斬魄刀異聞過去編
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「まさかお前がうちの班になるとは」
響河の嬉しそうな言葉に、彼の手前であるからか他の隊士達も笑顔を浮かべている。
だがその表情の硬さから、到底受け入れられないという彼らの思いは明白であった。
長机に並ぶのは六番隊第一班の面々だ。
響河が率いるその班に、新入隊士ではただ1人咲が配属となり、彼の隣に座している。
見学会の時に待っていると言ってくれた班員達も、表情を見る限り、やはり咲が更木出身であることに戸惑いを隠せないのだろう。
特に第一班といえば、どの隊でも名実ともに兼ね備えた者が配属されるもの。
六番隊は厳しい隊風からも、誰もが何をとっても恥ずかしくない者が配属されていた。
入隊とともに配属される事は珍しく、さらに言うなら上流貴族卯ノ花家の養女になったとはいえ、更木育ちが配属される場所ではない。
世間知らずとはいえ、さすがの咲も班のメンバーを見ただけで、自分が場違いなところに配属された自覚はあった。
「その節はご迷惑をおかけいたしました……」
いたたまれなくて萎れる咲の頭を響河がわしゃっと撫でる。
その感触が、あの迷子の日と同じで懐かしい。
貴族であるはずの彼がこれほどまでに気易く咲に触れることが不思議だ。
更木出身であることは変えがたい事実。
彼も知っているに違いない。
(学院の同級生たちは話すことさえ避けていたのに)
「気にするな。
お前のおかげで捕獲できたとも言える」
響河は明るい笑顔に、咲はもじもじと俯いた。
貴族社会で生きる響河にとっては、初々しい姿がひどく好ましく映る。
宴会会場となったのは、静霊挺内の料理屋だった。
てっきり高級店で静々と食べると思いきや、ごく普通の店で、咲は人知れず安堵のため息をついた。
しかし普通と言えども、やはりそこはかとない上品さを感じる店内。
気のきいた一輪ざしやこだわりの食器が温かな宴を演出している。
料理も家庭的な味ではあるが、卯ノ花家の料理人と比べても何ら遜色はなく、器や盛り付けにもこだわりが見てとれる。
自然と、そして穏やかに会話は弾む。
咲以外の新入隊員達は、すっかりなじんだようだった。
その中で一人、口を結んだままの男がいた。
「なぁ、
お前もあの時いたよな?」
隊員が話を振ると、不機嫌そうに酒を煽った。
「……ああ」
不機嫌な霊圧を垂れ流しているのはわざとだろう。
「……お前、霊圧に当てられてはいないか」
小声で隣の席の響河が尋ねてくれる。
咲は首を振った。
「大丈夫です」
「ならいい。
悪いな。
あいつは志波朱鷺和という。
十二席だ」
志波家と言えば五大貴族。
咲でも彼の名前は知っていた。
確か三男だった覚えがある。
そして彼が不機嫌な理由に見当はついている。
(私が気に入らないのだろう)
自分を蔑んだクラスメイトと同じ目をしている。
宴は楽しく続いているが、咲と志波の間には冷たい何かが立ちはだかっているようだった。
「おや、お譲ちゃん」
その壁を崩すかのように、中年の女性の顔が視界に飛び込む。
どうやら新しい料理を運んできてくれたらしい。
「まだ若い女の子なのに護挺に入隊かい。
すごいねぇ」
くしゃっと笑ってくれるから、咲はどこか恥ずかしくなった。
いまだに人に褒められることにはなれない。
「ありがとうございます」
小さな声で口早に返事をする。
「でも六番隊なら安心だねぇ」
その言葉に咲は首をかしげる。
「隊によっては……ちょっとねぇ」
響河が困ったように頷いた。
「すみません、お世話をおかけして」
そして咲に顔を向けた。
表情はどこか暗い。
「中には荒れている隊もある。
気をつけることだ」
反乱因子のことだろうか。
咲にはまだよくわからないが、はい、と頷いた。
響河は静かに微笑むと女性に顔を向けた。
「サトさん、やはりここの料理はおいしいですね」
