墨染桜編

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は六番隊隊首室で深く頭を下げていた。
彼女の前には2人。
この部屋の主である銀嶺と、この春副隊長に就任した隊士が立つ。

「頭を上げろ」

静かな声におずおずと頭を上げた。
涼やかな2人の視線を受け、は視線を落とした。
目の前に銀嶺がいることについては然程珍しい事ではない。
が戸惑いを隠せないのは、20年近くの時を経てこうして自分の前に立ち、そして声をかけた副隊長の方である。
彼は侮蔑も憎しみないただ涼やかな視線を、真っ直ぐにに向けていた。
あまりに彼らしく真っ直ぐで、たじろいでしまうのだ。
は一心の異動を告げられた日に思いを馳せる。






「おめでとうございます」

任務の帰りだった。
まだ肌寒い早春の黄昏時に告げられた言葉に、は足を止めて今と同じように深く頭を下げたのだ。

「やめろって」

一心は照れたように頬を掻いた。
いつかそんな日が来る事を予想しなかった訳ではない。
一心が副隊長になり20年近い年月が過ぎた。
卍解も習得済みであり、それからも、10年は経過した事だろう。
人柄も申し分なく、人望もある彼が隊長になるのも時間の問題だった。
自分の事を罪人扱いせず大らかに接してくれる一心。
蒼純とはまるで違った上司ではあったが、彼の虚化の一件を始めとする幾多の死線を共に乗り越える内にかけがえの無い上司となった。
彼の部下で無くなることに、不安と寂しさが無いと言えば嘘になるが、そんな甘えた事は言ってはいられない。

その後任に心当たりがあるとすれば、1人しかいなかった。
一心は言いにくそうに視線を逸らし、躊躇いがちに言った。

「次の副隊長は……あー……朽木白哉だ」

「はい」

「お前が副隊長直属の部下のままとなるのか、隊長直属になるのかはまだ分からねぇ」

「はい」

「……気になるだろ?」

横目でちらりと見やる一心には微かに笑い、歩き出した。

「ならないと言えば嘘になるでしょうが、それ程気にはしていません。
私が異動することだって無くはないわけですし」

罪人として首輪を着けられた自分の扱いにくさは、熟知しているつもりだ。
白哉の存在の大きさを考えれば、引取先の問題さえ解決できれば汚点である自分の異動等細やかな事。
隣で歩く一心は押し黙った。

「……それは隊長に失礼じゃねぇか」

は驚いて立ち止まり彼を見上げる。

「隊長は、お前を大切な部下だと思ってる。
唯一無二の、信頼の置ける部下だと気に入っている。
そう簡単に手放したりしないぜ」

「そんなはずは」

にやりと笑顔で見下ろされ、は俯いた。

「確かに口数少ない隊長だけどよ、お前の事は本当に考えてるのは分かるだろ?
……もう一度聞くが、本当に気にならねぇのか?」

「はい」

「腹座ってるんだな」

「この歳になりましたら」

「俺は気になるぜ」

今日の彼の発言には驚かされてばかりだ。
彼とは歳はほとんど変わらないし、ましてや彼の性格で部下の次の上司を気にしているとは思いもしなかったのだ。
聞き間違えたのではと思ったが、下睫毛が特徴的な瞳はじっとを見下ろす。

「どうしたい?」

「……どう、とおっしゃられましても」

その意図を図り兼ねて口をつぐむ。
今まで自分に今後の進退を聞く人があっただろうか。
与えられるがままに必死にその環境を乗り越えてきたにとって、考えた事もない話だ。

銀嶺とは言葉少なにではあるが関わりは長く、彼の直属の部下として働く方が、白哉の直属の部下として働くより気持ちは何倍も楽だ。
だがそんな私的な話など言っていられる筈もない。

「俺、隊長に言うぜ。
お前が新副隊長をどうしても不安に思うんだったら」
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