新副隊長編
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日差しが目を刺す。
朝方湯で汗を流してはずなのに、しっとりと汗ばんでいた。
何もかもが初めてで困惑する自分に優しく微笑む京楽に甘え、また今日非番なのを良いことに、日が高くなるまで彼の館の離れに居座った自分が嫌になる。
別れ際彼は咲の手を取り言った。
ーこれは戯れではない。
だが君が将来を案ずる程深刻な話でも、またない。
今までの関係が変わると言うのは正しくもあるが、ボクの君への思いは昔から変わらないから何も気負うことはないさ。
……勿論、浮竹のこともねー
その瞳の優しさに、促されるように一つ頷いてしまった。
自分の身体から香る京楽家の高級な石鹸の香りが、彼が時折させているものと当然ながら一緒で、それに気付くと心が何処かこそばゆい。
その一方で、先日命を奪った蒼純に訪れることのなかった愛しい人との時間を思う。
(愛する月雫様のお命も、そして副隊長ご自身のお命をも奪った自分が、どうしてこんな優しい思いを受けて良いものか)
ーお前が……お前が愛おしいよ、咲ー
誰にも話してはいない、蒼純の最期言葉がまた蘇り、咲は思わず胸を抑える。
その愛おしさの意味が、万が一にでも、女としてのものであれば、彼はあの時、何を望んだのかと、永遠の問いに意識が持っていかれる。
ーー彼の最愛の妻を、殺した自分に。
「やぁ」
かけられた声に跳ねるように顔を上げた。
正面から手を上げてこちらへ歩いてくる姿に思わず目を見開いて立ち止る。
どうして出会うまで気づかなかったのかと己を呪った。
それほどまでに昨夜の事を浮竹には知られてはいけないと、知られたくはないと、咲は思ってしまったのだ。
「昨日は悪かったな、仕事がどうしても終わらなくてな」
穏やかな笑みを浮かべながら、彼は近づいた。
そうだ、3人で飲むはずであったのに、彼は仕事が終わらず来れなかったのだと後から京楽に聞かされた。
「百日紅はどうだった?
気になっていたんだがなぁ。
あれは花の盛りが長いから、次見られるだろうか」
どこまで近づいてくるのだろう、そんな今まで思いもしなかった疑問が頭をかすめる。
そして踏み出された1歩に、思わず1歩下がった。
相手はそれを見て眉をあげた。
風に乗って薬の臭いと香の匂いが混ざって漂う。
その香りを無意識に吸い込み、その香りを心地よく思った自分の浅ましさと距離の近さにかっと顔に熱が集まり、慌てて顔を背けた。
今までの数百年間、無意識に彼らに近づいていたことを思い知らされる。
なぜこの数百年もの間、なにも思わなかったのだろうか。
魅力的な2人の噂を聞かないはずはなかったのに、それがどうしてこれほどの距離にいる事を自覚しなかったのだろう。
相手が自分を女だなんて思っているはずがないと、頭から思い込んでいたのが第一の理由であるが、それを今更言い訳になどできない。
耳まで赤くして俯く咲に、浮竹はいつも通り穏やかな視線を向ける。
「大丈夫か、身体は」
一瞬彼の言葉の意味を考え、血の気がひいた。
「痩せたようだから、昨日は何か美味いものでも持って行ってやろうと思ったののだが、悪かったな。
また次、何か食べに行こうか、ん?」
まるで咲の心の内を見透かして言葉を変えてくれた様に感じ、咲は恐る恐る浮竹を見上げる。
そこには穏やかな鳶色の瞳が、咲を見下ろしていた。
あまりにいつも通りすぎる。
咲の戸惑いを気付かぬ振りをする姿に、やはり聡い彼には全てを知られているのだろうと思った。
それでも尚、今まで通りの仲を続けてくれようとする姿に、胸が締め付けられる。
京楽が自分への深い思いを囁く一方で、浮竹との仲を咎めなかったのは、全て理解していたからだと今更ながら気付く。
咲にとって3人はいつまでも3人で、どちらかが欠けることなど耐えられない。
きっとこれからも今まで通りなのだろう。
今まで通りでいてくれるのだろう。
2人とも。
「次はいつにするか、また京楽とも相談しないといけないな」
溢れる2人の優しさの間で、咲は俯く。
彼らの支え無しでは、自分は立つことさえ出来ないだろう。
それくらい自分の心は彼らに寄り掛かっているし、彼等もそれを熟知して、守ってくれる。
世間一般で言えばあまりに不自然な3人の関係かもしれないが、その身に余る幸福に目頭が熱くなる。
