斬魄刀異聞過去編
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咲は非番だった蒼純に急ぎの書類を届けに来た。
正装に身を包んだ彼が帰ってきたところにちょうど咲が来た形となった。
たまたま出迎えた明翠が少しだけ寄って行ってくれてとせがまれ、お邪魔させてもらうことになり、現在に至る。
入院していた上、連日鍛錬に明け暮れている咲。
例えその場所が朽木家の道場をであっても他言することは許されないため明翠に挨拶するわけにもいかず、結局会えずじまいだったのだ。
蒼純が服を着替えて書類を確認する間、朽木家の温められた部屋で、咲は明翠とお茶を啜りながら積もる話に花を咲かせていた。
外は凍えるほど寒い。
真赤になっていた咲の鼻も、ようやく肌色に戻った。
「心配したんですから」
囁くように言われ、驚いて湯呑から手を滑らせかけた。
入院していることは伏せていると、蒼純から聞かされていたからだ。
「父上も兄上も、響河様も何も教えてくださらなかったけれど、様子がおかしかったんですもの。
お約束の時間になっても貴方は来られないし。
卯ノ花家に心配になって聞けば、急に現世任務でしばらく帰ってこないと言われました。
響河様にうかがってみてもなんだか妙に沈んでらして。
それで
それで月雫が明翠の代わりに見舞いに来たという話になっていたのか、と納得する。
「響河様のこと……恐いですか?」
明翠がぽつりと問いかけた。
「貴方が目を覚ましてから、響河様が教えてくださったんです。
あの方が、貴方を傷つけたと……ただその一言だけでしたけれど」
その言葉に、咲は目を見開く。
咲にとって、彼に傷つけられたという考えはない。
生きるためにその選択をしたのは響河だけではなく、咲自身もだったからだ。
(響河、殿……)
いつも勝気に笑う彼が、そんなことを言うなんて思いもしなかった。
そしてそんな彼の様子に、明翠が心を痛めているように見えた。
咲は静かに首を振る。
「恐ろしくなど有りません。
響河殿が斬魄刀を解放してくださらねば、今ここに私もおりません。
命の恩人です」
そう言えば辛そうに彼女は笑った。
「ありがとうございます」
儚いその様子に、咲はぐっと拳を握った。
(明翠様にこんな顔など、二度とさせない)
「明翠様が悲しまれないよう、私がもっと強くなって、響河殿のお役にたちます」
そう言えば驚いた顔をして首を振った。
「いけません、ご無理は!」
「無理など。
私は響河殿にもう何度も命を救っていただいたのですから」
「そんな危ない目に何度もあっているのですか?」
予想外のところに注目されてしまい、咲は戸惑う。
もちろんそうだが、その数だけ命を救われているのだ。
(私はは恵まれている)
疎まれ、蔑まれる立場にいながら、たくさんの人にこうして目をかけてもらえる。
それが奇跡的なことであることくらい、咲にも分かっていた。
自分が昔のように孤独ではなく、それがくすぐったくて、勇気が湧いてくる。
咲は自然と笑顔を浮かべた。
その嬉しそうな顔に明翠は呆気にとられ、釣られたようにくすりと笑った。
「そのくらいにしなさい」
部屋に入ってきた蒼純がなだめ、上座に坐した。
咲は湯呑を置いて平伏し、蒼純は頭をあげなさい、と優しく言う。
そんな様子に頬を膨らませた明翠が待てない、と言わんばかりに声を上げる。
「兄上!
