新副隊長編
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暗い室内には、多くの死体や、魂魄のかけらが入れられた保存容器が並んでいる。
特殊な液体の匂いが溢れる中央に、一体の遺体が横たわる。
それが特別に扱われているのは明白であった。
傷は治され、清められたその身体は複数のコードで機械に繋がれている。
美しくも血の気の引いた顔は、朽木蒼純その人であった。
「欲しいものは手に入った」
藍染は穏やかに死体に微笑んだ。
その隣にゆっくりと銀髪の青年が歩み寄る。
副隊長章を左腕につけた彼は、首を緩く傾げる。
「悪いお人や。
まさか実験の為に朽木家次期当主を陥れるなんて」
「彼しかいなかったのだ。
己の不幸と愛おしさの葛藤に苛まれながら、それでもなお心を強くあろうと足掻く、隊長格の器。
虚の近さを感じさせるその憎しみと、それを制する理性」
「そして、その部下?」
「君は賢いね、ギン」
藍染は冷たい瞳で蒼純を見下ろした。
「そうだ、あの部下も、興味深い。実に」
そして数日前に訪れた病室を思い出した。
控えめなノックの音の後、藍染は扉を開ける。
寝ていたであろう咲が驚いて体を起こすので、慌てて首を振る。
「そのままで。まだ絶対安静だと聞いているよ」
「ですが」
「君が無理に起きるならば僕は君の為にここから帰らなければならなくなる」
困ったように笑ってみせると、咲は戸惑いを見せた。
「申し訳ありません、失礼します」
そう言って俯き気味にベットに再び横たわる。
親切にされ慣れていないその様子に、哀れと思うと同時に扱いやすいだろうと思った。
「逆に気を遣わせただろうか」
「いいえ、とんでもございません」
左手の花束を見る限り、事情聴取等仕事でここに来たわけではないことは明らかである。
だからこそ沸き上がるであろう、彼女の疑問に遠回しに答える。
「来るかどうか迷ったんだ。
辛いことを思い出させてしまうんじゃないかと思ってね」
そこで自然と言葉を切る。
悲しげな瞳に、藍染もまた蒼純を思っていることを、彼女は感じ取っただろう。
咲は緩く頭を振った。
「お忙しい中お心遣い痛み入ります」
「そんな固くならないでくれ。
何というか、隊長とまでなった僕が口に出すのも憚られることではあるが、どうも蒼純副隊長のことが忘れられなくてね。
傷ついた君の所へ来てしまったことを許して欲しい」
隊長は弱みを見せるべきではない。
他隊の者の死にショックを受けている等、口が裂けても言うべきことではないのだ。
だがそれをあえて行う。
そして常に罪人という意識に絡まる彼女を、一人の隊士として丁寧に接する。
予想通り彼女は戸惑い、首を振った。
「そんな事……」
「僕が入隊したころから、あの方は副隊長で、僕が副隊長になってからも影から支えていただいた。
……勘違いしないでくれ、君を責めているわけではないんだ」
無意識に彼女の表情が暗くなっているのを認め、彼女の心は蒼純に侵され始めていることを確信した。
「ただ、なんというか……君ならば理解してもらえるかと思ってね」
弱弱しく微笑んでみせると、咲の視線が自分に釘付けになった。
予定通りだ、と心の中でほくそ笑む。
「こういうことを言うと傷の舐めあいと他人は笑うかもしれないが、僕は悪いこととは思わない。
……だってほら、僕達は生きなければならないだろう。
亡くなった人の為に、その人の思いの為に。
生きる為に必要なんだ、仕方ない」
涙ぐむ彼女の思いが手に取るようにわかる。
やはり彼はあの場を共にした唯一の人だ。
彼は自分を理解してくれるのではないか。
淡い希望が彼女の心に頭をもたげたに違いない。
彼女の根底にある戦う理由は、生きる為だ。
更木にいた頃に、また虚圏遠征時代に染み付いたそれは、他の死神とは一線を画す。
浮竹でさえ誇りだなんだと言うのに、目の前の男は隊長でありながら生きる為ならば仕方がないと弱音を吐く。
それは隊長の姿として正しいとは言いかねるが、他の隊士の前ではまた何にも動じない隊長に戻るのだろうことは、想像に容易い。
