学院編Ⅲ
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時は少し前。
十三番隊の執務室でのこと。
「はぁ?
一人いねぇだと?」
土方は筆を置いた。
書類が書きかけだがそれどころではない。
「すまねぇ歳さん。
よく見ていたつもりだったんだが……」
困ったように頭を掻くのは十三番隊七席の藤堂平助だ。
院生の見学班には二人ずつ十三番隊士をつけていた。
彼のペアの四席原田左之助が引き続き残りの院生を見ているらしい。
なんで院生十数人くらいまともに見れねぇんだ!と怒鳴ろうとして、小さくなった部下の言葉に飲み込む。
「本当にすっといなくなっていたんだ。
院生とは思えねぇ……」
その言葉に土方はひとつ心当たりがあったからだ。
「いなくなったのは誰か分かってんのか?」
「院生たちの話じゃ、空太刀咲っていう女子生徒らしい。
今でも信じられねぇよ」
土方は予想通りでため息をついた。
「探せ。
叛乱因子もごろごろいるんだ。
放っておけば、死ぬ」
「了解!」
ひそめられた眉に、藤堂はいそいで執務室を出ようとする。
「何、どうしたの?」
そこにひょっこり顔を出したのは三席の沖田総司。
「丁度いいところに!
なぁ、今暇?」
探すなら一人でも多いことに越したことはない。
「別に暇じゃないよ、鬼の副隊長が仕事しろって煩いからねぇ」
にやりと笑う沖田に、土方はまたため息をついた。
「仕事だ。
てめぇも藤堂と原田の尻ぬぐいして来い」
「勘弁してよ、誰が好き好んで人の尻拭いなんか」
「そんなこと言わねぇで頼むって!」
「ごたごた言ってねぇでさっさと行け!」
「了解!!」
「仕方ないなぁ」
揃って部屋を追い出され、ため息をついた藤堂。
「何があったの?」
「それがさぁ、院生が今日見学にきてるだろ?
俺2班の担当だったんだけど、院生ひとりいなくなって」
「へぇ。
迷子探しってこと?」
「まぁそんなとこ」
「隊士の手を煩わせるような子なんて、死んじゃえばいいのに」
さらりとそんなことを言うから、藤堂は慌てる。
こいつは叛乱因子に交じって、院生に刃を向けるのではないかと。
(やりかねねぇ!)
「いやほら、初めてのところだし?
何かちょっと興味でもあってふらふらぁっと……」
「でも普通気づかない?
院生がひとりはぐれるなんて」
席官に言わせれば最もだ。
院生ごとき気配も霊圧も隠せない餓鬼の動向が読めないはずがないと、誰もが思う。
たとえ六年生であろうと、彼らにした赤子同然。
意地悪そうな瞳が藤堂を見て、にやりと笑う。
藤堂は慌てて弁解に入った。
「それがすっと消えていてさぁ!
左之さんも気づかなかったんだぜ?」
沖田は少し驚いた顔をする。
そして。
「へぇ」
にやり、と笑みを深めた。
何かおもちゃを見つけた時の彼の顔で、藤堂は逆にまずいことをしたのではと不安になる。
「面白そう。
見つけたら斬ってみようかな」
(完全にまずい方向に向いているじゃねぇか!)
