墨染桜編
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咲が今夜雨乾堂 に来るか来ないか。
約束もせずにこうして待ちぼうけている自分は暇人かもしれないと思う。
隊長なのだ、勿論忙しくないわけはないのだが、ついこうして彼女を想いぼんやりと月を眺めてしまう。
一言で言えば、愚かだ、と口の端を上げた。
護廷の人事を司る十三番隊の隊長である自分に、彼女の任務日程を知る事は容易い。
容易くも他隊の事だ。
そう目を配るべきではないのは分かっている。
分かっていながら確認してしまうのは最早癖のようなものになっている。
もしかしたら海燕くらいは気づいているかもしれないということも、分かっている。
それでもやめられないのは、やはり愚かな事だ。
彼女への思いは使命の為に押し殺すと決めたのに。
美しい三日月を見上げて目を閉じる。
微かな気配に頬が緩むのは仕方のない事だろう。
待った甲斐があったというものだから。
視線を橋へと向ける。
「こんばんは」
控えめな声に微笑む。
「お疲れさん、無事でよかった」
汗を流したのだろう。
死覇装から浴衣に着替えて、髪を緩く結う姿は、普段の強い刃からは程遠い。
夜道を1人で歩く等、危険の一言に尽きそうな淑女だが、どうせ屋根の上を跳んできたに違いなく、危険などない事は百も承知だ。
それでもその無事な姿に思わず小さく溜息を漏らしてしまう。
ここで彼女の訪れを待っていたにも関わらず。
心の中で自分の愚かさを嘆くのは今夜3度目になる。
「大丈夫?
疲れているの?」
見当違いな心配をする彼女への返事は、首を振るに留めた。
咲は視線を感じて顔を上げる。
透ける様な白い肌にそれよりも尚、白い髪。
意志の強い眉と知性を湛える鳶色の瞳。
視線を受けて、薄い唇がゆっくりと弧を描く。
視線が合うことに彼も喜びを感じていると分かり、胸が温かくなる。
夜も更け、入浴も済ませ死覇装から浴衣へと着替えた姿は、隊長の格を滲ませながらも業務中とは異なる空気を漂わせる。
学院時代の若い頃も美しいと思ったが、歳を重ねる事で彼はしなやかさを身につけ、その静けさを纏う芯の強さはより好ましいと咲は思った。
「やはり美味いな、ここの金平糖は」
「うん、初めに浮竹がくれたのを思い出して。
戦で色々あったみたいで、昔程の取り揃えはなかったんだけれど」
「現世の戦もようやく落ち着いたが、復興にはまだ時間もかかるだろう。
技術の進んでいる 尸魂界 でさえ大きな反乱があれば復興に時間がかかるからな」
咲も小袋の中から金平糖をつまみ、口に運ぶ。
噛めばほろりと崩れて広がる上品な甘み。
その昔、入院していた自分に浮竹が差し入れてくれた物で、現世の戦前にも土産にと渡してくれたのと同じ店のものだ。
遠征の帰りにふと近くまで寄ったので買ってきた。
白哉への報告を済ませ、汗を流して着替えた後、また日を改めるべきと分かっていながら、どこか落ち着かず雨乾堂へと足を向けた。
留守や就寝後であれば今度こそ日を改めてと思っていたが、庵の主は月を眺めていた。
護廷の人事を司る十三番隊の隊長だ。
咲の遠征日程を把握する事など容易い。
容易いけれども、わざわざそれを調べ、そしてまさかの訪れを期待してくれていたような労いの言葉は、どこかくすぐったい。
同じ金平糖を、月島にも渡してきた。
戦後ではまだ甘い物は貴重で、彼は目を輝かせて喜び、空吾が帰ってきたら一緒に食べると言っていた。
大人びてはいるものの、やはり年相応の子供らしさに思わず頬が緩むというもの。
かけがえのない人 に同じ日にこうも会えるとは、今日はついていると思った。
約束もせずにこうして待ちぼうけている自分は暇人かもしれないと思う。
隊長なのだ、勿論忙しくないわけはないのだが、ついこうして彼女を想いぼんやりと月を眺めてしまう。
一言で言えば、愚かだ、と口の端を上げた。
護廷の人事を司る十三番隊の隊長である自分に、彼女の任務日程を知る事は容易い。
容易くも他隊の事だ。
そう目を配るべきではないのは分かっている。
分かっていながら確認してしまうのは最早癖のようなものになっている。
もしかしたら海燕くらいは気づいているかもしれないということも、分かっている。
それでもやめられないのは、やはり愚かな事だ。
彼女への思いは使命の為に押し殺すと決めたのに。
美しい三日月を見上げて目を閉じる。
微かな気配に頬が緩むのは仕方のない事だろう。
待った甲斐があったというものだから。
視線を橋へと向ける。
「こんばんは」
控えめな声に微笑む。
「お疲れさん、無事でよかった」
汗を流したのだろう。
死覇装から浴衣に着替えて、髪を緩く結う姿は、普段の強い刃からは程遠い。
夜道を1人で歩く等、危険の一言に尽きそうな淑女だが、どうせ屋根の上を跳んできたに違いなく、危険などない事は百も承知だ。
それでもその無事な姿に思わず小さく溜息を漏らしてしまう。
ここで彼女の訪れを待っていたにも関わらず。
心の中で自分の愚かさを嘆くのは今夜3度目になる。
「大丈夫?
疲れているの?」
見当違いな心配をする彼女への返事は、首を振るに留めた。
咲は視線を感じて顔を上げる。
透ける様な白い肌にそれよりも尚、白い髪。
意志の強い眉と知性を湛える鳶色の瞳。
視線を受けて、薄い唇がゆっくりと弧を描く。
視線が合うことに彼も喜びを感じていると分かり、胸が温かくなる。
夜も更け、入浴も済ませ死覇装から浴衣へと着替えた姿は、隊長の格を滲ませながらも業務中とは異なる空気を漂わせる。
学院時代の若い頃も美しいと思ったが、歳を重ねる事で彼はしなやかさを身につけ、その静けさを纏う芯の強さはより好ましいと咲は思った。
「やはり美味いな、ここの金平糖は」
「うん、初めに浮竹がくれたのを思い出して。
戦で色々あったみたいで、昔程の取り揃えはなかったんだけれど」
「現世の戦もようやく落ち着いたが、復興にはまだ時間もかかるだろう。
技術の進んでいる
咲も小袋の中から金平糖をつまみ、口に運ぶ。
噛めばほろりと崩れて広がる上品な甘み。
その昔、入院していた自分に浮竹が差し入れてくれた物で、現世の戦前にも土産にと渡してくれたのと同じ店のものだ。
遠征の帰りにふと近くまで寄ったので買ってきた。
白哉への報告を済ませ、汗を流して着替えた後、また日を改めるべきと分かっていながら、どこか落ち着かず雨乾堂へと足を向けた。
留守や就寝後であれば今度こそ日を改めてと思っていたが、庵の主は月を眺めていた。
護廷の人事を司る十三番隊の隊長だ。
咲の遠征日程を把握する事など容易い。
容易いけれども、わざわざそれを調べ、そしてまさかの訪れを期待してくれていたような労いの言葉は、どこかくすぐったい。
同じ金平糖を、月島にも渡してきた。
戦後ではまだ甘い物は貴重で、彼は目を輝かせて喜び、空吾が帰ってきたら一緒に食べると言っていた。
大人びてはいるものの、やはり年相応の子供らしさに思わず頬が緩むというもの。