墨染桜編
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「こんな……こんなはずじゃ……」
呆然と立ち尽くす月島はあまりに痛々しい。
彼の力は特異で強大だ。
家族の愛情を求めただけなのに、こんな辛い結果を招いてしまう程までに。
彼を守っていけるのは、自分しかいないと、銀城は手を握りしめ、それからその手を開いて月島に差し出す。
彼の力は諸刃の剣だ。
それを身をもって学んだ彼は、同じ失敗を2度と繰り返すことはないだろう。
自分の手を取る小さな手を、力強く引き寄せ、咲の元に月島を抱き寄せる。
銀城の腕の中で、2人はーー否、3人は泣いていた。
「戻せ、月島」
「嫌だ!もう家族だよね、僕たちは!
家族なんだよ!!だからっ」
ふと急速に近づく霊圧に、銀城と咲は顔を見合わせ頷きあう。
「俺たちを……彼女を戻せ!」
「嫌だ!放せってば!!」
銀城は嫌がる月島を力づくで抱え、刀を構えさせる。
「嫌だぁぁぁぁ!!!
僕は3人で家族に、本物の家族になりたいんだ!!!」
「彼女を殺す気か!!!」
銀城が怒鳴り、月島がはっとふり仰ぐ。
銀城の視線が咲に向けられ、それを追いかけた月島が咲の涙を溢れさせる笑顔を認めた。
結末は決まっていた。
咲は涙を拭い、刀に飛び込む。
刀が咲の身体を貫通した生々しい感触に、月島硬く目を閉じて身体を強張らせる。
何かを斬ると言うことがこれ程恐ろしいと思った事はなかった。
「秀九郎さん、私達は家族だ。
貴方が愛おしくて愛おしいくてたまらない」
銀城の、彼女の死を予感させる言葉に、彼を信じ、完現術を解いたのは自分だ。
恐る恐る目を開ける。
震える自分の身体を抱きしめる、母とも姉とも慕った人。
心が震えるほど求めていた言葉であるのに、絶望に震えが止まらない。
優しい手が頬を包んだ。
「自分のこの幸せを犠牲にしても守りたい、愛おしい子。
どうか、どうか生きてーー」
次の瞬間、銀城は月島を抱え、姿を消した。
部屋の中央で刀を引き抜かれた咲は、支えを失ったかのように力なく座り込んだ。
あまりに混乱していた。
作り変えられた過去のこと、その上で親しい間柄となった銀城と月島のこと、彼らの関係にすり替えられてしまった大切な人達のこと。
2人を愛おしいと思った感情さえもが作り物なのだとしたらーーそれを否定したい気持ちが強く、とてもではないがまだ受け入れられそうにない。
溢れる涙が床にパラパラと落ち続ける。
頭を抱え、力なく床に伏した。
「咲っ!」
ぴくりと身体が跳ねる。
その声に誰がここに現れたのか悟った。
彼が誰を捕らえようとしていたかも、自分が呼び寄せてしまったことも、後一歩間違えれば大切な人たちが殺し合っていただろうことも。
そして何より、銀城へと書き換えられた記憶の多くが浮竹や京楽に関する物であったことから、自分の彼らへの感情の在り方をあまりにも明白に突きつけられた形となった。
「おい!しっかりしろ!」
「やめて……」
抱き起こされた咲は思わず両腕で彼を突き放し、背を向けた。
こんな拒絶は初めてで、浮竹は唇を噛んだ。
自分の過去を知られたのだろうと、そう思った。
遥か彼方に遠ざかる気配は確かに、記憶にある懐かしい者だ。
かつて自分が鍛え、見込んだその速さに、今からでは追いつかないことは明白だ。
ーー忘れもしない彼女が虚圏に行っている間に起きた事故と大きな事件。
彼女にいつか伝えようと思いつつ、伝えられずにいた過去だ。
まさか彼女とあの男が接触することになろうとは。
早くに伝えていればこうはならなかっただろうと思うと、恐ろしく胸が痛み、どす黒い感情に支配される。
目の前で震えて泣く痛ましい姿が、あまりに純真で美しく、健気で憎らしく、そして何より愛おしい。
彼女への想いはいつもとても一言で表せる物ではないく、どれほど言葉を積んでも足りないような渇きがある。
震える細い背中に、己の感情と理性とのせめぎ合いの中、恐る恐る近寄り覆い被さるように抱きすくめる。
振り払おうとするそのか弱い力さえ憎らしいが、抱きすくめると決めた以上、逃すつもりはない。
「あいつに何を聞かされたのか知らないが……俺からも話をさせてくれ」
絞り出すような声に、項垂れる咲は抵抗をやめ微かに頷いた。