斬魄刀異聞過去編
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「……ねぇ、なにこれ」
一歩先回りされた男はぴたりと足を止めた。
その止まる事が予定されていたかのような様子に、京楽は確信する。
(罠だ)
静霊挺のはずれのそこは小高い丘になっていて、町の様子を見ることができた。
間違いない、火の手は3つ上がっていた。
護挺の建物から見て西と南と、そして京楽のいた辺りは北にあたる。
3という数字に心当たりはないわけではない。
(自惚れでなければ、ボクと浮竹と咲、かなぁ)
むしろ勘に近いほどのものだけれど、どこか確信があった。
出る杭を打とうと画策している者たちがいることは聞かされていた。
だから元字塾で山本や獄寺達は京楽達を十三番隊隊長に会わせたり、塾内の死神と親交を深めさせたのだろうと理解もしていた。
反乱因子が、新入隊士を殺すなら、新たな関係性や土地勘を備えてしまうまでの方が簡単に決まっている。
襲うなら早ければ早い方が楽だ。
話題の入隊試験上位3人を殺せば、他の新入隊員達を怯えさせることもできる。
心理的に追い詰められれば、隊として統率も取りにくくなる。
圧力のかけ方として充分だ。
「ようこそ」
男はそう言ってにやりと笑った。
辺りに10人ほどの死神が現れる。
瞬歩ではない。
鬼道的な何かだと感じた。
足元に描かれた陣が、完全にここに罠を張っていたことを示している。
咄嗟だったとはいえ、放火犯を一人で追いかけるなど、判断ミスも甚だしいと後悔する。
せめて誰かに言ってから来るべきだった。
「恥ずかしくないの、新入隊員に10人がかりなんて」
「私はお前を確実に殺すにはこれだけ必要だと判断した。
それだけのことだ」
「達成率を高めるため、か。
腐ったプライドだね」
躍りかかる銀を、京楽は受け止めた。
(待つに限る)
自分が相手を傷つけて、その無実を証明する手段を京楽はまだ持たない。
入隊したばかりの若造が証言したところで、護挺の隊士を切りつけたとなれば唯では済まないだろう。
となれば、上司が助けに来てくれるのを待つのみだ。
「他の2人も、同じ目に遭っているのかな?」
試しにそう尋ねてみれば、離れたところでにやついている男が鼻で笑った。
「あいつらがうまくやったならな」
やはり浮竹達も同じ状況に置かれてはいるようだが、京楽を捕えた男達とはまた別の集団らしい。
あれだけ派手に火の手を上げているのだ。
正義感の強い浮竹と、すぐに敵に突っ込んでいく咲のこと。
まんまと罠にかかったに違いない。
しかしこのような事態は予想だにしていないようなことだろうか。
おそらく答えは否だ。
自分の直属の上司だけでなく、他の2人の上司も優秀に違いない。
注目の新入隊士が居ないことにもすぐに気づくだろう。
浮竹と咲のもとにも誰か助けに向かうはずだ。
(浮竹は真面目だから一言声をかけてから追いかけるだろうからなぁ……)
親友の笑顔が思い出される。
もう少しでも見習っていればよかった。
(今からでも居場所を知らせるべき、か)
天に向けて左手を掲げた。
遠くからでも見えるほど、大きな火の玉を打ちあげるために。
「破道の三十一、赤火砲!」
誰かが気づいてくれることを祈る。
怪我をしても誰かが気づいてくれさえすれば助かるはずだ。
取り囲まれそうになり慌てて飛び上がる。
何やら術式を発動したいらしい。
(これは気をつけないといけないねぇ。
とりあえず)
「花風紊れて花神啼き 天風紊れて天魔嗤う 花天狂骨!!」
刀を構える。
このほうが大人数とやり合うのには適しているのだ。
花天狂骨がにやりと笑うのが分かる。
もちろん、京楽自身もだ。
「さぁ、遊ぼうじゃぁないの」
放火犯らしき人物を見つけた浮竹は、すぐ隣に居た藤堂に声を掛け一緒に追いかけた。
しばらく追えば、そこは静霊挺の外れ。
「俺は回り込む。
お前は後ろからだ」
藤堂の言葉に浮竹が頷く。
次の瞬間、藤堂の姿は消えた。
空き地に藤堂が見える。
その手前に男が止まり、浮竹も足を止める。
「放火したろ。
言い逃れはできねぇ」
「……藤堂七席も一緒でしたか」
