墨染桜編
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少年は1人、森にいた。
彼は人に見えない何か ー少年はそれを幽霊と鬼とに識別して呼んだー を見る力があり、記憶の限り気味悪がられて生きてきた。
それに加えて少年はいつからか相手の過去を垣間見る事ができるようになった。
意図したタイミングとはいかず、ふとした時、風に捲られて本のページが開く様に、だがひどく鮮明に脳裏に滑り込んでくる。
本来の年齢以上に多くを見聞きした少年は、年齢に似合わずどこか達観した様な節があり、他人にはより気味悪がられたに違い無い。
人は異質を排除したがるものだ。
力が弱くとも、大多数こそがこの世を治める。
鬼は戦争が始まってから随分増えた。
苦しみ無念の死を遂げた人が多いからだと、以前侍の幽霊らしき男が話していたのを盗み聞いた事がある。
鬼の増加は少年により恐怖を与え、孤独へと追いやった。
疎開先では鬼出没は少なかったが、戦火だけでなく、どこからともなく現れる鬼に食べられる恐怖からも、同じ人からの冷たい視線からも逃げ続けなければならなかった少年は、ただただ疲弊していた。
長かった戦争は終わり、人々が逃げ惑うことはなくなった。
少年は疎開先から戻り、また日々鬼に追われる事となった。
疎開先から無事に自分が帰って来た時、親が落胆したことを少年は見抜いていた。
その瞬間を思い出すと、奈落の底に突き落とされた様な気になった。
自分の中の負の力が増大し、飲み込まれる。
気付くと辺の木々が酷く傷つけられていて、それが自分の力だと知ると静かに涙を流した。
少年は周囲の冷たさに脅かされながらも心優しかったのだ。
少年は毎日森で蹲ってばかりいた。
(誰も自分を必要としない。
自分には愛される価値がない。
ならばいっそ、鬼に喰われて仕舞えばーー)
目の前に現れた鬼は雄叫びを上げた。
鬼にとって自分が好物であることを、少年は経験から知っていた。
「怖くない、怖くない。
もう終わりにしよう」
自分に言い聞かせ、少年は逃げる事をやめて固く目を閉じ、蹲った。
短い人生、何一ついいことなど無かった。
死んでも何の未練もない。
未練など、ない。
あるはずが、ない。
鬼の影が、迫る。
「この野郎!!!」
突然の怒鳴り声と共にその影が消えた。
驚いて顔を上げると、目の前に男の背中があった。
「大丈夫か坊主!?」
振り返ったその人は、黒い服を着て刀を持っていた。
過去に何度か見たことがある侍の幽霊の同類だと少年は思った。
侍の幽霊は鬼を退治する力を持つ。
自分にはない強い力は魅力的で、またその一方で自分が酷く惨めに思えた。
「もう大丈夫だ。
……お前1人か?」
侍は無骨な手で頭を撫でた。
労る様な問い掛けに胸が抉られる気がした。
返事は無くとも相手は察したらしい。
「じゃあ俺と一緒だな。
来いよ、今日から俺達は2人だ」
未練がないなど、嘘だった。
涙が溢れる。
自分は求めていたのだ、孤独から救い出してくれる手を。
「坊主、名前は?」
「秀九郎……月島秀九郎」
「俺は銀城空吾、よろしくな」
彼は人に見えない何か ー少年はそれを幽霊と鬼とに識別して呼んだー を見る力があり、記憶の限り気味悪がられて生きてきた。
それに加えて少年はいつからか相手の過去を垣間見る事ができるようになった。
意図したタイミングとはいかず、ふとした時、風に捲られて本のページが開く様に、だがひどく鮮明に脳裏に滑り込んでくる。
本来の年齢以上に多くを見聞きした少年は、年齢に似合わずどこか達観した様な節があり、他人にはより気味悪がられたに違い無い。
人は異質を排除したがるものだ。
力が弱くとも、大多数こそがこの世を治める。
鬼は戦争が始まってから随分増えた。
苦しみ無念の死を遂げた人が多いからだと、以前侍の幽霊らしき男が話していたのを盗み聞いた事がある。
鬼の増加は少年により恐怖を与え、孤独へと追いやった。
疎開先では鬼出没は少なかったが、戦火だけでなく、どこからともなく現れる鬼に食べられる恐怖からも、同じ人からの冷たい視線からも逃げ続けなければならなかった少年は、ただただ疲弊していた。
長かった戦争は終わり、人々が逃げ惑うことはなくなった。
少年は疎開先から戻り、また日々鬼に追われる事となった。
疎開先から無事に自分が帰って来た時、親が落胆したことを少年は見抜いていた。
その瞬間を思い出すと、奈落の底に突き落とされた様な気になった。
自分の中の負の力が増大し、飲み込まれる。
気付くと辺の木々が酷く傷つけられていて、それが自分の力だと知ると静かに涙を流した。
少年は周囲の冷たさに脅かされながらも心優しかったのだ。
少年は毎日森で蹲ってばかりいた。
(誰も自分を必要としない。
自分には愛される価値がない。
ならばいっそ、鬼に喰われて仕舞えばーー)
目の前に現れた鬼は雄叫びを上げた。
鬼にとって自分が好物であることを、少年は経験から知っていた。
「怖くない、怖くない。
もう終わりにしよう」
自分に言い聞かせ、少年は逃げる事をやめて固く目を閉じ、蹲った。
短い人生、何一ついいことなど無かった。
死んでも何の未練もない。
未練など、ない。
あるはずが、ない。
鬼の影が、迫る。
「この野郎!!!」
突然の怒鳴り声と共にその影が消えた。
驚いて顔を上げると、目の前に男の背中があった。
「大丈夫か坊主!?」
振り返ったその人は、黒い服を着て刀を持っていた。
過去に何度か見たことがある侍の幽霊の同類だと少年は思った。
侍の幽霊は鬼を退治する力を持つ。
自分にはない強い力は魅力的で、またその一方で自分が酷く惨めに思えた。
「もう大丈夫だ。
……お前1人か?」
侍は無骨な手で頭を撫でた。
労る様な問い掛けに胸が抉られる気がした。
返事は無くとも相手は察したらしい。
「じゃあ俺と一緒だな。
来いよ、今日から俺達は2人だ」
未練がないなど、嘘だった。
涙が溢れる。
自分は求めていたのだ、孤独から救い出してくれる手を。
「坊主、名前は?」
「秀九郎……月島秀九郎」
「俺は銀城空吾、よろしくな」