「おや、ありがとう。
朽木家の婿殿に言われると私達も嬉しいよ」
今頃京楽や浮竹も同じように宴に呼ばれているのだろうか、と思う。
明日から業務だから、京楽は飲みすぎないように気をつけているだろうか、元字塾に帰ったら酔い覚ましでも飲ませなければ、と心配をすれば、少しだけ心が軽くなった。
宴も
他の人は気づくことはないだろう微かな霊圧の変化だった。
これだけ霊圧の溢れる場所、それも騒がしい宴会場だが、咲は感じた。
野生の勘が、その霊圧の放つ攻撃性を捕えたのだ。
「……燃えている」
鬼道を遣って火をつけた。
間違いない。
一瞬の霊圧の変化の後、確かに聞こえるのだ。
騒音に交じって、微かにパチパチと何かがはぜる音。
料理と酒の匂いにわずかに混じる何かが燃える匂い。
「……どうした?」
咲のただならぬ気配を認め、その直感を真っ先に信じたのは、響河だった。
その真っ黒な瞳が、彼を見つめ返す。
「火が燃えています!」
泥酔状態の隊士も多い。
彼女の言うことが本当ならば早急に避難する必要がある。
「見てきます!」
止める間もなく座敷から飛び出した。
下の階に降りると、走ってくるサトの姿を見つけた。
彼女の後ろからは店の主人であろう人が走ってくる。
「あっちで火が!」
咲も2人を追いかけて走る。
そして店の食糧庫であろう部屋で、主人が目を見開きぽつりと呟く。
「……終わりだ」
咲の瞳に映り込む炎。
赤々と燃え盛り、最早手のつけようもない。
柱が落ちてくる音に、主人ははっと我に返る。
「お前はすぐに火消しに連絡を!」
サトさんは駆けだした。
その後を追うように主人が咲の背中を押す。
「仲間とすぐに逃げてくれ!」
鬼気迫る声。
火は舐めるように天井や壁を這い、あっという間に咲達を追いかけてくる。
「これはっ!?」
追いかけてきた響河が目を見開く。
「火事だ、逃げてくれ!」
店主の言葉に響河が隊員達を屋外に連れ出す。
咲はその流れに乗らず、じっとあわただしい店内で炎を見つめた。
目の前ではどんどん店が焼けていく。
おいしかった料理も、気のきいた一輪ざしも、全て。
咲は手を握りしめ、辺りを探る。
発火する時に感じたものと同じ霊圧がどこかにないか、どこかにーー
「馬鹿!
早く逃げろ!」
志波がその肩を掴んだとき、咲は目を見開いた。
(あった!)
咄嗟に駆けだす。
「おい!」
呼びとめられたが構ってはいられない。
この店を焼いたのだ。
相手を捕らえる理由は充分だった。
その霊圧は咲が路地に顔を出すとぱっと身をひるがえした。
追われていることに気づいたのだろう。
鬼道で火を起こした時点で、死神の可能性が高い。
(となれば、反乱因子だろうか)
見学会の際に襲われたことが蘇る。
同じ黒い衣に身を包む者と殺り合うあの、絶望に似た感覚。
更木で残党と戦っていた時とは違う。
あの自分の崇高なものが汚されたことに対する怒りのような感情が、湧き上がる。
そもそもあの店を焼く必要があったのだろうか。
あの温かい場を、焼き払う必要が、どこに。
(まさか六番隊の隊員を火災に巻き込んで殺すつもりで?
いや、それは失敗する可能性の方が高い)
酔っ払おうと死神は死神だ。
仲間もいれば助けてももらえる。
火災を起こす理由にはならないだろう。
(捕まえて聞きだすしかない)
京楽や浮竹がいれば何かいい答えを思いつきそうだが、自分にはそれが一番手っ取り早い。
静霊挺の外れで、咲は相手の進路をふさいだ。
そこに居たのは中年の男で、そしてやはり、死神だった。
「なぜ火をつけた?」
咲の問いかけを、男は鼻で笑った。
「お前をここに呼び寄せるためだ」
あっさりと聞かされた予想外の答えに咲は目を見開く。
辺りに突如として死神が現れた。
ざっと10人。
瞬歩で現れたわけではない。
何か鬼道的な術でここに連れてこられた。
つまりこれは、完全に罠だ。
咲は腰に差した斬魂刀、
