墨染桜編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
白哉は隣を歩く咲にちらりと目を向けた。
普段の死覇装とは異なり、淡い藤色の着物に身を包んだその姿は、控えめながら美しい。
彼女の戦闘におけるずば抜けた実力と、何処までも背負う苦しい過去、その両者を貴族然とした美しい着物で包もうと、何処となく滲み出る強い空気がその魅力の一つだ。
それを知るのは何も自分だけでは無い。
旧知の京楽や浮竹もそうであろう。
そしておそらく、父もその1人だった。
大人になり多く関係を見てきた白哉はいつしか、昔のように父と咲を純粋な関係だと信じられなくなっていたーー やはり父は咲を特別視していたと思う。
その視線に、女に向ける情が無かったと、大人になった今となっては言い切る事ができない。
彼女に触れる指先に、彼女を追いかける視線に、男としての色が無かったわけではないが、関係がどこまで進んでいたのかは白哉の知るところではない。
ただ、2人は他に変えがたい深い繋がりがあったのは紛う事なき事実だ。
そんな父を殺し生き残った彼女が、どれほどの思いを抱えて生きてきたのだろう。
そう思う程、彼女の艶が増す様に見えるから不思議だ。
そんな彼女が遠征から帰った先日、僅かながら違和感を覚えた。
確かに彼女は一瞬、甘い瞳を見せていたのだ。
ただただ過ごした幸福な時を思い起こすようなーー それ程の“ただ幸せな時“など、それを過ごせる相手など、彼女にあっただろうか。
彼女にとって浮竹や京楽がかけがえのない友であることは知っている。
彼らと過ごす時こそ、おそらく彼女にとって最も貴重であり大切な時間だろうと言う予想は容易い。
彼等の話を白哉の前でする事もあるが、咲はそんな瞳は見せない。
それはおそらく、友人や恋人という一言で括れるような間柄では無いからだろうと白哉は思っていた。
多くの苦しみを、後悔を、死を、憎しみを共に乗り越えた戦友との関係を、ただ一言では語れまい。
つまり、彼等とどれ程の平和時を過ごしたとしても、彼女の中でそれは“ただ幸せな時”にはなり得ないだろうと白哉は考えるのだ。
彼等と過ごす時は、その裏に多くの闇を抱え、それ故に彼女にとってかけがえの無い時であるのだから。
美しい着物を彼女が纏っていたとしても、強い空気が滲み出るのと同じ。
彼等と過ごす時が幸せである程、彼女の中の闇の色は深くなる。
ーー ならば、いったいあの瞳は何だったのか。
悩みながらも、彼女を見つめる以外その答えを知る術はないだろうと、白哉は 緋真 の元へと誘った。
「若様?」
白哉の視線に気付いたのだろう。
咲が不思議そうに問いかけた。
「……懐かしいと、そう思っただけだ」
彼女は伏し目がちに微笑んだ。
その表情にはやはり、微かに闇が漂う。
恐らく父のことが頭を掠めているのだろうと、白哉は思った。
やはりあの甘い瞳の原因は、明確にすべきだとも。
「最近ご機嫌だな」
食事中の銀城の何気ない一言に、月島は笑顔を見せた。
「そうかな?
いつも機嫌はいいつもりだけど」
「そうか?