大きな手が咲の頭をそっと撫でた。
朝方湯で汗を流してはずなのに、しっとりと汗ばんでいた。
何もかもが初めてで困惑する自分に優しく微笑む京楽に甘え、また今日非番なのを良いことに、日が高くなるまで彼の館の離れに居座った自分が嫌になる。
別れ際彼は咲の手を取り言った。
ーこれは戯れではない。
だが君が将来を案ずる程深刻な話でも、またない。
今までの関係が変わると言うのは正しくもあるが、ボクの君への思いは昔から変わらないから何も気負うことはないさ。
……勿論、浮竹のこともねー
その瞳の優しさに、促されるように一つ頷いてしまった。
自分の身体から香る京楽家の高級な石鹸の香りが、彼が時折させているものと当然ながら一緒で、それに気付くと心が何処かこそばゆい。
その一方で、先日命を奪った蒼純に訪れることのなかった愛しい人との時間を思う。
(愛する月雫様のお命も、そして副隊長ご自身のお命をも奪った自分が、どうしてこんな優しい思いを受けて良いものか)
ーお前が……お前が愛おしいよ、咲ー
誰にも話してはいない、蒼純の最期言葉がまた蘇り、咲は思わず胸を抑える。
その愛おしさの意味が、万が一にでも、女としてのものであれば、彼はあの時、何を望んだのかと、永遠の問いに意識が持っていかれる。
ーー彼の最愛の妻を、殺した自分に。
「やぁ」
かけられた声に跳ねるように顔を上げた。
正面から手を上げてこちらへ歩いてくる姿に思わず目を見開いて立ち止る。
どうして出会うまで気づかなかったのかと己を呪った。
それほどまでに昨夜の事を浮竹には知られてはいけないと、知られたくはないと、咲は思ってしまったのだ。
「昨日は悪かったな、仕事がどうしても終わらなくてな」
穏やかな笑みを浮かべながら、彼は近づいた。
そうだ、3人で飲むはずであったのに、彼は仕事が終わらず来れなかったのだと後から京楽に聞かされた。
「百日紅はどうだった?
気になっていたんだがなぁ。
あれは花の盛りが長いから、次見られるだろうか」
どこまで近づいてくるのだろう、そんな今まで思いもしなかった疑問が頭をかすめる。
そして踏み出された1歩に、思わず1歩下がった。
相手はそれを見て眉をあげた。
風に乗って薬の臭いと香の匂いが混ざって漂う。
その香りを無意識に吸い込み、その香りを心地よく思った自分の浅ましさと距離の近さにかっと顔に熱が集まり、慌てて顔を背けた。
今までの数百年間、無意識に彼らに近づいていたことを思い知らされる。
なぜこの数百年もの間、なにも思わなかったのだろうか。
魅力的な2人の噂を聞かないはずはなかったのに、それがどうしてこれほどの距離にいる事を自覚しなかったのだろう。
相手が自分を女だなんて思っているはずがないと、頭から思い込んでいたのが第一の理由であるが、それを今更言い訳になどできない。
耳まで赤くして俯く咲に、浮竹はいつも通り穏やかな視線を向ける。
「大丈夫か、身体は」
一瞬彼の言葉の意味を考え、血の気がひいた。
「痩せたようだから、昨日は何か美味いものでも持って行ってやろうと思ったののだが、悪かったな。
また次、何か食べに行こうか、ん?」
まるで咲の心の内を見透かして言葉を変えてくれた様に感じ、咲は恐る恐る浮竹を見上げる。
そこには穏やかな鳶色の瞳が、咲を見下ろしていた。
あまりにいつも通りすぎる。
咲の戸惑いを気付かぬ振りをする姿に、やはり聡い彼には全てを知られているのだろうと思った。
それでも尚、今まで通りの仲を続けてくれようとする姿に、胸が締め付けられる。
京楽が自分への深い思いを囁く一方で、浮竹との仲を咎めなかったのは、全て理解していたからだと今更ながら気付く。
咲にとって3人はいつまでも3人で、どちらかが欠けることなど耐えられない。
きっとこれからも今まで通りなのだろう。
今まで通りでいてくれるのだろう。
2人とも。
「次はいつにするか、また京楽とも相談しないといけないな」
溢れる2人の優しさの間で、咲は俯く。
彼らの支え無しでは、自分は立つことさえ出来ないだろう。
それくらい自分の心は彼らに寄り掛かっているし、彼等もそれを熟知して、守ってくれる。
世間一般で言えばあまりに不自然な3人の関係かもしれないが、その身に余る幸福に目頭が熱くなる。
大きな手が咲の頭をそっと撫でた。