墨染桜編
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開いた口が塞がらないとはまさにこの事だろう。
彼は冗談を言っている様な様子など微塵もない。
「白哉を悪いやつとはもちろん思っちゃいねぇよ、可愛い部下さ。
だが、お前達の関係はあまりに……なんつうか、ややこしい。
そう言う時はわざわざ正面切ってぶつからなくていいんだぜ。
俺はまだお前の上司だし、お前は俺の恩人だ。
お前を放り出したりなんか、しねぇよ」
じっと見下ろす瞳は真摯で、彼の情の篤さは志波家らしく、そしてだからこそ隊長に進むのだろう。
新たな道を提示してくれるその寛容さに胸が温かくなる。
目を細め、咲は首を横に振った。
「ありがとうございます。
ですが私達は哀しみを乗り越えて進まなければなりませんから」
叔父である志波朱鷺和 の死を乗り越えた彼ならば分かる筈と、咲は静かに呟く。
「そっか……でもそう言うんじゃねぇかと思ってた。
いつでも遊びに来いよ」
「ありがとうございます、志波隊長 」
「へっ、照れるっつの」
頬を掻く姿を目に焼き付ける。
こんなところも全部含めて、彼を敬愛していた。
時は流れる。
それは別れを呼び、そして忘却を促す。
再会を呼び、新たな思いを築く。
一心の配慮を断り、自分が進むと決めた事だ。
咲はもう一度視線を白哉に向ける。
涼やかな彼の瞳が、一瞬緩んだように見えた。
「咲、お前はこれから私の直属の部下として働いてもらう。
異論は……許さん」
堂々としたその風格、漂う凛とした霊圧、深く沁みる父に似た声ーーそして、滲み出る心の強さ。
彼の実力は多くの報告書や噂で知っている。
だがそれ以上の強さが彼から溢れ出ているように思った。
いずれは隊を率いねばならぬ生まれだと知っていた。
いずれは長となるべき器に成長すると知っていた。
だが彼の父や叔父のように、それまでに命を落とす事の多さも知っていた。
そしてその道が、一隊士であるよりどれ程苦行に満ちたものであるかも、また知っていた。
だからこそ自分はあの若き背中を押したのだ。
死神である以上、大切な人の死に涙を流し縋り続けていくことはできない。
日々命のやり取りをしていかねばならないのだ。
昔とは違い直ぐに殺されるようなことはなくなったが、立ち止まるタイミングを誤れば死に一瞬で飲み込まれてしまう。
特に彼のような人には、良くも悪くも多くが注目しているーー叔父のようにいつ背後から刺されるか分からない。
どうせ歩まねばならぬ辛き道ならば、どうか生きてほしいと願って、その背を押した。
涙を堪え、思わずその場に平伏する。
「……はい」
彼の前にこうして平伏す 事さえ叶わないと思っていた。
彼はおそらく全てを知ったのだろう。
父の事、母の事、叔父の事、そして咲が彼らをこの世から消した事。
それら全ての怨みを乗り越えたとは思い難いーー彼より年長の蒼純でさえ、長い年月をかけても乗り越えられはしなかったのだから。
それでも尚、咲に自分に仕える事をわざと命じた 。
蒼純の死に際して冷たく突き放した咲の秘められた願いを理解し、まさにその願い通り為された成長を誇示するようにさえみえる。
それは彼の父と、祖父と同じく、私怨を押し殺した覚悟だ。
白哉の瞳から滲み出る感情。
冷たいばかりではないそれは、彼もまた父と同じ愛憎の中で生きることを暗示していた。
だが彼の何かが、咲に予感させた。
ーー いつか蒼純副隊長 を超える ーー
溢れた涙が床にぱたぱたと落ちる。
「泣くな」
優しい声が降ってきて、床についた手を掬い上げ、体を引き起こされる。
困ったような、それでいてどこか嬉しそうな目元に、また涙が溢れた。
