新副隊長編
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「あの頃はまたボク達まだぺーぺーの新入隊士でさぁ、君が確か迷子になっちゃって」
「そうだそうだ、それで、沖田三席がひろってくださったんだ」
「いなくなった君を思って、ボク達がどれくらい凹んでいたかなんて、知らないだろう?」
「え、そうだったの?」
「当たり前さ。
着飾った君1人手放した不安は今でも思い出すよ。
ほらこれも、浮竹なかなか来ないから食べちゃおう」
出された蕨餅。
爪楊枝でさしてぱくりと食べてみせる京楽に咲もならい、顔を見合わせて美味しいと微笑み合った。
そしてふと、思った。
(蒼純副隊長には、こんな時間はもう二度と訪れない)
途端に胸が闇に支配される。
彼は多くに慕われた人で、あの毒舌家で性格が悪いと有名な四番隊副隊長の山田でさえ彼の前では多少丸くなったと聞く。
朽木家では響河、月雫、蒼純と失いどこか寒々しい程らしい。
彼には本来であれば家族や友人との温かな時間が溢れていた筈なのだ。
立派になった息子と、また自分の先ゆく父と、酒を酌み交わし、語り合いたいことも多くあっただろう。
(そんな副隊長を殺したのは、誰でもない、私ーー)
肺を握られるような圧迫感を覚える。
「……、咲、」
呼ばれてふと視界に百日紅が揺れた。
あれほど鮮やかな紅色をなぜ自分は見失っていたのか不思議な程だ。
少し視線をずらせば、声の主は眉を顰めながら自分を見つめていた。
「ごめん、ぼうっとして……酒のせいかな」
「……大丈夫かい、最近の任務は辛いのかい?」
「いや……でもそうだな、確かに単なる戦闘よりは面倒かもしれない」
京楽は咲を見つめ頷く。
「昔、浮竹が言ったことを覚えているかい。
迷いがないことが君の強さだ。
迷えば君も、そして君が守るべき人も命を落とす。
その言葉は今も違わないさ」
だがその迷いのない刃は、恩人をも殺す。
ならばいっそ迷えば彼は死なずに済んだのかとも思うが、そうなれば彼は一心を始めとする多くの隊士を殺しただろう。
何が正解か分からない問い。
思わず溜息をつくと、ごめん、と彼は口早に誤った。
「いや、私の剣は今、迷いばかりだ」
杯の中、酒の水面を見つめる。
それを握る、手を。
「この手は人を殺す。
今まで数えられないくらい斬ってきた。
だが、その刃が奪う物があまりに大きいのだと今更ながら気づいたんだ」
「そうさね、だがボクもかわらないさ。
多くの人を殺し、これからも斬り続けるだろう。
どれほど多くを奪おうと、それがボク達の生き方なのさ」
「でも副隊長はあれ程……」
ーお前が……お前が愛おしいよ、咲ー
蘇る最期の言葉に目を伏せる。
彼はいつも正しい道へと導いてくれた。
わからないことがあれば優しく丁寧に教えてくれた。
だがもう、その愛の意味を問う事は、永遠にできない。
「彼は憑依型の虚に憑かれたのだろう。
ならば取るべき行動は1つで、君はそれを実行しただけだ。
その判断に間違いはない」
「……銀嶺隊長もそう仰った」
そう言ってしばらくしてから、その言葉に棘があった事に気づき、ごめん、と口早に謝る。
いんや、と京楽は軽く言って、酒を煽った。
そして咲にも酒瓶を差し出す。
促されるままに盃を出し、煽った。
「行わなければならないことと、自分の意思との隔たりが大きいとき、ボク達は苦しむ。
長年生きていればそんな事ばかりだ。
若い頃は嫌だと飛び出して済んだ事も、歳を取ればそうはいかない。
その後を考えるし、尻拭いをする人のことも思う。
自分が耐えれば済む事を、他の人に背負わせなければならない時を、思う」
思慮深い瞳の彼もやはり、辛い選択の多くを行い、またこれから行なって行かねばならぬ立場だ。
咲以上に。
「ーー苦しいね、嫌になるけど投げ出せない。
自分がいなくなった後を思うと、だめだなぁ。
若い頃はこんなんじゃなかったと思うんだけど」
そう溢れた言葉と苦笑に、咲もようやく微かに笑った。
「そんな事ない。
