斬魄刀異聞過去編
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覚えのある霊圧に浮竹はあたりを見回すが、その姿は目に入らない。
(今確かに咲の霊圧が)
例え雑踏の中であろうと、死覇装の黒は人目をひくものだ。
なのにそれが見えなかった。
(急いでいたのだろうか)
見かければ必ず声を掛け合う仲なのだ。
緊急要請でもあったのかもしれない。
「どうしたの?
ぼーっとして」
一緒に見回りに出ていた沖田が興味なさそうに尋ねた。
「いえ……申し訳ありません」
浮竹はもう一度あたりを見回してから軽く謝ると、沖田の後に続いた。
咲や京楽に無視されてしまうのはなんだか苦しい。
理由があるはずなんだと、何度も自分に言い聞かせてしまう。
自分を抑えることは慣れているはずなのに、二人のこととなるとそれが難しくなってしまう。
(馬鹿だな)
小さく笑ってから、浮竹は足を早めた。
浮竹の姿が見えなくなるのを待って、咲は路地から出てきた。
彼が咲の存在に気づき、探すのも無理はない。
いつもならば必ず声をかけるのだ。
仕事中でも、肩をたたいたり、アイコンタクトくらいはしていた。
今日も声をかけようと思った。
思ったのだ。
だが思い出した。
(こんな恰好で、会えない)
相手は仕事中、それも上司である沖田も一緒だ。
死神社会は男社会。
女性でとりたてられている人は、烈や十番隊副隊長の大道寺など、才色兼備の実力者ぞろいだ。
京楽や浮竹とは違ってまだ席すらない自分が、こんな浮ついた恰好をして、彼に声をかけられるはずがなかった。
それを考え始めてしまうと、足も止まる。
(こんなことしている暇があったら、鍛錬を……)
自分は明翠や桜とは違うことは、十分に分かっていた。
彼女たちを護る側の人間であり、本来必要以上の関わりを持つべきではない。
なぜなら咲は、いくら上流貴族の卯ノ花家の養女とはいえ流魂街、それも更木出身。
本当ならば軽蔑されて当たり前だ。
家に出入りなどしていいはずがない。
考えれば考える程足取りは重くなり、時折止まったりもする。
道行く人が怪訝そうな視線を寄越すが、気づく様子もない。
(ではなぜ、朽木家の方は私にこれほど良くしてくださるのか……)
暗い問いが頭を過ったときだった。
「おや、こんなところにいた」
声をかけられ、咲が驚いて振り返る前に肩を抱かれた。
やわらかなウェーブのかかった金髪がふわりと揺れる。
死覇装を着ているから間違いなく死神だろう。
襟からひらひらとレースが出ているのが非常に個性的ではあるが、彼の髪形のせいか、雰囲気のせいか、違和感がない。
咲の方は面識があったかと慌てふためく。
「もっ申し訳ございません」
とりあえず謝る。
休んでいることがばれたのだろうか。
だが彼は六番隊の隊員ではないはずだ。
当然同期でもない。
(ではどこで?
京楽か浮竹の関係……?)
これだけ印象的な相手であれば忘れるはずもないのに、思い出せない。
そこで耳元にふと囁かれる。
「知り合いの振りをしなさい」
その言葉にあたりの気配を伺えば、いくつか視線を感じる。
見上げると優しげな瞳がひとつ頷くので、彼に従う事にする。
「探してたよ。
少し目を離した隙にすぐにいなくなるんだから。
最近は物騒だからはぐれないようにとあれほど言い聞かせていただろう?」
優しく人ごみの中をエスコートしていく姿はずいぶん手馴れている。
幾つか角を曲がるうちに、おかしな視線は消えていった。
「そろそろいいかな」
肩を抱いていた手を離し、男は咲を見下ろした。
「危ないよ、君みたいな子が一人で出歩いちゃ。
攫われても文句言えないな。
使用人か誰か、一緒ではないのかい?」
どうやら一般人だと思っているらしい。
それならばわざわざ死神だと言う必要もない。
余計に素性を晒すことは、出来たら避けたかった。
「向こうに待たせております。
お世話お掛け致しました」
それらしく言い訳をして咲は頭を下げた。
街中で襲われることなど考えもしなかった。
咲を襲われたのは卯ノ花に拾われる前、更木のころの話だし、相手は浮浪人や虚だった。
こんな街中で、それも自分のような卑賤な者を攫うものがいるはずもないと思っていたのだ。
それに人が相手ならば勝つ自信もある。
「どこに行くんだい?
送ろう」
親切な申し出に、咲は首をぶんぶんと横に振る。
「結構です。
本当に……本当に、すぐ近くですので」
同期ではない以上、彼は上司に間違いない。
霊圧の高さから席官の可能性が高く、そんな人に送らせるなど有り得ない事である。
「大丈夫だ、これでも三番隊の席官でね。
あのくらいの雑魚なら一瞬で片づけられる」
優しい笑顔に、咲は眩暈を覚える。
「私も、あの……剣術は、その、父に指導されております故……ご、ご心配なく」
自分でもおかしなくらいどもりながら咲は男から離れる。
「お忙しいところ申し訳ありませんでした!」
そして頭を下げると瞬歩で逃げ出した。
「おい、ローズ。
今のは?」
アフロの男が咲と入れ替わるようにして現れた。
「ラブは知らないのかい。
今年の新入隊士だよ」
静かな言葉に対し、アフロの男ー愛川 羅武ーは驚いたようだ。
「あんな別嬪な娘いたか!?
むしろ女がいたか!?」
「いたよ、一人。
男性隊員に混じっても違和感のない短髪の子がね。
入隊試験の席次が3番だった子」
鋭い視線を咲が消えた方向に向け、ローズと呼ばれた男ー鳳橋 楼十郎ーは目を細めた。
「あの……噂のか?」
「ああ」
「初めて見たぜ。
なるほど。
霊圧の消えていった方向的に……朽木邸だな」
ローズがうなずいた。
「なかなかの瞬歩だった。
実力は、席官並みと言ったところか。
振る舞いもぱっと見た感じでは貴族の令嬢として申し分ない。
少なくとも、人攫いが狙うほどには」
「噂は真か?」
「朽木隊長の隠し子っていうやつだろ?
流石に朽木家が隠し子を作るなんてヘマをするとは思えないけどね。
例え鳳橋家でも、血を引いた子を更木に放置るすような真似はしない。
遊女に産ませたような子でもだ。
ましてやあの実力。
素性を隠し冷遇していることを逆手に反乱因子側に取り込まれては家にとっては大損害だ」
「……まぁ確かに。
うちの新入隊士だった奴とは、えらい違いだな」
ラブがぽつりと言った。
二人の班に配属になった新入隊士は先月死んだ。
一応特進クラスだったとは聞いたが、その実力はやはり霊術院を卒業したばかりの、拙いそれだった。
「彼女と浮竹十四郎、京楽春水は他の新入隊士に大きく差があるらしいよ。
それに、今年の生存率はずいぶん低い」
ローズの言葉にうなずく。
「上の間では噂になっているらしいぜ。
あの3人以外で10年以上生き残れるやつはいないんじゃないかって」
「もともと、今年の死亡者が多いんだ。
仕方ないさ。
むしろ末席の僕達のことだ。
明日は我が身だろう」
「ま、それもそうだな」
二人はのんびりと歩きだした。
