斬魄刀異聞過去編
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「卯ノ花隊長。
この前はお忙しいところ、娘がお写真を撮らせてほしいだ何て無理を言って、申し訳ありませんでした」
隊首会後、大道寺は卯ノ花に頭を下げた。
「いいえ、構いませんよ。
まだお若いのに利発そうなお嬢さんで、会社の方も安心ですね」
大道寺はゆるゆると首を振った。
「それもそれで困りものなのですが……
娘は精霊挺で雑誌を作りたいと意気込んでおりまして、もしかしたら何かそちらの方で使うかもしれません」
「私の写真でよろしければ、どうぞお嬢さんのお仕事に利用してくださいな」
「最近は隊長のお嬢さんとも親しくさせていただいているようで、喜んでおりました。
ありがとうございます」
卯ノ花は、お嬢さん、と言われて誰のことかと一瞬考えてしまった。
それから、ふと一人の少女を思い出し、微笑む。
(貴女が、娘ーーそうでしたね)
「まぁ、それは、」
「大道寺君、少しいいかい?」
卯ノ花の声をさえぎるように、李玖楼隊長が向こうの方で呼んだ。
他の隊長とも話しており、何か確認があるのかもしれない。
「申し訳ありません、失礼いたします」
「ええ、お嬢さんによろしくお伝えくださいな」
「はい、ありがとうございます」
大道寺は李の方へと行ってしまった。
それと入れ替わるようにして、朽木蒼純が声をかけた。
「先日はどうも」
「いえ、こちらこそ咲がお世話になりました」
「さっきの写真の件なんですが」
蒼純はおかしそうに笑った。
「どうやら卯ノ花隊長のファンクラブを作っているようなんです。
私の妹と、知世さんと、桜さんと、それから咲さんで」
その時の烈の呆気にとられた顔と言ったらなかった。
めったに見られるものではなく、これこそファンクラブは見たがっただろうと思ってしまうほど。
それからようやくいつも通り、否、いつもよりもずっとやさしく微笑んで、照れたようにぽつりとつぶやいた。
「まぁ……咲まで」
どこか少女のようにも見えるその美しい微笑みに、蒼純は目を細めた。
血はつながっていないはずなのに、どちらもひどく綺麗に笑うものだ、と。
「精が出るものです。
ご報告ありがとうございます」
卯ノ花は蒼純に背を向け、去って行った。
(彼女は何者なのだろう)
卯ノ花も、自分の父も、そして総隊長までもが、咲を気にかけていることに気づいている。
しかしその理由は全くもって想像がつかない。
年若い隊長達も何も知らない様子だから、昔、咲にかかわることで何かがあったのだろうか、とも思う。
周りもどことなくそのことは感じているようで、彼女と朽木家に関わる噂が流れていることも知っていた。
少し考えればありえないことだと分かるものを、と内心呆れている。
だが、己達の疑問を解決する術を、蒼純は持たなかったし、追求するほどの価値はないと判断していた。
(彼女は才能がある。
孤独な弟の助けになるに違いない。
……それで十分だ)
執務室に入ると、あたりがやけに明るく見えた。
その理由はひとつ。
「やぁ、桜ちゃん。
どうしたの?」
でれんと鼻の下を伸ばす京楽。
「馴れ馴れしく呼ぶな」
すぐに釘をさすのは木之本だ。
そんな兄をさらりと無視して、桜は京楽に微笑んだ。
「こんにちは。
皆さんとお弁当を食べようと思って」
また立派な重箱を持ってきてくれたらしい。
案外彼女は力持ちだ。
「咲さんにここまで送ってもらったんです。
その時に浮竹さんにも連絡してもらうようお願いしました」
準備がいいことだ、と思う。
ちなみに木之本は椅子に座ったまま何やら写真を見ている。
月城がやってきて後ろからその写真をのぞいた。
「この前お茶会かな?」
「はい!
明翠さんのところで、みんなでお茶したんです。
楽しかったなぁ」
はにゃーんと顔を緩め、幸せそうな表情をする桜に癒される京楽を睨みつつ、木之本は1枚の写真で目を止めた。
「……おいこれ誰だ?」
「どれどれ?
見かけない顔だね。
新しいお友達?」
のぞきこんだ月城も首をかしげる。
「お兄ちゃんも雪兎さんも、京楽さんも知っている人ですよ!」
どこか自慢げに言う桜。
渡された写真を見て、京楽は目を見張った。
縹の着物が白い肌によく映えた娘が映っていた。
奏でているのは横笛だ。
隣で琴を奏でる桜を、名の通り桜の花にたとえるなら、それほどの華やかさはないものの、藤の花ような静かな美しさがある。
その吹き姿を見ただけで、それなりの腕があることは知れた。
彼女のその姿は、普段刀を振るっているとは思えないほど美しい、深窓の姫君だった。
なるほどと京楽はうなずいた。
これは彼らが気づかないのも無理はない。
「卯ノ花ですね」
一応上司の前なので名字で呼ぶ。
「あの六番隊の卯ノ花?」
目を瞬かせる二人に、京楽はヘラリと笑った。
「化けるんですよ、あの子は」
渡された写真の束をめくっていくと、ずいぶんと楽しそうな顔をして咲が映っている。
彼女はこんな穏やかな楽しみは知らなかっただろう。
確かに自分達は死神かもしれないが、その前に人であり、男であり、女であると、京楽は思っている。
だからこそ、咲にはこんな楽しみをもっと知ってもらいたい、とも。
写真に写る咲は年相応に見えるから不思議だ。
そう言ってしまうとまるで、この死神の世界にいる彼女が無理をしていると言っているようだ。
自分達とともに歩む彼女が苦しんでいるなんて、認めたくはない。
どこか矛盾する思いに、京楽は頭を切り替えて、桜に笑顔を向けた。
「ありがとう、桜ちゃん。
また誘ってあげてもらえる?」
「もちろんです!」
(その時には何か髪飾りでもプレゼントして、つけて行ってもらおうかな。
元がいいんだから、後はどう飾るかで……)
次の休みのプランを練りなおしつつ、京楽は無意識に窓の外、六番隊の方を見ていた。
「……京楽さんって、本当に咲さんが大切なんですね」
やわらかく微笑む桜の言葉に、京楽は柄にも無く呆気にとられ、それから笑みを浮かべて見せた。
「うん、浮竹もね。
霊術院からずっと一緒だったんだ。
同じ道場でずっと隣の部屋だし。
一緒に飛び級試験受けて、一緒に護挺の入隊試験も受けた。
もう家族みたいなもんだよ」
今日もまた同期の訃報を受けた。
いつまで一緒にいられるか分からないけれど、ずっとずっと、一緒にいたいと思う。
できることならば、笑顔で。
そう思うことが、咲を大切に思うことだと自覚はなかったから、少し気恥ずかしくなる。
しかし桜は月城と顔を合わせてくすくすと笑った。
「京楽くんは聡いのに、自分のことになると鈍いらしいね」
「ええ」
何やら通じている月城と桜を前に、京楽は話が理解できずに目を瞬かせた。
「なんのことですか?」
京楽の問いは、がたんと席を立った木之本によってさえぎられた。
「腹がすいた!飯だ飯!
昼休み終わっちまう」
「はいはい」
「もーお兄ちゃんったら」
温かな時間は、戦場に出るほど貴重さを感じるもの。
この一時もまた、京楽達にとって少しでも長く感じていたい、大切な時間だった。
