学院編Ⅲ

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が部屋から充分に離れたと知って、この部屋に入ってはじめて土方が口を開いた。

「あの3人は今年の席官候補だ。
それは知っているんだろ?」

山本はようやくきたな、と笑みを深めた。

「さあ、俺の所にはそんな情報は」

「なら忠告してやる。
無茶すりゃここの道場の株を上げる機会も失うがいいのか」

鋭い瞳にも臆せず、山本は困ったように笑った。

「相変わらず歯に衣着せぬというか……
でもしっかり訓練しなければ、役に立ちませんから。
人事担当十三番隊の土方副隊長も痛感されているのでは」

「ほう」

痛いところを突かれた土方は口の端を上げた。
整った顔立ちの彼の凄みのある笑顔ほど怖い表情はない。
確かに現在、護廷で一定レベル以上の隊員が確保できていない。
どの隊を見ても、一定の割合で給料の無駄払いとしか思えない隊員がいるのは事実であり、人事が密かに頭を悩ませている点でもある。

霊術院は山本総隊長の命によって設立された。
目的は、質の高い新入隊士の育成と、護挺における業務と教育の分離だ。
それまでは入隊試験で一般から隊員を募集し、その成績で新入隊員を決めていた。
多くの入隊希望者はどこかしら道場の出身か、または家で教育された者たちだった。
それゆえ、能力や知識のむらや、集団戦闘の訓練など、不足点を補うために入隊後の教育は必須であった。

また、この試験自体にも大きな問題があった。
試験官と貴族の癒着問題である。
見過ごせないものだが、それを縛ることもまた出来ない。
試験には隊長格が関与しており、一定以上は彼らの推薦する貴族出身者を起用することが、静霊挺の平安をもたらしている。
それがまた問題を引き起こすことも多々あるが、今はまだ貴族の問題を根本的に解決できるほど護挺自体の力も強くない。

それゆえ、大してやる気も能力もない新入隊員とその教育は逃れられない問題であり、人事担当にとっても悩みの種だった。
たいていそう言った実力が見合っていない貴族出身者は、権力を求める一方、命を危険にさらす仕事や重労働を嫌う傾向がある。
隊内で派閥ができるのも必至と言ったところだろう。

そこで底辺を少しでも上げ、業務への負担を減らすこと、そしてより才能のある者の起用率を高めるため、表立ってはエリートの死神を育てることを目的として創設されたのが霊術院だ。

もちろん貴族の問題を根本的に解決できたわけではないので、一定レベルに達していない卒業生を入隊させなければならない場合も多いが、効果を上げたのは言うまでもない。
昨年からは飛び級制度も始まり、底辺を上げるだけではなく、より才能を重視して優秀な隊員を早く護挺へと入隊させることも可能となった。

そして今年からは新たに、選抜制度も始まる。
霊術院での成績評価、視察、面接などから、長優秀なものは入隊試験とは別に入隊が決められるのだ。

昨年、最終学年への飛び級試験に合格したこともあり、浮竹、京楽、の3人はすでに候補として挙がっている。
そして付け加えるなら、3人以外に候補はいない。






「つまりはお互いのため、っすよ」

山本の笑顔が、土方にはずいぶん含みがあるように見えた。

「ほう。
互いの、な。
悪くはねぇ策だ」

同じく含みのある笑顔を土方は返す。
しかしその笑みは凄味のあるもので、流石の山本も人知れず冷や汗を流した。

「いや、彼らのためにならん!
 許さんぞ!」

その場で怒ったように立ち上がる近藤に、緊張感が解かれ、山本は密かに安堵のため息をついた。

「良いんだ、近藤さん。
 ちゃんとためになってっから」

「いやしかし、」

「お、来たな」

近藤の話は、戸惑った顔のと京楽、そして浮竹の登場で切り上げになった。
獄寺は眉をひそめ、山本は驚いたように目を見開く。
3人は入り口で膝をつき、深く頭を下げる。

「浮竹、てめぇ……」

獄寺が心配げに口籠る様子にに、浮竹はからりとした笑顔を見せた。

「身体はもう大丈夫です。
ご心配おかけしました」

その言葉が、悩みの片鱗も見せないので、山本は思わず笑いだし、獄寺も頭を掻いた。

「そうか。
 紹介します。
 右から、浮竹十四郎、京楽春水、空太刀です」

名前を呼ばれるに従い、3人は頭を下げた。

「うむ。
 俺は十三番隊隊長、近藤勇だ。
 こっちは副隊長の土方歳三」

土方は3人を品定めするように見た。
その隠すことをしない副隊長に、3人は何とも居心地が悪い。
しかしその隣でにこにこと3人を眺める近藤の視線もまた、居心地が悪い。

