斬魄刀異聞過去編
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「ルールは簡単だ。
順に倒していけ。
鬼道は駄目だ。
てめぇが勝てた席までくれてやる」
道場の真ん中で、咲は投げられた木刀を咄嗟に掴んだ。
「そうだな、てめぇからだ」
顎でしゃくられた男が立ち上がり、咲の前に出て木刀を構える。
「え、あの」
「ざけんな!
てめぇみたいな小娘なんざ返り討ちだ!」
咲がこの対戦の目的を理解する前に、相手は襲いかかってくる。
「彼女は六番隊の隊士です。
そんな勝手に」
「それが十一番隊の流儀だ」
浮竹が問いかけてもだみ声の鮫島にあっさり返されるだけだった。
一人目はあっという間に咲の勝利で終わった。
「次、てめぇだ」
顎でしゃくられた別の男が出てくる。
こちらもあっという間。
「すごい、本当に無席なんですか?」
沢田が尋ねる。
「はい」
浮竹が小さく答えた。
「どうして……」
「彼女が卯ノ花家に養子になったとはいえ、更木出身だから、ですよ」
京楽の言葉に、沢田と蘭慕は目を見開く。
「まさか、卯ノ花隊長の
「はい」
浮竹と京楽は話しながらもじっと試合の行方を見守る。
その様子に沢田は小さく微笑んだ。
「なるほど、では隊長がおっしゃっていた
「次!!!
負けた奴らはカッ捌く!!!」
隊長である十勝の罵声に隊士たちは慄きながらも精一杯刀を振るう。
それでも咲はばったばったと倒していった。
十人近く倒せば、敵はかなり強くなった。
志波程度の実力はあるから、席は十番台前半だろうことが予想される。
だが敵が強ければ強いほど、強くなるのが咲の特性だ。
その上荒くれ者相手となれば、更木での感が冴えわたる。
理性的な相手よりも、よっぽど慣れている。
しかしその分、剣と白打だけだと体力の消費も大きい。
14人目の相手で、咲は一本取られ、勢いよく地面に転がった。
腹に勢いよく入ったせいで、激しく咽る咲に、沢田と蘭慕が駆け寄る。
「うちの隊じゃ八席だな。
それでよく席無しで働くぜ」
それを尻目に、十勝は鼻で笑った。
ちらりと七席を見やる。
呼吸も荒く、咲とかなりギリギリの戦いをしていたことを窺わせる。
始めからこの男と戦っていたら、咲が勝っていた可能性は高い。
十一番隊は基本的に他の隊よりも腕の立つものが多い。
単純に言えば、他の隊では七席以上の戦闘の腕を持つことになる。
「いいぜ、八席くれてやる。
ついでに書類仕事も免除だ。
とにかく強くなることだけを考えろ」
唐突なことに咲だけでなく、浮竹と京楽も、そして四番隊の二人も目を瞬かせる。
十勝と鮫島はと言えば、無席だったものが八席の昇進を許されたのだから当然受け入れるものとして、手続きと異動後の班編成などの話を進めている。
(私が、八席……)
十勝は純粋に咲の戦闘能力だけを見て席を決めた。
家柄なんて関係ない。
その姿には胸が高鳴るほどの高揚を覚える。
だが思い出したのは、朽木家に泊まった夜、咲に響河のことを頼んだ銀嶺の優しい顔。
ー……頼むぞー
高揚していた気持ちが一瞬で落ち着いた。
冷静を取り戻し、赤らんだいた頬も白く戻り始めた。
閉ざした心から目覚め復帰した時、大きな手がくしゃりと頭を撫でた時のことを思い出す。
ー……よく戻ったー
その言葉に真心を感じた。
彼こそこの護廷で自分を初めて純粋に見つめてくれた人で、自分を必要としてくれた人だ。
そして今、誰よりも一緒に戦おうとしてくれている、誰よりも尊敬し、敬愛する上司だった。
「待ってください」
ざわめきを沈めたのは咲の声だった。
「私は異動しません!」
十勝の紅い目が怒りに燃えた。
咲が一瞬身を低くした上を竹刀が飛んでいき、壁に当たって折れた。
「てめぇは俺がもらうと決めた。
反論は許さねぇ」
「私は銀嶺隊長に誓いました。
今の上司の下で、精一杯働きたく存じます」
「っざけんな!!!
これだけの好待遇してやってんだぞ!!
俺の命令がきけねぇのかッ!!!」
突然きらめいた銀に、咲は咄嗟に身をひるがえした。
空中に木刀がふわりと浮いて残り、地面に落ちた時には二つに割れていた。
跳び下がりながら咲も抜刀する。
「お待ちください十勝隊長!!!」
「鮫島副隊長!!!」
浮竹と京楽が叫ぶ。
「ありゃ俺でも止められねぇぞぉぉぉ。
ったく、また隊舎が壊れる」
溜息をつく鮫島。
そうこうしているうちに鍛錬場内の破壊は着々と進んでいる。
柱は一瞬で砕け、壁には大穴があく。
十一番隊の隊士たちも、ば蜘蛛の子を散らしたように鍛錬場から逃げ出した。
咲はなんとかかわしているようだが、それも限界が近い。
なにせここまでで15人と戦ってきたのだ。
体力も限界に近い。
「お願いします、どうか咲を!!!」
「あいつの機嫌を損ねるんじゃねぇぞぉぉぉ!!
