斬魄刀異聞過去編
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響河の解号を聞いた瞬間、咲の世界は暗転した。
精神世界だ。
何も見えず、何も聞こえないのに、懐かしくてどこか落ち着く闇。
ふっと青い霧が入り込んできていることに気づき、肌が粟立つ。
寒さと本能的に感じる恐怖のせいだ。
視覚化する程の濃い霊圧は、響河の斬魂刀村正の能力に違いない。
咲の耳に低い囁き声が聞こえた。
ー刀を抜け。
そして、主に向けよ。
主を殺せば、自由になるぞー
それは妙に心を掻き乱す声だ。
いつのまにか目の前には一枚の鏡が現れていた。
その中、自分が映るべき場所に山上がいる。
その様子はひどく苦しげで、頭を抱えて震えている。
「山上様……?」
ー違う!
わが名は……ー
(そうだった)
どうしてこんなにもよく似た姿をしているのだろうか、といつも思うのだ。
「 破涙贄遠 」
名を呼べば、破涙贄遠はゆっくりと咲を見た。
「苦しいの?」
鏡に手を添えて顔を覗き込む。
彼の顔は苦しげに歪み、頭を掻きむしった。
ー心を、閉ざせ……ー
唸り声のように絞り出される声。
ーこれを、閉めだせ!ー
咲の周りを不思議と僅かに避けながら、破涙贄遠にまとわりつこうとする霊圧。
苦しげな破涙贄遠の姿に、心得た、と言うように頷き、目を閉じた。
固く固く、閉じてゆく。
己の世界を守る様に。
己の斬魂刀を守る様に。
すると霊圧はいつのまにか消え去って、いつもの深い闇に戻った。
咲は再び目を開け、破涙贄遠を見つめる。
疲れたのか、彼は仰向けに寝そべっていた。
「貴方はなぜ山上様と同じ姿をしているの?」
鏡の中で、金色の瞳はくるりと動いた。
姿は同じなのに、瞳の色だけは全く違う。
ー山上は今、私だからだー
理解できない言葉に、咲は首をかしげた。
ー今はまだ知らなくていいー
静かに首を振って、彼は微笑んだ。
「そう」
きっと聞いても教えてくれないだろうと思った。
破涙贄遠はそう言う人だ。
咲も仰向けに寝転んで、ガラス越しに互いを見#た。
彼が自分の一部だというのだから、なんだか不思議だ。
ふと空を見上げると、真っ暗闇の中、咲の目にひとつの光が映った。
「あ……星」
暗闇ばかりの世界だと思っていたが、空にはひとつだけ星が昇っていた。
ー死者は星になると言うだろう?ー
破涙贄遠はくすりと笑った。
「案外ロマンチストだね」
咲もくすりと笑う。
「私はどうして貴方の名前を知っていたんだろう」
ー斬魂刀の主とは、そういうものだー
「でも、私は貴方を見たことがある。
昔、更木で貴方は私とともに生きていた」
一匹の狼が、いつもそばにいてくれた。
銀の毛並みの、金の瞳の狼。
姿は違うけれど、あの狼が破涙贄遠であることだけは、分かる。
ー斬魂刀とは、そういうものだー
やはりからかうようににやりと笑う。
よくわからないが、彼が教えてくれないのならば仕方がない。
諦めてぼうっと星を眺める。
ゆったりと瞬くそれは、更木にいたときにも破涙贄遠とよく眺めたものだ。
ーそろそろ目を覚ましたほうがいいー
「……え?」
ー外とこの世界では時間の流れが違う。
お主を呼ぶ者たちがいるー
穏やかに微笑む破涙贄遠に、咲は首をかしげる。
ー夜が更ければ星が増える。
……今しか会えぬ者を、愛おしめー
意味深な言葉を最後に、ふわりと闇が明るくなっていく。
(夜が更ければ星が……)
その時ふと、更木で生きるずっと昔に、同じく懐かしさを覚える闇の中眺めていた夜空が、記憶の片隅から蘇る。
1つ1つの星に思い出があった気がする。
眺める度に心が熱くなり、見上げる度に懐かしさと寂しさに胸が締め付けられた。
そして、その度に血が滲むほど後悔したのだ。
己の弱さを。
背筋が途端に寒くなる。
それは自分の記憶のようで、自分の記憶ではない。
今の自分が記憶する限り、そんなことはなかったはずだ。
(ではあれは……いつの誰の記憶……?)
