斬魄刀異聞過去編
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木の上に飛び上がった3人を驚かせたのは、枝と枝の間に板を上手く並べて用意された畳数畳分の物見席だ。
「すごい!」
思わず声を上げる京楽に、藤堂や原田はにやりと笑った。
「ちょろいもんさ」
手に持っていた料理やら酒やらを並べ、思い思いの場所で花火を眺めては食事をする。
「あっ新八っつぁんそれ俺の!」
「あ?
悪ぃな、もう腹ん中だ!」
「ひっど!
分かってただろ!」
弟妹の多い浮竹には懐かしい空気感でにこにこと溶け込んでいるが、京楽や咲には物珍しいせいかきょろきょろとしていて、どこか浮いている。
それが気になるのかのか、酔っ払い始めた永倉がぐいっと京楽の肩に腕を回す。
「なんだぁ京楽。
てめぇもちったぁ飲みやがれ!」
「いただいていますよ」
「そんなのは飲むっていわねぇな。
おとなしく借りてきた猫みてぇにしやがって。
飲め飲め!」
持っていた猪口に酒を注がれ、押されるがままに煽る。
もともと顔見知りではあり、ある程度性格は知っていたのでそれ程の驚きはないが、家では食事は常に静かな物だし、十番隊にもこんな風土はない。
ずいぶんと馴れ馴れしく、他人の心の内まで土足で入ってくるような人だとも思うが、それがどこか、心地よくもあり不思議だ。
「そうだ、もう一杯!」
顔を赤らめた藤堂もはやし立てた。
戸惑ったように浮竹を見るが、彼は烏賊焼きをほおばって、京楽達のやり取りを楽しげに眺めている。
身体があまり強くないことを、永倉と藤堂も知っているため、彼には無理に酒は進めないのだ。
もちろん、女である咲にも。
そんなところに、京楽は妙に好感を持ち、もう一杯煽る。
酒もなかなか美味い。
「こら、てめぇらそんなもんにしとけ」
ひょっこりかけられた声に、浮竹、咲、京楽は目を見開いた。
慌てて平伏しようとするが、京楽は当然永倉に肩を組まれていてできるはずもない。
咲と浮竹も姿勢をただしたところで、土方に眉をひそめて止められる。
「今日はそういうのはナシだ」
キョトンとして二人は動きを止める。
土方の瞳はその隣の、京楽に絡む二人に向けられる。
「だがそっちはそんなもんにしとけ」
「いーじゃん、入隊前からの付き合いだし。 」
「そうだぜ土方さん。
水臭ぇこと言うなよ!」
肩を組んだまま永倉が土方を見上げた。
見上げられた方は小さく溜息をつく。
「はぁ?
餓鬼の頃に何度か練習試合したのと、見学会だけだろ」
助け舟を出してくれるのはありがたいはずだった。
「あ、いえ、自分は」
京楽の口からは自然と永倉と藤堂を庇う言葉が出てくる。
「ほら、京楽もいいって!」
「楽しいよなぁ?」
皆まで言い終わらぬうちに二人に確認され、京楽は戸惑いながらも一つ頷いた。
「は……はい」
それを近くで見ていた咲と浮竹が顔を見合わせて笑う。
どちらかと言うと人を振りまわす側の京楽がたじろぐのが面白いらしい。
「結構なことだ」
土方の後ろから、新しい声が加わる。
「近藤さん!」
藤堂が嬉しそうに呼んだ。
「どれ、オレも一杯飲むとするか」
近くの枝に座ると、沖田が猪口と酒を持っていった。
土方はそれを見ると、どかりと浮竹の隣に座り込む。
打ち上がった花火が翠の黒髪に艶やかに色を投げた。
「毎年祭りに来られるのですか?」
浮竹がたこ焼を土方に差し出しながら尋ねる。
「まぁ、そんなところだ。
祭り好きの馬鹿が多いもんでな」
にやりと笑う。
口ぶりの割には楽しそうだ。
「次からはお前らも誘うぜ!」
藤堂と永倉に両側から肩を組まれた京楽はずいぶん酒が回ってきたらしく、顔が赤い。
浮竹はそんな様子を優しく見て、礼を言った。
「ありがとうございます」
沖田が遠目に見て、面白くないというように視線をそらした。
隣に座る近藤は、息子のように可愛がっている部下の様子に、やわらかく目を細める。
「どうだ、総司」
「どうもこうも、優秀ですよ、彼は」
返事は脹れっ面だ。
「霊圧は高いし、才能もある。
身体が弱い分は努力で補っている。
下級貴族出だと言うが、礼儀も教養も申し分なく、他の隊士ともうまくやっている。
あの性格だ、どこの隊でもやっていける。
……言っているうちに席も一桁台になるでしょう。
ゆくゆくは副隊長以上になりうる器だ」
流石、人事らしい見解だ。
「面白くないようだな」
「別にそんなんじゃ」
「彼は器を持っている。
大きな器だ」
脹れっ面はじっと浮竹を見つめている。
「お前が言うことは正しい。
だがまだ彼はまだ、綺麗過ぎる。
そう取り繕うだけの技量があるとも、言えるが」
