墨染桜編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
確かに数日前から白哉の様子はおかしかった。
他隊士であれば気づかない程度であろうが、機嫌が悪く、何かよく考え込んでいる。
理由はおそらく、この緋真の件だろう。
白哉の事だ、軽い気持ちで言ったわけではあるまい。
緋真の話によれば既に銀嶺にも相談済みで、銀嶺は当然難色を示した。
貴族にとって結婚というのは、誰にとっても決して簡単な事ではない。
中でも四大貴族に平民が嫁ぐ事に生じる責任と、それによっる苦難がどれほどのものか。
簡単に乗り越えられるようなものではないことは明白だ。
次期当主白哉、そして現当主銀嶺にとってもさまざまな視線が向けられることだろう。
そして当の本人緋真の病身は、その心労に果たして耐えうるだろうか。
思慮深く年を重ねた銀嶺は、決して朽木家の為だけを思って反対したわけでは無いだろう。
「いくら治療しても体が弱い事に変わりはありません。
長く生きることは望まれないでしょう。
だから、軽い気持ちで妻になどと言われるのでしょうか。
私が死んだら後妻を娶れば私の事など世は忘れると……」
緋真は震える声でそう言うと布団で顔を隠した。
「死ぬまであの方に汚名を着せ続けるの……そんなの、耐えられない」
咲は言葉を探しあぐねていた。
「ねぇ咲さん、恋とは、何でしょう。
愛とは何でしょう。
私が白哉様と過ごしてきたこの年月は、何だったのでしょう。
この想いが明るみに出れば、二度と会えなくなる。
私はただ会えさえすれば良いと、必死に想いに蓋をしてきたのに。
白哉様のために押し込めた想いであったのに。
命さえ諦めたのに!!」
痛々しい啜り泣きに咲は目を伏せる。
彼女の言葉は他人事とは思えず、胸が締め付けられる思いがした。
枕元にはある一本の簪が目に止まる。
彼女がつけるにはもう些か子供らしい兎の簪。
使い古されているが、大切にされてきたことが分かる。
白哉が昔、彼女に贈ったものだ。
30年も、昔に。
「緋真さんは、白哉様が……」
その先は言葉にならなかった。
あまりに明白な想いだからだ。
そしておそらく、白哉の方も緋真に対して深い想いがあるのだろう。
ただ不器用なだけだ。
頑固で意地っ張りですぐ熱くなったあの幼い頃の白哉は、やはり今でも彼の心の中に息づいている。
下手に誤魔化そうとするからこうして揉めてしまうに違いない。
そしてこの拗れの原因の一つが、蒼純を失った際に自分が白哉をけしかけた事であろうと咲は思った。
震える布団の、頭と思しきあたりにそっと手を添える。
「話はわかりました。
私の方でも少し動いてみますから、あまり思い詰めずに。
体に障ります」
「……はい」
小さく頷くのが布団越しに伝わってくる。
咲は緋真が寝付くまで、その頭をそっと撫で続けた。
他隊士であれば気づかない程度であろうが、機嫌が悪く、何かよく考え込んでいる。
理由はおそらく、この緋真の件だろう。
白哉の事だ、軽い気持ちで言ったわけではあるまい。
緋真の話によれば既に銀嶺にも相談済みで、銀嶺は当然難色を示した。
貴族にとって結婚というのは、誰にとっても決して簡単な事ではない。
中でも四大貴族に平民が嫁ぐ事に生じる責任と、それによっる苦難がどれほどのものか。
簡単に乗り越えられるようなものではないことは明白だ。
次期当主白哉、そして現当主銀嶺にとってもさまざまな視線が向けられることだろう。
そして当の本人緋真の病身は、その心労に果たして耐えうるだろうか。
思慮深く年を重ねた銀嶺は、決して朽木家の為だけを思って反対したわけでは無いだろう。
「いくら治療しても体が弱い事に変わりはありません。
長く生きることは望まれないでしょう。
だから、軽い気持ちで妻になどと言われるのでしょうか。
私が死んだら後妻を娶れば私の事など世は忘れると……」
緋真は震える声でそう言うと布団で顔を隠した。
「死ぬまであの方に汚名を着せ続けるの……そんなの、耐えられない」
咲は言葉を探しあぐねていた。
「ねぇ咲さん、恋とは、何でしょう。
愛とは何でしょう。
私が白哉様と過ごしてきたこの年月は、何だったのでしょう。
この想いが明るみに出れば、二度と会えなくなる。
私はただ会えさえすれば良いと、必死に想いに蓋をしてきたのに。
白哉様のために押し込めた想いであったのに。
命さえ諦めたのに!!」
痛々しい啜り泣きに咲は目を伏せる。
彼女の言葉は他人事とは思えず、胸が締め付けられる思いがした。
枕元にはある一本の簪が目に止まる。
彼女がつけるにはもう些か子供らしい兎の簪。
使い古されているが、大切にされてきたことが分かる。
白哉が昔、彼女に贈ったものだ。
30年も、昔に。
「緋真さんは、白哉様が……」
その先は言葉にならなかった。
あまりに明白な想いだからだ。
そしておそらく、白哉の方も緋真に対して深い想いがあるのだろう。
ただ不器用なだけだ。
頑固で意地っ張りですぐ熱くなったあの幼い頃の白哉は、やはり今でも彼の心の中に息づいている。
下手に誤魔化そうとするからこうして揉めてしまうに違いない。
そしてこの拗れの原因の一つが、蒼純を失った際に自分が白哉をけしかけた事であろうと咲は思った。
震える布団の、頭と思しきあたりにそっと手を添える。
「話はわかりました。
私の方でも少し動いてみますから、あまり思い詰めずに。
体に障ります」
「……はい」
小さく頷くのが布団越しに伝わってくる。
咲は緋真が寝付くまで、その頭をそっと撫で続けた。