斬魄刀異聞過去編
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結局、桜の誘いを断りきれず、3人と木之本、月城を含めた6人でお昼となった。
どうやら桜のお目当ては。
「雪兎さん、この卵焼きも食べてもらえませんか?」
「いいの?
……これもすっごく美味しいよ!」
どこまでも穏やかに見える眼鏡の美男子、月城四席だった。
色白の肌に色素の薄く日光に透ける銀色の髪の彼は、京楽とはタイプがずいぶん違う。
「よかったです。
私の今日の自信作なんです」
柔らかい春風のような笑顔は、人を幸せにさせる。
京楽はその様子を羨ましげに眺め、浮竹は京楽を小突いて笑っている。
それがおかしくて、咲は思わず笑った。
穏やかな昼下がり、そこだけはどこか、互いを殺しあう死神の世界からは遠く思えた。
「私も死神になって皆さんと一緒に働きたいなぁ……」
「桜ちゃん……」
つぶやく桜に、月城は困った顔をし、木之元は眉を寄せる。
「あ、違うんです、ごめんなさい」
黙って何と言おうか迷ってしまっている月城の様子からみても、これが初めてではないように見えた。
沈黙を破ったのは浮竹だった。
「桜様が死神になって、お弁当を作ってくださらなければ、月城四席はおいしい卵焼きが食べられませんよ」
穏やかな笑顔はいかにも“お兄ちゃん“といった風に見える。
(さすが弟妹が多いだけある)
京楽と咲は妙に納得してしまった。
「そうだよ、僕はもっと桜ちゃんの手料理が食べたいなぁ」
そう言ってほほ笑む月城に、桜はぽっと頬を染めた。
咲が隣の木之本を盗み見ると、渋い顔はどこかほっとしたようで眉間の皺が少し緩んだように見える。
「が、がんばります!」
ガッツポーズをしてほほ笑む桜に、話題は自然と料理の話へと移って行った。
微笑ましい様子から目を離し、咲は隣の木之元を見上げた。
「桜様は霊圧がとても高いのですね」
木之元はちらりと咲を見下ろしてから口を開いた。
「木之本家は代々霊圧が高い」
咲はなるほどと頷く。
しかし彼はどうやらそれが気に食わないらしい。
「あいつは死神には向かない」
「でも憧れていらっしゃるのですね」
「実情は理解してないだろうからな。
そもそもあいつの性格では無理だ。
うちは幸い死神にならずともやっていける。
他の道を選ぶべきだ」
兄心、というやつだろうか。
不機嫌そうな顔の下で、どれほど妹を大切に思っているかが伝わってくる。
そして己の持たぬ血の繋がった家族もいうものに、胸の内で小さな憧れを抱く。
「お前はなぜ、死神になった?
卯の花家の跡継ぎであれば、死神になる必要もないだろう?」
急に話が自分に向かい、咲は戸惑う。
しかも、自分自身が疑問にも思ったことのない内容なのだ。
返答に詰まる。
木之元は答えを急かすでもなく咲を見つめていた。
しばらく迷ってからようやく口を開く。
「……死神以外の選択肢を考えたこと自体がありません。
私を養子として迎えてくださった烈様のお役にたつために、できることをできる限り努めようと思ったのです」
散々考えた先にあった答えは、これだけだった。
ようやく答えたのに、木之元は休む間を与えず、鋭い眼光で再び尋ねた。
「お前は、卯ノ花隊長のために死ねるのか」
「もちろんです!
烈様のために死ねるのであれば本望です」
「それは卯ノ花隊長の望みだろうか」
「……え?」
眼を見開く咲に眼を細め、木之元は腰を上げた。
「例え血が繋がっていなくとも家族だろう。
……おい怪獣、そろそろ時間だ」
呼ばれた桜はぷぅっと頬を膨らませる。
「怪獣じゃないもん!」
「怪獣だ。
早く片付けろ」
咲の隣から離れていく背中は妹思いで、大きく温かく見えた。
(では木之元三席はなぜ死神に……?)