ま、お前が楽しいならいいけどよ」
そう言ってくれる銀城が、月島は好きだった。
月島は常々考えていたのだ。
銀城と自分が、少しでも幸せになる方法を。
そして幸運は突然やってきた。
不幸な過去を背負った、しかも誠実で心根の優しい死神の女が目の前に現れたのだ。
彼女を使わない手はないと、月島は瞬時に行動に出た。
まずは咲の過去に自分と銀城を挟み込んだ。
朽木蒼純死後、現世で偶然自分と出会った事。
自分は同居している銀城と共に、訳あって人外の長命になった事ーー 現時点では月島は長命ではないが、近いうちに銀城の過去から知った方法で長命を手にするつもりであった。
それ故に死神からも人間からも隠れて暮らしている事。
咲は自分とまるで母子のように接してきた事。
そして、銀城とは恋人であった事。
あとは隙を見て同じ事を目の前の男に挟み込めば良いはずだ。
そうすれば、全てはうまくいく。
更に言えば、銀城が腹に抱える復讐さえも、成功させることができる。
自分の力を使えば、3人はまるで物語の様に幸せに生きてゆけると、月島は信じて疑わなかった。
普段の死覇装とは異なり、淡い藤色の着物に身を包んだその姿は、控えめながら美しい。
彼女の戦闘におけるずば抜けた実力と、何処までも背負う苦しい過去、その両者を貴族然とした美しい着物で包もうと、何処となく滲み出る強い空気がその魅力の一つだ。
それを知るのは何も自分だけでは無い。
旧知の京楽や浮竹もそうであろう。
そしておそらく、父もその1人だった。
大人になり多く関係を見てきた白哉はいつしか、昔のように父と咲を純粋な関係だと信じられなくなっていたーー やはり父は咲を特別視していたと思う。
その視線に、女に向ける情が無かったと、大人になった今となっては言い切る事ができない。
彼女に触れる指先に、彼女を追いかける視線に、男としての色が無かったわけではないが、関係がどこまで進んでいたのかは白哉の知るところではない。
ただ、2人は他に変えがたい深い繋がりがあったのは紛う事なき事実だ。
そんな父を殺し生き残った彼女が、どれほどの思いを抱えて生きてきたのだろう。
そう思う程、彼女の艶が増す様に見えるから不思議だ。
そんな彼女が遠征から帰った先日、僅かながら違和感を覚えた。
確かに彼女は一瞬、甘い瞳を見せていたのだ。
ただただ過ごした幸福な時を思い起こすようなーー それ程の“ただ幸せな時“など、それを過ごせる相手など、彼女にあっただろうか。
彼女にとって浮竹や京楽がかけがえのない友であることは知っている。
彼らと過ごす時こそ、おそらく彼女にとって最も貴重であり大切な時間だろうと言う予想は容易い。
彼等の話を白哉の前でする事もあるが、咲はそんな瞳は見せない。
それはおそらく、友人や恋人という一言で括れるような間柄では無いからだろうと白哉は思っていた。
多くの苦しみを、後悔を、死を、憎しみを共に乗り越えた戦友との関係を、ただ一言では語れまい。
つまり、彼等とどれ程の平和時を過ごしたとしても、彼女の中でそれは“ただ幸せな時”にはなり得ないだろうと白哉は考えるのだ。
彼等と過ごす時は、その裏に多くの闇を抱え、それ故に彼女にとってかけがえの無い時であるのだから。
美しい着物を彼女が纏っていたとしても、強い空気が滲み出るのと同じ。
彼等と過ごす時が幸せである程、彼女の中の闇の色は深くなる。
ーー ならば、いったいあの瞳は何だったのか。
悩みながらも、彼女を見つめる以外その答えを知る術はないだろうと、白哉は
「若様?」
白哉の視線に気付いたのだろう。
咲が不思議そうに問いかけた。
「……懐かしいと、そう思っただけだ」
彼女は伏し目がちに微笑んだ。
その表情にはやはり、微かに闇が漂う。
恐らく父のことが頭を掠めているのだろうと、白哉は思った。
やはりあの甘い瞳の原因は、明確にすべきだとも。
「最近ご機嫌だな」
食事中の銀城の何気ない一言に、月島は笑顔を見せた。
「そうかな?
いつも機嫌はいいつもりだけど」
「そうか?
ま、お前が楽しいならいいけどよ」
そう言ってくれる銀城が、月島は好きだった。
月島は常々考えていたのだ。
銀城と自分が、少しでも幸せになる方法を。
そして幸運は突然やってきた。
不幸な過去を背負った、しかも誠実で心根の優しい死神の女が目の前に現れたのだ。
彼女を使わない手はないと、月島は瞬時に行動に出た。
まずは咲の過去に自分と銀城を挟み込んだ。
朽木蒼純死後、現世で偶然自分と出会った事。
自分は同居している銀城と共に、訳あって人外の長命になった事ーー 現時点では月島は長命ではないが、近いうちに銀城の過去から知った方法で長命を手にするつもりであった。
それ故に死神からも人間からも隠れて暮らしている事。
咲は自分とまるで母子のように接してきた事。
そして、銀城とは恋人であった事。
あとは隙を見て同じ事を目の前の男に挟み込めば良いはずだ。
そうすれば、全てはうまくいく。
更に言えば、銀城が腹に抱える復讐さえも、成功させることができる。
自分の力を使えば、3人はまるで物語の様に幸せに生きてゆけると、月島は信じて疑わなかった。