と、青ざめるが、時すでに遅し。
急に足を早めた沖田の後ろを慌てて追いかけた。
「失礼致します」
「失礼致します」
響河の後ろからそろそろと室内に入る。
初めてやってきた隊首室。
だが今は辺りを気にする余裕などない。
「どうした、響河」
ゆったりと、響河を見、その後ろにいる咲を見た六番隊隊長朽木銀嶺は、顔色一つ変えずにそう問いかけた。
「彼女は霊術院の見学で来ていた院生です。
はぐれてしまったところを叛乱因子に襲われていたので保護しました」
咲は深く頭を下げた。
隊長格の強い霊圧をぴりぴりと肌で感じる。
朽木家の人の霊圧は冬の朝のように冷たく、澄んでいる。
凛としたそれは、揺るぎない存在を築いている。
「先にそちらの報告を聞こう」
「はい。
半数は私が片づけましたが、他は彼女がすでに意識不明の状態にしておりました。
班員に後処理は頼みましたので、そろそろ隊舎に連行してくる頃かと思います」
「うむ」
銀嶺の切れ長の目が咲を見据えるので、思わず小さくなった。
「来年の新入隊員は期待できそうですね。
話を戻しますが、院生の団体が今どのあたりにいるのかご存じではないかと思い、彼女を連れて参りました」
「お主、何故はぐれた?」
そもそもの痛いところをつかれ、咲はいよいよ体を小さくした。
銀嶺の鋭い目が、言い逃れは許さないとばかりに咲を射抜く。
「私が自ら離れました。
すぐに戻れるだろうと、高をくくっておりました。
申し訳ございません!」
その視線から逃げるように咲は頭を深く下げた。
「良いではないですか、父上。
お陰で反乱因子の新しい手口も無事につかめました。
有難いことです」
響河が助け船を出すも、銀嶺は聞くそぶりもない。
「ここでそう呼ぶなと申したであろう。
私はそなたのようなものが六番隊におれば除隊させておる。
状況の判断もできず、己の力を過信する者など、足手纏いも甚だしい」
ぴしゃりと言い放たれ、咲はびくりと肩を揺らす。
「申し開きのしようもございません!」
深く頭を下げるが、銀嶺の言葉は止まらない。
「そなたの班の引率者も、当然、始末書を書かされる。
……それで済めば良いが」
その言葉に、自分の班を引率していた兄貴肌の原田、元気よく自分たちを迎えてくれた藤堂の姿がよぎる。
2人は自分を襲うような死神とは違う。
尊敬すべき、死神で、席もある立派な人たちなのに。
「父上、何もそこまでおっしゃらなくとも……」
「お前は黙っておれ!」
咲は頭を下げたまま涙を堪えて唇をかんだ。
「この辺で居ないことに気づいたんだ」
「何にもないところだね」
「……っだあぁ!
何で気づかなかったんだぁ!」
沖田とうなだれる藤堂がいるのは小さめの広場だ。
現世へと降りるときの最終点呼をしたり、四番隊の応援が待機したりするような、そんな場所。
沖田が言うように何もない広場だ。
「ここに来る前はどこの見学だったの?」
「図書館なんだよ。
あこからここまでなんて大した距離もないし、何の愛想もない道があるだけで、どこかの建物に入っちまうことなんてないと思うんだけど」
沖田は首をかしげる。
「じゃあ、彼女は何ではぐれたんだろう?
奴らに攫われたとか?」
沖田が奴らと称するのはもちろん、反乱因子のことだ。
「まさかっ!」
「でもありえるよねぇ、人質にちょうどいいんじゃない?」
「やべぇよそれ!
やばすぎるって!
まだ院生だぜ?」
「霊術院に対する当て付けか。
奴らのことだ、惨殺して遺体を晒したりでもするんじゃない?」
にやりと笑う沖田。
青ざめる藤堂。
「随分物騒な話をしているね」
対照的な2人に声をかける者がいた。
「山田副隊長。
あ、ここ使うんですか?」
山田と彼の率いる救護班の姿がそこにあったため、現世から帰ってくる死神達の応急手当のためにこの広場を使うのではと思ったのだ。
「いや、僕達は今から六番隊に向かうところだ。
ところで、その馬鹿な院生のことだけど」
藤堂と沖田は顔を合わせる。
「もしかして知ってるんですか?」
「空太刀咲っていう更木育ちの獣じゃないかい?」
「そう!
そうです!!」
藤堂が勢いよく飛びつく。
「やはりな」
山田は呆れたように溜息をついた。
訝しげに沖田が尋ねる。
「どうして山田副隊長がそのことを?」
「私を追いかけてきたのでね、追い返したんだが……そうか、やはりはぐれたか」
「副隊長、そろそろ……」
同行していた隊士が声をかける。
六番隊に呼ばれているのだ、遅れるわけにはいかないと、藤堂と沖田もよく分かっている。
「すみません、お時間取ってしまって」
「全く、価値もない院生に今日は無駄に時間を取られてばかりだ。
それにしても君もご苦労なことだ。
あんな愚図に撒かれるとは」
それでは、と嘲笑を浮かべ山田は2人に背を向けて歩いて行った。
「……俺、山田副隊長苦手なんだよな」
藤堂がぽつりと呟き、沖田はそれに無言を返した。
十三番隊の執務室でのこと。
「はぁ?