始末に負えねぇ!
とりあえず異動の話を呑めぇぇ!」
鮫島が抜刀した時だ。
「やめんか、十勝ッ!!」
「縛道の六十一 六杖光牢ッ!!!」
激しい土煙りが上がり、壁が大きく破壊されていた。
咲の姿は見えないが、霊圧は確かにそこにあった。
その穴の前で六杖光牢に動きを封じられた十勝がうっとおしそうに術者達を振り返る。
「……クソジジィ」
京楽と浮竹もその視線の先を見て安堵のため息をついた。
「銀嶺隊長」
彼の後ろには、響河が厳しい顔をしながら左手をつきだしていて、六杖光牢を発したのは彼だとわかる。
さらにその後ろ息を切らせた沢田がほっとした顔で笑っていた。
どうやら彼が呼んできてくれたらしい。
十勝にこれ以上咲に危害を加える様子が無いと判断したのか、術が解かれ、十勝は刀を肩に担ぎ、銀嶺を見据えた。
「あれは俺がもらう」
「私の部下だ」
「てめぇらはこいつを犬死にさせる気だろ」
その言葉に響河の顔が暗くなる。
「能力に応じた名誉を与えず、報酬も与えず、自由も与えず、才能も活かしきれず、蔑みを放置し、これじゃあ飼い殺しだ。
俺ならあいつをもっと強くできる。
うちじゃあれは八席」
「私は、異動しませんッ!」
壊れた壁の向こうから、瓦礫を跳ね飛ばして咲が起き上がった。
ほこりまみれで傷だらけだが、潤んだ強い瞳は十勝を睨んでいるようにさえ見え、遠くからでも吸い込まれそうな力を発した。
「私は響河殿にお仕えすると誓いました!
それを違えるつもりはございません!」
「卯ノ花……」
響河が小さく名を呟く。
銀嶺が微かに目を細め、鋭い声で言った。
「帰るぞ」
「はいっ!」
咲は瓦礫の中から駆け出す。
十勝の隣まで来ると、深く頭を下げた。
「身に余るお言葉、ありがとうございます。
ですが私は六番隊で精一杯務めを果たしたいのです」
ぎろりと赤い目が咲の脳天を見下ろしていた。
「……去れカス。
興醒めだ」
悪態に咲は頭をあげ、照れたように笑うともう一度会釈をし、駆けだした。
浮竹と京楽にほこりまみれだと笑われ、慌てて身体を叩く。
その様子に背を向けた銀嶺が、まだ3人をぼうっと見つめる響河の傍まで来て言い聞かせる。
「強くあれ響河。
己を過信することなく、主の力を使いこなせるだけ心を強くあれ。
忘れるな、主はもうーー独りではない」
その言葉に思わず振り返った先には、銀嶺の背中が見えた。
普段無表情で無口で何を考えているのか全く読めない彼は、いつまでも自分にとって目指すべき孤高の上司で、だからこそ近づくことなどできなかった。
義父になろうとそれは変わらなかった。
褒められた事は当然無く、口をひらけばいつも叱責ばかりで、自分の事を認めていないのだろうと思っていた。
どうすべきなのかの指針も見えず、明翠への愛故に進んだ朽木家時期当主の道があまりに険しく、自分には向いていないと思うばかりで、足元がぐらつくばかりだった。
自分の力が特異である事もわかる。
だから孤独戦いを選べば、銀嶺は叱責した。
どうすればいいかわからない、先の見えない孤独ーー本当は孤独など苦手なのに。
崩れ落ちそうな自分を救ったのは、小さな少女だ。
そして今、彼女を通して初めて銀嶺の言葉が理解できた。
「お手数をおかけして申し訳ありません!
隊長!響河殿!」
再び呼ばれて振り返る。
まだ頬を汚したままの咲が、いつも通り己を見上げていた。
だから、響河もいつも通り勝気に笑って、その頬を拭ってやる。
「帰るぞ」
「はいっ!
じゃあまたあとで!」
咲は浮竹と京楽に手を振る。
二人は笑みを浮かべて、響河もいるからだろう、頭を下げた。
原田や木之元から、咲が昏睡状態の時の二人の様子は聞いていた。
会えば責められるかと覚悟はしていたが、彼らも決して、響河を責める目で見たりはしなかった。
(独りではない、か)
そう言ってくれた義父も、気遣ってくれる兄も、妻も、そして部下も。
(強くならねばならんな)
人目につかないところまで来ると、たまらず隣の小さな頭を思いっきりかいぐってやった。
「わっ、響河殿ぉっ」
慌てる少女が可愛らしい。
(十一番隊隊で八席の実力か。
十勝隊長のおっしゃることはもっともだ。
せめて俺とともに前線を駆けるだけの肩書を与えてやらねばなるまい)
村正に触れると、それに呼応するように、カチャリと鳴った。
