新副隊長編
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霞大路家への往復と、虚退治の任務を並行するようになってから数年が過ぎた。
霞大路家に入るのに緊張しないわけではないが、手慣れたものだ。
研究室のメンバーはいつも固定で、咲には無関心だ。
どうやら研究に没頭したい性格らしく、資材の発注や廃棄物処理は全て1番最後に入った如月改め天貝の仕事なのだと言う。
それはそれで好都合だった。
門番らとも顔見知りになり、少し世間話をするくらいなはなった。
使用人とも挨拶するようになり、時折咲を見張りにくる少年猿龍・犬龍も見慣れ、咲が会釈をすると相手も睨みながらも小さく会釈を返すようになっていた。
口数は少ないが話し掛ければ程良く返事はするし、愛想も悪くはない、といったのが使用人達が持っている印象で、霞大路家の日常に上手く溶け込めたと言って問題ないだろう。
咲の前任は年嵩の男性で、独特の雰囲気から話しかけづらかったと使用人の1人が言っていた。
確かに少々陰気で金にうるさい男で、だからこそ買収もしやすかった。
ーーまさか咲がその男を買収した護廷に属し、霞大路家の闇を暴こうとしているとは、誰も露程にも思わないことだろう。
如月に託された証拠の品の解析を十二番隊に託し、六番隊舎へと向かう。
霞大路家を出る時はまだ明るさも残っていたが、すっかり日が落ち、明かりが灯る。
その光を避けるように咲は屋根の上をとぼとぼと歩く。
気配も霊圧も消せば、明かりも届かない高い屋根の上を気にするものなどいない。
ここは五番隊の隊舎で、ちらりと見下ろせば和気藹々とした空気が流れている。
その中にいることこそ普通であるが、咲にはもう、罪が許された時の事など想像もできない。
それ程までに苦き血に染められていた。
不意に感じた霊圧に縁から見下ろす。
「若様・・・。」
最後に話した時には、彼は怒り狂っていた。
我を忘れ、感情のままに繰り出す白打であるのに、それは的確で将来性を感じさせた。
「書類を届けに参りました。
六番隊八席朽木です。」
五番隊の門を叩く涼しげなその様子は、祖父によく似ていた。
声は父にそっくりだ、と思う。
(すっかり落ち着かれた)
あの頃の幼さは影をひそめ、貫禄さえ見え始めている。
冷静な判断力には定評がある。
初めて得た席は末席の二十席であったが、その後の努力により飛ぶように席を上げてきた。
亡父を超える逸材として、若いのに良くやる、と隊内でも噂だ。
(間違ってはいなかった。)
立派に成長した姿に、咲は空を仰ぐ。
あの日、咲が呼び止めた魂は、虚から守った少年は、その弛まぬ努力と才能から己の存在を確固たるものにしてきた。
彼はいつか、副隊長、そして隊長へとなって行くに違いない。
その彼に、咲はもう仕えることはできないだろう。
憎まれ怨まれる咲は、彼の前に平伏 すことさえ叶わない。
ー白哉を・・・頼む。ー
故人の最期の望みは、叶えられるだろう。
その人の満足のいく結果で。
頼まれた自分といえば、少年の優しさを裏切ったに過ぎない。
だがそれが罪人で彼から両親を奪った自分ができる最大のことで、そして最大の効果を生んだと確信していた。
「……貴方のご子息は、立派になられましたよ。
蒼純副隊長、月雫様。」
煌めく星空に、精神世界を思い出す。
そこには死者がガラス越しに現れては消える世界で、勿論蒼純もいるに違いないのだが、彼と顔を合わせる勇気は未だになく、実際会ってもいない。
そもそも精神世界の死者は当人であって当人ではない。
[#ruby= 破涙贄遠_はるしおん#]は魂の欠片と咲の記憶の混ざり合ったものなのだと言っていた。
だからその人でありながらその人ではないのだと。
この星空はあくまで、咲の精神世界なのだと。