ですがこんな小さな咲さんを何度も命の危機に遭わせるなんて」
「卯ノ花は死なない。
だろう?」
蒼純は優しく目を細めて、咲を見た。
それは副隊長の顔だ。
厳しい銀嶺の対極のようにさえ見える、優しい笑顔。
この二人による絶妙なバランスの下、六番隊は清く正しく美しく機能するのだ。
「もちろんです。
響河殿に救われた命、決して無駄には致しません」
その強い瞳に、明翠は口をつぐんだ。
自分よりも幼く見えるこの少女でさえ、死神としての誇りを背負い、強い信念のもと刀を振るうことを感じたからだ。
(だからこそ、この子も命を捨ててでも守ろうとするのでしょう。
響河様と、同じく)
その事実に、胸が痛む。
蒼純はそんな妹に目を細め、書類を咲に差し出した。
「書類はこれを。
一番隊に持って行ってくれ」
「了解いたしました」
咲は書類を受け取り、平伏する。
「それでは副隊長、明翠様、休日にお邪魔いたしました」
挨拶をして帰ろうとする咲に、明翠は何かを思いついたように兄を振り返った。
「兄上、咲さんにもお伝えしましょうよ」
「そうだね、せっかくだから」
蒼純が柔らかく微笑んで頷く。
その顔は見たことがないほど、嬉しそうだ。
伝染してきて咲まで嬉しくなってしまうほど。
「実は結婚するんだ。
今日はその準備のために休んだ。
世話をかけたね」
咲は目がこぼれるほど見開いた。
「お、おめでとうございますっ!」
その表情がおかしかったのか、二人はくすくすと笑う。
「ありがとう。
お前も知っているだろう。
相手は霞大路月雫だ」
ブロンズの髪をした美しい死神を思い出す。
「お……お似合い、です」
二人が並んでいるところを想像しただけで、なんと綺麗な絵になるだろうと#咲は頬を染めた。
きっと子どもも、相当な美人に生まれるだろう。
そして2人の素晴らしい才能を継ぐに違いない。
「まったく。
ようやくといった感じですわ。」
明翠が笑う。
「ああ、ようやくといった感じだ。
私はもともと身体が弱いから。
妻を娶っても苦しい思いをさせるかも知れなくて、なかなか踏み出せなかったのだよ」
「兄さまったら。
それで月雫さんがずっと待っていらっしゃるのも不憫ですわ」
「それもそうだな……というか、そう押し切られてしまった」
なんと平和なのだろう、と思う。
まだまだ反乱は収まらぬが、そこだけほっこりと幸せが満ちている。
きっと素敵な結婚式になるのだろう。
咲には想像もつかないような、煌びやかで美しい式だろう。
そのお土産話を聞くのが、今から楽しみになった。
「似た者同士?
村正殿がそう言っていたの?」
京楽が目を瞬かせる。
元字塾への帰り道、みたらし団子を購入。
それぞれ口をもぐもぐさせながら歩いている。
3人そろっての帰宅は久しぶりで、寒い帰り道もなんだか楽しく感じる。
咲が心を閉ざして戦う訓練を受けることになったことは、極秘事項であり、二人にも伝えることはできない。
単にこの前の功績が認められて咲に響河が直々に鍛錬をするようになった、とだけ伝えていた。
二人に秘密を抱えるのは心苦しく思いながらも、護挺のためであれば理解してくれるはずだと咲は自分に言い聞かせる。
「斬魂刀は魂の片割れだ。
村正殿がおっしゃるのならば、きっと本質的なところで何かが似ているんだろう。
タイプが似ているなら得意分野も伸ばしやすいし、苦手分野の理解も深まる。
いい上司にあたったな」
浮竹がやわらかく微笑んだ。
「ありがとう。
沖田三席と浮竹も似ているところがあると思うよ」
咲の言葉に、浮竹は目を瞬かせる。
「たとえば?」
京楽も意外だったようで言葉の先を促した。
「任務とかには関係ないけど……子どもの扱いがうまいところとか」
「え?