突然差し込んだ光に瞼をギュッと閉じる。
「咲っ!」
この人もこんなに感情を露わにして名を呼ぶことがあるのだと、思った。
嬉しそうな、どこか少女のような声。
その名が自分であることが、どこかくすぐったいのに満たされた気持ちになる。
「れ……さ、ま……」
喉が乾燥していて、かすれた声しか出なかった。
目を開くと白い隊長羽織が翻ったのが見えた。
それがまた眩しくて、咲は目を細める。
ほっとした顔の烈が、ベッドに近づいてきた。
嬉しくて自然と頬が緩む。
山田が呆れたように微笑んで、部屋から出ていったのが目の端に映った。
烈は手にした花瓶をベッドの傍の机に置いた。
「心配したのですよ。
貴方が目を覚まさないから」
その言葉がどこまでも優しくて、咲も嬉しさに頬を赤らめた。
「申し訳、ありま、せん」
すぐに水差しでコップに水を入れて飲ませてくれた。
こんなことまでしてもらうなんてと、申し訳なさと嬉しさとがないまぜになって、咲はやはり頬を紅くした。
渇いた喉が潤っていく。
「どのくらい眠っていたのでしょうか」
「一か月です」
咲は目を見開く。
破涙贄遠とほんの少し話していただけのはずなのに、と。
「春水さんと十四郎さんが毎日お見舞いに来てくださっていました。
桜さんと木之本四席も一緒にいらっしゃいましたよ。
それから、朽木三席、原田四席と山本、獄寺十二席、それから霞大路五席が明翠さんの代わりに……
朽木家からはお見舞い状が来ています」
次々とあげられる名前に、咲は目を白黒させた。
(こんなことってあるだろうか)
蔑まれる存在であったのに、こんなにも自分を訪ねてきてくれる人がいる。
それもきっと、心配してくれていたに違いない。
自分が彼らを思うように、彼らも咲を思ってくれているのだろうか、と期待が過ぎり、思わず烈を見上げる。
尋ねたくても、それはあまりに傲慢な言葉な気がして、言葉が出てこない。
咲の思いの全てを理解した烈は、優しく微笑んで頷いた。
「貴方はもう、独りではないのです。
貴方が誰かを心配するように、貴方も心配されている。
貴方が傷つくのを恐れる人がいる。
貴方と共にいる日常を、望む人がいる」
烈のその言葉は咲にとって夢の様な言葉で、それでいて心の何処かでずっと求めていた言葉だった。
「勿論、私も」
にっこりと微笑むその人に咲は頬を赤らめて俯き、そして言葉にならずに何度も何度も頷いた。
「みなさんには貴方が目覚めた事は私からお伝えしておきます。
それにきっともうすぐ……」
廊下を走ってくる二つの足音に、咲の目は大きくなり。
「咲っ!!!」
「やっと!!!」
部屋に飛び込んできた二人に、泣きそうにゆがめられた。
「浮竹、京楽……」
卯ノ花は優しく微笑むと立ち上がる。
「あっ!
失礼いたしました」
「ご無礼を……申し訳ありません」
慌てて浮竹と京楽は頭を下げる。
烈は静かに首を振り、入口で頭を下げる二人の方へと歩み寄る。
「咲を大切に思ってくれるご友人に、咎める言葉など持ちません」
そう言って優しく微笑むと部屋から出ていった。
部屋の入り口で卯ノ花が耳を澄ませば、咲に勢いよくどちらかが抱きついたのが聞こえた。
ー怪我人だよ、浮竹ー
ーわ、悪い!思わず……
……って、京楽も怪我人の頭を掻き混ぜすぎだろう!ー
ーこのくらいはいいだろう?
