墨染桜編
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「空吾、久しぶり」
黄昏時、声がした。
銀城が振り返ると僅かな夕日が眩しく、木の幹から現れた影は逆光で顔が見えない。
だがその気配が穏やかに微笑むので、銀城も口の端を上げた。
「おう、元気だったか?」
ゆっくりと近づいてくるにつれ顔が見えてくる。
「咲」
そっと名前を呼ぶと彼女ははにかんだ。
会うのは2週間ぶりだ。
かれこれ20年近い付き合いになると
初めこそ死神である彼女に嫌悪感をいだいていたが、いつしか憎しみは愛情に変わっていった。
彼女の純粋さと、それ故に仲間である死神に苦しめられ続けているということが、愚かに思えるほど痛々しく、だからこそ救ってやりたいと思ったのだ。
何より彼女の悲劇を牛耳るのは恐らく、あの男ーー浮竹十四郎である。
100年前、銀城に初代死神代行として代行証を与え、そして利用し、力を奪った男。
その後手に入れた完現術の力を持つ仲間達さえ、皆殺しにした男。
誰よりも明るく、影のないような美しい顔をして、どれ程の人を騙してきたのだろう。
相手を思いやり、情に篤いと思わせるあの口車と冷酷な刃で、どれ程の人を殺めてきただろう。
彼と仲間になれると思った自分が浅はかであった。
それまでの特異体質による孤独から彼ならば救ってくれるだろうと思った自分が、愚かであった。
やはり生きてきた年月が違えば、仲間になどなれるはずがない。
既に数百年生きてきたあの男にとって、当時20年ほどしか生きていない自分など赤子に等しかったに違いないと、人外の長命を得た今なら分かる。
ーーではなぜ、彼と同属の咲と恋仲になったのか。
初めて彼女に出会ったのは、虚との戦闘で負傷した時だった。
彼女は命をかけて守ってくれた。
自分を殺す気だろうと尋ねれば首を振り、悲しそうに微笑んでいた。
あの瞳に嘘はないと、直感した。
事実、本来であればすぐに護廷に報告すべき存在であるのに、彼女が報告した形跡はない。
出会って以来、監視もなければ、襲撃もなかったのだから。
初めこそ警戒していたが、気づけば互いに心を許していた。
死神の間でも異端児で、同属の中では居心地が悪いのだと言う。
罰される事から逃げずに耐え忍ぶ彼女を見ていると、あの男と同じ死神とは思えなかった。
あまりに不憫であった。
孤独な2人が惹かれ合うのに、時間はかからなかった。
彼女に自分の過去を伝える気はない。
彼女の事だから、知れば苦しむだろう。
死神なのに人間臭いーーそんな彼女だから、愛おしいのだ。
そっと彼女の黒髪に触れる。
さらりとした黒髪は、艶やかでしなやかで、彼女らしい。
この髪に触れる事を許されるのも、自分だけだと思うと優越感に口角が上がる。
死神になりたいとは、
ただ、彼女と出会ってその違いが時に苦しく思う。
異なる世界を生きる自分達の関係は、何の約束もない吹けば飛ぶような物に違いない。
ただ互いの孤独と、息子のような月島だけが2人をつなぐ。
そっと肩に手を回し、口付ける。
ーーその唇になぜか、違和感を覚えた。