確かに浮竹はうまいけど」
京楽が意外そうに言った。
「最近うちの隊にときどき四楓院家の夜一様が遊びに来るんだけど、沖田三席にもよく遊んでもらっているらしくて。
あの方が懐くんだから、相当だと思う」
「あー……それは確かに」
夜一のことを知っている京楽は空を眺めて頬を掻いた。
「どんな子なんだ?」
「すっごいじゃじゃ馬」
「自由です」
きっぱりと言う2人に、一度会ってみたいな、と浮竹は笑った。
「あと、真っ直ぐなところとか」
咲がくすりと笑った。
「ああ見えて沖田三席、すごく純情じゃないですか。
近藤隊長のためにって」
「それはあるかも。
君もいい性格しているもんね」
「そ、そうか?」
褒められた浮竹は恥ずかしそうにそっぽを向いて団子をほおばる。
だんだん冷めてきてしまっていて、咲も慌てて最後の一個を口に入れた。
会計を済ませて3人は店を出る。
鍛錬は正直に言えばかなり厳しい。
帰りになればふらふらで、いつもより道などせず真っ直ぐ帰る。
夕食も風呂も億劫で、全て投げ出して眠りたいほどなのだ。
鍛錬中に意識が飛ぶほど体力や霊圧を消耗してしまうこともしばしばである。
今日も当然、直帰してご飯を食べて汗を流して一刻も早く布団に入りたい。
でも、二人と一緒に帰れる機会は最近あまりなくて、身体が辛くても一緒に寄り道してしまう。
学院時代が懐かしい、と最近思う。
もちろん、死神として働けることは嬉しい。
でも、二人との距離が開いてしまっていくようにも感じてしまう。
知らないところで二人は強くなり、また自分も強くなる。
それぞれの隊で、それぞれの任務で、成長していく。
嬉しいことでもあり、同時に、寂しいことでもある。
(一緒に鍛錬していたころが、懐かしい)
黒い死覇装に身を包む二人は、学院時代に比べて背も高くなり、逞しくなり、大人っぽくなった。
それは見た目だけの話でなく、死神としての意識や考え方についても言えることだった。
それを感じる度に考える。
自分もそうなっているだろうか。
強く、賢く、頼もしくなっているのだろうか。
(そうなれるように、頑張らなきゃ……)
「……、な、咲?」
自分の考えに浸っていたせいで、二人の話を聞いていなかった。
なんだか頭がぼうっとする。
(いけない、しっかりしないと……)
「咲?」
(何か、言わなきゃ……)
心配そうな京楽の顔。
それを見ていたら足がもつれて。
「おいっ!」
最後に感じたのは大きな手。
焦った声に、咲は言葉を返すことなく、気を失った。
抱きとめた京楽と、その腕の中の咲を真剣な眼差しで見つめる浮竹。
「最近変だ」
「うん」
冷たい風が吹いて、二人は首をすくめる。
早く帰らなければ、咲も冷えてしまうだろう。
浮竹は京楽に背中を向けてしゃがんだ。
「大丈夫かい?」
「馬鹿言うな、こいつくらい背負えるさ。」
優しい笑顔は兄らしいもの。
きっとこうしていつも、妹や弟を背負ってきたのだろう。
その背中に咲を乗せる。
浮竹が立ち上がり、その隣に京楽も並んだ。
「変だね、確かに」
「咲が言っていた、鍛錬って、どんなものなんだろうな」
「あの、朽木三席が直々にしてくださるってやつ?」
「ああ」
ずり落ちてくる咲をよいしょっと背負いなおす。
温かい彼女は予想通り軽くて、疲れて気を失うほど鍛錬に励む姿に心が痛む。
「きっと近々危険なことを、彼女にさせるつもりなんだろう。
だから限界まで鍛錬をする。
あの方も鬼ではない。
咲が生きるために、きっとこれだけの鍛錬が必要なんだ」
二人の表情は暗い。
これから先を思うと胸が痛む。
自分たちにその命令を止めるように訴える権利などあるはずも無い。
「そんなことをしなければならないような命令は、きっと元柳斎先生が出しておられるのだろうな」
「山じいが非情になるからこそ、今のボク達があるのは、よくわかるんだけどね」
更木育ちの実力のある彼女は戦力としてあまりに使い勝手が良いのだろうと思うと、自然と握りしめる手に力が入った。
彼女の刃が、彼女を蔑む多くの人を救うに違いない。
だが彼女はまた、その多くの人の知らない所で先日のような傷を負うかもしれない。
「早く終わらせよう。
こんな戦は」
「そうだね」
冷たい風に、頬が切れそうに痛んだ。