沖田ははっとして近藤を振り仰ぐ。
花火の爆音と、その光が整った顔を彩る。
近藤は真剣な顔で部下を見下ろした。
部下の顔はもう、膨れてはいない。
「よく見てやってくれ。
……あれでは、じきに駄目になる」
尊敬する近藤が、今期1番期待されている彼を自分の下につけた。
その期待がわからぬ沖田でもない。
照れたように沖田は俯いて頭を掻いた。
花火の赤が、照れた様子にさらに追い打ちをかけた。
近藤はかわいいものだと目を細める。
「仕方ないな」
小さく口早につぶやかれた言葉に、耐えきれなくなって近藤は笑い声をあげた。
「やっぱり何にも変わんねぇなぁ」
酒を煽る原田がのんきに言った。
「何がでしょうか」
隣の咲が不思議そうに問いかける。
「お前が、だ」
咲は目を瞬かせた。
「更木には俺も滅多に行かねぇが、あそこはひどく広く感じる。
一度でも行ったことがあれば、その土地が自然と記憶に残るものだが、更木は駄目だ。
何度行っても、土地の感覚が身につかねぇ。」
「住んでいた身にしてみれば、そうでもありません。
逆によく似た建物ばかりの精霊挺の方が、私には」
「そうか。
更木とどちらがいい?」
「いいと言ったら、今の方がいいです。
食べ物にも、住む場所にも困りません。
ただ……時折あの頃が懐かしくなります」
生きる為に必死だったあの頃は、食べるのも寝るのもままならなかった。
だが憧れだった死神を捕まえ殺す日々は息が詰まり、精神的に堪える。
「お前、面白ぇな」
原田は口の端を上げた。
「面白そうだから……採用してくださったんですか」
咲はゆっくりと首をかしげた。
まだ入隊して数カ月だが、自分の採用がいかに特別だったか、肌で感じていた。
護挺は本来、全てを持っていなければ入れない場所だ。
力も、地位も、全て。
むしろ入隊においては地位の方が重視される傾向ですらある。
そしてその決定的な物が、咲には欠けていた。
「んなもんで採るわけねぇだろ。」
原田は快活に笑った。
「お前には才能がある。
何にも代えがたいほどの、才能がな。」
やわらかく細められた瞳が、咲を見た。
酒も回っているだろう、目が据わっていて、咲は僅かに身構える。
「俺は女は星の数ほど抱いた。
貴族も、流魂街出も、遊女も」
唐突な話題に咲は目を見開き、浮竹は酒を飲みかけていて咽た。
土方も何を言い出すのかと眉を寄せて原田を見る。
「なんだぁ自慢かぁ!?」
「佐之さぁーん」
永倉と藤堂も反応して、酒を飲む手を止めた。
原田はそれに構うことはなく、にやりと笑って言葉をつづた。
「だがな、卯ノ花。
女っつうのは不思議なことに、どれも変わらねぇ」
「おい、」
これ以上は聞かせるな、とでも言いたげな土方の視線に、原田はひらひらと手を振って答えた。
「つまり、死神の素質に生まれは関係ねぇってことさ」
「他の例えにしろよ!」
藤堂が思わず突っ込んだ。
これ以上放っておくのも問題かと、土方は口を開いた。
「俺達は身分に関係のない護挺入隊、そして昇進を可能にしたい。
人員不足も甚だしいからな。
その一発目がたまたまてめぇらだっただけだ」
咲の影に隠れてあまり人の口に上ることはないが、下級貴族出身の浮竹が入隊と同時に席を与えられることも今までにはなかったことだ。
下級貴族は席を与えられること自体名誉なことである。
それが入隊と同時となれば異例中の異例なのだ。
「ありがとうございます」
浮竹が頭を下げ、咲も慌ててそれに倣う。
「馬鹿野郎。
感謝するならお前らの運に感謝するんだな」
土方はたこ焼をほおばって眉を寄せた。
照れ隠しのようにも見える様子に、一同は微笑み、再び酒を酌み交わし始めた。
「やっぱりずいぶん依存してんな」
お開きとなった後、遠ざかっていく3つの影に永倉がぽつりと呟き、斎藤が一つ頷いた。
「失いたくないモンを持っていると、強くもなるし脆くもなる」
原田が後ろから同じく静かに言った。
「吉と出るか、凶と出るか」
まだ煙の残る空に、星がちらちらと戻り始めた。
「それより、疑うべきは朽木家や総隊長だろうな」
木の上から軽い音を立てて、土方が3人の背後に降り立つ。
「なんでだ?」
「あの家柄に厳しい朽木家が二つ返事であいつらの入隊や席を与えることを呑んだんだ。
……妙じゃねぇか」
「霊術院への視察で、自分たちの目で見て納得したんだろ?
あの人の実力を見る目は確かだ。
古くからの付き合いである総隊長が、銀嶺隊長の言葉に納得したのも頷ける」
「それは間違いない。
だが、そんな甘くはねぇさ。
全ての最上が揃ってるのが朽木家だぜ?」
土方はにやりと笑った。
「何か隠していやがる」