同じ苦境に立ち会った2人だけの秘密なのであればーー藍染の予定通り、咲の緊張は無意識に解れていった。
特殊な液体の匂いが溢れる中央に、一体の遺体が横たわる。
それが特別に扱われているのは明白であった。
傷は治され、清められたその身体は複数のコードで機械に繋がれている。
美しくも血の気の引いた顔は、朽木蒼純その人であった。
「欲しいものは手に入った」
藍染は穏やかに死体に微笑んだ。
その隣にゆっくりと銀髪の青年が歩み寄る。
副隊長章を左腕につけた彼は、首を緩く傾げる。
「悪いお人や。
まさか実験の為に朽木家次期当主を陥れるなんて」
「彼しかいなかったのだ。
己の不幸と愛おしさの葛藤に苛まれながら、それでもなお心を強くあろうと足掻く、隊長格の器。
虚の近さを感じさせるその憎しみと、それを制する理性」
「そして、その部下?」
「君は賢いね、ギン」
藍染は冷たい瞳で蒼純を見下ろした。
「そうだ、あの部下も、興味深い。実に」
そして数日前に訪れた病室を思い出した。
控えめなノックの音の後、藍染は扉を開ける。
寝ていたであろう咲が驚いて体を起こすので、慌てて首を振る。
「そのままで。まだ絶対安静だと聞いているよ」
「ですが」
「君が無理に起きるならば僕は君の為にここから帰らなければならなくなる」
困ったように笑ってみせると、咲は戸惑いを見せた。
「申し訳ありません、失礼します」
そう言って俯き気味にベットに再び横たわる。
親切にされ慣れていないその様子に、哀れと思うと同時に扱いやすいだろうと思った。
「逆に気を遣わせただろうか」
「いいえ、とんでもございません」
左手の花束を見る限り、事情聴取等仕事でここに来たわけではないことは明らかである。
だからこそ沸き上がるであろう、彼女の疑問に遠回しに答える。
「来るかどうか迷ったんだ。
辛いことを思い出させてしまうんじゃないかと思ってね」
そこで自然と言葉を切る。
悲しげな瞳に、藍染もまた蒼純を思っていることを、彼女は感じ取っただろう。
咲は緩く頭を振った。
「お忙しい中お心遣い痛み入ります」
「そんな固くならないでくれ。
何というか、隊長とまでなった僕が口に出すのも憚られることではあるが、どうも蒼純副隊長のことが忘れられなくてね。
傷ついた君の所へ来てしまったことを許して欲しい」
隊長は弱みを見せるべきではない。
他隊の者の死にショックを受けている等、口が裂けても言うべきことではないのだ。
だがそれをあえて行う。
そして常に罪人という意識に絡まる彼女を、一人の隊士として丁寧に接する。
予想通り彼女は戸惑い、首を振った。
「そんな事……」
「僕が入隊したころから、あの方は副隊長で、僕が副隊長になってからも影から支えていただいた。
……勘違いしないでくれ、君を責めているわけではないんだ」
無意識に彼女の表情が暗くなっているのを認め、彼女の心は蒼純に侵され始めていることを確信した。
「ただ、なんというか……君ならば理解してもらえるかと思ってね」
弱弱しく微笑んでみせると、咲の視線が自分に釘付けになった。
予定通りだ、と心の中でほくそ笑む。
「こういうことを言うと傷の舐めあいと他人は笑うかもしれないが、僕は悪いこととは思わない。
……だってほら、僕達は生きなければならないだろう。
亡くなった人の為に、その人の思いの為に。
生きる為に必要なんだ、仕方ない」
涙ぐむ彼女の思いが手に取るようにわかる。
やはり彼はあの場を共にした唯一の人だ。
彼は自分を理解してくれるのではないか。
淡い希望が彼女の心に頭をもたげたに違いない。
彼女の根底にある戦う理由は、生きる為だ。
更木にいた頃に、また虚圏遠征時代に染み付いたそれは、他の死神とは一線を画す。
浮竹でさえ誇りだなんだと言うのに、目の前の男は隊長でありながら生きる為ならば仕方がないと弱音を吐く。
それは隊長の姿として正しいとは言いかねるが、他の隊士の前ではまた何にも動じない隊長に戻るのだろうことは、想像に容易い。
同じ苦境に立ち会った2人だけの秘密なのであればーー藍染の予定通り、咲の緊張は無意識に解れていった。