新副隊長編
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「隊長はなんでそんなに長く拗らせているんすか?」
「時の運が無かったというか、タイミングが悪いと言うか。
まぁ一言で言うなら縁が無いのだろうな」
苦笑を浮かべる鳶色の瞳は、普段はあまり見せることのない背負ってきた苦労と悔しさを滲ませている。
「若い頃に想いを伝えていれば、と今でも思うよ。
そうであったならばきっと、相手の為に共に生きる道を選ぶだろう」
仲間以上の存在としては意識もしなかった霊術院時代。
淡い恋心を抱きつつも日々任務に忙殺された若手時代。
そして、思いを押し殺しての虚圏への派遣。
ずっとずっと心の奥底に押さえ込み拗らせてきた思いを、もしもっと早く伝えていたら、肺に食いつきこの命を繋ぐミミハギ様の事を知った後でも彼女と共に歩む道を何とか模索したに違いない。
例え己の命を投げ出すことで護廷の為になる時が来たとしても、生き延びる道を探し続けただろう。
それがおそらく愛であり、若さの為す技であり、そして自分が持たない物だと浮竹は思っていた。
「今からでも伝えればいいじゃないですか。
今からでも共に生きる道を、幾らでも選べますよ」
「いや、もう若くはないからな。」
「自分の人気分かって言ってます?」
呆れた様に片眉を上げた海燕に、はははと笑ってみせる。
「護廷に命を捧げると、そう決めたからな。
相手の為に生き長らえるという選択をしない以上、けじめだ」
「けじめって……まさか相手にそれを伝えたなんてことは」
「伝えたよ」
「相手の気持ち考えなかったんですか?」
「考えたさ。
だが、だからこそ明確にすべきことであった」
「自分から斬り捨てたんですか」
「ああ、でなければ俺は弱いから、いつか負けてしまうかもしれないからな」
そう言って 錦玉 を楊枝で切って口へ運ぶ。
予想通り爽やかな季節の味わいに、難しい顔をする部下にも勧める。
「美味いぞ、遠慮せず食べなさい」
「それは本当に負けですか。
相手のために生きようとする事の、何が負けだって言うんすか」
真剣な言葉に、皿を机に戻し、茶を啜る。
湯飲みも机に戻して口に残る甘みを飲み込んでから、口を開いた。
「逃してはならない一瞬のタイミングで迷う可能性は捨てておきたいんだ、俺はな」
「それ、自分の命を犠牲にするってことっすよね?
それ程の滅私奉公をして、なんになるです?
そりゃ俺だって護廷のためにできる限りのことはするつもりですよ。
でも自分の命と、家族の命あってこその話だ。
護りたい人を護る為に命張るんじゃないんですか。
大切な人達の為に生きて帰ろうって思うんじゃないんですか。
隊長はまるで、死の一瞬を求めているように聞こえます。
あんたその一瞬で華々しく散ろうとしてるだけじゃないですか」
すっかり言うようになった部下の成長を頼もしく思いながら、浮竹は一つ頷く。
「そうだな、そう思われても仕方ないだろう。俺は、俺の命の意味を考えた結果に過ぎないが」
「もし相手が隊長の命を護る為に立ちふさがったとしたら、斬るっていうことっすか」
「それは」
「斬れるんですか」
畳み掛けるような言葉に、挑むような瞳に、浮竹は一瞬考えて微かに自嘲的な笑みを浮かべ、口を開いた。
「そうだな、斬らねばならん」
海燕は言葉を失う。
「隊長にとって、その人は誰よりも何よりも愛すべき人ではないと言うことですか。
その命にかえてでも護りたい存在ではないと」
「そう言わねばなるまい」
「俺は、俺の命に代えてでも護りたい人がいます」
「ああ、お前はまだ若い。
その人を護るべきだ」
「若いって、歳なんか関係ねぇだろ!
それで後悔しないのかよ!
もしその人が自分生かすために立ちはだかって、そいつを斬って、それで自分の決意のためだからって涙なんか流さないって言えるのかよ!
