斬魄刀異聞過去編
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「眠いね」
「うん」
「昼寝できる時間とれると良いんだ。」
3人は降りてくる瞼をこすりながら元字塾へと続く道を歩く。
ぼんやりと明るみ始めた東の空。
朝靄の中はひんやりと冷たくて、人気はない。
人を殺してから初めて迎える朝だ。
人を殺しても朝を迎えることができるのだと知った朝だ。
そして、自分が、思想のため、平和のためという理由で人を殺す道を選んだ、朝だ。
果たして本当にそれが正しいのだろうか。
誰にも答えは分からない。
きっと護挺は、今まで数え切れない死神を殺してきた。
平定のためと言って、殺し合ってきたのだ。
それが仕事。
それが任務。
それが、自分たちが目指してきたもの。
目の前で倒れた憧れの黒い死覇装。
それを殺したのは、自分だった。
目指してきたものを、目の前で殺す。
それが、己を目指してきたものだった。
「オッス」
ぼんやりと歩いていた3人の鼓膜を揺らすのは、明るい声だった。
「山本十二席……」
元字塾の門は開いていた。
右の柱で眩しく笑う姿に、3人は安堵のため息をついた。
「よぉ」
もう一人、門から出てくる。
灰色がかった銀髪が、きらきらと朝日に光る。
「獄寺十二席まで……」
2人の前で、3人は足を止める。
「おかえり。
それから、入隊おめでとな」
血だらけの3人を、山本は笑顔で迎える。
全てを知っているだろうに、彼はそんなところまで全部、受け入れていた。
何も言わない獄寺も、そうだ。
淡く笑って迎えてくれる。
これが、自分たちの選んだ道だ。
後戻りはできない。
目の前に居る2人の背中を追いかける事しか、選択肢はない。
3人は背筋を伸ばす。
そして、淡く笑みさえ浮かべて見せた。
その昨日は見せなかった大人びた姿に、十二席の2人は少し驚いた顔をする。
「ありがとうございます」
「ただいま帰りました」
「これからも、よろしくお願いいたします」
きりりとした表情に、朝日が射す。
蒼い顔も、朝焼けが少しだけ隠してくれる。
後輩達の、迷いと悲しみと苦しさを押し隠した強い瞳に目を細め、山本と獄寺はかわるがわる3人の頭を撫でまわした。
「お嬢さん、どうしましたか」
黒い死覇装が基本のはずの場所に、迷い込んだ桜色を見つけ、京楽は声をかける。
あまりに不用心だと思ったのだ。
反乱因子もいると言うのに、丸腰の女の子が歩いていたら、何をされるか分からない。
自分よりもいくらか歳下の女性は少し驚いたような顔をして、首を振った。
自分の隊の李小狼位の歳だろうか、と思う。
「あの、兄にお弁当を届けにきたんです」
花もほころぶようなその可憐さに、京楽はいい拾いものをした、と思う。
(久しぶりに楽しめそうだ)
「それはそれは」
京楽は少し大げさに驚いて見せた。
「どちらにお届けですか?」
「それが、迷ってしまって」
不安げに揺れる瞳。
何と純真な女性だろう。
護挺に居ると強い女が多く、こんなタイプに巡り会うことは滅多にない。
「ご案内いたしましょう。
ここもそれほど安全とは言えませんから」
それは誘い文句でもあり、事実でもある。
「本当ですか!」
嬉しそうな女の子に、京楽が優しく微笑んだところで。
「おーい、京楽」
後ろから声がかけられた。
「なんだい、いいところなのにぃ」
振り返った先に居るのは、浮竹と咲だ。
一緒に昼を食べる約束をしていたのである。
護挺に入ったら食事は別になるだろうと思っていた。
初めは寂しいだろうが、仕方がないだろうとも。
だが、1月経ってもこうして一緒に食事をしている。
なんとなく、互いが別に食べることを拒んでいるのだ。
休み時間は一緒に鍛錬をし、その後はまた別々に昼からの業務に戻る。
3人でいるのが一番安心するし、一番落ち着く。
