斬魄刀異聞過去編
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「殺せ」
静かな一言に刃が咲を襲う。
振りあげられた刀を避け、一人離れた場所でにやりと笑う男を睨む。
(何故私を狙う?)
理由は分からない。
だが、反撃していいのだろうか。
反撃したら、自分こそ反乱因子とされるのだろうか。
あの男は新入隊員ではないのは確かだ。
どこの隊の所属かもわからないが、少なくとも自分よりは護挺で地位を確立している。
その彼に刃を向けたなら、きっと自分は反乱因子として裁かれるに違いない。
ではどうすべきなのか。
この人数と無傷でやりあうのは至難の業だ。
暗い夜空に真っ赤な火の球がうち上がったのが見えた。
あの霊圧は間違いない。
(京楽!!)
彼も同じ状況に陥っていると言うことに咲は気付く。
彼はおそらく助けを求めるために空に向かって鬼道を発したに違いないと。
まるでそれに応じる様に蒼い雷が爆発を起こした。
(浮竹!!)
だがその爆発は空に向けたものではない。
彼自身に何かあったのではないかと不安がかすめる。
それでもその鬼道に知恵を得た。
(そうだ、誰かに知らせれば!)
咲は左手を天に向けた。
「破道の六十三雷吼炮!」
その瞬間、何が起きたのか分からなかった。
身体がかぁっと熱くなり、居ても立っても居られない激痛に襲われる。
「うぁぁぁッ!!!」
喉から洩れる悲鳴。
目が眩むほどの閃光、そして地面に叩きつけられた。
「馬鹿な娘だ」
強烈な電撃に筋肉がびくびくと震え、自由に動かない。
朦朧とした意識の中で自分の頭が、踏みつけられた。
「結界術も見破れんとは先は知れているな。
この結界を破るだけの鬼道を発するとは想定外だったが。
己の力量不足をあの世で嘆くんだな」
嘲るような声が、どこか遠くで聞こえた。
3人ほど鬼道で気絶させたころ、見知った霊圧に京楽は振り返る。
「木之本三席!」
しかし彼はそこで腕を組んでじっと京楽を見ていた。
「お前がやれ。
心配はいらねぇ」
冷たい声が響く。
京楽は目を見開いた。
「敵を斬れと言っているんだ」
彼が自分の無実を証明してくれるという意味だろうが、その言葉の意味が京楽には恐ろしい。
「ほう。
冷たい上司、だな」
男は目を細めた。
京楽の刃は途端に鈍くなる。
「聞こえねぇか。
斬れ。
お前はいずれ、死神を手にかける。
死にたくないなら斬れ」
敵の刃が頬をかすめた。
血が吹き出す。
「一人口が利ける程度に生かしておけ。
それで十分」
一人を残して殺せ、と彼は言っているのだ。
木之本の目は、宴会場で見た優しさを片鱗でさえ見せない。
冷たく冷え切った瞳は、京楽を試していた。
(ボクは今まで何を学んできたんだろう)
敵の刀を受け流す。
殺気のこもった目が、京楽を映す。
「無理だ、彼には。
こちらも十二分に準備をしているのだから」
男にとって京楽が死ぬことが成功である。
その後彼自身が木之本に殺されることは、両者の霊圧から推測するに明らかだ。
だがその覚悟が、男にはある。
(そこまでして、何故ーー)
霊術院では虚の浄化の方法は学んだ。
同級生相手に鍛錬もした。
でも、人の殺し方は学んでいない。
迫る切っ先に大きく後ろに飛びずさると、肩から腰にかけて熱い衝撃が走った。
激しい痛みが襲う。
そしてようやく、背後から斬られたのだと気づいた。
敵は待ってはくれない。
彼らは自分を殺すために刀を振るっているのだ。
新入隊員の自分が、彼らを生かすために手加減をする余裕など、あるはずがない。
(ボクは、)
じくじくと、傷が痛む。
(ボ、クは、)
ーうじうじするのはおよしー
刀から声がする。
ー結論なんて、とうに出ているだろー
京楽は薄く笑った。
そうだ、そうなのだ。
この刀を握った時点で、この世界に入ると決めた時点で、結論は出ている。
親友を守ると言ったときに、その結論は出ている。
敵対する彼らもきっと同じ状況なのだ。
同じように迷い、自分の為、誰かの為に、闘いを選んだ。
死神本来の理念には反するそれは、敵味方関係なく、悪だろう。
振りあげられた銀をいなし、心臓を一突きにする。
敵の口から血が溢れ、顔にかかった。
そのまま敵の身体を倒して刀を抜いた。
「上等」
木之本が笑った。
爆発が納まり、まばゆい光から目が戻り、土煙が納まったころ、その中央に立っている白い頭に藤堂と大蔵は目を見開く。
バチバチと、まだ辺りに時折静電気が走っている。
月光が照らし出すのは、美しい白髪と、銀の二本の刀。
それをつなぐ赤い綱が繋ぐ5つの銀板だった。
その周囲に倒れ伏す死神達は、もう動くことはない。
地面をえぐり、木々を押し倒した爆発の跡は、浮竹を中心に半径1メートル程の先から始まっている。
つまりは、この惨状を起こしたのが彼だと言うことだ。
強さこそ美しいのだと、思わず生唾を呑む。
ゆっくりと白い頭が振り返る。
鳶色の瞳は、怒りに燃えていた。
「お前……」
目を開いたままの藤堂の頬を、風がかすめた。
その風は彼の背後へ飛んでゆく。
「許さんっ!!!」
その声が聞こえると同時に、大蔵はとてつもない殺気を感じ、大きく飛びずさるも、右肩から大きく袈裟がけに斬られた。
すぐに体制を立て直すも左足の腱をそがれ、立つこともできず、地に倒れ伏す。
大蔵は恐怖に襲われていた。
この、席はあるとはいえ末席の、しがない新入隊士に対し、なぜ九席の自分が手も足も出ず、こうして惨めに地に伏しているのだろうと。
そしてなぜ、自分に向かって2本の刃が今、振りあげられているのか、理解が追いつかなかった。
しかしそれは、寸でのところで止められる。
「君みたいな手がかかる部下、僕嫌なんだけど」
冷たい言葉が、大蔵の前でぽろりとこぼされた。
「これは殺しちゃだめだよ」
いったいこの男は何を言うのかという疑問は、俄かな生への希望と共に湧き上がる。
「ちゃんと事情を聴かなきゃ」
そう言って振り返る瞳は弧を描いており、絶望を意味していた。
十三番隊の副隊長の拷問の厳しさは聞き及んでいた。
三席の沖田に捉えられたのだ、受けることは間違いないだろう。
それならばあの新入隊士にでも殺されておけばよかったかもしれないと、身の毛がよだつ。
身体の自由が奪われた。
震えて俯く新入隊士の姿は、視界を遮るための布によって見えなくなった。