あんたそれでよく部下に生きろって言えるな!
てめぇが自分で生き様示してみろよ!!」
机を叩き、立ち上がって真剣に訴える部下に、浮竹は嬉しそうに微笑む。
その顔を見た海燕は苛立った。
「なんだよ!なんか言えよ!!」
「ありがとう、海燕」
虚を突かれた顔をする部下を見上げて、浮竹は諭すように静かに言った。
「俺は護廷十三隊の隊長だ。
人を死地に送り込む命令を出す権限を持つ。
そして人の命を護る責任を持つ。
俺の命令の為に、命をかけてくれる部下がいる。
仲間がいる。
親友がいる。
俺は彼らの為に、命をかけたい」
黙って聞いていた海燕はどさりとソファに腰を下ろした。
組んだ手に額を乗せて考え込む姿に、浮竹は苦笑を漏らす。
「俺は……」
部下の声はどこか揺らいでいた。
「だがこれは俺の思う隊長の姿だ。
お前はお前の目指す隊長になればいい。
俺は俺の目指す隊長を、貫くだけだ。
だから俺は、お前の目指す姿を全力で応援するよ」
「それも隊長の思う、隊長の姿だからって言うんですか」
「俺は1人の死神として、そして先に生きる者として、お前の成長や目標を応援したいだけだ。
俺は隊長でなくとも、お前の目指すものを全力で応援したさ、海燕」
優しく名を呼ばれ顔を上げると、そこにはやはり穏やかな上司がいた。
男としても死神としても、彼の前では自分は赤子のようだと思う時がある。
彼の懐の深さ、強さに、心底惹かれている。
憧れている。
それはただの上司としてではない。
先に彼が言っていた通り、死神として、先行くものとして、その生き様はあまりに清く美しい。
だが、その一方で彼の様にはなりたくないし、なれるはずもないと思う自分がいた。
多くの死線を乗り越えて、多くの人を失って、多くの思いを押し殺して、そして自分達を護る為に立ちはだかる偉大な彼は、あまりに強く哀しい。
その強さが、清さが、彼を生かし、同時に不幸にしているに違いないと思った。
「時の運が無かったというか、タイミングが悪いと言うか。
まぁ一言で言うなら縁が無いのだろうな」
苦笑を浮かべる鳶色の瞳は、普段はあまり見せることのない背負ってきた苦労と悔しさを滲ませている。
「若い頃に想いを伝えていれば、と今でも思うよ。
そうであったならばきっと、相手の為に共に生きる道を選ぶだろう」
仲間以上の存在としては意識もしなかった霊術院時代。
淡い恋心を抱きつつも日々任務に忙殺された若手時代。
そして、思いを押し殺しての虚圏への派遣。
ずっとずっと心の奥底に押さえ込み拗らせてきた思いを、もしもっと早く伝えていたら、肺に食いつきこの命を繋ぐミミハギ様の事を知った後でも彼女と共に歩む道を何とか模索したに違いない。
例え己の命を投げ出すことで護廷の為になる時が来たとしても、生き延びる道を探し続けただろう。
それがおそらく愛であり、若さの為す技であり、そして自分が持たない物だと浮竹は思っていた。
「今からでも伝えればいいじゃないですか。
今からでも共に生きる道を、幾らでも選べますよ」
「いや、もう若くはないからな。」
「自分の人気分かって言ってます?」
呆れた様に片眉を上げた海燕に、はははと笑ってみせる。
「護廷に命を捧げると、そう決めたからな。
相手の為に生き長らえるという選択をしない以上、けじめだ」
「けじめって……まさか相手にそれを伝えたなんてことは」
「伝えたよ」
「相手の気持ち考えなかったんですか?」
「考えたさ。
だが、だからこそ明確にすべきことであった」
「自分から斬り捨てたんですか」
「ああ、でなければ俺は弱いから、いつか負けてしまうかもしれないからな」
そう言って
予想通り爽やかな季節の味わいに、難しい顔をする部下にも勧める。
「美味いぞ、遠慮せず食べなさい」
「それは本当に負けですか。
相手のために生きようとする事の、何が負けだって言うんすか」
真剣な言葉に、皿を机に戻し、茶を啜る。
湯飲みも机に戻して口に残る甘みを飲み込んでから、口を開いた。
「逃してはならない一瞬のタイミングで迷う可能性は捨てておきたいんだ、俺はな」
「それ、自分の命を犠牲にするってことっすよね?