一人いねぇだと?」
土方は筆を置いた。
書類が書きかけだがそれどころではない。
「すまねぇ歳さん。
よく見ていたつもりだったんだが……」
困ったように頭を掻くのは十三番隊七席の藤堂平助だ。
院生の見学班には二人ずつ十三番隊士をつけていた。
彼のペアの四席原田左之助が引き続き残りの院生を見ているらしい。
なんで院生十数人くらいまともに見れねぇんだ!と怒鳴ろうとして、小さくなった部下の言葉に飲み込む。
「本当にすっといなくなっていたんだ。
院生とは思えねぇ……」
その言葉に土方はひとつ心当たりがあったからだ。
「いなくなったのは誰か分かってんのか?」
「院生たちの話じゃ、空太刀咲っていう女子生徒らしい。
今でも信じられねぇよ」
土方は予想通りでため息をついた。
「探せ。
叛乱因子もごろごろいるんだ。
放っておけば、死ぬ」
「了解!」
ひそめられた眉に、藤堂はいそいで執務室を出ようとする。
「何、どうしたの?」
そこにひょっこり顔を出したのは三席の沖田総司。
「丁度いいところに!
なぁ、今暇?」
探すなら一人でも多いことに越したことはない。
「別に暇じゃないよ、鬼の副隊長が仕事しろって煩いからねぇ」
にやりと笑う沖田に、土方はまたため息をついた。
「仕事だ。
てめぇも藤堂と原田の尻ぬぐいして来い」
「勘弁してよ、誰が好き好んで人の尻拭いなんか」
「そんなこと言わねぇで頼むって!」
「ごたごた言ってねぇでさっさと行け!」
「了解!!」
「仕方ないなぁ」
揃って部屋を追い出され、ため息をついた藤堂。
「何があったの?」
「それがさぁ、院生が今日見学にきてるだろ?
俺2班の担当だったんだけど、院生ひとりいなくなって」
「へぇ。
迷子探しってこと?」
「まぁそんなとこ」
「隊士の手を煩わせるような子なんて、死んじゃえばいいのに」
さらりとそんなことを言うから、藤堂は慌てる。
こいつは叛乱因子に交じって、院生に刃を向けるのではないかと。
(やりかねねぇ!)
「いやほら、初めてのところだし?
何かちょっと興味でもあってふらふらぁっと……」
「でも普通気づかない?
院生がひとりはぐれるなんて」
席官に言わせれば最もだ。
院生ごとき気配も霊圧も隠せない餓鬼の動向が読めないはずがないと、誰もが思う。
たとえ六年生であろうと、彼らにした赤子同然。
意地悪そうな瞳が藤堂を見て、にやりと笑う。
藤堂は慌てて弁解に入った。
「それがすっと消えていてさぁ!
左之さんも気づかなかったんだぜ?」
沖田は少し驚いた顔をする。
そして。
「へぇ」
にやり、と笑みを深めた。
何かおもちゃを見つけた時の彼の顔で、藤堂は逆にまずいことをしたのではと不安になる。
「面白そう。
見つけたら斬ってみようかな」
(完全にまずい方向に向いているじゃねぇか!)
