新副隊長編
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藍染は自分の手元を見、見舞いのために持ってきた花を握り締めてしまっていた事に今気づいたかのように、慌てて机の上に置こうとした。
「ごめん、思わず……水切りしたら戻るかと思うけれど」
その花が机から滑り降ちかけ、それに伸ばした咲と藍染の手が重なる。
思ったよりもずっと大きく温かな手に、咲は驚いて手を引っ込めようとして、花をまた落としかけてやめた。
目の前の男も同じく。
「すまない、女性に失礼なことを。
悪気はないんだ」
眉尻を下げ花をもう片方の手で丁寧に机に乗せ、咲の手を撫でるように優しく離れながら藍染は言った。
その言葉が、行動が、忘れようと努めていた蒼純の言葉を思い出させる。
ーお前が……お前が愛おしいよ、咲ー
「……いえ、こちらこそ隊長に失礼なことを」
伏し目がちに呟くので、困ったように笑いかける。
「蒼純副隊長は……偉いな」
溜息混じりの低い囁きは、咲がその言葉の意味を図りかねるだろうことを思っての言葉だ。
彼女はもっと悩むべきだと、藍染は思っていた。
己の価値と、周りから受ける愛、彼女が悩めば悩むほど、そこに隙が生まれる。
「いろいろ考えた。
君はやはり、蒼純副隊長がおっしゃった通り、生きるべき存在だよ」
蒼純を思い浮かべて、彼のような穏やかな視線を向ける。
咲はぼうっとその瞳を見つめていたが、不意に緊張が走った。
彼女の勘の良さは知っており、これ以上危ない橋を渡る必要はないと、自然に視線をそらし立ち上がって微笑む。
「今日はもう帰るよ。
君もあまり疲れては良くないだろうからね」
咲が慌てて身体を起こそうとしたが、その肩をそっと、押し倒す。
力は決して強いわけではないが、彼女に逆らう事は許さない。
色恋に異常に疎く、男にこうして近づかれたことも皆無に違いない彼女を掌で転がすことなど、藍染には容易い。
再び緊張が高まる。
自分が作り出した緊張とは、ひどく心地よいものだ。
だがそのぴんと張り詰めた空気を壊したのは、藍染だった。
彼女に覆いかぶさるように耳元に口を寄せ、いつも話す時よりも気持ち低めの、少し掠れた声で囁く。
「言っただろう。
君は絶対安静で、寝ていなければならないと」
直ぐに離れたが、いつもより少し強めに薫いた、しっとりと落ち着いた香が彼女の辺りに漂っていることだろう。
呆気にとられたような彼女の顔が、幼く見えて可愛らしいと茶目っ気たっぷりにウインクをして、軽く手を上げると隊長羽織を翻して病室から出ていった。
彼女が自分の意図を図りかねることを、確信して。
「強行せぇへんのですね」
不思議そうに狐目に見つめられ藍染は頷く。
「急ぎではないんだ。
ただ彼女の心に種さえ植えられれば、それが芽吹くのを待てば良い。
なにせ彼女の傍には厄介な番犬が多いから、自然な流れが欠かせないんだ。
今回が駄目でも、また次が来る。
次が駄目でも、またその次が。
度重なるその時に、ああやはりそれが運命なんだと番犬達が思うことが大切なんだよ」
「ふうん」
ギンはもう興味を失ったようで、のんびりと部屋から出ていった。
「ごめん、思わず……水切りしたら戻るかと思うけれど」
その花が机から滑り降ちかけ、それに伸ばした咲と藍染の手が重なる。
思ったよりもずっと大きく温かな手に、咲は驚いて手を引っ込めようとして、花をまた落としかけてやめた。
目の前の男も同じく。
「すまない、女性に失礼なことを。
悪気はないんだ」
眉尻を下げ花をもう片方の手で丁寧に机に乗せ、咲の手を撫でるように優しく離れながら藍染は言った。
その言葉が、行動が、忘れようと努めていた蒼純の言葉を思い出させる。
ーお前が……お前が愛おしいよ、咲ー
「……いえ、こちらこそ隊長に失礼なことを」
伏し目がちに呟くので、困ったように笑いかける。
「蒼純副隊長は……偉いな」
溜息混じりの低い囁きは、咲がその言葉の意味を図りかねるだろうことを思っての言葉だ。
彼女はもっと悩むべきだと、藍染は思っていた。
己の価値と、周りから受ける愛、彼女が悩めば悩むほど、そこに隙が生まれる。
「いろいろ考えた。
君はやはり、蒼純副隊長がおっしゃった通り、生きるべき存在だよ」
蒼純を思い浮かべて、彼のような穏やかな視線を向ける。
咲はぼうっとその瞳を見つめていたが、不意に緊張が走った。
彼女の勘の良さは知っており、これ以上危ない橋を渡る必要はないと、自然に視線をそらし立ち上がって微笑む。
「今日はもう帰るよ。
君もあまり疲れては良くないだろうからね」
咲が慌てて身体を起こそうとしたが、その肩をそっと、押し倒す。
力は決して強いわけではないが、彼女に逆らう事は許さない。
色恋に異常に疎く、男にこうして近づかれたことも皆無に違いない彼女を掌で転がすことなど、藍染には容易い。
再び緊張が高まる。
自分が作り出した緊張とは、ひどく心地よいものだ。
だがそのぴんと張り詰めた空気を壊したのは、藍染だった。
彼女に覆いかぶさるように耳元に口を寄せ、いつも話す時よりも気持ち低めの、少し掠れた声で囁く。
「言っただろう。
君は絶対安静で、寝ていなければならないと」
直ぐに離れたが、いつもより少し強めに薫いた、しっとりと落ち着いた香が彼女の辺りに漂っていることだろう。
呆気にとられたような彼女の顔が、幼く見えて可愛らしいと茶目っ気たっぷりにウインクをして、軽く手を上げると隊長羽織を翻して病室から出ていった。
彼女が自分の意図を図りかねることを、確信して。
「強行せぇへんのですね」
不思議そうに狐目に見つめられ藍染は頷く。
「急ぎではないんだ。
ただ彼女の心に種さえ植えられれば、それが芽吹くのを待てば良い。
なにせ彼女の傍には厄介な番犬が多いから、自然な流れが欠かせないんだ。
今回が駄目でも、また次が来る。
次が駄目でも、またその次が。
度重なるその時に、ああやはりそれが運命なんだと番犬達が思うことが大切なんだよ」
「ふうん」
ギンはもう興味を失ったようで、のんびりと部屋から出ていった。