新副隊長編
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不意に気配に振り返る。
「やぁ」
「藍染隊長……」
何故ここにと問おうとして、ここが五番隊舎である事を思い出す。
人様の隊舎でぼうっとしていたのは、咲の方だ。
だがそれを咎めることもなく、彼は穏やかな視線を下に向けた。
「彼は立派だね、若いのに」
「はい」
「傷はいつか癒える。
悲しみもいつか、必ず癒える。
何度も傷つき、何度も治り、傷を受け入れながら生きていくしかない。
彼も痛みから立ち直り、これからもっと強い死神 になる」
隊舎に吸い込まれて行く白哉の背中。
彼の言う通りだ。
赤子は少年に、そして青年へと成長し、強い死神になった。
そしてきっと、これからもっと。
「盾であり鉾である自分達は、全てを乗り越えて生きていかねばならない。
……哀しいね」
溢れた言葉にその人を仰ぎ見る。
遠い地面からの灯りを受けた表情は苦しげだ。
階級が上がれば上がるほど、辛い命令も、無慈悲な態度も取らねばならぬ時がある。
彼は護廷の13本の指に入る人なのだ、咲と比べどれほどそんな事に遭った事だろう。
「哀しい……」
彼の溢れた言葉を復唱する。
心の叫びを押し殺し、押し殺し刀を振るう。
それは確かに哀しいことだろう。
だが堪えたからこそ今があるとも、咲は思った。
押し殺された哀しみは、いつしか硬く強い足場となる。
多くの死を乗り越えて、そしてその中で生き延びた絆により、咲は響河のことを乗り越えられた。
そしてその哀しみを越えられたから、きっと蒼純を喪った今も生きていられる。
今でも時々折れそうになる心を、必死に立て直すことができる。
「哀しみに飲み込まれず、ひとつひとつ乗り越えるからこそ、また立ち上がれる。
哀しみは、人を生かす様に思います」
藍染は少し驚いた顔をした。
「……おかしな事を言いましたか」
咲戸惑った声に、藍染はくすりと笑った。
「いや、君は本当に純粋だと思ってね」
「愚かなばかりです」
「そういう意味ではないよ、決して」
彼の手が躊躇いがちに咲の肩に乗った。
整った、大きく温かな手だ。
多くを切り裂き、多くの哀しみを貫き、また多くの人望を集める手。
「純粋な強さは、美しい。
あまりに純粋で、放っておくと砕けてしまいそうなガラスの様だ。
時に相手を不安にさせるその危うさがーー」
不意に現れた気配に2人は少し離れた屋根を見た。
相手はその視線を受けて今気づいたというかの様な顔をして、それから穏やかに微笑み、片手を上げた。
「やぁ」
「体調はいいのかい、浮竹」
「ああ、心配いらないさ。
いい月夜だと思ってな」
藍染の手はゆっくりとーーともすると名残惜しさを感じさせる素振りで咲から離れた。
もちろん浮竹はそれに気づいたが、いつものペースで、いつもの笑みで2人に歩み寄る。
「そうだ、最近美味い菓子手に入れてな、2人にやるよ」
懐を探してころりとした小さな包みを二つ取り出した。
見覚えのあるそれに咲は顔を綻ばせる。
「これ……」
小さな金平糖の包みは、昔咲が入院していた時に浮竹が届けてくれたものだ。
見上げた先の鳶色の瞳が優しく、そうだ、と弧を描くので、一つ頷く。
「現世の物でな、桜の葉が入っているんだ。
香りがいいぞ」
「……ありがとう、またいただくとするよ」
愛想のよい説明に対する藍染の困った様な笑顔の意味を、咲は浮竹の菓子を配るという人懐っこい様なお節介の様な点に対する物と受け取り淡く微笑みを浮かべた。
彼女と浮竹と藍染では全く違う思惑がある事など、知るはずも無く。
「やぁ」
「藍染隊長……」
何故ここにと問おうとして、ここが五番隊舎である事を思い出す。
人様の隊舎でぼうっとしていたのは、咲の方だ。
だがそれを咎めることもなく、彼は穏やかな視線を下に向けた。
「彼は立派だね、若いのに」
「はい」
「傷はいつか癒える。
悲しみもいつか、必ず癒える。
何度も傷つき、何度も治り、傷を受け入れながら生きていくしかない。
彼も痛みから立ち直り、これからもっと強い
隊舎に吸い込まれて行く白哉の背中。
彼の言う通りだ。
赤子は少年に、そして青年へと成長し、強い死神になった。
そしてきっと、これからもっと。
「盾であり鉾である自分達は、全てを乗り越えて生きていかねばならない。
……哀しいね」
溢れた言葉にその人を仰ぎ見る。
遠い地面からの灯りを受けた表情は苦しげだ。
階級が上がれば上がるほど、辛い命令も、無慈悲な態度も取らねばならぬ時がある。
彼は護廷の13本の指に入る人なのだ、咲と比べどれほどそんな事に遭った事だろう。
「哀しい……」
彼の溢れた言葉を復唱する。
心の叫びを押し殺し、押し殺し刀を振るう。
それは確かに哀しいことだろう。
だが堪えたからこそ今があるとも、咲は思った。
押し殺された哀しみは、いつしか硬く強い足場となる。
多くの死を乗り越えて、そしてその中で生き延びた絆により、咲は響河のことを乗り越えられた。
そしてその哀しみを越えられたから、きっと蒼純を喪った今も生きていられる。
今でも時々折れそうになる心を、必死に立て直すことができる。
「哀しみに飲み込まれず、ひとつひとつ乗り越えるからこそ、また立ち上がれる。
哀しみは、人を生かす様に思います」
藍染は少し驚いた顔をした。
「……おかしな事を言いましたか」
咲戸惑った声に、藍染はくすりと笑った。
「いや、君は本当に純粋だと思ってね」
「愚かなばかりです」
「そういう意味ではないよ、決して」
彼の手が躊躇いがちに咲の肩に乗った。
整った、大きく温かな手だ。
多くを切り裂き、多くの哀しみを貫き、また多くの人望を集める手。
「純粋な強さは、美しい。
あまりに純粋で、放っておくと砕けてしまいそうなガラスの様だ。
時に相手を不安にさせるその危うさがーー」
不意に現れた気配に2人は少し離れた屋根を見た。
相手はその視線を受けて今気づいたというかの様な顔をして、それから穏やかに微笑み、片手を上げた。
「やぁ」
「体調はいいのかい、浮竹」
「ああ、心配いらないさ。
いい月夜だと思ってな」
藍染の手はゆっくりとーーともすると名残惜しさを感じさせる素振りで咲から離れた。
もちろん浮竹はそれに気づいたが、いつものペースで、いつもの笑みで2人に歩み寄る。
「そうだ、最近美味い菓子手に入れてな、2人にやるよ」
懐を探してころりとした小さな包みを二つ取り出した。
見覚えのあるそれに咲は顔を綻ばせる。
「これ……」
小さな金平糖の包みは、昔咲が入院していた時に浮竹が届けてくれたものだ。
見上げた先の鳶色の瞳が優しく、そうだ、と弧を描くので、一つ頷く。
「現世の物でな、桜の葉が入っているんだ。
香りがいいぞ」
「……ありがとう、またいただくとするよ」
愛想のよい説明に対する藍染の困った様な笑顔の意味を、咲は浮竹の菓子を配るという人懐っこい様なお節介の様な点に対する物と受け取り淡く微笑みを浮かべた。
彼女と浮竹と藍染では全く違う思惑がある事など、知るはずも無く。