斬魄刀異聞過去編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「良くやったヨ。
褒めてやろう」
ベッドに座るぼうっとした咲に、涅が歩み寄る。
蒼純が咲を庇うように二人の間に入る。
そんな彼を、涅はギョロリとした目を向け、不躾に観察した。
それは覚悟の上だった。
酷く傷ついた少女のような部下に出来る事など知れている。
このくらいの視線は痛くも痒くもなかった。
「なんの話だろうか」
「試作機の動きがおかしかったのですヨ」
顎でしゃくるように蒼純の後ろの咲を示す。
彼女は蒼い顔をして宙を見つめており、発信機の開発者である涅はこの部屋に来るまでに検討した仮説について十分な裏付けが取れそうだと踏んだ。
蒼純が策したことであったという事も、先の彼の行動から推察するに容易い。
彼は情に弱い所があったと記憶しているが、流石に義弟の反乱となれば、そして自分のこれからの立場と朽木家の立場を考えれば、それが部下の心を壊すような事になろうと手段は選んでいられなかったのだろう。
「結局、私が最初に提案した通りになったナ」
鼻で笑うと蒼純は微かに目を細めた。
勝守りが流行した際、涅は行動の監視の必要があるものに発信機を忍ばせた勝守りを持たせ、その動きを観察するという提案をしており、そのリストに響河も入っていた。
流石に明るみに出た時に言い訳ができないと白紙になってしまったが、涅の言う通りだ。
賢い彼の言う事に無駄は無く、多くの未来を予測しての提案だったに違いない。
それがわかっていても、彼の研究には反感を抱かせる内容も多く、何か大きな理由がなければ実施できないのが現実ではある。
蒼純は昨夜の出来事を思い返した。
響河が捕らえられた際四番隊に運ばれて治療をされた咲は、深夜目を覚ますと傷が開くのもお構いなしに鬼道で四番隊士を足止めまでして六番隊隊首室に駆け込んだ。
事が事だけに、今後について隊首室で話し合っていた銀嶺と蒼純に事の顛末を話し、響河の無罪を必死に訴えたのだ。
血を流しながら、必死に訴える姿に心動かされぬ筈もない。
彼女の体調を気遣い、同意を求めて蒼純は父を見、流石の彼も一つ頷いたので彼女に口を開いた。
「君の話は分かった。
我々も響河があんなことをしたとは思ってはいないよ。
だが陥れられてしまった以上、すぐに牢からは出られないことは分かるね?
だが君の証言とともに嘆願書を出せば、いずれ響河の無罪は証明される可能性は高い。
だから今日は四番隊で休みなさい。
これ以上血を流すことは私達も、そしてきっと響河も、望んではいないよ」
無罪の証明には相当な時間がかかるだろう。
恩赦や死後の放免でなければ許されない可能性も高い。
だが嘘は言っていない。
少女は少し考えてから辛そうに1つ頷く。
そしてふと、机の上に置いてあった勝守に目を止めた。
それは響河が現場に落としていったもので、妻明翠が贈ったものだった。
響河と最後に会った時の様子を余り話したがらない銀嶺に、彼の状態は良く無いのだろうと蒼純は思った。
声をかけてやりたいのは山々ではあるが、様々なことから自分が彼に会うのは逆効果である事を分かっており歯痒く思っていた所であった。
「治療を終えて、明日にでも響河にこの勝守を届けてやってくれないか」
はっと顔を上げた咲に、銀嶺は厳しい視線を向けた。
「ならん!
あやつは今揺れ動いておる。
自身でこれを乗り越えねばならん」
響河がそれだけの力を持つと信じることは難しいだろうというのが蒼純の意見だ。
だからこそ、彼女に勝守を届けさせようと思った。
彼は独りではないと思い出させることが、今唯一の彼にできる手助けだと。
厳しい父はそれをさせないつもりなのかと、蒼純は食い下がる。
「お言葉ですが響河に耐え忍ぶことは難しいのでは」
「ならば、それまでのこと」
ぴしゃりと言い放つ銀嶺に、咲は唇を噛む。
普段無口な銀嶺が響河の状況をそこまで言うのであれば、彼はかなり辛い状況にいるに違いない。
誰よりも近くで見てきたが、彼はその能力ゆえ孤独であった。
その孤独が彼を追い詰めるのだ。
彼に、孤独では無いと伝えなければならない。
でなければ彼が壊れてしまうのではと言う、焦燥感が渦巻く。
「あやつは変わらねばならん。
今この時を乗り越えねばならん!」
その断言に咲はその場で平伏し、額を地面に擦り付けた。
「私は響河殿の助役です!
私は響河殿をお護りすると誓いました!
今あの方はあまりに孤独です!
どうか、どうか!!」
咲は響河の自害を恐れているのだということは、2人には痛い程分かっていた。
だが彼女には伝えていない、もう一つの可能性を2人は最も恐れているのだ。
蒼純はふと、十二番隊の研究内容の報告書の1ページを思い出す。
「緊急時の把握や反乱等起こしにくくするために、尸魂界全土に基地局を建て、隊士の霊圧を把握すると言う研究が有るらしい。
……確か3名の被験者が居た筈だ」
それが過去に涅が提案した実験で却下された経緯も知っていた。
個人の移動記録が常に取られる研究に協力者がいるなど珍しいこともあるものだと思い、その研究を行う十二番隊の後輩に尋ねたところ、被験者は新入隊士だと言っていた。
その時は聞き流していたが、もしその情報が正しいとすれば、新たな一手が見えて来る。
「……君は、その発信器をもっているのかい」
発信器をどうするつもりか、そしてなぜ発信器が必要なのかに思い至った咲は蒼ざめた顔を上げ、震える唇を開いた。