だから例えその故人に会えたとしても、彼が紡いだ言葉ーー
ーお前が……お前が愛おしいよ、咲ー
その言葉の意味を聞くのは、無意味なのだ。
霞大路家に入るのに緊張しないわけではないが、手慣れたものだ。
研究室のメンバーはいつも固定で、咲には無関心だ。
どうやら研究に没頭したい性格らしく、資材の発注や廃棄物処理は全て1番最後に入った如月改め天貝の仕事なのだと言う。
それはそれで好都合だった。
門番らとも顔見知りになり、少し世間話をするくらいなはなった。
使用人とも挨拶するようになり、時折咲を見張りにくる少年猿龍・犬龍も見慣れ、咲が会釈をすると相手も睨みながらも小さく会釈を返すようになっていた。
口数は少ないが話し掛ければ程良く返事はするし、愛想も悪くはない、といったのが使用人達が持っている印象で、霞大路家の日常に上手く溶け込めたと言って問題ないだろう。
咲の前任は年嵩の男性で、独特の雰囲気から話しかけづらかったと使用人の1人が言っていた。
確かに少々陰気で金にうるさい男で、だからこそ買収もしやすかった。
ーーまさか咲がその男を買収した護廷に属し、霞大路家の闇を暴こうとしているとは、誰も露程にも思わないことだろう。
如月に託された証拠の品の解析を十二番隊に託し、六番隊舎へと向かう。
霞大路家を出る時はまだ明るさも残っていたが、すっかり日が落ち、明かりが灯る。
その光を避けるように咲は屋根の上をとぼとぼと歩く。
気配も霊圧も消せば、明かりも届かない高い屋根の上を気にするものなどいない。
ここは五番隊の隊舎で、ちらりと見下ろせば和気藹々とした空気が流れている。
その中にいることこそ普通であるが、咲にはもう、罪が許された時の事など想像もできない。
それ程までに苦き血に染められていた。
不意に感じた霊圧に縁から見下ろす。
「若様・・・。」
最後に話した時には、彼は怒り狂っていた。
我を忘れ、感情のままに繰り出す白打であるのに、それは的確で将来性を感じさせた。
「書類を届けに参りました。
六番隊八席朽木です。」
五番隊の門を叩く涼しげなその様子は、祖父によく似ていた。
声は父にそっくりだ、と思う。
(すっかり落ち着かれた)
あの頃の幼さは影をひそめ、貫禄さえ見え始めている。
冷静な判断力には定評がある。
初めて得た席は末席の二十席であったが、その後の努力により飛ぶように席を上げてきた。
亡父を超える逸材として、若いのに良くやる、と隊内でも噂だ。
(間違ってはいなかった。)
立派に成長した姿に、咲は空を仰ぐ。
あの日、咲が呼び止めた魂は、虚から守った少年は、その弛まぬ努力と才能から己の存在を確固たるものにしてきた。
彼はいつか、副隊長、そして隊長へとなって行くに違いない。
その彼に、咲はもう仕えることはできないだろう。
憎まれ怨まれる咲は、彼の前に
ー白哉を・・・頼む。ー
故人の最期の望みは、叶えられるだろう。
その人の満足のいく結果で。
頼まれた自分といえば、少年の優しさを裏切ったに過ぎない。
だがそれが罪人で彼から両親を奪った自分ができる最大のことで、そして最大の効果を生んだと確信していた。
「……貴方のご子息は、立派になられましたよ。
蒼純副隊長、月雫様。」
煌めく星空に、精神世界を思い出す。
そこには死者がガラス越しに現れては消える世界で、勿論蒼純もいるに違いないのだが、彼と顔を合わせる勇気は未だになく、実際会ってもいない。
そもそも精神世界の死者は当人であって当人ではない。
[#ruby= 破涙贄遠_はるしおん#]は魂の欠片と咲の記憶の混ざり合ったものなのだと言っていた。
だからその人でありながらその人ではないのだと。
この星空はあくまで、咲の精神世界なのだと。
だから例えその故人に会えたとしても、彼が紡いだ言葉ーー
ーお前が……お前が愛おしいよ、咲ー
その言葉の意味を聞くのは、無意味なのだ。