京楽はいつも、私達を守る為に耐えてくれていたよ」
その言葉にやはり男は困ったように笑った。
「そうだそうだ、それで、沖田三席がひろってくださったんだ」
「いなくなった君を思って、ボク達がどれくらい凹んでいたかなんて、知らないだろう?」
「え、そうだったの?」
「当たり前さ。
着飾った君1人手放した不安は今でも思い出すよ。
ほらこれも、浮竹なかなか来ないから食べちゃおう」
出された蕨餅。
爪楊枝でさしてぱくりと食べてみせる京楽に咲もならい、顔を見合わせて美味しいと微笑み合った。
そしてふと、思った。
(蒼純副隊長には、こんな時間はもう二度と訪れない)
途端に胸が闇に支配される。
彼は多くに慕われた人で、あの毒舌家で性格が悪いと有名な四番隊副隊長の山田でさえ彼の前では多少丸くなったと聞く。
朽木家では響河、月雫、蒼純と失いどこか寒々しい程らしい。
彼には本来であれば家族や友人との温かな時間が溢れていた筈なのだ。
立派になった息子と、また自分の先ゆく父と、酒を酌み交わし、語り合いたいことも多くあっただろう。
(そんな副隊長を殺したのは、誰でもない、私ーー)
肺を握られるような圧迫感を覚える。
「……、咲、」
呼ばれてふと視界に百日紅が揺れた。
あれほど鮮やかな紅色をなぜ自分は見失っていたのか不思議な程だ。
少し視線をずらせば、声の主は眉を顰めながら自分を見つめていた。
「ごめん、ぼうっとして……酒のせいかな」
「……大丈夫かい、最近の任務は辛いのかい?」
「いや……でもそうだな、確かに単なる戦闘よりは面倒かもしれない」
京楽は咲を見つめ頷く。
「昔、浮竹が言ったことを覚えているかい。
迷いがないことが君の強さだ。
迷えば君も、そして君が守るべき人も命を落とす。
その言葉は今も違わないさ」
だがその迷いのない刃は、恩人をも殺す。
ならばいっそ迷えば彼は死なずに済んだのかとも思うが、そうなれば彼は一心を始めとする多くの隊士を殺しただろう。
何が正解か分からない問い。
思わず溜息をつくと、ごめん、と彼は口早に誤った。
「いや、私の剣は今、迷いばかりだ」
杯の中、酒の水面を見つめる。
それを握る、手を。
「この手は人を殺す。
今まで数えられないくらい斬ってきた。
だが、その刃が奪う物があまりに大きいのだと今更ながら気づいたんだ」
「そうさね、だがボクもかわらないさ。
多くの人を殺し、これからも斬り続けるだろう。
どれほど多くを奪おうと、それがボク達の生き方なのさ」
「でも副隊長はあれ程……」
ーお前が……お前が愛おしいよ、咲ー
蘇る最期の言葉に目を伏せる。
彼はいつも正しい道へと導いてくれた。
わからないことがあれば優しく丁寧に教えてくれた。
だがもう、その愛の意味を問う事は、永遠にできない。
「彼は憑依型の虚に憑かれたのだろう。
ならば取るべき行動は1つで、君はそれを実行しただけだ。
その判断に間違いはない」
「……銀嶺隊長もそう仰った」
そう言ってしばらくしてから、その言葉に棘があった事に気づき、ごめん、と口早に謝る。
いんや、と京楽は軽く言って、酒を煽った。
そして咲にも酒瓶を差し出す。
促されるままに盃を出し、煽った。
「行わなければならないことと、自分の意思との隔たりが大きいとき、ボク達は苦しむ。
長年生きていればそんな事ばかりだ。
若い頃は嫌だと飛び出して済んだ事も、歳を取ればそうはいかない。
その後を考えるし、尻拭いをする人のことも思う。
自分が耐えれば済む事を、他の人に背負わせなければならない時を、思う」
思慮深い瞳の彼もやはり、辛い選択の多くを行い、またこれから行なって行かねばならぬ立場だ。
咲以上に。
「ーー苦しいね、嫌になるけど投げ出せない。
自分がいなくなった後を思うと、だめだなぁ。
若い頃はこんなんじゃなかったと思うんだけど」
そう溢れた言葉と苦笑に、咲もようやく微かに笑った。
「そんな事ない。
京楽はいつも、私達を守る為に耐えてくれていたよ」
その言葉にやはり男は困ったように笑った。