それ程の滅私奉公をして、なんになるです?
そりゃ俺だって護廷のためにできる限りのことはするつもりですよ。
でも自分の命と、家族の命あってこその話だ。
護りたい人を護る為に命張るんじゃないんですか。
大切な人達の為に生きて帰ろうって思うんじゃないんですか。
隊長はまるで、死の一瞬を求めているように聞こえます。
あんたその一瞬で華々しく散ろうとしてるだけじゃないですか」
すっかり言うようになった部下の成長を頼もしく思いながら、浮竹は一つ頷く。
「そうだな、そう思われても仕方ないだろう。俺は、俺の命の意味を考えた結果に過ぎないが」
「もし相手が隊長の命を護る為に立ちふさがったとしたら、斬るっていうことっすか」
「それは」
「斬れるんですか」
畳み掛けるような言葉に、挑むような瞳に、浮竹は一瞬考えて微かに自嘲的な笑みを浮かべ、口を開いた。
「そうだな、斬らねばならん」
海燕は言葉を失う。
「隊長にとって、その人は誰よりも何よりも愛すべき人ではないと言うことですか。
その命にかえてでも護りたい存在ではないと」
「そう言わねばなるまい」
「俺は、俺の命に代えてでも護りたい人がいます」
「ああ、お前はまだ若い。
その人を護るべきだ」
「若いって、歳なんか関係ねぇだろ!
それで後悔しないのかよ!
もしその人が自分生かすために立ちはだかって、そいつを斬って、それで自分の決意のためだからって涙なんか流さないって言えるのかよ!
あんたそれでよく部下に生きろって言えるな!
てめぇが自分で生き様示してみろよ!!」
机を叩き、立ち上がって真剣に訴える部下に、浮竹は嬉しそうに微笑む。
その顔を見た海燕は苛立った。
「なんだよ!なんか言えよ!!」
「ありがとう、海燕」
虚を突かれた顔をする部下を見上げて、浮竹は諭すように静かに言った。
「俺は護廷十三隊の隊長だ。
人を死地に送り込む命令を出す権限を持つ。
そして人の命を護る責任を持つ。
俺の命令の為に、命をかけてくれる部下がいる。
仲間がいる。
親友がいる。
俺は彼らの為に、命をかけたい」
黙って聞いていた海燕はどさりとソファに腰を下ろした。
組んだ手に額を乗せて考え込む姿に、浮竹は苦笑を漏らす。
「俺は……」
部下の声はどこか揺らいでいた。
「だがこれは俺の思う隊長の姿だ。
お前はお前の目指す隊長になればいい。
俺は俺の目指す隊長を、貫くだけだ。
だから俺は、お前の目指す姿を全力で応援するよ」
「それも隊長の思う、隊長の姿だからって言うんですか」
「俺は1人の死神として、そして先に生きる者として、お前の成長や目標を応援したいだけだ。
俺は隊長でなくとも、お前の目指すものを全力で応援したさ、海燕」
優しく名を呼ばれ顔を上げると、そこにはやはり穏やかな上司がいた。
男としても死神としても、彼の前では自分は赤子のようだと思う時がある。
彼の懐の深さ、強さに、心底惹かれている。
憧れている。
それはただの上司としてではない。
先に彼が言っていた通り、死神として、先行くものとして、その生き様はあまりに清く美しい。
だが、その一方で彼の様にはなりたくないし、なれるはずもないと思う自分がいた。
多くの死線を乗り越えて、多くの人を失って、多くの思いを押し殺して、そして自分達を護る為に立ちはだかる偉大な彼は、あまりに強く哀しい。
その強さが、清さが、彼を生かし、同時に不幸にしているに違いないと思った。