「……何処まででも、お供致します」
彼があどけない笑顔を見てくれる事はもう無いのかもしれない。
だが視線の中の柔らかさに、昔と変わらぬ確かな温もりを感じた。
彼は冗談を言っている様な様子など微塵もない。
「白哉を悪いやつとはもちろん思っちゃいねぇよ、可愛い部下さ。
だが、お前達の関係はあまりに……なんつうか、ややこしい。
そう言う時はわざわざ正面切ってぶつからなくていいんだぜ。
俺はまだお前の上司だし、お前は俺の恩人だ。
お前を放り出したりなんか、しねぇよ」
じっと見下ろす瞳は真摯で、彼の情の篤さは志波家らしく、そしてだからこそ隊長に進むのだろう。
新たな道を提示してくれるその寛容さに胸が温かくなる。
目を細め、咲は首を横に振った。
「ありがとうございます。
ですが私達は哀しみを乗り越えて進まなければなりませんから」
叔父である志波
「そっか……でもそう言うんじゃねぇかと思ってた。
いつでも遊びに来いよ」
「ありがとうございます、志波
「へっ、照れるっつの」
頬を掻く姿を目に焼き付ける。
こんなところも全部含めて、彼を敬愛していた。
時は流れる。
それは別れを呼び、そして忘却を促す。
再会を呼び、新たな思いを築く。
一心の配慮を断り、自分が進むと決めた事だ。
咲はもう一度視線を白哉に向ける。
涼やかな彼の瞳が、一瞬緩んだように見えた。
「咲、お前はこれから私の直属の部下として働いてもらう。
異論は……許さん」
堂々としたその風格、漂う凛とした霊圧、深く沁みる父に似た声ーーそして、滲み出る心の強さ。
彼の実力は多くの報告書や噂で知っている。
だがそれ以上の強さが彼から溢れ出ているように思った。
いずれは隊を率いねばならぬ生まれだと知っていた。
いずれは長となるべき器に成長すると知っていた。
だが彼の父や叔父のように、それまでに命を落とす事の多さも知っていた。
そしてその道が、一隊士であるよりどれ程苦行に満ちたものであるかも、また知っていた。
だからこそ自分はあの若き背中を押したのだ。
死神である以上、大切な人の死に涙を流し縋り続けていくことはできない。
日々命のやり取りをしていかねばならないのだ。
昔とは違い直ぐに殺されるようなことはなくなったが、立ち止まるタイミングを誤れば死に一瞬で飲み込まれてしまう。
特に彼のような人には、良くも悪くも多くが注目しているーー叔父のようにいつ背後から刺されるか分からない。
どうせ歩まねばならぬ辛き道ならば、どうか生きてほしいと願って、その背を押した。
涙を堪え、思わずその場に平伏する。
「……はい」
彼の前にこうして
彼はおそらく全てを知ったのだろう。
父の事、母の事、叔父の事、そして咲が彼らをこの世から消した事。
それら全ての怨みを乗り越えたとは思い難いーー彼より年長の蒼純でさえ、長い年月をかけても乗り越えられはしなかったのだから。
それでも尚、咲に自分に仕える事をわざと
蒼純の死に際して冷たく突き放した咲の秘められた願いを理解し、まさにその願い通り為された成長を誇示するようにさえみえる。
それは彼の父と、祖父と同じく、私怨を押し殺した覚悟だ。
白哉の瞳から滲み出る感情。
冷たいばかりではないそれは、彼もまた父と同じ愛憎の中で生きることを暗示していた。
だが彼の何かが、咲に予感させた。
ーー いつか
溢れた涙が床にぱたぱたと落ちる。
「泣くな」
優しい声が降ってきて、床についた手を掬い上げ、体を引き起こされる。
困ったような、それでいてどこか嬉しそうな目元に、また涙が溢れた。
「……何処まででも、お供致します」
彼があどけない笑顔を見てくれる事はもう無いのかもしれない。
だが視線の中の柔らかさに、昔と変わらぬ確かな温もりを感じた。