それだけだった。
「なんだいはこっちの台詞だ」
頭を掻く浮竹は、容姿端麗の紳士だ。
目の前の美女を取られかねない。
「この方は?」
そんな彼の向こうから咲が顔を出す。
「お兄さんにお弁当を届けようとして迷子になったらしいんだよ」
鼻の下を伸ばしながら説明する京楽をそっちのけに、浮竹が女性の顔を覗き込んだ。
「だめですよ、こんな女たらしに騙されては」
その真剣な瞳に、寄せられた柳眉。
近づけられた顔に女性は恥ずかしくなったのか、こくこく、と頷いた。
「なんだい、君だって人の事言えないだろう」
その行為に裏がないことを知る京楽はため息をついた。
その背中を咲は慰めるようにぽんぽんと叩く。
「それにしても……お兄さんは何人かいらっしゃるんですか?」
尋ねる咲に、女性は首をかしげる。
「いえ、ずいぶん大きなお弁当だなと思ったもので」
そう言うと女性は頬を赤らめた。
上品な姿に、生まれはいいのだろうと思う。
「その……兄の同僚の方も、一緒にと思って」
その様子に咲と浮竹は顔を見合わせた。
(これはこれは京楽)
(残念だったな)
京楽も気づいたようで、固まっている。
「持ちましょうか」
ふわりと手を差し出す浮竹に、頬を更に赤らめ、女性はお弁当を渡した。
「あ、ありがとうございます」
その様子に、これはまだ押せば自分にも波が来るかもと、京楽は慌てて動きだした。
「で、何番隊に行きたいんですか?」
「八番隊です」
「えっボク八番隊だけど」
思わず敬語が抜ける。
「そうなんですか!
兄は木之本。
三席です」
その言葉に京楽は固まる。
「木之本三席の、妹さん……」
「はい!
木之本桜です」
そう言えば、妹を溺愛しているとかいう噂を聞いたことがないでもない。
浮竹と咲も苦笑を浮かべる。
京楽に三席の噂はかねがね聞いている。
厳しく、きちっとして、毒舌な男。
何でもできてしまう、できる男。
仏頂面がトレードマークの男。
「似てない……」
「おい」
「ですよね、よく言われるんです」
えへへ、と笑う様子は、あの仏頂面とは似ても似つかない。
「あっ!」
足元にあった段差に気がつかなかったのだろう。
転びかけた桜を、京楽が抱きとめる。
「あ、すみません!」
恥ずかしそうに頬を染める様子が愛らしい。
「いいよ、大丈夫かい?」
「はい、あの、ありがとうございます!」
「そんなそんな。
桜ちゃん、いい香りがする。
この香は、そうだな……
華崎屋の八重桜」
「すごい!その通りです。
どうして?」
「桜ちゃんのことなら何でもわかっちゃうよ」
鼻の下が伸びてしまうのは仕方ないだろう。
何せ京楽は大の女好きで、相手はここらでは見かけない美女で、その上自分の腕の中に居るのだ。
しかし、そんな幸せは長くは続かないもの。
「ほー。
何が分かるんだ、京楽?」
地を這うような声に、京楽が固まる。
「その手を離せ」
浮竹と咲が声の方を振り返り、道をあける。
そうすべき相手だ、当然である。
「すみ、ま……せん」
木之本三席の登場だ。
京楽は慌てて桜から離れる。
「お兄ちゃん!
助けてもらったのにそんな言い方ないでしょ!」
桜はと言えば、ぷんすかと兄に詰め寄った。
「何が助けてもらっただ、この怪獣。
来るときは連絡入れろって言っただろ」
「お兄ちゃんにお迎えにきてもらうなんて恥ずかしいから嫌!」
ぐさっと何かが三席の心臓に刺さったように見えたが、なにはともあれ、無事にお届けできた様子だ。
「じゃあ、俺達はこの辺で失礼します」
京楽も連れてこそっとこの場を離れようとする浮竹の言葉に、木之本の鋭い視線が飛ぶ。
もちろんその視線が向かった先は京楽で。
「お前は昼イチで俺の机に来い」
「……はい」
萎れた京楽の肩を咲が叩く。
そんな3人の姿をぼんやりと眺めていた桜が、あっ、と嬉しそうに顔をほころばせた。
「良かったら皆さんも一緒にどうですか?」