「はぁい」
桜はしぶしぶといった様子で空になった弁当箱を片付ける。
カラカラという音がひどくむなしく咲の耳に響いた。
静霊挺内のそこここでおこなわれる乱闘。
普段鍛錬に使われるべき鍛錬場は、今はただ戦場となっていた。
死神同士が殺しあう戦。
死覇装を着たものが、同じく死覇装を襲い、殺す。
一望できる崖の上に連れてこられた咲は銀嶺と響河の後ろに立ち、様子をうかがう。
だがあまりの惨状に爪先に目を落とす。
しかしそれは一瞬。
「眼を逸らすな」
振り返ることなく背中から発された響河の冷たい声に、咲は視線を無理に戦へと向ける。
一人また一人と死んでいく、その場所に。
更木でも毎日人の死を見たし、殺しもした。
でも、こんな無駄な殺し合いを見るのは初めてだった。
虚ですら己の空腹のために人を殺し食らう。
更木の人間も、己が生きるために人を攫い、殺す。
だが、目の前のこれは何だろう。
思想の違いのために人を殺す意味が、咲にはやはり解らなかった。
「状況は劣勢、反乱分子は勢いを増すばかり。
主ならどうする」
静かな声は銀嶺のものだ。
「考察はございません。
私が行きます」
同じく静かに返す響河の背に、咲は驚いて視線を向けた。
「やめよ。
戦とは独りで行うものではない」
「しかし、この場で悠長に語らうほど時は優しくありません。
お義父上らしくない」
「ここではそう呼ぶなと申したであろう」
「失礼いたしました、銀嶺殿。
それでいってまいります」
響河は振り返ることもなく崖の上から飛び降りて行ってしまった。
「響河殿!」
慌てて後を追おうとした咲を、銀嶺は片手で制する。
見上げる先の思慮深い瞳が細められたのを見て、咲は視線を響河に戻し、踏み出した足を退いた。
「行き急ぐのは変わらんな」
ぽつりと聞こえた言葉が響河への言葉であるはずなのに、なぜか胸がどきりと音を立てる。
自分の事を言われているかのように錯覚した。
そんな事があるわけないのに、と心の中で自分に言い聞かせる。
崖下で土煙が立つ。
それだけのスピードを出せるほど、そして飛び降りてなお無傷でいられるほど、彼は歩法に長けている。
エリートと呼ばれるにふさわしい風格がにじみ出ている。
俄かにあたりの死神たちが騒ぎだす。
「だれだ、どこの者だ?」
「まて、あれは」
「もしやこ奴、朽木家の!」
藍色の霊圧が当たりを取り巻き始める。
始解をしていないにも関わらず、霊圧が凝縮して見えるほど溢れているのだ。
その才能は驚嘆に値する。
「敵だ、囲め囲め!」
反乱勢力が響河を倒すことに集中するのを機に、味方達はわらわらと逃げ始める。
滑稽なほどだ。
彼らはいつも言い聞かされているのだ。
ー響河が現れたら、彼の力の届かぬ所まで逃げろ。
迂闊に近付けば、待つのは……ー
「この刀にお前の瞳を映した不運を呪うがいい」
静かな声だからこそ、恐ろしく聞こえる。
「ひるむな、敵は独りだ!」
取り囲む敵にひるむことなく、響河は斬魂刀を構えた。
「囁け、村正」
繰り広げられた惨劇は、咲が今まで見た何よりも残酷な物であった。
「斬魂刀が言うことをきかん!」
「一体何のつもりだ?」
「勝手に斬魂刀が!」
己の斬魂刀に斬り殺される死神達の姿は壮絶で、目をそらすこともできない。
濃い血の香りが崖の上まで漂ってくる。
崖下はまるで花のように血飛沫がそこここで上がっていた。
「卯ノ花」
静かな銀嶺の声に我に返る。
震える唇が、言ってはならないと思いながら言葉を紡ぐ。
「……これが戦いでございますか」
咲の目も、銀嶺の目も、眼下の惨状から離されることはない。
「そうじゃ」
悼むような声に、咲は喉をひくつかせる。
「死にました。
たった一瞬で……何十人も」
銀嶺は静かに耳を傾ける。
「あの……あの響河殿の、手で」
頭を撫でてくれた、あの大きな手で。
稽古をつけてくれる強い手で。
その手は今、人を殺すためにある。
血飛沫の中央でただ1人無傷の彼は、冷たく辺りを見つめている。
「お前は、忘れてはならん。
自分の手が、人を殺すだけの力を持つことを。
それを恐れねばならん」
ーそれは卯ノ花隊長の望みだろうかー
木之元の言葉がよみがえる。
今日死した隊員たちは、いったいなぜ死神になり、誰のために死んでいったのだのだろうかと。