「ほう、精悍な若者だ」

先に口を開いたのは近藤だった。

「これは期待できるな。
 どれ、せっかくなんだ、稽古でも付けてやろうじゃないか!」

居心地の悪さが一気に驚きに変わる。

「よろしいんですか?」

獄寺が口の端を上げて問いかけた。

「ああ!
 今日はこの後空いていてな。
 場所と竹刀を借りれるか?」

山本と土方の視線が一瞬交わる。

「ええ、もちろんです」

にこやかな山本の笑顔に、土方も口の端を上げた。












「もっと打ち込んでこんかぁ!
 気合が足らん!」

「は、はい!」

近藤の大声に促されるように、京楽とも気合を入れて竹刀を振るう。
しかし近藤はどんな太刀にもびくともせず、全て笑顔で受け止めていた。
浮竹はと言えば、道場の隅でうらやましそうにその様子を眺めている。

「変わらないっすね、近藤先生は」

山本が楽しそうに笑う。

「道場をやっていたころからちっとも変りやしねぇ。
 あの人は道場を畳んだっていうのに、今でもずっと頭ん中は師範のままだ」

土方はそう言ってため息をつくが、その横顔はどこか嬉しそうだ。
近藤は護挺の隊長になるまで、元字塾の次に実力を持つと言われた試衛館という道場を開いていた。
土方は当時からの付き合いである。

「それでこそ人事の十三番隊なんじゃないですか」

「仕事はそれだけではないんだが」

護廷十三番隊はそれぞれ基本業務と専門業務がある。
基本業務は流魂街巡回や魂送、事務等であり、どの隊にも基本的に等しく与えられる。
専門業務はそれぞれの隊が担う役割であり、十三番隊は護挺の人事を担当している。

「だから副隊長が万能なんっすね」

「煽てているつもりか」

切れ長の瞳がすっと山本を見据えた。

「いいえ」

山本はやはり、にっこりと笑って見せた。
土方は彼の笑顔から視線を外すと、歩きだす。
その後ろで山本は笑みを深めた。

「近藤さん、代わってくれ」

その左手は刀に添えられている。

「お?
 なんだ歳、見ていたら手合わせしたくなったか」

「さぁな」

にやりとつり上がった口の端。

「京楽んとこの次男はもう知ってるからいい」

「はい。
 ありがとうございました」

京楽は竹刀を下げ、近藤に頭を下げ、速やかに道場の端に下がった。
手合わせをしたことはないが、昔から練習試合をする仲だったから、知られているのは当たり前なのだ。

「てめぇだ、空太刀
 斬魂刀を抜け」

はその言葉にすぐに動けない。

「聞こえなかったのか?」

鋭い紫の瞳に、凄まれる。

「は、はい!」

は慌てて浮竹の隣に置いていた斬魂刀を拾い上げ、走って戻る。
細い切れ目がを正面から睨みつけ、腰の刀が抜かれた。
ふわりと黒い袖口が揺れ、の勘が告げた。

(只者ではない!)

次の瞬間、反射的に刀を前に構えて何かを受け止めていた。
カラン、との斬魂刀の鞘が床に転がる。

「ほぉ、受け止めるか」

押され負けないように両手で刀に力を入れるがびくともしない。
その刀の切っ先を見上げれば、そこには不敵に笑う整った顔があった。

「おい歳!
 やりすぎはいかんぞ!」

「やりすぎちゃいねぇよ、近藤さん。
 てめぇも喜ぶんだな」

深い紫色の瞳がを見て笑った。
背筋が凍る程の圧力に、強さを見た。

「……有難き幸せと身に染みております」

小さくもはっきりと返事をすると、土方は少し意外だったような顔をして、それから笑みを深めた。

「なかなかの肝だ」

土方が大きく踏み込んでくるだろう気配を感じて、はぱっと後ろに跳び下がった。

「その上獣みてぇな神経していやがる」

ひどく楽しげな声色に、背筋がぞわりとした。

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