蒼純の亡骸の上に、涙とともに静かに咲の言葉が溢れる。

「どうして優しくしたのですか・・・
どうして信じてくれたのですか・・・
どうして・・・そんなこと言うのですか・・・
貴方が、貴方達が私に冷たくすれば、こんな思いなんてしなかったのに・・・」

二度と動くことのない、整った顔に涙が雨のように落ちる。

「朽木家の方の命をこの手で奪うのは、貴方を最後に・・・
たとえそれがどのような方であっても、私は、私はこれ以上ッ・・・」

咲は噛み締め嗚咽を飲み込む口を開いた。

「優しい貴方達を喪いたくないッ！！！」

堪え切れず両手で顔を覆う。

震え泣く咲の側に歩み寄るものがいた。
その人は隣にそっと跪き、震えるその肩に手を置き、もう片方の手を、亡骸へ伸ばす。

「眠らせて差し上げよう。
立派な最期だった。
・・・僕がもう少しだけでも早く着いていたら。」

見開かれ光を失った目蓋を優しくおろさせ、咲が涙で濡らした頬を拭う。
節ばった大きな生者の手は健康的な色をしていて、蒼純の肌の色とは比べものならない。
その手をたどった先、藍染の唇は、微かに震えていた。
苦痛に歪む瞳に咲の心は打たれる。
此処にも、自分の慕った上司の死を悼む人がいる。
自分はまた、孤独に戻ったわけではない、と。

「素晴らしい方だった。
何度救われたか知らない。
どれ程学ばせていただいたかも。
僕でさえそうなのだ・・・君ならば、猶の事。」

深い焦げ茶色の瞳が、咲を労わるように見下ろす。
堪え切れずに膝の上の頭を、咲は抱きしめた。

「副、隊長ッ！！！！」

遣り切れぬ感情が、迸る。
言葉にならぬ思いが、泣声となった。
その背中を、藍染の手が優しく摩った。

「泣きなさい。
死へ誘う（いざなう）哀しみが全て吐き出されるまで。
君は、生きなければいけないのだから。」

藍染はゆっくりと咲に気付かれないように振り返る。
そこには表情を亡くした一心と、厳しい表情の銀嶺がいた。
藍染は指示を求めて銀嶺を見た。
銀嶺は一瞬俯いてから、一つ頷き、一心と姿を消した。

（ほんの、一瞬だけだろう。
この状況を放置して良いはずがない。
ただ・・・父として、息子を送った彼女への思いもあろう。
息子の最期の言葉を聞いたならば、言うまでもない。）

泣き崩れた咲はそれに気づくはずもなく、その上傷が深く、泣いているうちに気を失った。



だからその後に藍染が斬魂刀鏡花水月でした事など、知る由もなかった。