と、青ざめるが、時すでに遅し。
急に足を早めた沖田の後ろを慌てて追いかけた。
「失礼致します」
「失礼致します」
響河の後ろからそろそろと室内に入る。
初めてやってきた隊首室。
だが今は辺りを気にする余裕などない。
「どうした、響河」
ゆったりと、響河を見、その後ろにいる咲を見た六番隊隊長朽木銀嶺は、顔色一つ変えずにそう問いかけた。
「彼女は霊術院の見学で来ていた院生です。
はぐれてしまったところを叛乱因子に襲われていたので保護しました」
咲は深く頭を下げた。
隊長格の強い霊圧をぴりぴりと肌で感じる。
朽木家の人の霊圧は冬の朝のように冷たく、澄んでいる。
凛としたそれは、揺るぎない存在を築いている。
「先にそちらの報告を聞こう」
「はい。
半数は私が片づけましたが、他は彼女がすでに意識不明の状態にしておりました。
班員に後処理は頼みましたので、そろそろ隊舎に連行してくる頃かと思います」
「うむ」
銀嶺の切れ長の目が咲を見据えるので、思わず小さくなった。
「来年の新入隊員は期待できそうですね。
話を戻しますが、院生の団体が今どのあたりにいるのかご存じではないかと思い、彼女を連れて参りました」
「お主、何故はぐれた?」
そもそもの痛いところをつかれ、咲はいよいよ体を小さくした。
銀嶺の鋭い目が、言い逃れは許さないとばかりに咲を射抜く。
「私が自ら離れました。
すぐに戻れるだろうと、高をくくっておりました。
申し訳ございません!」
その視線から逃げるように咲は頭を深く下げた。
「良いではないですか、父上。
お陰で反乱因子の新しい手口も無事につかめました。
有難いことです」
響河が助け船を出すも、銀嶺は聞くそぶりもない。
「ここでそう呼ぶなと申したであろう。
私はそなたのようなものが六番隊におれば除隊させておる。
状況の判断もできず、己の力を過信する者など、足手纏いも甚だしい」
ぴしゃりと言い放たれ、咲はびくりと肩を揺らす。
「申し開きのしようもございません!」
深く頭を下げるが、銀嶺の言葉は止まらない。
「そなたの班の引率者も、当然、始末書を書かされる。
……それで済めば良いが」
その言葉に、自分の班を引率していた兄貴肌の原田、元気よく自分たちを迎えてくれた藤堂の姿がよぎる。
2人は自分を襲うような死神とは違う。
尊敬すべき、死神で、席もある立派な人たちなのに。
「父上、何もそこまでおっしゃらなくとも……」
「お前は黙っておれ!」
咲は頭を下げたまま涙を堪えて唇をかんだ。
「この辺で居ないことに気づいたんだ」
「何にもないところだね」
「……っだあぁ!
何で気づかなかったんだぁ!」
沖田とうなだれる藤堂がいるのは小さめの広場だ。
現世へと降りるときの最終点呼をしたり、四番隊の応援が待機したりするような、そんな場所。
沖田が言うように何もない広場だ。
「ここに来る前はどこの見学だったの?」
「図書館なんだよ。
あこからここまでなんて大した距離もないし、何の愛想もない道があるだけで、どこかの建物に入っちまうことなんてないと思うんだけど」
沖田は首をかしげる。
「じゃあ、彼女は何ではぐれたんだろう?
奴らに攫われたとか?」
沖田が奴らと称するのはもちろん、反乱因子のことだ。
「まさかっ!」
「でもありえるよねぇ、人質にちょうどいいんじゃない?」
「やべぇよそれ!
やばすぎるって!
まだ院生だぜ?」
「霊術院に対する当て付けか。
奴らのことだ、惨殺して遺体を晒したりでもするんじゃない?」
にやりと笑う沖田。
青ざめる藤堂。
「随分物騒な話をしているね」
対照的な2人に声をかける者がいた。
「山田副隊長。
あ、ここ使うんですか?」
山田と彼の率いる救護班の姿がそこにあったため、現世から帰ってくる死神達の応急手当のためにこの広場を使うのではと思ったのだ。
「いや、僕達は今から六番隊に向かうところだ。
ところで、その馬鹿な院生のことだけど」
藤堂と沖田は顔を合わせる。
「もしかして知ってるんですか?」
「空太刀咲っていう更木育ちの獣じゃないかい?」
「そう!
そうです!!」
藤堂が勢いよく飛びつく。
「やはりな」
山田は呆れたように溜息をついた。
訝しげに沖田が尋ねる。
「どうして山田副隊長がそのことを?」
「私を追いかけてきたのでね、追い返したんだが……そうか、やはりはぐれたか」
「副隊長、そろそろ……」
同行していた隊士が声をかける。
六番隊に呼ばれているのだ、遅れるわけにはいかないと、藤堂と沖田もよく分かっている。
「すみません、お時間取ってしまって」
「全く、価値もない院生に今日は無駄に時間を取られてばかりだ。
それにしても君もご苦労なことだ。
あんな愚図に撒かれるとは」
それでは、と嘲笑を浮かべ山田は2人に背を向けて歩いて行った。
「……俺、山田副隊長苦手なんだよな」
藤堂がぽつりと呟き、沖田はそれに無言を返した。