ボクたちがどれだけ待たされたと思っているんだい?ー
ーそうだ、お前って言うやつは!ー
叱る声に烈は思わず破顔する。
(貴方の才能が貴方を縛り、貴方を生かすでしょう)
烈は悲しげに顔を歪め、それから静かに目を閉じた。
(今度こそその時が、孤独でありませんように)
「そうですか。
山田副隊長、ご連絡ありがとうございます」
六番隊の執務室で地獄蝶から受け取った連絡に、響河は安堵の溜息をついた。
その様子に蒼純も悟ったらしい。
机の向こうから優しく笑いかける。
「目が覚めたか……よかった」
その言葉にピクリと反応したのは志波だった。
「卯ノ花ですかッ!?」
この1月、彼は気にしていない風を装っていたが、かなり咲のことを気にかけていた。
毎日と言っていいほど一緒に鍛錬していた相手だ。
気にしない方がおかしいが、相手である咲の立場上、気にしている様子を取れないのもまた事実。
心の内を必死に隠していることは、蒼純は気づいていたのだ。
だからこそ、その反応に思わず笑った。
「ああ。
リハビリがあるだろうが、来週には隊務に復帰できるだろう」
それは隊にとっても大きな戦力となる。
彼女がいなくなってから、敵の思惑通り、奇襲をかけてくる敵の殲滅率が急降下した。
それがもともとの値だが、一時期よかっただけに痛手となる。
思わず反応してしまったことが恥ずかしいのか、志波ははっと顔を赤らめ、慌てて手元物書類に目を戻した。
それがまた、蒼純の笑いを誘った。
(これでやっと)
妹にももう嘘をつかなくて済むようになる。
辛そうな弟や部下を見なくて済むようになる。
そして。
(明翠はーー泣くかもしれない)
そんなことを考えてしまう己の弱さが、蒼純は嫌いだった。
精神世界だ。
何も見えず、何も聞こえないのに、懐かしくてどこか落ち着く闇。
ふっと青い霧が入り込んできていることに気づき、肌が粟立つ。
寒さと本能的に感じる恐怖のせいだ。
視覚化する程の濃い霊圧は、響河の斬魂刀村正の能力に違いない。
咲の耳に低い囁き声が聞こえた。
ー刀を抜け。
そして、主に向けよ。
主を殺せば、自由になるぞー
それは妙に心を掻き乱す声だ。
いつのまにか目の前には一枚の鏡が現れていた。
その中、自分が映るべき場所に山上がいる。
その様子はひどく苦しげで、頭を抱えて震えている。
「山上様……?」
ー違う!
わが名は……ー
(そうだった)
どうしてこんなにもよく似た姿をしているのだろうか、といつも思うのだ。
「
名を呼べば、破涙贄遠はゆっくりと咲を見た。
「苦しいの?」
鏡に手を添えて顔を覗き込む。
彼の顔は苦しげに歪み、頭を掻きむしった。
ー心を、閉ざせ……ー
唸り声のように絞り出される声。
ーこれを、閉めだせ!ー
咲の周りを不思議と僅かに避けながら、破涙贄遠にまとわりつこうとする霊圧。
苦しげな破涙贄遠の姿に、心得た、と言うように頷き、目を閉じた。
固く固く、閉じてゆく。
己の世界を守る様に。
己の斬魂刀を守る様に。
すると霊圧はいつのまにか消え去って、いつもの深い闇に戻った。
咲は再び目を開け、破涙贄遠を見つめる。
疲れたのか、彼は仰向けに寝そべっていた。
「貴方はなぜ山上様と同じ姿をしているの?」
鏡の中で、金色の瞳はくるりと動いた。
姿は同じなのに、瞳の色だけは全く違う。
ー山上は今、私だからだー
理解できない言葉に、咲は首をかしげた。
ー今はまだ知らなくていいー
静かに首を振って、彼は微笑んだ。
「そう」
きっと聞いても教えてくれないだろうと思った。