男は静かにそう言うと、苦々しげに笑った。
まだ若く見える男は、藤堂と同じくらいの歳だろうか。
「貴方と殺り合いたくはなかった」
「俺もだよ、大蔵」
苦しげな言葉に、旧知だろうか、と思う。
だがその疑問を深く考えている場合ではない。
10人程の男たちが浮竹を取り囲んだ。
瞬歩ではないところを見ると、鬼道系の術式だろう。
大蔵と呼ばれた男は刀を抜いた。
死神達に取り囲まれた浮竹は双魚理の柄を握り締める。
「おい浮竹」
「はい」
その死神達の向こうから、藤堂が勝気な目を鋭く細めて、強く言った。
「死ぬなよ」
浮竹は返事の代わりに抜刀した。
同時に周囲の死神達が襲いかかる。
藤堂も大蔵と刀を交え始めた。
浮竹は咲の動きを思い出し、一人目の男を峰打ちで気を失わせる。
刀をよけながら伏火を見えないように張りめぐらして行く。
耳に飛び込んできた詠唱に、浮竹は咄嗟に高く飛び上がった。
「「破道の三十三、蒼火墜!」」
左右から同時に放たれた電撃を足の下で見、その間に上から降りかかってくる刃をはじき返してなんとか着地する。
本当はもう少しまとめてから発動したかったが、そうもいかないようだ。
霊圧を指先に込め、短く叫ぶ。
「破道の十一、綴雷電!」
伏火に触れていた二名が電撃に耐えきれずに倒れた。
これで三人はしばらくは戦闘に復帰できないはずだ。
だがあと七人残っている。
一度使ったこの手はもう使えないから、簡単に気絶させることは難しくなった。
「破道の三十一、赤火砲!」
放たれた鬼道をかわし、瞬歩で背後に回り込む。
それを見抜かれていたか背後から襲いかかられ、慌てて受け流し、大きく跳んだ。
受け止めている間の背後が一番危ないのだ。
「なんで反撃しねぇんだ!
斬れっ!」
かわしてばかりいれば藤堂から怒声が飛ぶ。
耳に痛い言葉だ。
それでも、どうしても刀で相手を刺す気にはなれない。
目にちらつくのは、遠い学院の日、山上家で見た無残な死体達だった。
「どうやら新入隊士殿はずいぶんと優しいようだ」
藤堂と鍔迫り合いをしている大蔵が楽しげに笑った。
しかしそれに構っていられる状況でもない。
また前後から敵が襲いかかってくる。
浮竹は姿勢を低くし、刀を構えた。
「始解できんだろ!
早くしろ!」
その言葉に反論もできず、ただ相手を斬りつけることもできない。
唯分かるのは。
(このままだと俺は死ぬ)
敵の刀の切っ先が肩を切り裂いた。
姿勢を低くし、足に鞘を差しこんで転ばせ、背後から峰打ちをする。
(斬るか、斬られるか)
その浮竹を狙って突きだされた刃に気づき咄嗟に避けるも、脇腹をかすった。
赤い血が辺りに舞う。
「死にてぇのか!」
罵声は刀を受け止めながら聞く。
ギリリと奥歯を噛みしめ、痛みに耐え、なんとかはじき返した。
すぐに身をひるがえし、背後から襲いかかる敵の刀を受け流してを蹴り飛ばす。
「この馬鹿ッ!」
藤堂の罵声に続き、足に、腕に、鎖状鎖縛が巻きついた。
「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ」
続く詠唱に浮竹は目を見開いた。
鎖状鎖縛を放っている男意外の五人が浮竹を取り囲み、詠唱しているのだ。
五人の蒼火墜を同時に受けたら、いくら霊圧を高めたところでひとたまりもない。
(まずい!)
藤堂は大蔵を振り払い助けに向かおうとするが、敵の攻撃は止むことはない。
「私は彼を殺すことが仕事です!」
「くそっ!」
藤堂が焦ろうとも、詠唱は止まらない。
自分を睨みつける敵の目は、殺気が溢れている。
(だめだ、)
「真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ!」
藤堂は鍔迫り合いをしたまま叫ぶ。
「浮竹、殺せッ!」
(殺されるッ!!)
鬼気迫る罵声に、浮竹は息を吸い込んだ。
「波悉く我が盾となれ、雷悉く我が刃となれ 双魚理!」
二双一対の刀が、体に巻きついた鎖を砕く。
その高い霊圧に、鎖状鎖縛を放っていた死神は目を見開いた。
「破道の三十三、蒼火墜!」
5つの声が木霊し、辺りがまばゆいほどに輝いた。
「浮竹ぇッ!!!!」
藤堂の絶叫が響く。
大蔵は満足げに笑った。