墨染桜編
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「やぁ」
ふと声をかけられふり仰ぐと、塀の上に派手な桃色の着物が見えた。
微かに細められた目にどこか色気がある彼は、笠に左手を添え咲を見下ろしている。
「お疲れ様です」
「誰もいないよ」
「……うん」
そう返すと京楽は音もなく咲の隣に降り立った。
「仕事は終わったのかい」
「うん、早めに片付いて」
「それならどうだい、ひさしぶりにお茶でも」
「でも京楽は?」
「まぁボクの仕事なんてあるようでないようなもんさ」
それは違うだろうと思い、なんと答えるべきかと考えているうちに手を取られ、気づけば瞬歩で彼の家の離れの前まで来ていた。
「君はなかなか捕まらないからね」
片目を軽くつぶっておどけて見せるので、#咲も思わず微笑んだ。
彼の深い気遣いは、あまりに心地よい。
胸の奥まで温まる。
思えば昔からそうだ。
京楽と浮竹の2人は、いつも咲のことなどお見通しで、冷えた心を温めてくれる。
崩れそうな心を支えてくれる。
低く静かな笑い声を立ててから、彼は手を引き奥へと進む。
質と品の良い造りの建物は、彼らしい。
「どこへ?」
「……いつも通りボクの部屋さ」
いつも通りとは何だろう。
僅かな戸惑いを察知したのか、京楽は立ち止まった。
「どうしたんだい?」
戸惑いの理由を説明できない。
京楽はこれ程までにこれからのことをいつも通り だと信じて疑わないのに、咲にその、いつも通り は存在しない。
京楽が自分を騙そうとしているとは咲には到底思えなかったし、理由も思い当たらない。
では、この違いは何だ。
そして彼は、自室で何をしようとしているのか。
ーー咲と2人で。
優しく、でも抵抗を許さない強さで壁に押し付けられる。
驚き見上げた瞬間、彼の分厚く柔らかな唇が触れ、思考が中断される。
その微かな触れ合いに、震えが走る。
濡れた感触が、柔らかく唇を食む。
思わず息を詰めた。
ざらりとした舌に唇を舐められ、今度は吐息が漏れる。
ーー知っている。
ふと咲は我に帰った。
空悟という存在が居ながら、自分は一体何をしているのかと。
蒼潤の死を受け、折れそうだった心を繋いでくれた空悟という愛する人がいながら。
だが同時に、京楽との口付けが初めてではないような気がした。
そして先日交わした空悟との口付けへの違和感。
触れ慣れているはずの空悟の唇より、男女の関係にないはずの京楽の唇の方が、馴染んでいる。
何故ーー?
その戸惑いの視線を受けた男は、一瞬驚いた顔をして、それから少し寂しそうに微笑んだ。
じっと咲を見つめてからおもむろに耳元に唇を寄せ、低い掠れ声で囁く。
「ボクを斬り捨てるなら今だ。
だがその覚悟がないならーー迷いは忘れておくれ。
彼も知っての事だ」
かかる吐息の熱さに身をよじる。
その首元に唇が這い、思わず声が漏れた。
京楽の言う彼 が誰を指すのかという淡い疑問は、その吐息と共に、消えてしまった。
ふと声をかけられふり仰ぐと、塀の上に派手な桃色の着物が見えた。
微かに細められた目にどこか色気がある彼は、笠に左手を添え咲を見下ろしている。
「お疲れ様です」
「誰もいないよ」
「……うん」
そう返すと京楽は音もなく咲の隣に降り立った。
「仕事は終わったのかい」
「うん、早めに片付いて」
「それならどうだい、ひさしぶりにお茶でも」
「でも京楽は?」
「まぁボクの仕事なんてあるようでないようなもんさ」
それは違うだろうと思い、なんと答えるべきかと考えているうちに手を取られ、気づけば瞬歩で彼の家の離れの前まで来ていた。
「君はなかなか捕まらないからね」
片目を軽くつぶっておどけて見せるので、#咲も思わず微笑んだ。
彼の深い気遣いは、あまりに心地よい。
胸の奥まで温まる。
思えば昔からそうだ。
京楽と浮竹の2人は、いつも咲のことなどお見通しで、冷えた心を温めてくれる。
崩れそうな心を支えてくれる。
低く静かな笑い声を立ててから、彼は手を引き奥へと進む。
質と品の良い造りの建物は、彼らしい。
「どこへ?」
「……いつも通りボクの部屋さ」
いつも通りとは何だろう。
僅かな戸惑いを察知したのか、京楽は立ち止まった。
「どうしたんだい?」
戸惑いの理由を説明できない。
京楽はこれ程までにこれからのことを
京楽が自分を騙そうとしているとは咲には到底思えなかったし、理由も思い当たらない。
では、この違いは何だ。
そして彼は、自室で何をしようとしているのか。
ーー咲と2人で。
優しく、でも抵抗を許さない強さで壁に押し付けられる。
驚き見上げた瞬間、彼の分厚く柔らかな唇が触れ、思考が中断される。
その微かな触れ合いに、震えが走る。
濡れた感触が、柔らかく唇を食む。
思わず息を詰めた。
ざらりとした舌に唇を舐められ、今度は吐息が漏れる。
ーー知っている。
ふと咲は我に帰った。
空悟という存在が居ながら、自分は一体何をしているのかと。
蒼潤の死を受け、折れそうだった心を繋いでくれた空悟という愛する人がいながら。
だが同時に、京楽との口付けが初めてではないような気がした。
そして先日交わした空悟との口付けへの違和感。
触れ慣れているはずの空悟の唇より、男女の関係にないはずの京楽の唇の方が、馴染んでいる。
何故ーー?
その戸惑いの視線を受けた男は、一瞬驚いた顔をして、それから少し寂しそうに微笑んだ。
じっと咲を見つめてからおもむろに耳元に唇を寄せ、低い掠れ声で囁く。
「ボクを斬り捨てるなら今だ。
だがその覚悟がないならーー迷いは忘れておくれ。
彼も知っての事だ」
かかる吐息の熱さに身をよじる。
その首元に唇が這い、思わず声が漏れた。
京楽の言う