新副隊長編
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百日紅の影から人影が現れた。
暗闇に白く浮かぶ人は、暗い室内に消えていく背中を見送る。
百日紅の幹と同じくらい白く見えるその顔には苦悶の表情が浮かんでいた。
震える唇から、細く息を吐き出すことで、抑えている霊圧が揺れるのを防ぐ。
その硬い理性にある程度の自信があり、長年の経験から多少の事では動じない筈の自分が大きな衝撃を受けている事にも戸惑っているのだ。
目の前の事象は、自分が望んでいるもののはずだった。
自分が手放すと心に決めた望みのはずだった。
そして自分が手放す先に望んだ結末だった。
そのはずだった。
(無様だな)
そう自嘲することで己を押さえ込む。
京楽の迷いは手に取るようにわかった。
彼の迷う原因に、己の存在がある事もまた、分かった。
3人は3人で、互いはかけがえの無い存在だ。
今この瞬間であっても浮竹にとって京楽ほどの親友は居ないと思っている。
それは相手にとっても同じことで、そして互いの心を痛い程に理解しているからこそ、彼は迷ったに違いない。
彼の言葉は浮竹と咲の関係を否定するものではなかった。
咲自身の複雑な気持ちも汲んだ上で紡がれた、あまりに思いやりの溢れた言葉だった。
彼程の男を知らないと、浮竹は心の底から思った。
瞬歩で雨乾堂に戻る。
ここは周りに池がある分幾らか涼しい
。
その屋根に登り、土産にと手にしていた袋を開けた。
中には行儀良く3本、瓶が並んでいる。
その1本を取り出し、ポンと音を立てて封を切る。
シュワシュワと溢れる泡が服に染みを作った。
爽やかだが甘ったるい香りが辺りに漂う。
瓶に口をつけた。
久しぶりに飲むラムネは予想以上に甘い。
あの日飲んだ時はあれ程美味しく感じたのに、今はその記憶に押しつぶされそうな暗い胸が苦しい。
(いい歳してあんまりだ)
年齢の割に女性経験が少ない自覚はある。
言い寄られた数に対し、応えた数はあまりに少ない。
だがゼロでもない。
咲に知られぬように関係を作り、そして別れてきた。
自分は京楽のように多くの女性と噂が流れながらも付き合っていけるほど器用ではないが、咲への思いを紛らわす程度に隠れて付き合う程度には立ち回れた。
彼女に思いを伝えないと決めたのは自分だ。
彼女への余りに深い思いを、押し殺すと決めたのも、この自分。
自分は彼女の傍を捨て、また別の立ち位置から彼女を護ると決めたのだ。
たとえ彼女の意志に背くことであろうと、そうあろうと決意した。
それこそ目指すべき隊長の姿だと、そう部下に豪語したところだというのに。
ラムネをもう一口飲む。
(この唇にもし、彼女のそれが触れたならーー)
硬い音が辺りに響く。
浮竹は無表情のまま、手の中を見た。
無残に砕けたラムネ瓶は血と共に膝を濡らし転がり、カラコロと高い音を立てて瓦に落ちる。
辺りには更に甘い香りと、血の匂いが立つ。
その手をじっと見つめた。
暗闇に白く浮かぶ人は、暗い室内に消えていく背中を見送る。
百日紅の幹と同じくらい白く見えるその顔には苦悶の表情が浮かんでいた。
震える唇から、細く息を吐き出すことで、抑えている霊圧が揺れるのを防ぐ。
その硬い理性にある程度の自信があり、長年の経験から多少の事では動じない筈の自分が大きな衝撃を受けている事にも戸惑っているのだ。
目の前の事象は、自分が望んでいるもののはずだった。
自分が手放すと心に決めた望みのはずだった。
そして自分が手放す先に望んだ結末だった。
そのはずだった。
(無様だな)
そう自嘲することで己を押さえ込む。
京楽の迷いは手に取るようにわかった。
彼の迷う原因に、己の存在がある事もまた、分かった。
3人は3人で、互いはかけがえの無い存在だ。
今この瞬間であっても浮竹にとって京楽ほどの親友は居ないと思っている。
それは相手にとっても同じことで、そして互いの心を痛い程に理解しているからこそ、彼は迷ったに違いない。
彼の言葉は浮竹と咲の関係を否定するものではなかった。
咲自身の複雑な気持ちも汲んだ上で紡がれた、あまりに思いやりの溢れた言葉だった。
彼程の男を知らないと、浮竹は心の底から思った。
瞬歩で雨乾堂に戻る。
ここは周りに池がある分幾らか涼しい
。
その屋根に登り、土産にと手にしていた袋を開けた。
中には行儀良く3本、瓶が並んでいる。
その1本を取り出し、ポンと音を立てて封を切る。
シュワシュワと溢れる泡が服に染みを作った。
爽やかだが甘ったるい香りが辺りに漂う。
瓶に口をつけた。
久しぶりに飲むラムネは予想以上に甘い。
あの日飲んだ時はあれ程美味しく感じたのに、今はその記憶に押しつぶされそうな暗い胸が苦しい。
(いい歳してあんまりだ)
年齢の割に女性経験が少ない自覚はある。
言い寄られた数に対し、応えた数はあまりに少ない。
だがゼロでもない。
咲に知られぬように関係を作り、そして別れてきた。
自分は京楽のように多くの女性と噂が流れながらも付き合っていけるほど器用ではないが、咲への思いを紛らわす程度に隠れて付き合う程度には立ち回れた。
彼女に思いを伝えないと決めたのは自分だ。
彼女への余りに深い思いを、押し殺すと決めたのも、この自分。
自分は彼女の傍を捨て、また別の立ち位置から彼女を護ると決めたのだ。
たとえ彼女の意志に背くことであろうと、そうあろうと決意した。
それこそ目指すべき隊長の姿だと、そう部下に豪語したところだというのに。
ラムネをもう一口飲む。
(この唇にもし、彼女のそれが触れたならーー)
硬い音が辺りに響く。
浮竹は無表情のまま、手の中を見た。
無残に砕けたラムネ瓶は血と共に膝を濡らし転がり、カラコロと高い音を立てて瓦に落ちる。
辺りには更に甘い香りと、血の匂いが立つ。
その手をじっと見つめた。