破涙贄遠はそう言う人だ。
咲も仰向けに寝転んで、ガラス越しに互いを見#た。
彼が自分の一部だというのだから、なんだか不思議だ。
ふと空を見上げると、真っ暗闇の中、咲の目にひとつの光が映った。
「あ……星」
暗闇ばかりの世界だと思っていたが、空にはひとつだけ星が昇っていた。
ー死者は星になると言うだろう?ー
破涙贄遠はくすりと笑った。
「案外ロマンチストだね」
咲もくすりと笑う。
「私はどうして貴方の名前を知っていたんだろう」
ー斬魂刀の主とは、そういうものだー
「でも、私は貴方を見たことがある。
昔、更木で貴方は私とともに生きていた」
一匹の狼が、いつもそばにいてくれた。
銀の毛並みの、金の瞳の狼。
姿は違うけれど、あの狼が破涙贄遠であることだけは、分かる。
ー斬魂刀とは、そういうものだー
やはりからかうようににやりと笑う。
よくわからないが、彼が教えてくれないのならば仕方がない。
諦めてぼうっと星を眺める。
ゆったりと瞬くそれは、更木にいたときにも破涙贄遠とよく眺めたものだ。
ーそろそろ目を覚ましたほうがいいー
「……え?」
ー外とこの世界では時間の流れが違う。
お主を呼ぶ者たちがいるー
穏やかに微笑む破涙贄遠に、咲は首をかしげる。
ー夜が更ければ星が増える。
……今しか会えぬ者を、愛おしめー
意味深な言葉を最後に、ふわりと闇が明るくなっていく。
(夜が更ければ星が……)
その時ふと、更木で生きるずっと昔に、同じく懐かしさを覚える闇の中眺めていた夜空が、記憶の片隅から蘇る。
1つ1つの星に思い出があった気がする。
眺める度に心が熱くなり、見上げる度に懐かしさと寂しさに胸が締め付けられた。
そして、その度に血が滲むほど後悔したのだ。
己の弱さを。
背筋が途端に寒くなる。
それは自分の記憶のようで、自分の記憶ではない。
今の自分が記憶する限り、そんなことはなかったはずだ。
(ではあれは……いつの誰の記憶……?)
突然差し込んだ光に瞼をギュッと閉じる。
「咲っ!」
この人もこんなに感情を露わにして名を呼ぶことがあるのだと、思った。
嬉しそうな、どこか少女のような声。
その名が自分であることが、どこかくすぐったいのに満たされた気持ちになる。
「れ……さ、ま……」
喉が乾燥していて、かすれた声しか出なかった。
目を開くと白い隊長羽織が翻ったのが見えた。
それがまた眩しくて、咲は目を細める。
ほっとした顔の烈が、ベッドに近づいてきた。
嬉しくて自然と頬が緩む。
山田が呆れたように微笑んで、部屋から出ていったのが目の端に映った。
烈は手にした花瓶をベッドの傍の机に置いた。
「心配したのですよ。
貴方が目を覚まさないから」
その言葉がどこまでも優しくて、咲も嬉しさに頬を赤らめた。
「申し訳、ありま、せん」
すぐに水差しでコップに水を入れて飲ませてくれた。
こんなことまでしてもらうなんてと、申し訳なさと嬉しさとがないまぜになって、咲はやはり頬を紅くした。
渇いた喉が潤っていく。
「どのくらい眠っていたのでしょうか」
「一か月です」
咲は目を見開く。
破涙贄遠とほんの少し話していただけのはずなのに、と。
「春水さんと十四郎さんが毎日お見舞いに来てくださっていました。
桜さんと木之本四席も一緒にいらっしゃいましたよ。
それから、朽木三席、原田四席と山本、獄寺十二席、それから霞大路五席が明翠さんの代わりに……
朽木家からはお見舞い状が来ています」
次々とあげられる名前に、咲は目を白黒させた。
