墨染桜編
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「流魂街の娘に医療を、と。」
銀嶺の渋い顔は予想通りだ。
「はい。
彼女の病には医者の手が必要ですが、奉公先ではその負担は重すぎると聞きました。
また町医者の手には負えないとも。
ならば松本先生に頼んでーー」
「ならぬ」
銀嶺に遮られ、白哉は柳眉を顰める。
「ただ1人の命救うことに何の躊躇いがありましょう」
「ただの1人の命だからじゃ」
他に同じく病で苦しむものがあれば助けるのかと言うことを言われていることは分かった。
朽木家の御典医も無償ではない。
流魂街の住人のための無料診療所を提供することは朽木家の使命ではない。
流魂街の為に医療を提供することは朽木家の財力をしても、御典医の力をしてもおそらく可能である。
だがそれは死神としての強い力を持つ朽木家よりは、中流ではあれ医療に長けた人材を多く輩出する山田家や虎徹家の領分であり、それを侵すことは貴族の家の関係として適切ではない。
「力を勘違いするな」
「……では彼女が朽木家の者ならばいいと仰るのですね」
「愚かな事を言うな、養子は貴族から迎えるのが慣わし」
「私の妻ならば問題あるまい」
「次期当主の婚姻の意味を理解しての発言か」
白哉は眉間の皺を深くした。
「では人の命の意味は如何か」
「ならん、お前は朽木を背負う身!」
「貴方が何と言おうと私は彼女を妻とする」
「掟に背く気か」
「人命よりも尊い掟などありはしない」
「愚か者!!
何のために定められた物か考えよ。
貴族が血を混ぜるなど」
「子を成さねば問題あるまい」
銀嶺は一瞬言葉を失った。
白哉の頑固者で熱くなりやすい性格が、まだ健在であったのだと思い知らされたのだ。
だが子の不幸を願う親など1人もいない。
この結婚は、一瞬の幸せの為だけであるというのは容易に想像でき、それ故に銀嶺は再び口を開いた。
「立場を弁えよ、お主はこの朽木家を繁栄させる事も使命であるぞ」
「自分を支え、大切なものを何度も教えてくれた者1人救えないで当主も何も無い!」
「女に溺れ己が使命を忘れたか白哉!」
「私は使命のために大切な者を失いたくはない。
貴方の様に、己の子の人生を使ってまで遂行するようなことなど!!!」
それが蒼純と霞大路
白哉は霞大路家の件で
そこから疑問を持ち過去の報告書を調べる事は想像に容易い。
孫の鋭い眼差しに銀嶺は口を噤む。
全てを知っていながら、蒼純の思いを尊重して婚姻を許したなど言えるはずがなかった。
蒼純が生きていた間は調査の手を入れることもなかったなど、言えるはずがない。
それは己の死神としての使命を軽視した、息子への甘やかしの行為に他ならない。
誰よりも厳しく、心の強さを訴える自分が、矛盾した行為をとっている自覚はあった。
それは全て伏せ隠し通し、墓まで持っていくつもりの真実であった。
例えそれを孫が誤解しているとしても。
「貴方は息子の未来を、霞大路家の闇を暴くために使ったのだろう!」
荒々しく攻め立てられるのも自分が負うべきものだと、立ち上がり孫に背を向けた。
「ならんものはならん」