとってから、咲を鏡の前に招きよせる。
ぽん、と頭に大きな手が乗った。
「前向いて、じっとしてるんだぞ」
咲はよくわからぬままにこくりと頷いて、鏡を覗く。
その咲の髪を浮竹の手が優しく梳く。
なんだか恥ずかしくなって、鏡の中の咲はほんのり頬が赤らんだ。
綺麗な指先が前の方の髪を耳にかける。
耳たぶに触れるそのぬくもりが、何ともいえず心地よい。
伏せ目になって、口に髪紐を加えながら咲の髪を編む姿。
やや傾げられた首。
頬にかかる白い髪がふわりと風に揺れる。
普段の剣や筆を持つ姿とは違う、どこか女性的にも見える優しい手つきなのに、どことなく色気がある様に見えるのが不思議だ。
見られていることに気付いたのか、浮竹が視線をあげてそっと微笑む。
なんだか気まずくて、咲はつっと視線を落とした。
「浮竹、これを」
京楽の声に鏡を見ると、何やら明るい色が通り過ぎたように見えた。
「いい色じゃないか」
鏡の奥で二人が笑う。
「どうぞ」
店員さんが笑顔で浮竹に手鏡を渡し、合わせ鏡にして頭の後ろを見えるようにしてくれる。
「あ……」
左右の髪を三つ編みにし、それを藍色の髪紐で蝶蝶結びにまとめていた。
その中央に小さな風車が。
黒い髪に瑠璃の髪紐と一筋の紫、そして紅の風車。
「さぁ、行こうか」
自然と笑顔になる咲を、京楽が誘う。
いつの間にか彼も買ったばかりの露草色の髪紐で髪をまとめていた。
振り返れば笑顔を向ける浮竹も、朱色の髪紐でまとめている。
なんだかそれが嬉しくて、咲は小さく笑った。
いつも暗い殺伐とした世界にいた気がしていた。
それが当たり前だった。
なのに、今日は妙に世界が明るく見えた。
文房具も買った3人が最後に向かったのは、神社だった。
伊勢家の治める神宮を本社としているこの神社は、護廷から最も近い神社だ。
「ここのお守り、評判なんだよ」
「うちの先輩も持ってる人多いな」
鳥居をくぐろうとした時、浮竹の腹のあたりに子どもが盛大にぶつかり、彼はそれを咄嗟に受け止めた。
さすが弟妹が多いだけある、と二人は感心する。
「大丈夫かい?」
そっと離して、視線を合わせれば、活発そうな男の子が目を瞬かせていた。
それからにっと笑う。
「うん!」
浮竹も目を細めて頭を優しくなでた。
「よし」
後ろから女の子が一生懸命駆けてくる。
「おにい、ちゃん!」
どうやら男の子の妹らしい。
二人ともよく似た顔をしていて、特に目元がそっくりだ。
長い下まつげが可愛らしい。
どこかで見覚えがあるな、と咲は思う。
その子は京楽を見ると目を輝かせた。
「あ、春水、さ、ん!」
小さな体で一生懸命走ったせいか、息が切れていた。
「こんにちは、空鶴ちゃん。
慌てなくていいからね。
海燕くんもこんにちは」
京楽の言葉に、空鶴は恥ずかしいのか頬を染めて頷いた。
「こんにちは!」
海燕の方は元気に笑って挨拶をした。
「志波家のお子さんだよ」
京楽は浮竹と咲を振り返って言う。
自分の隊にいる志波はまだ結婚もしていないから、彼の子どもではないだろう、と咲は思う。
たしか彼は三男だったはずだから、兄の子どもなのかもしれない。
「神社にお参りかい?」
浮竹の問いかけに、海燕は元気にうなずく。
「今度弟が生まれるんだ!
だから、安産のお守り!」
嬉しくて仕方がないのだろう。
自慢げに胸を張る。
「妹かもしれないよ」
空鶴が京楽の影から兄に抗議の目を向ける。
「弟だ!」
怒鳴られるとくるっと逃げるように京楽の足に抱きついた。
どうやら彼のことが大好きらしい。
でもふと、咲は疑問を抱く。
「……そのお守りはどこに?」
問いかけられて海燕が目を見開く。
「お兄ちゃん、持ってたよね?」
「……落とした」
「えっ!?」
真っ青になる二人に、3人は苦笑を浮かべる。
「大丈夫さ。
お守りを売っているところまでの間にきっと落ちている」
「一心さんの合格祈願のお守りも買ったのに……落としたの?」
空鶴の恨めしい目を受け、兄は視線をさまよわせた。
「まぁ……彼なら気にしないさ」
京楽に励まされて2人はきょろきょろとお守りを探す。
「一心君はボクらの後輩なんだよ。
志波一心」
「いつも遊んでいるから、伯父さんもいつも怒ってるんだ。
だから、お守りあげたらちゃんと勉強するかなと思って」
「きっと神様が見張ってくれるよ!」
どこか使命感に燃える小さな二人に、京楽と浮竹は顔を見合わせて苦笑を浮かべる。
「こんな小さい子に心配されるって、あいつらしいかもな」
「まぁ優秀だから心配はいらないだろう」
小さな歩幅に合わせてあたりをきょろきょろと見回しながら歩いていると。
「あ、あった!」
道の端に小さな袋が落ちている。
海燕はほっとした顔をして駆けだしてそれを拾う。
「もう落とさないようにな」
浮竹が笑顔を向ける。
「うん、ありがと!
ええっと、」
「俺は浮竹だ。
こっちは咲」
「浮竹さん!
咲さん!」
「またね、春水さん!」
二人は手を振りながら元気に駆けていった。