(こんなことってあるだろうか)
蔑まれる存在であったのに、こんなにも自分を訪ねてきてくれる人がいる。
それもきっと、心配してくれていたに違いない。
自分が彼らを思うように、彼らも咲を思ってくれているのだろうか、と期待が過ぎり、思わず烈を見上げる。
尋ねたくても、それはあまりに傲慢な言葉な気がして、言葉が出てこない。
咲の思いの全てを理解した烈は、優しく微笑んで頷いた。
「貴方はもう、独りではないのです。
貴方が誰かを心配するように、貴方も心配されている。
貴方が傷つくのを恐れる人がいる。
貴方と共にいる日常を、望む人がいる」
烈のその言葉は咲にとって夢の様な言葉で、それでいて心の何処かでずっと求めていた言葉だった。
「勿論、私も」
にっこりと微笑むその人に咲は頬を赤らめて俯き、そして言葉にならずに何度も何度も頷いた。
「みなさんには貴方が目覚めた事は私からお伝えしておきます。
それにきっともうすぐ……」
廊下を走ってくる二つの足音に、咲の目は大きくなり。
「咲っ!!!」
「やっと!!!」
部屋に飛び込んできた二人に、泣きそうにゆがめられた。
「浮竹、京楽……」
卯ノ花は優しく微笑むと立ち上がる。
「あっ!
失礼いたしました」
「ご無礼を……申し訳ありません」
慌てて浮竹と京楽は頭を下げる。
烈は静かに首を振り、入口で頭を下げる二人の方へと歩み寄る。
「咲を大切に思ってくれるご友人に、咎める言葉など持ちません」
そう言って優しく微笑むと部屋から出ていった。
部屋の入り口で卯ノ花が耳を澄ませば、咲に勢いよくどちらかが抱きついたのが聞こえた。
ー怪我人だよ、浮竹ー
ーわ、悪い!思わず……
……って、京楽も怪我人の頭を掻き混ぜすぎだろう!ー
ーこのくらいはいいだろう?
ボクたちがどれだけ待たされたと思っているんだい?ー
ーそうだ、お前って言うやつは!ー
叱る声に烈は思わず破顔する。
(貴方の才能が貴方を縛り、貴方を生かすでしょう)
烈は悲しげに顔を歪め、それから静かに目を閉じた。
(今度こそその時が、孤独でありませんように)
「そうですか。
山田副隊長、ご連絡ありがとうございます」
六番隊の執務室で地獄蝶から受け取った連絡に、響河は安堵の溜息をついた。
その様子に蒼純も悟ったらしい。
机の向こうから優しく笑いかける。
「目が覚めたか……よかった」
その言葉にピクリと反応したのは志波だった。
「卯ノ花ですかッ!?」
この1月、彼は気にしていない風を装っていたが、かなり咲のことを気にかけていた。
毎日と言っていいほど一緒に鍛錬していた相手だ。
気にしない方がおかしいが、相手である咲の立場上、気にしている様子を取れないのもまた事実。
心の内を必死に隠していることは、蒼純は気づいていたのだ。
だからこそ、その反応に思わず笑った。
「ああ。
リハビリがあるだろうが、来週には隊務に復帰できるだろう」
それは隊にとっても大きな戦力となる。
彼女がいなくなってから、敵の思惑通り、奇襲をかけてくる敵の殲滅率が急降下した。
それがもともとの値だが、一時期よかっただけに痛手となる。
思わず反応してしまったことが恥ずかしいのか、志波ははっと顔を赤らめ、慌てて手元物書類に目を戻した。
それがまた、蒼純の笑いを誘った。
(これでやっと)
妹にももう嘘をつかなくて済むようになる。
辛そうな弟や部下を見なくて済むようになる。
そして。
(明翠はーー泣くかもしれない)
そんなことを考えてしまう己の弱さが、蒼純は嫌いだった。