斬魄刀異聞過去編
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「体の調子はいいのか?」
書類を片付けていると背後から声をかけられ、浮竹は振り返った。
「近藤隊長!」
やぁ、と明るく手を上げる隊長に、浮竹は立ちあがって礼をする。
「そんなに固くならんでくれ、肩が凝ってかなわないからな」
豪快に笑う姿に、つられて笑顔になってしまう。
質実剛健とはまさに彼のようなことを言うのだろう。
頼もしく朗らかな彼は、隊長の鑑のような男だと思っていたし、心から敬愛していた。
そしてその隣に立つ人。
「今日の任務でも始解したそうじゃねぇか」
眉間のしわがもはやデフォルトとなっている土方も、やはり副隊長の鑑のようだと思った。
彼の場合はまず才色兼備という言葉が浮かぶ。
鬼と恐れられる彼の副官としての才覚は目を見張るものだ。
この両者のバランスが素晴らしいのが十三番隊で、一見性格による物だと見えがちであるが、両者の努力も大きな要因であると感じ、一層尊敬していた。
ーーそして近藤と土方も、鋭い観察眼を持つ浮竹を気に入っていた。
「おかげさまで霊圧のコントロールができるようになり、もう始解程度ではどうということもありません」
「そうかぁ、それは良かった!」
浮竹に“腕のいい医者”を紹介したのは近藤だった。
ーーその相手はとてもじゃないが、“医者”という枠に収まる人ではなかったが。
入隊が決まり京楽家の宴のまだ前の、学院時代のこと。
浮竹は近藤に一人だけ呼び出されたことがあった。
案内されて連れて行かれた一室にいたのは、まぎれもない卯ノ花烈隊長その人だった。
「卯ノ花……隊長……?」
戸惑う。
近藤が卯ノ花になんと言ったのか知らないが、一院生のために四番隊の隊長が動くなど、通常では考えられない。
その上卯ノ花は咲の保護者であり、咲が誰よりも尊敬し憧れる人だ。
滅多に会えないという彼女を差し置いて、自分が会う機会がを得た事を少し申し訳なくも思った。
「おや、知り合いだったか?」
キョトンとする近藤に、浮竹はぎこちなく首を横に振る。
院生であれば皆、隊長の顔と名前は覚えているもので、浮竹も当然そうだ。
「こちらが一方的に存じ上げているに過ぎません」
「あら、それは偶然」
卯ノ花は穏やかに微笑む。
「私も一方的にと思っておりました。
咲がお世話になっているそうで、ありがとうございます」
その言葉に浮竹は慌てて首を振り深く頭を下げる。
「とんでもありません。
空太刀さんと一緒に鍛練に励ませていただくお陰で、我々も勉強になります」
その言葉に卯ノ花は花が綻ぶような微笑みを見せた。
その柔らかい表情に、血は繋がっていなくともやはり親だ、と近藤も思わず微笑む。
「なぁんだ、知っているなら話が早い。
卯ノ花隊長は素晴らしいお医者様であらせられる」
「語弊があるように感じますが」
にこやかな、でもどこか威圧的な様子に、近藤はたじろぐ。
それを遠巻きに見ている浮竹も、この人には逆らってはならないということがよくわかる一瞬だった。
「あなたたちと出会って、咲は変わりました。
……いいでしょう。
貴方の体調と始解に特化した霊圧のコントロール方法を教えます」
その真剣な瞳に、浮竹は改めて頭を下げた。
「ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」
まずは自分の体内にある膨大な霊圧をコントロールし、始解をしても肺に影響が出ないようにする訓練から始まった。
それができるようになると鬼道や戦闘中でもコントロールし続ける訓練へと移った。
いずれも霊圧が乱れれば発作を起こすという危険と隣り合わせのものであり、始めのうちはすぐに倒れていくらも練習ができなかったが、それも卯ノ花の指導と治療、浮竹の努力の甲斐あって次第に改善された。
そして本来ならば始解自体に年単位でかかるだろうと思われていたが、入隊に間に合わせることができ、近藤だけでなく土方までもが、
ー悪くねぇガキだー
と評する結果となった。
始解に至れば、あとはただただ慣れていくしかない。
そのためにも、入隊後、浮竹は積極的に実践任務に就いていた。
例えそれが、死神を殺すものであっても。
(それで、守れる命があるなら)
自分には護りたいものがたくさんあった。
妹弟や両親、友達、できることなら上司の役にも立ちたい。
命は無駄にすべきではない。
そのためにも、一刻も早く強くならなければならない。
戦いが早く終われば、失われる命も少なくて済む。
例え自分が一人でも多くの隊士を殺すことになろうと。
(それで結果的に救われる命があるのなら)
人事を背負う十三番隊は、隠密機動を従える二番隊と共に隊士への制裁を担う。
血の海にはなかなか慣れることはないが、友の手が血に染まらないというなら、それでもいいかもしれない、と思っていた。
「ほんといい子だね、浮竹は」
不意に入ってきた皮肉まじりの声に、浮竹は頭を下げる。
「お疲れ様です、沖田三席」
彼は浮竹で遊ぼうとちょっかいは掛けてくるし、皮肉も多い。
あまり怒らないせいか遊び甲斐はないらしく、すぐに興味を無くす。
浮竹からすると彼のことはまだよくわからなくて、困ることも多い。
同級生の中では兄的な立場でいることが多かった分、沖田のような中流貴族でありながら根っからの末っ子の上司に対する対応は難しい。
当たらず障らずの態度は相手にも伝わっているのは明白だ。
だからと言って歩み寄る沖田でもない。
結果として、二人の中は深まることはない。
だがその分近藤が浮竹を気にかける結果となった。
それがまた、沖田は面白くないらしい。
「真面目だし、入隊早々反乱因子の討伐数は群を抜いて多い。
白くて純粋無垢な顔して、なかなか人殺しの筋もいい」
町道場であった試衛館時代からの仲である近藤は沖田にとって唯一無二の存在だから許してやってくれと、先日四席の原田に言われたばかりだ。
浮竹は困ったように曖昧に笑って、そんなことは、と返す。
これごまた面白くないらしい。
「てめぇだって……まぁ見た目からそうだが、同じようなもんだったろ」
鬼といわれる土方の方が気を使ってこうしてフォローを入れてくれるほど、目に余る。
「一緒にしないで下さいよ。
僕のほうが成績良かったでしょ」
「さぁな」
眉をひそめたまま笑う土方を、浮竹は器用だと思った。
「まぁ俺達の仕事は身体が資本のところが大きい。
無理はするなよ」
「はい」
近藤の温かな笑顔に、浮竹は大きくうなずいた。
体調管理の大切さは、丈夫でないからこそ知っている。
(咲が元柳斎先生の指導を受けられない分も、俺が)
「さぁて。
そろそろ鍛錬に行こうか」
沖田のにやりとした笑いに、浮竹はこれは厳しい鍛錬になるだろうな、と思う。
しかしその方がいいのだ。
身体が弱い自分は、一刻も早く腕を上げなければいけない。
「はいっ!」
「いい返事だ、頑張れよ!」
浮竹の肩を近藤が叩くのを見て、沖田は一瞬拗ねた顔をしてから、背中を向けた。
